イノベーション創出活動「Yume Pro」(ユメプロ)を推進する沖電気工業株式会社(以下、OKI)。同社はSDGs(持続可能な開発目標)で掲げられた社会問題を起点とし、【医療・介護】・【物流】・【住宅・生活】という3つの領域において積極的にオープンイノベーションを仕掛けている。さらに、2019年度からは【海洋資源・保全】もテーマとして追加する予定だという。

同社は、スタートアップ・大企業・地方自治体・大学など社外パートナーとのコラボレーションにより、新たなイノベーション創出に挑む一方で、社内の文化改革にも余念がない。その代表的な取り組みが、OKIの技術者として数々のイノベーションを牽引してきた千村保文氏が塾長を務める『イノベーション塾』だ。

千村氏のプロフィールやイノベーション塾の中身を紹介した前編に続き、後編では、受講生である3名の方にお集りいただき、受講後の感想や、塾に参加したことによってご自身の業務にどんな変化がもたらされたのかについてお伺いした。


▲沖電気工業株式会社 OKIイノベーション塾 塾長 千村保文(ちむらやすぶみ)氏

1981年入社。海外向けデータ通信システムのソフトウェア開発を担当。1990年代よりVoIP(Voice over Internet Protocol)システムの開発を牽引。後に「VoIPのOKI」と称される礎を築き、著書も多数。2019年2月の定年退職後は、イノベーション塾・塾長として社内文化改革に取り組んでいる。

▲<受講生> 沖電気工業株式会社 金融・法人ソリューション事業部 製造システム部 チームマネージャ 浪花次朗氏

<受講生> 沖電気工業株式会社 第一営業本部 担当部長 山田昌弘氏

<受講生> 沖電気工業株式会社 リスク・コンプライアンス統括部 法務室 担当課長 山中香美氏


『イノベーション塾』が社内にもたらした変化

――まず始めに、簡単に現在の担当業務と、イノベーション塾を受講しての率直な感想をお伺いできればと思います。では最初に、金融法人推進事業部・浪花さんからお願いします。

浪花氏 : 私は、システムエンジニアとして業務に取り組んでいます。お客様からいただいた要望をもとに、ソリューションをお届けするという仕事です。一人が複数のプロジェクトを抱えているため、新規事業にはとても手が回らないというのが現状ですね。――ただ、既存事業だけでいいわけがありません。何かしら起爆剤が必要だと感じています。このような想いもあり、イノベーション塾に参加しました。

イノベーション塾に参加しての感想ですが、ビジネスモデルキャンバス(BMC)を1枚書くと、企画書が成り立つということを知り、シンプルでいいなと感じましたね。この塾が始まる前にも何度か新規事業の企画書を書いたことがあるのですが、結構大変なんですよ。それを解決してくれるツールだと感じました。学んだことをもとに、さっそくYume Proチャレンジ(社内コンテスト)にも応募しました。

▼イノベーション塾で活用しているビジネスモデルキャンバス(BMC)

――Yume Proチャレンジにも応募されたのですね。素晴らしいです。第一営業本部・山田さんはいかがですか?

山田氏 : 私は1990年に入社し、民間企業向けの営業を約15年、官公庁向けの営業を約15年経験してきました。実は、千村塾長と一緒にIP電話を売っていた時期もあります(笑)。現在は、共創市場を専任で担当しています。新規事業はもちろん、既存事業にもイノベーションを起こしていくことがミッションです。

イノベーション塾に参加しての感想ですが、BMCは今後、会社の共通言語になっていくと感じましたね。ですから、自部門の若手にも塾長から紹介してもらった本を配り、習得するように伝えています。また、塾長に若手を対象としたSDGsの勉強会をしてほしいと依頼し、開催してもらったりもしました。

現状、イノベーションに対する考え方が社内に浸透しているかというと、正直なところまだまだです。ただ、一歩一歩が大事だと感じています。トップダウンで進めると浸透は早いのですが、文化にはならない。ですから、社内に火種をたくさんつくっていかないといけない、そう考えています。

――なるほど。文化にするためには若手を巻き込み、火種をたくさんつくっていくことが必要だということですね。では最後にリスク・コンプライアンス統括部の山中さんはいかがでしょうか。

山中氏 : 私は2013年に中途採用でOKIに入社しました。法務を担当しているので、契約書をチェックしたり、法律相談に乗ったり、紛争があったら一緒に解決することが役割です。現在は、リーガルネットワークをグローバルに構築していく業務などを担当しています。

イノベーション塾に参加しての感想ですが、正直最初「管理部門でイノベーションって何だろう?」と思っていたんですね(笑)。しかし、実際受けてみると「これは使える」という手ごたえがありました。

