『渋谷ならではの最先端お土産』をテーマとしたアイデアピッチが5月10日にPlug and Play Shibuyaで開催された。このピッチは産官学民が連携する新たな組織「渋谷未来デザイン」と、オープンイノベーションのプラットフォーム「eiicon」がコラボレーションして実現したものである。

そして先日のプレイベントでも強調されたように、選ばれたアイデアには「渋谷川で実証実験」をする権利が付与される。審査員はこの日の参加が急遽決定した「Project SCRAMBLE(プロジェクト スクランブル)」発起人の藤本あゆみ氏を含む以下の5名。パートナー企業は日本を代表する4社(KDDI・大日本印刷・東急不動産・パルコ)が名を連ねた。


【審査員】

●本間洋行氏/渋谷区役所区民部 商工観光課長

●中馬和彦氏/KDDI株式会社 ライフデザイン事業企画本部 ビジネスインキュベーション推進部長 KDDI ∞ Labo長

●守屋実氏/株式会社守屋実事務所

●小泉秀樹氏/渋谷未来デザイン代表理事 東京大学教授

●藤本あゆみ氏Project SCRAMBLE(プロジェクト スクランブル)


【パートナー企業】

●KDDI株式会社様 中馬和彦氏

●大日本印刷株式会社様 福山徳博氏

●東急不動産株式会社様 小澤広倫氏

●株式会社パルコ様 小林啓太氏


【モデレーター】

(1)長田新子氏 一般社団法人渋谷未来デザイン / 事務局次長 兼プロジェクトデザイナー

(2)中村亜由子氏 eiicon company 代表/founder


まず開会宣言が渋谷区観光協会代表の金山淳吾氏からされ、今回のピッチへのエントリー総数は40であったことが明かされた。同時に、改めて渋谷の都市としての課題を次のように語った。――「渋谷は、もともとは観光都市ではないということもあり、お土産やご当地の味などは認識されていない。そのため渋谷を観光都市としてどうデザインするかは、重点課題である」(金山氏)

ピッチ時間は8分、ディスカッション時間は20分となっている。40もの応募からピッチをするチャンスを与えられたのは、下記の4つのアイデアだ。

(1)株式会社Enhanlabo 座安剛史氏:『渋谷をウェアラブルによる資格拡張体験創出のエコシステムに!』

(2)日本財団 野本圭介氏:『おらがまちのビールで渋谷の発酵を促進させる!』

(3)株式会社タリス 木村征子氏:『カクテル片手に絵を描こう!渋谷の風景画が2時間で完成』

(4)プランティオ株式会社 芹澤孝悦氏:『街中で育てて食べられる渋谷野菜(シブヤサイ)』


4つの提案が見せた「渋谷×お土産」の未来とは?

ピッチが行われた4つのアイデアは、具体的にどのようなものだったのか。その内容を詳しく紹介していきたい。


(1)株式会社Enhanlabo 座安剛史氏

『渋谷をウェアラブルによる視覚拡張体験創出のエコシステムに!』

先陣を切ったのは、メガネスーパーの新規事業を分社化して誕生した株式会社Enhanlaboの座安氏だ。ピッチ内容はメガネ型ウェアラブル端末「b.g.」のキーコンセプトに据えた「視覚拡張」によって、訪れた人々の「渋谷での最先端体験」がお土産となるというものだ。

さらにはその枠組みがパッケージ化されることで「インバウンド、ツーリズム、地方創生といった領域での社会実装につながっていく」という未来を描いている。実際に審査員がメガネ型ウェアラブル端末『b.g.』を体験する一幕もあった。審査員から相次いだ質問、フィードバックの一部をここに紹介する。

「体験した思い出は端末上でメモリにすることはできるのか?」(KDDI・中馬氏)

「渋谷に集まっているものを海外の方に体験していただくなど、インバウンド需要も見込めるように思う」(パルコ・小林氏)

時には、渋谷未来デザイン・小泉氏から「走りながらフォームを直すことができたら、スポーツにも応用可能なのではないか」と今回のテーマを超えて視覚拡張の未来が論じられることもあった。それだけ審査員の想像力を刺激する提案内容だったということだろう。


(2)日本財団 野本圭介氏

『おらがまちのビールで渋谷の発酵を促進させる!』

2つ目のピッチは分野、国境を問わず社会貢献活動を展開している日本財団の野本氏の「かなりアナログなアイデアである」という一言から始まった。先程のウェアラブル端末という最先端技術でのアイデアから一転して、馴染み深い「ビール」を提案の中心にしたものだ。 

「渋谷におけるビール文化、もしくはビールを片手に人々が話し合うことによって生まれる未来の文化を創出する」ことを目的に掲げていた。野本氏曰く「ニューヨーク、ロンドンと優れた街には優れたビール文化がある」として、渋谷も世界の都市に名を連ねることができると主張した。

――ここでも審査員から活発な議論が展開された

「新しいものをつくるなら、新しいつくり方やストーリがー必要である。例えばビールづくりに老若男女問わず参加させるなどだ」(大日本印刷・福山氏)

「企業ごとにビールをつくれば、持続性の部分を担保できるかもしれない」(Project SCRAMBLE・藤本氏)

一方で「そのアイデアはスケールするのか?」というビジネス視点の指摘も入った。――「実証実験で何を実証する予定なのか。リソースを投入するなら、1を投入して100を回収するように設計しないとスケールする可能性は見極められない」(守屋実事務所・守屋氏)


(3)株式会社タリス 木村征子氏

『カクテル片手に絵を描こう!渋谷の風景画が2時間で完成』

 3つ目のピッチは渋谷の「ファッションの最先端の街」というイメージと親和性が高いものであった。お酒を飲みながら絵を描く新しいエンターテイメント「ペイントパーティー」を企画、運営する株式会社タリスの木村氏は飲食を楽しみながら絵を描く体験型イベント「ペイントパーティー」を渋谷で展開することを提案した。

