東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)のアクセラレータープログラム「NTTEAST ACCELERATOR PROGRAM LIGHTnIC」(6月24日までエントリー受付中)は、主催者のコミットの高さや、共創事業の実現性といったところが、多くのベンチャーから高く評価され、期待を込めた注目が集まっている。しかし、実際におこなわれる共創関係の内実は、やはり経験してみないとわからない部分が多いだろう。

そこで本記事では、過去2回の同プログラムにおいて採択されたスタートアップ企業の中から、4社の代表者にお集まりいただき、各社がどんな思いでプログラムに参加し、また採択後から現在に至る共創事業の過程をどう評価しているのか、リアルな内実をうかがった。


●各社の事業内容、およびNTT東日本との共創事業の内容

ご協力いただいたのは、以下の各社、各氏だ。

<写真左→右>

・600株式会社 代表取締役 久保渓氏

・株式会社ランドスキップ 代表取締役 下村一樹氏

・株式会社アクアビットスパイラルズ 代表取締役CEO 萩原智啓氏

・株式会社BONX CTO 楢崎雄太氏


【600 × NTT東日本】

2018年6月から、オフィスビル向けに無人コンビニを提供している600。これから展開を予定している東京以外の地域への進出について、プロパティマネジメント系のグループ会社とともに検討を進めている一方、課題であったマンションなどオフィス系以外の建物への無人コンビニ導入を開始。Wi-Fi環境の構築による住民の利便性を高めるのと同様、新しい居住空間を作る設備として導入提案をしている。


【ランドスキップ × NTT東日本】

窓のない室内に風景を再現する、バーチャルウインドウや風景映像配信などを展開しているランドスキップ。NTT東日本との共創では、同社がそれまでアクセスできなかったホテルやオフィスなど、新たな顧客層への導入を進めている。また、NTT東日本が持つWi-Fi設備基盤を利用して、実際の時間とリンクしながら風景が変化する映像配信のサービスなども提供を始めた。


【アクアビットスパイラルズ × NTT東日本】

アクアビットスパイラルズは、「ググらせない」をキーワードに、アプリを利用することなく瞬時にコンテンツが表示される「スマートプレート」を開発・提供しているスタートアップ。非常に応用範囲の広い技術だが、NTT東日本との共創では、宿泊施設や観光スポットを中心に、インバウンド観光客も含めた一時滞在者向けの情報配信サービスの実証実験を実施した。


【BONX × NTT東日本】

BONXは、独自のイヤフォンとアプリを組み合わせて使うことで、距離無制限で最大30人まで同時にコミュニケーションできるヒアラブルデバイスだ。もともとは、スポーツシーンなどB to C用途を想定して開発されたが、昨年からは、インカムの代替など業務利用を提案し、本格的にB to Bに参入。NTT東日本が持つ広範囲の法人顧客接点を活用した共同販売の他、音声認識技術を用いた新製品の共同開発にも取り組んでいる。


本記事では、各ベンチャー企業の代表者に4つの質問を投げかけ、パネル形式で回答してもらった。


【Q1】 NTT東日本アクセラレータープログラムになにを期待していましたか?


●「成功事例作り」(600 久保氏)

私たちの無人コンビニは、オフィスでの設置需要がほとんどでしたが、オフィス以外の、マンションや病院、スポーツジムなど、さまざまな施設へも導入を拡げられる可能性があると考え、課題と捉えていました。しかし、たとえばマンションに設置しようと思うとデベロッパーさんとの交渉になりますが、相手は大企業が多いので、事例がないところでは、なかなか反応してくれません。NTT東日本さんなら、そういった大手を相手のパイプも多いので、事例作りがしやすいだろうと思っていました。

実際どうだったかというと、NTT東日本さんのグループ内にマンションデベロッパー企業があり、そこでの開発物件に、いわばドッグフーディングのような形で弊社製品を導入していただけました。そして次は、それを導入事例として使いながら他社への営業にも一緒に取り組んでいただけるなど、ステップバイステップで、丁寧に連携をしていただきました。


●「仕組み化」(ランドスキップ 下村氏)

私たちの製品は、オフィスの応接室や病院の待合室などに設置されているのを見た人が気に入ってくれて、設置者からご紹介いただき、1件ずつ対応していくというものが主な販売ルートでした。導入の問い合わせが増えてくる中で、どのようにシステマティックに仕組み化できるかが課題だと考えており、メンテナンスやサポートも含めた仕組み化と、仕組み化を基礎としたスケール化が共創で実現されることを期待していました。


●「広域への営業、事業開発(パッケージ)」(アクアビットスパイラルズ 萩原氏)

