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♯01 店員のいない店 ―未来の足音 JR EAST STARTUP―

♯01 店員のいない店 ―未来の足音 JR EAST STARTUP―

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AIが、囲碁や将棋で人間に勝つ。キャッシュレス化によって、財布が不必要になる。ドローンが空を飛び、山々を超え、荷物が運ばれる。場所や土地に縛らず、遠隔で旅行を体験する。――世の中の常識を凌駕するような新しい技術やアイデアが次々と生まれる中、未来はすでに私たちの生活の一部になりつつある。

そうした中でも、次々と未来の社会実装を進めているのがJR東日本スタートアップ。

そんな未来の一端を垣間見ていく連載企画「未来の足音」、第一弾のテーマは“店員のいない店”だ。

加速する人口減で注目を集める「省人化店舗」。

人口減の影響で人手不足がいよいよ深刻になってきた。総合人材サービスグループのシンクタンクであるパーソル総合研究所と中央大学が共同研究として取り組んできた「労働市場の未来推計2030」によれば、2020年の人手不足は384万人。そして、2025年は505万人、2030年には644万人と、これからの10年強で人手不足はより一層進んでいく見込みだ。

「労働市場の未来推計2030」より 

こうした事態を受けて時短営業の実証実験に着手した大手コンビニチェーンもあり、「当たり前」であった24時間営業を見直す動きが出てきている。また、大手小売店ではセルフレジを積極的に導入し、人手不足対策を推進している。しかしながら、飲食店などを中心に人材が確保できないために、やむなく閉店する例も少なくない。

こうした事態を受け、小売や流通をはじめとして、金融など多くの業界でもIT、IoT、AIなどデジタルツールやロボットなどの活用した“店員のいない(少ない)店”=「省人型店舗」が注目されている。中でも、同店舗の導入に積極的な姿勢を見せるのが、JR東日本スタートアップ株式会社だ。

鉄道のみならず、小売・飲食といった生活サービス事業でも存在感を示すJR東日本グループにおいて、同社はアクセラレータープログラムなどを通じ先進的なテクノロジーを持つ企業との共創を推進。大宮駅、赤羽駅で無人店舗(AI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」)の実証実験を行ったことは記憶に新しい。では、この先、「店舗」というものは、どうなるのか?――JR東日本スタートアップが手がける具体的に事例にフォーカスして、その未来を考えていきたい。

AI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」

買い物をスマートに。モバイルオーダー店舗で上々の結果。

2018年に出会いを果たしたJR東日本スタートアップとショーケース・ギグは、省人型・店員レス店舗に向けての取り組みを進める。まずはショーケース・ギグの強みを活かした「モバイルオーダー」の実現を目指し、早くも同年12月3~9日にかけて大宮駅でスマートフォンとSuica対応のセルフ端末を利用した実証実験を行った。同実験では、駅ナカカフェで専用Webサイトからの事前注文、セルフ注文・決済を試みている。さらに、2019年1月から、JR東日本グループのカフェや弁当屋など3ブランド9店舗を実証実験の場として提供し、モバイルオーダー導入に取り組んだ。

その結果、売上の2%まではモバイルオーダーで作れることがあったという。ある店舗では、テイクアウトが売上に占める割合は全体の5%とのことだから、2%という数値がかなり大きいものかわかる。

また、モバイル決済の場合は単価が向上するという効果もあった。事実、定期的な大量買いやサイドメニューの追加により、全てのブランドで単価向上効果が見られた。これは、後列の人を待たしてしまうという罪悪感から解放され、好きなものを注文できるからと推測される。利用者からは「希望の時間に商品を待たずに受け取れる」「支払いまで済んで受け取るだけなのでスムーズに利用できた」との声が上がり、店舗スタッフからは「レジが一つ増えたような感覚」「事前に準備ができ、会計業務が不要なのでオペレーションが楽」との感想が聞かれた。概ね好評の結果となった。

省人化は世界的な動き。

こうした取り組みをふまえ、株式会社ショーケース・ギグ 代表取締役社長 新田剛史氏とJR東日本スタートアップ株式会社 営業推進部 マネージャー 阿久津智紀氏に話を聞いた。「こうした動き(省人化)は国内に限らない。アメリカや中国、シンガポール、ヨーロッパなどで世界同時多発的に起きており、むしろ日本国内は“現金主義”などの影響で遅れているほうだ」と、新田氏は指摘する。

ショーケース・ギグ 代表取締役社長 新田剛史氏

一方で、阿久津氏は「省人化は店舗を維持していくために絶対に必要な動き」と強調した。海外の事例を見ると、この2年ほどで省人化やセルフ化が進んでいる。特にファーストフード店やコーヒーショップとの相性はよく、人の介するサービスの中でも、短時間でも済むものはセルフ化されていることが多い。

