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♯03 レールの先につくる未来 ―未来の足音 JR EAST STARTUP―

♯03 レールの先につくる未来 ―未来の足音 JR EAST STARTUP―

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AIが、囲碁や将棋で人間に勝つ。キャッシュレス化によって、財布が不必要になる。ドローンが空を飛び、山々を超え、荷物が運ばれる。場所や土地に縛らず、遠隔で旅行を体験する。――世の中の常識を凌駕するような新しい技術やアイデアが次々と生まれる中、未来はすでに私たちの生活の一部になりつつある。

中でも、次々と未来の社会実装を進めているJR東日本スタートアップ。

そんな未来の一端を垣間見ていく連載企画「未来の足音」。第三弾のテーマは、“レールの先につくる未来”だ。

 

レールの先に見える、地域産業の「これから」

人口減少や過疎化。地域産業は今、危機に瀕している。JR東日本は、そうした課題を踏まえ、鉄道会社としてのリソースを活用し、未来の地域産業発展のために様々な取り組みを行ってきた。

今回スポットをあてるのは、ITを活用した水産流通プラットフォーム運営を行うスタートアップ、フーディソンとの共創だ。JR東日本が持つ駅とレールという重要なインフラを活用して、地域の柱である一次産業の発展を促す。レールの先に見える、地域産業の未来とは?

移動手段だけではなく、魅力発信地としての鉄道

鉄道は言うまでもなく、生活やビジネスに不可欠なインフラである。日本全国に張り巡らされるレールの上を、日々無数の人や貨物を乗せた列車が走る。駅は単なる停車場としての役割だけではなく、人や店舗が集う地域の中心地となる。

地方の過疎化が課題となる中、JR東日本では鉄道のインフラとしてのリソースを活用して、地域活性化に向けた「地域再発見プロジェクト」を進めてきた。例えば、新潟・越後湯沢駅の「CoCoLo湯沢・がんぎどおり 中央市場」には、4000点以上の特産品が集積。地域産業の魅力を伝える情報発信地としての役割を果たしている。ここを訪れた観光客が地域に興味を持ち、産地や工房など“レールの先”にもう一歩足を延ばしていくことにつながっている。

また、青森では販路に乗らない加工用りんごを活用して、地元酒造会社などと共にシードルを開発。JR東日本グループのネットワークを活かして、首都圏への販路拡大を図っている。まさに、地域の魅力をレールに乗せて届けているのだ。

都心の消費者のニーズと、地方の生産地のミスマッチを、ITで適切につなげる

いま、特に深刻なのが、一次産業をはじめとする地域産業の衰退である。そこに切り込もうとしているのが、株式会社フーディソンとJR東日本スタートアップとの共創プロジェクトだ。

フーディソンは、食にまつわる課題を解決し、食の世界にイノベーションをもたらすことを目指すスタートアップ。その第一歩として、水産分野をターゲットとして、ITを活用した水産流通プラットフォーム運営を行っている。鮮魚専門の小売店“sakana bacca”は都内で4店舗を運営。飲食店向け鮮魚・水産品仕入れサイト「魚ポチ」は、1万店以上の飲食店に利用されている。

代表取締役CEO山本徹氏は、日本の水産流通が抱える課題についてこう語る。「地方の漁港で水揚げされた水産物は、様々な業者の手を経て最終消費者に届く。そのため、消費者の本当のニーズは産地に届きにくい」

▲株式会社フーディソン 代表取締役CEO 山本徹氏

また、産地側の実情も、消費者には伝わりにくい状況だ。「南北に長く四季がある日本では、豊かな品種の魚が水揚げされる。『少量多品種』であることが、大きな特性であり魅力。しかし、大手小売店ではまず少量多品種の展開は行わない。安定的かつ大量に手に入るサーモンなど、『標準化』されたラインナップが店頭に並ぶ。せっかく水揚げされた魚が廃棄されてしまうし、都会の消費者に日本の水産物の本当の豊かさを伝えることができない」(山本氏)。産地と消費者の距離は、物理的にも心理的にも離れてしまっている。このままでは魚離れはさらに加速し、地方の漁業は危機に瀕するかもしれない。フーディソンはその状況をITの力で打開しようとしている。

同社が中目黒などで展開する“sakana bacca”では、まさに日本の少量多品種の魅力を反映した鮮魚が並ぶ。「路面店として地域に根付いた店舗運営を行ってきたが、幅広いお客様に地方漁港の素晴らしい水産物を提供したい。それに、予めネットで予約注文した鮮魚を、利便性の高い場所で受け取ることができれば、もっと魚が日本の食卓に戻ってくるのではないだろうか。そのため、ターミナル駅などに出店したいと考えていた。」(山本氏)