書く順序が逆になってしまいましたが、まず事業開発、それから営業への期待です。私たちの技術のポテンシャルはいろいろなところから高い評価をいただいていますが、優れた技術があっても、マーケットへの間違ったアプローチをしていたらスケールはできません。そこで、どういう見せ方、見え方で、売れるパッケージとしてまとめていくのかという事業開発の面で、力を借りられればと思いました。NTT東日本さんが現場で売りやすいパッケージが作れれば、あとは、NTT東日本さんの最大の強みともいえる、広域での営業網やメンテナンス網を活かして、販売をスケールさせることができるかなと。


●「ビジネス×技術」(BONX 楢崎氏)

実は、創業して割とすぐの時に、知人の紹介を介してNTTの研究所につないでもらったことがありました。そのとき、技術者同士は割と仲良く話すことができたのですが、組織同士という話になると、先方から技術開発の成果を出してもらえるような座組が組めなくて、結局、頓挫してしまいました。

基礎技術開発というのは、スタートアップがやることではありません。技術を応用したアプリケーションをやりたいので、NTT東日本さんとの共創で、研究所などとの座組が組めて技術連携ができるなら、こんなありがたいことはないと思いました。

もう1つは、B to Bでのビジネスの面です。私たちの製品は、コミュニケーションツールなので、1つ売っても仕方ありません。拠点単位や全社単位で導入してもらいたいのですが、そうすると企業の中である程度の決裁権を持つ方にアクセスしなければなりません。しかし、それがスタートアップには難しいのです。また、アクセスできても与信ではねられるといったこともあります。そういう面での補完も期待していました。


【Q2】 プログラムを終えて、NTT東日本の印象で変わったところは?


●「スピード感」(600 久保氏)

NTT東日本さんは大企業なので、担当者の方に熱意があったとしても、現場部署や関連会社との連携が難しくてスムーズに進まないのではないかという心配がありました。しかし、実際に動き出してみると、「あれもできます、これもできます」みたいに、いろんな部署を巻き込みながら具体的な座組に落とし込んでいってくれて、むしろ弊社の方がボトルネックになることもありました。このスピード感は、大きく印象が変わったところです。


(NTT東日本 遠藤氏)

弊社は本体に約4700人の社員がおり、百社以上のグループ企業を持ちます。その全員に、共創事業に対して同じ意識を持ってもらうことは無理ですし、私たちも求めていません。しかし、どの部署にも、どのグループ企業にも、すごく熱意を持っている人が必ずいるのです。私たちのチームは、そういうキーマンと、ベンチャーさんとをしっかりつなぐことを、常に意識しています。

▲NTT東日本 ビジネス開発本部 第二部門 アクセラレーション担当 遠藤正幸氏


●「コミット!はんぱない」(ランドスキップ 下村氏)

私たちは、いくつかのアクセラレータープログラムに参加したことがあります。そこで感じたのは、充実した成果を生むためには、顧客基盤や製品ニーズといった面もさることながら、アクセラレータープログラム担当者の熱意がもっとも重要だということです。ベンチャーは、総じて高い熱量で仕事に取り組んでいるので、その熱量のレベルと担当者のそれとが合わないと、単に6か月の実証実験をスケジュール的にこなしただけで、結局なにも残りませんでした、みたいに終わってしまうこともありえます。

その点、NTT東日本さんの担当者は、共創事業への熱量が我々と同じレベルで、ここに書いたように、コミットがはんぱなかったです(笑)。そもそも、「半年の実証実験をこなす」というような捉え方をしていなくて、1年後、2年後を見据えてどう連携しながらリアルにビジネスをスケールさせていくか、さらにいうなら、ランドスキップのビジョンをどう実現していくかという視点で最初から動いてくれました。だからこそ、先ほど600の久保さんがいわれていたようにスピード感もあるし、考えることの深さみたいなところもある。ほとんどうちの社員と変わらないレベルで事業のことを考えてくれていたのが、本当に嬉しかったです。


●「遅そう・重そう→早い!軽い!」(アクアビットスパイラルズ 萩原氏)

いまお二人のお話を聞いていて、600さん、ランドスキップさんのご担当者と、うちの担当の方とは違う人のはずですが、「うちのことを話しているのか」と思うくらい、まったく同じ感じなので、びっくりしていました(笑)。たぶん、NTT東日本のアクセラレータープログラムチーム全体に、そういうマインドが行き渡っているのでしょうね。

書いたうち、「遅そう→早い」というのは、すでにお二人がお話しされていたとおりです。では、「重そう」というのはなにかというと、フットワークが重いということもありますが、負担が重いのではないかと思っていたことです。