「世界的にはやっていないほうが不思議だ」(新田氏)と見る向きもあるようだ。セルフ化のメリットとしては、単に人を減らすのみにとどまらず、時間の短縮化、注文の間違いの減少などが挙げられる。

さらに、新田氏は「省人化によって生み出されたリソースによって、これまでに無かったような新しい消費体験を生み出すこともできる。旧来のUXが大きく変わることで、“コト消費”にも繋がっていく大きなポテンシャルがある」と語る。今後は、両社によるオープンイノベーションによって、セルフ化に適した端末をリテールテックJAPAN 2019にて先行公開。2019年夏にも首都圏駅ナカ店舗で導入予定だ。また、モバイルオーダーに関しては、導入ブランド/店舗数の拡大や、駅弁の車販での活用が可能かも検討していくという。

無人AI決済型の店舗でも確かな手応え。

このほか、JR東日本スタートアップでは、商品を手に取り店を出れば支払いが終了する、無人AI決済型店舗実証も進めている。――つまり、“店員のいない店”の登場だ。

「JR東日本スタートアッププログラム」のアクセラレーションコースで、2017年度最優秀賞を受賞したサインポスト株式会社とAI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」を開発。同年には大宮駅で、2018年には赤羽駅でそれぞれ実証実験を行っている。

2017年の大宮駅での実証実験について、サインポスト・波川氏に話を聞いたところ、次のように答えた。「ゼロからオペレーションを考えていきました。システムの設計の構想はある程度あったのですが、トライ&エラーを重ねていかないと良いシステムはできません。しかし、期間が限られています。さらに、通常のアプリ開発とは違って検知用のカメラやセンサーなどハードも関わってくるので、これらを同時に考えるのは難易度の高い作業でした」。

サインポスト・波川氏。実証実験全体のマネジメントと知的財産管理を統轄。

そうした作業を乗り越えて実施された大宮駅での実証実験は、1日の利用者の目標を100人に設定していたが、最終的には300人近くの利用があり、「これは社会に求められているサービス」(阿久津氏)と確信したと話す。メディアも多く取り上げたことから人手不足で悩む地方の店舗からも多く問い合わせが寄せられたという。そして、「JRがここまでやるんだ」という驚きの声も各所で聞かれたとのことだ。

JR東日本スタートアップ株式会社 営業推進部 マネージャー 阿久津智紀氏

一方で、精度や不測の事態への対応など課題も浮き彫りになった。特に商品の支払いを完了させる決済率を上げたかったと強調する。これを受け、アジャイルでシステム改修を行い、2018年の赤羽駅の実証実験では精度を飛躍的に向上させることができた。最終日には「実用化に耐えうるところまでいった」と自信をのぞかせる。利用者からのアンケートによれば、8割が「いいサービスだ」と回答。なんとか早期に“店員のいない店”を実用化させたいと、開発を進めている。

店員がいない店は、〇〇がある店。

省人化には単に人手不足を解消する以上の意味がある。これまでオペレーションやいわゆる単純労働に当てていた人材やコスト、時間を他に回せるからだ。例えば、飲食店であれば、料理の品質やサービスの向上に使うことができる。

高級感ある空間を演出するため、ドアマンを。常に清潔な空間であるように、清掃員を。単純労働を削減できれば、そのお店だからこその体験価値へ、より人材・コストを回せるようになる。“コンセプトを体現できる店“へと進化していけるのだ。

ショーケース・ギグの新田氏は「ライブキッチンなど食の演出なども行えるようになる。消費者の新しい購買行動も生まれるのではないか」と未来を予測する。別の見方をすれば、そこが差別化のポイントになり、省人化の波に乗れなかった店舗は、人手不足とは別の理由で淘汰される可能性もある。

人の導線が変わることで、今後は店舗設計のあり方も変化するだろう。単に“店員がいない店”が、未来の店舗の形ではない。新しいサービス、新しい消費行動を生み出しているのが真の「未来の店舗」である。JR東日本スタートアップはスタートアップとの共創で、この流れを加速させようとしている。見据えているのは、新しい価値の創出だ。

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省人化や店員レスは単に人手不足の解消ためだけにあると考えていた。もちろん、それが第一義であるが、その先には新しい価値の創出がある。既に海外では、テクノロジーを駆使して店舗の価値を見直そうとの動きがあるようだ。国内の店舗はどう変わるのか。人手不足という課題が大きい分、変化は急速に訪れ、未来の店舗が形作られていくだろう。

※数々の未来を、社会実装へと導くJR東日本スタートアップ。

共創の窓口はこちらから→ JR EAST STARTUP PROGRAM  

(構成・文:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:古林洋平)

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