▲sakana bacca 中目黒店

そこで同社は、「JR東日本スタートアッププログラム」に応募。地域活性化の取り組みを進めたいJR東日本とビジョンが一致し、共創をスタートさせることになった。

「駅ナカで、新鮮な魚が手に入る」インパクトの大きさ

実証実験は、JR品川駅構内「エキュート品川」に、“sakana bacca”のポップアップショップを展開。リアルショップで鮮魚・刺身・海鮮丼などを提供するほか、JR東日本が運営するショッピングサイト「ネットでエキナカ」や、フーディソンが運営するショッピングサイト「STOCK by sakana baca」と連携し、鮮魚の事前予約・店頭受取サービスを提供した。

本プロジェクトの責任者を務めたフーディソンCFOの内藤直樹氏は、「まず“sakana bacca”を駅ナカで展開して消費者の反応を見たいと考えていた。しかしJR東日本スタートアップ側から、『もう一歩進んだサービスを提供しよう』と前向きな提案をいただき、ネット予約・店頭受取サービスも合わせて提供することにした。当社としても駅など利便性の高い場所を受取拠点とすることは、消費者にとって魅力的だと考えた」と、実証実験の背景について語る。

▲株式会社フーディソン CFO 内藤直樹氏

実証実験は、2018年1月~2月の間に行われた。時期的にバレンタインの催事が高い売り上げを叩き出すのだが、“sakana bacca”はそれに匹敵する売上を上げたという。――「結果的に、良い手応えと自信を得られる実証実験だった。実は生鮮食品だからこそ、駅のような利便性の高い場所で工夫をすれば、こんなにも購買につながるのかもしれない」(山本氏)

「あまり一般に流通していない品種がよく売れ、『珍しいもの』へのニーズが高いと感じた。しかし、産地側にはこうした消費者のニーズが伝わっていないことが現状。それを伝え、価値あるものが廃棄されることなく、適切な価格で販売されるよう支えていきたい。そして、少量多品種に対応できるような流通体制も整えることで、都心と地域をつなげられたらと思う」(内藤氏)。

実証実験の成功を踏まえ、2019年3月には常設店舗“sakana bacca エキュート品川店”として、正式出店が実現した。「今後は品川駅以外にも多くの人が日常的に利用するターミナル駅へ、販売拠点やネット注文の受取場所として出店を進めていきたい」と、山本氏は意欲を見せる。

これはフーディソンとJR東日本だからこそできる取り組み。消費者に与えるインパクトだけではなく、地域産業への貢献性も非常に高いと考えられる。

▲2019年4月、JR東日本スタートアップとフーディソンは、JR東日本の持つ資産とITを活用した新しい水産流通の実現に向け、資本業務提携した。

地域と都心の距離を縮め、地域産業の振興につなげる「新幹線物流」の未来

地方で水揚げされた鮮魚を都心で販売する上で重要なのが、物流体制である。“sakana bacca エキュート品川店”では、JR東日本のリソースを活用し、「レールの先にある未来」を感じさせる面白い試みが行われた。JRの特急列車による鮮魚の物流だ。

品川店オープン初日は、しらす漁の解禁日だった。そこで、静岡で朝水揚げされた生しらすを特急列車で品川まで運び、その日のお昼に販売した。通常のトラック物流では、地方漁港で水揚げされたものが最終消費者の手に渡るのは翌日。“朝どれ”を当日のお昼に食べられることは、画期的といえる。お客様の反応も非常に良く、用意した分はすぐに完売した。

この結果から、フーディソンとJR東日本スタートアップは新幹線物流の実証実験を行おうとしている。たとえば東北で朝水揚げされた鮮魚が、お昼に都内で手に入る。そうした世界観が実現するかもしれない。

「新幹線物流は野菜で実施した経験があるが、鮮度の差が分かりにくいものもあった。その点、鮮魚は時間経過により鮮度の差を明確に感じられる。つまりより早く最終消費者の手に届けることの価値が高い。貨客混載は鉄道会社にとってホットイシュー。様々な課題はあるが、ぜひこの実証実験で可能性を探りたい」とJR東日本スタートアップの担当者は語る。

この実証実験で示されようとされているのは、レールの新しい可能性だ。地域振興というと、都心から地方に観光客を送ることを考えがちだ。しかし、“人を運ぶ”だけがレールの役割ではない。地方で獲れた新鮮な魚を一早く都心に届け、“朝どれ”という付加価値をつけて販売することで、地域産業を支援する。そうした“モノを運ぶ”物流としてのレールの可能性も、この実証実験を皮切りに切り拓かれていくだろう。

※数々の未来を、社会実装へと導くJR東日本スタートアップ。

共創の窓口はこちらから→ JR EAST STARTUP PROGRAM

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:古林洋平)

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