ランドスキップの下村さんがいわれたように、いまアクセラレータープログラムにもいろいろなものがあります。その中で、ときどき耳にするのが、ベンチャー側の負担が重いプログラムがあるということです。負担が重いというのは、頻繁な定例会議への出席とか、形式的なことをいろいろやらされたりするのに、実質なかなか進展しないという感じです。NTT東日本さんは、巨大企業でしかも「官」とも密接なポジションなので、もしかしたらそういう重さがあるのかなと、少し心配していました。

ところが蓋を開けてみるとまったく逆で、非常に軽い(笑)。最初から、担当者がほとんど完璧なくらい私たちのプロダクトのことを理解しており、方向性や取り組めそうな目先の課題を考えてきてくれるので、会ったときに話が非常に軽く進んでいきました。それでいて、話だけではなく、実証実験レベルでやるべきことはきちんと現場で進めていく。それが驚きの連続でしたし、パネルには書きませんでしたが、印象としては「楽しい!」ということも付け加えておきたいですね。


●「勢い」(BONX 楢崎氏)

NTT東日本さんは、本当に担当者の「勢い」が違うな、と感じました。――それを象徴する出来事が、私たちを担当してくれた方が、今年の1月にご結婚なさったのですが、その結婚式でうちの商品を使ってくれたことです。NTT東日本アクセラレータープログラムチームの伊藤さんですが、アクアビットさんの担当もなさっていたので、アクアビットさんの製品とうちの製品の両方を、ご自身の結婚式で使ってくれました。

具体的にいうと、結婚式場の係員はインカムで連絡を取り合いますが、その代わりにうちのプロダクトを使ってもらっています。また、席札にアクアビットさんのスマートプレートを使いスマホ連動でコンテンツが変化する「スマート席札」にしています。伊藤さんは、自分が使う結婚式場に、営業をかけて、これを実現してしまったのです。しかも、その式の様子を弊社で撮影して、製品活用の様子をプロモーションビデオやWebサイトで使ってもいいと……。

こんな、プライベートを売るようなことは、うちの社員でもだれもやっていません。それをアクセラレータープログラムの担当者がやってくれるというので、本当に驚きました。その話があって、私は、伊藤さんの岐阜の実家に行って、お父さんともお酒も酌み交わしました。そこから、お父さんのやっている工場でも、うちの製品を使ってもらうという話まで出てきて。もう完全に、普通想像するようなアクセラの担当者とベンチャーという関係を越えていますよね(笑)。


(NTT東日本 遠藤氏)

ある日、うちのチームで飲んでいたときに、伊藤が「今度、結婚することになりまして」と話を切り出したんです。それで式のことをいろいろ話している中で、たまたま席札の話になって、「ちょっと待てよ、これってスマートプレートが使えない?」とか「そういえば、式場ってインカム使うよね。これってBONXさんだよ」という話で盛り上がって……。

そうしたら、翌日には伊藤が婚約者にその話をして了承を得て、すぐに式場に営業に行ったらしいです。式場の方もびっくりしたでしょうね(笑)。

ちなみに、その結婚式をきっかけとして、アクアビットスパイラルズさんとBONXさんの商品を、式場用にしたパッケージ商品を開発しており、いまではNTT東日本社内でも多くのメンバーが知る商材になっています。

▲スマートプレートを使いスマホ連動でコンテンツが変化する「スマート席札」


【Q3】 これは使える、NTT東日本のリソースとは?


●「多様な接点」(600 久保氏)

NTT東日本さんは、光回線の会社というイメージがありますが、約1000社あるグループ企業が多彩な事業を行っていて、多様な顧客接点をお持ちです。弊社の場合でいえば、グループ会社のマンションデベロッパーやWi-Fiの保守・運用を行っている会社をご紹介いただきました。事業が固定化していないベンチャーだからこそ、使えるリソースの広さや多様性が、アクセラレータープログラムで成果を出す上で重要になると思います。


●「広い基盤 深い愛情」(ランドスキップ 下村氏)

広い基盤というのは、いまおっしゃられた多様な接点と似たようなことです。とくに、B to B領域での業種の広さや、その業種でのエンドのお客様から持たれている信頼性は、共同販売などの際に、強い力となります。

また「深い愛情」は、なにかするときに、担当者が必ず私たちの側に立ってくれる、ということです。本来はNTT東日本さんの社員ですから、その社員としての立場と、ベンチャーを支援する立場と、両方の中間でバランスを取って考えるのが普通だと思います。ところが担当の方は、まず私たち側に軸足を置いて、その立場で一緒に動いてくれます。私たちのビジョンに心から共感して、同じ目線で動いてくれるのです。だから、「深いノウハウ」とか「深い知識」という面もあったのですが、それよりも「深い愛情」という言葉で表現するのが一番ピッタリだと私は思っています。