というのも、以前上司から「管理部門も営業と同じ。管理部門にとっては、社内の人がお客様だから、社内の人たちとネットワークをつくっていかないと仕事にならないぞ」ということを言われました。実はその言葉が、私が仕事をする上で核となっています。ですから、管理部門の場合、BMCを使ってビジネスモデルを考える際、顧客を社内の人に置き換えればいいのだと思いました。

また、会社が新しい事業に取り組む際、法務はリーガル面からアドバイスを行います。もちろんリスクがあればそれをしっかり伝える必要があるのですが、支援する姿勢で伝えることが重要だと感じました。そういう意味では、加速支援のできる“攻め”の法務であらねばならないと、考えるようになりました。

千村氏 : 研修後、自部門に置き換えてBMCをつくってみてくださいと伝えているのですが、実は、山中さんが自部門に置き換えたBMCを提出してくれた最初の人でした。まさかBMC第一号が管理部門から出てくるとは思っていなかったので驚きましたね(笑)。提出いただいたBMCの内容も、とても新鮮でした。

――みなさまそれぞれの感想を抱かれたということですが、感想以外のところで、イノベーション塾の良さがあれば教えてください。

浪花氏 : 本社2階にある「Yume ST」(ユメスタ)という特殊な空間で研修ができた点はよかったですね。広いホワイトボードを使って図を書いたり、付箋を貼ったり、あのような普段と異なる場所だからこそ、新しい発想が生まれてくるようにも感じました。

千村氏 : Yume STの特徴は、壁や間仕切りがすべてホワイトボードになっている点です。研修のワークショップでは、手書きで思いついたことをどんどん書いてもらいます。隣のチームの範囲に突入してしまうなんてことも、よくありますね(笑)

――確かに、Yume STはホワイトボードが大きくて、発想が広がりそうですね。山田さんと山中さんはいかがでしょうか。

山田氏 : 自分で本から学ぼうとしても、分からないところは飛ばしたりして、しっかり習得するのは難しいですよね。研修だと分からない点があれば聞けるので、隅々まで理解しやすいと感じました。イノベーションについて、社員全員が共通言語で話せるようになることが理想です。このような機会を増やし、幹部・中堅はもちろん、若手も同じ言語で話せるようになると、素晴らしいと思います。

山中氏 : 普段、接点のない人たちと交流を持てた点はよかったですね。管理部門だと、部長クラスなど経営に近い層と仕事をすることが多いです。研修では、現場で働く人たちの話を聞けたことで、会社の現状に対する理解が深まりました。


変化についていかないと生き残れない

――最後に、イノベーション塾を通して社内がどう変わっていくべきだとお感じですか。

山田氏 : 何が起こっても不思議ではない時代です。当社の発足事業である電話事業、IP電話への流れは大きな変化でしたが、突然やってきました。今、キャッシュレスの波が押し寄せていますね。当社は、ATMでトップシェアですが、キャッシュレスの時代になったら、ATMが残るかどうか。もしかしたら、突然なくなるかもしれません。

そう考えると、常日頃から社員全員が「OKIの次の柱となる仕事は何なのか」ということを、しっかり考えておく必要があると思います。この感覚は、経営に携わる人たちだけではなく、次世代を担う若い人たちも含めて持っておかねばならない、そう思いますね。

千村氏 : シェアが高いうちに取り組んでおかないとダメなんですよね。現在、OKIはATMでトップシェアです。しかし、キャッシュレスの時代は必ず来ます。シェアが高いうちに、自らイノベーションを起こしておくことが大事です。私がIP電話を提案した際、こう言いました。「人に食われるしっぽなら、自分で食いましょう」と。後に、あの言葉がきっかけで事業の舵を切る決断ができたのだと言われましたね。

私が入社した時に配属された部署はもうありません。逆に、40年前にはATM事業は存在しませんでした。時代は常に変化しています。既存事業が順調だからといって安穏と過ごすのではなく、時代を見据えて変化していくことこそが、重要だと思います。


取材後記

「ATM御三家」との一面を持つOKI。国策として破竹の勢いで進むキャッシュレス化を見据えながらも、SDGsを起点として次の柱となる事業創出に本気で取り組む様子が伝わってくる取材だった。イノベーション塾の対象は、事業部の最前線で活躍する社員だけではない。法務や総務、人事などの管理部門に所属する社員も対象とし、全社を挙げてイノベーションの加速支援ができる体制を構築しようとしている。この点からも、同社のイノベーション創出に対する真剣さが窺える内容だった。

(構成:眞田 幸剛、取材・文:林綾、撮影:古林洋平)