ペイントパーティーは海外でも人気があり、近年のコト消費のニーズの流れにも沿っている。さらにはインスタ映えやストレス社会に求められる「癒やし」の側面もあるそうだ。審査員からも「ペイントパーティー」が渋谷のお土産になるイメージが湧く場面も見られた。

「ホテルなど宿泊施設との相性が良さそうである」(渋谷区・本間氏)

「ソフトコンテンツを持ってきていただければ、実証実験などすぐに打ち合わせが可能だ」(東急不動産・小澤氏)

「エコバックに絵を描いたりすれば、実用性も出てメリットが大きくなるのではないか」(大日本印刷・福山氏)

しかし、ここでもアイデアを形にする「ビジネス視点」が要求された。それだけ審査員が「渋谷×お土産」をテーマに世界に渋谷を発信するという意図の強さが伺える。――「既存のビジネスの延長線上であるとも言えるアイデアであり、“渋谷のお土産”という視点が弱いように思える」(Project SCRAMBLE・藤本氏)


(4)プランティオ株式会社 芹澤孝悦氏

『街中で育てて食べられる渋谷野菜(シブヤサイ)』

最後の提案内容は「渋谷川で育てている野菜をアプリで”見える化”し、ユーザー収穫時期やお手入れのタイミングを通知したりして”みんなで”育てる仕組みを提供する」というものだった。

プランティオ株式会社芹澤氏は「すでに渋谷を中心にいくつかファームがあり、タイトル通りの”街中で育てて食べられる渋谷野菜”を実現している」と話した。つまり、今すぐにでもアイデアを形にできるということだ。「渋谷・道玄坂上で生まれて育った」と話すだけあり、渋谷での活動を既に進めているようだ。審査員からも期待が寄せられる。

「渋谷の思い出を一回の思い出で終わらせるのではなく、何回も行きたくなるような体験をつくり出してほしい」(東急不動産・小澤氏)

「世界中の人が自国の植物の種を渋谷に持ってきてくれると可能性が広がる。持って来ることができないことも想定して、各国の種を用意しておけばいいかもしれない」(KDDI・中馬氏)

一方で守屋氏からは「アイデアのその先」について指摘が入った。――「何を実証して その後にどこまでの世界を描いているのか。今回であればビジネスは完成している。だから“渋谷の街がどう変わるのか”がないと、このビジネスのPRで終わってしまう」(守屋実事務所・守屋氏)


「完成度の高い提案内容であれば良い」というわけではないようだ。各ピッチの個性の強さと同時に、ビジネスをどう展開いくかを描くことの難しさも浮き彫りになった4つのピッチであった。


全員一致で「最優秀賞はなし」。でも、「すべて実証実験に進む」?

審査の結果は渋谷未来デザイン代表理事の小泉氏から告げられた。結果は「全員一致で、最優秀賞はなし」というものであった。しかし、話はそれで終わらない。――「どれか一つを渋谷のお土産としての価値が極めて高いとは言い切れなかった」と話す一方で、「企画としての可能性はあるので、チャンスを与えたい」という意図があると明かされた。そして、審査委員一人ひとりから登壇者に向けてエールが送られた。


【審査員のコメント】

「単体なのかコラボなのかで結果が変わるかもしれない。ぜひ広い視野で取り組んでほしい」(渋谷区・本間氏)

「お土産=みなさんが思う“渋谷の魅力”である。その魅力を実証実験でどう形にしていくのかを期待している」(KDDI・中馬氏)

「主語を渋谷で考えてほしい。実証実験で何を証明して、どこまでの未来を描くのかを明確にすることが重要だ」(守屋実事務所・守屋氏)

「厳しいようだが、想像の範囲に留まっていた。実験を通せばもう一段階深められるはずだ」(Project SCRAMBLE・藤本氏)

「体験なら“ワクワクする”、モノなら“おいしかった!”など、分かりやすい魅力があれば結果は変わっていたかもしれない」(大日本印刷・福山氏)

「コンテンツ自体の完成度は高かった。実証実験では“これが渋谷の魅力だったのか!”とお客さんに気づきの瞬間を提供してほしい」(東急不動産・小澤氏)

「お土産という“10年、100年続く普遍性”と“渋谷らしさである多様性”という相反する二つのものを同時に追う難しさを感じられた時間であった」(パルコ・小林氏)


【登壇者のコメント】

続いて4人の登壇者から力強い決意表明が発信された。

「もう一度ゼロベースで渋谷らしさを洗い直していくことから始める」(Enhanlabo 座安氏)

「いただいた宿題と人の出会いでこれからも実現に向けて走っていく」(日本財団・野本氏)

「渋谷は憧れの街という表面的な理解に留まっていた。渋谷らしい価値を出していきたい」(タリス・木村氏)

「渋谷モデルを確立して世界に発信していきたい」(プランティオ・芹澤氏)


最後にはモデレーターの長田氏から「渋谷川は6000~7000の人々が通る場所であり、発信したものへの反応を間近で捉えることができる」と改めて実証実験の有効性を生かしてほしいという願いが全体にアナウンスされた。そして今回で終わりではなく、ここから一緒につくっていくと今後への期待を込めて、この日のイベントは幕を下ろした。


取材後記

懇親会では審査員や登壇者だけでなく、観覧者の方も交えて盛り上がった。――このアイデアピッチは、『世界にむけて渋谷の魅力を発信するお土産』を生み出すための第一歩。アイデアのタネが磨かれ、渋谷川を舞台にした実証実験に臨む事業が生み出されることを期待したい。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐野創太、撮影:加藤武俊)