●「アクセラメンバーの熱気とやる気」(アクアビットスパイラルズ 萩原氏)

実はここで、さっきBONX・楢崎さんが話してしまった結婚式のエピソードのことを話そうと思っていたんですけど(笑)。あのエピソードって、要は「自分事化」ですよね。うちの社員でしたっけ?というくらい、自分事としてアイディアも出してくれるし、行動もしてくれます。

ちなみに、私は自分の左手にマイクロチップを埋め込んで、いつでも自社プロダクトのデモができるようにしています。究極の公私混同というか、自分事化ですが、これは創業者だからできることだとも思っていました。しかし、伊藤さんは結婚式という究極のプライベートな場でうちの製品を使ってくれて、商品化してくれた。これは本当にありがたかったです。この担当者の熱気とやる気こそ、一番のリソースではないでしょうか。

また、別の面でNTT東日本さんならではだと感じたのが、行政へのアプローチ力です。行政へのアプローチはスタートアップにとって高い壁となる部分ですが、そこにしっかりパイプがあって、どういう風に話を持っていけばいいのか、攻め方みたいなところをしっかりわかっていらっしゃるのが、さすがだと思いました。


●「法人顧客のパイプ」(BONX 楢崎氏)

NTT東日本さんは、日本で一番インターネット回線を売っている会社です。だから、B to B事業をやるITベンチャーなら、そもそもビジネス上の相性が悪いわけがありません。具体的に、NTT東日本さんと一緒に動いてみて感じたのは、顧客との関係性がとても深いということです。しかも、ビジネスに関する決裁権を持っている人との関係が近くて深い。これは、スタートアップがB to B事業をやるときには、直接的に使えるメリットだなと感じました。そのため、ビジネスアクセラレーションとしての成果が出しやすいのだと思います。また、うちは音声技術の会社なので、さっきも少し話した技術面での共同も非常に有益でした。


【Q4】 これから取り組んでいきたいこと、目指したいこと


●「地域拡大」(600 久保氏)

現在、弊社のサービスをフルで提供できるのは、東京23区のみです。無人コンビニは大きなハードウェアなので、保守点検などまで含めて考えると、これまでは、遠方での提供は難しい面がありました。しかし、NTT東日本さんが持つ保守・点検・運用などでの、技術者のネットワーク基盤とうまく連携できれば、地域拡大のスピードを上げていけると考えています。


●「風景の流通」(ランドスキップ 下村氏)

風景の流通は、私たちのコーポレートビジョンです。なぜあえてこれを掲げたかというと、NTT東日本さんとは単なる短期的な協力関係ではなく、ビジョンパートナーとして、このビジョンの達成のために、共に歩んでいきたいという思いを込めてです。場所問わず、すべての人に、心に響く風景を届けていくことを目指します。


●「電気・ガス・水道 スマートプレート 次世代のインフラを目指して」(アクアビットスパイラルズ 萩原氏)

実は、デモデーのスライドに入れた言葉なのですが、アクセラメンバーの方と一緒にデモデーに向かって詰めていく中で、こうなったらいいよねと、自然発生的に浮かんできた言葉です。

私たちの技術は、広範囲にモノと情報とをつなげることができますが、そこには、NTT東日本さんのような広域のネットワークが必要です。逆にいえば、NTT東日本さんとの共創によって、本当にIoTのインフラが目指せると思ったのが、デモデーの時でした。その時の気持ちを忘れず、本気でデファクトを目指したいと考えています。


●「パラダイムシフト」(BONX 楢崎氏)

パソコン時代の次に、スマホ時代がきて、指先だけでインターネットにアクセス可能になりました。では次はどうなるかといえば、スマートスピーカーなどで一部実現されているように、機材を持っていなくても、声だけでインターネットにアクセスできる時代だと考えています。これは目を中心にネットを活用する時代から、音声と耳を中心に活用する時代へのパラダイムシフトではないでしょうか。こういう大きな話は、スタートアップが言っているだけだと、夢物語だと思われがちですが、NTT東日本さんと組むことでひとつひとつ実例を積み重ね、実現できることを示していきたいと思います。


■取材後記

各社のお話の中で印象的だったのが、担当者の熱意や、コミットの深さについての話題になると、「うちもまったく同じです」「まるで弊社のことみたい」といった言葉が何度も聞かれたこと。ここに、NTT東日本アクセラレータープログラムが、2度の実施で共創事業の成功事例を生み続けている理由があるように感じた。今回、3期目となるプログラムからは、どのような共創が生まれるのか、その未来がいまから楽しみである。

(構成:眞田 幸剛、取材・文:椎原よしき、撮影:齊木恵太)