6月4日、5日、東京ミッドタウン日比谷「BASE Q」で開催されたオープンイノベーションの祭典「Japan Open Innovation Fes2019」(JOIF2019)。2日間にわたり、1000名以上の来場者を迎えた同フェスでも大きな注目を集めたのが「JOIF STARTUP PITCH」だ。

これは、共創パートナーとして名乗りをあげた大手事業会社8社の審査員の前で、7社のスタートアップが3分間のピッチを実施。質疑応答を経て、その場で裁量権を持った審査員が「興味あり!」or「組みたい!」の判断を提示するという斬新なスタートアップピッチである。

当日は、シークレットゲストとして、エンジェル投資家の顔も持つお笑いタレントの田村淳氏が“ゲストマッチングオーガナイザー”として参加した。田村氏が司会を務める経済番組「田村淳のBUSINESSBASIC」にeiicon代表・中村が出演した縁から、今回のゲスト出演が決定。会場は立ち見が出る程の大盛況となった。


■7社のスタートアップと、8社の共創パートナー企業が参加

ピッチ参加のスタートアップ、および、審査員として参加した共創パートナー企業は以下の通りだ。


<登壇スタートアップ(登壇順)>

【1】株式会社Shinonome

【2】ムーバクラウド株式会社

【3】ストックマーク株式会社

【4】株式会社Catalu JAPAN

【5】Datumix株式会社

【6】株式会社レスティル

【7】株式会社プレイド


<共創パートナー企業>

●株式会社アマナ

●KNT-CTホールディングス株式会社

●KDDI株式会社

●住友生命保険相互会社

●住友不動産株式会社

●凸版印刷株式会社

●日本郵便株式会社

●JR東日本スタートアップ株式会社

▲8名の審査員たちは「興味あり!」・「組みたい!」の札を持ち、ピッチ後にジャッジを下した。

以下にスタートアップ7社のピッチの模様、審査員からのフィードバックなどを紹介していく。


【1】学生を組織して、技術インデックスを拡充する大学発スタートアップ(Shinonome)

最初の登壇は、JOIF2019初日の「Collaboration Battle2019」でLIXILとの共創事例を発表したShinonomeの高橋氏。同社は「若手クリエーターの育成サイクルを構築しチャレンジと学習を提供するTechインフラとなる」との理念を掲げ、テクノロジー研究所と技術教育機関の2つの側面で活動をしている。東京理科大学の中にオフィススペースを持ち、講義を終えた学生が気軽に立ち寄って研究や開発に利用できる環境を整えている。

教育機関としては、GitHubから日本法人で唯一、教育機関認定を受けていることからもわかるように、世界レベルの技術教育を学生に提供している。中国・アリババの技術者を招聘し、学生への教育プログラムを実施するなど、ビジネスの現場と密接に結びついた教育サポートを実施している様子も発表された。

また、研究機関としては、企業や地方自治体とのさまざまな共同研究や委託研究を実施している。同社で学んでいる100名以上の学生の中から、優秀な者が研究開発に参加し、アカデミックなエビデンスを背景に、さまざまな研究に携わっている。

もともとは東京理科大学から発した企業だが、現在、岡山や長野にある大学との提携も具体的に予定。「今後、提携する大学が拡がり、学生の裾野が広がれば、研究機関として利用できるインデックスもさらに拡がっていきます」(同社・高橋氏)ということで、提携大学を拡げていく方向だ。

ピッチの後、審査員からは、「どこから収益を得るのか。開発の権利はどこに所属するのか?」(KDDI)、「通常の産学連携との違いは?」(日本郵便)などの質疑と応答があり、最終的には「組みたい!」が2社、「興味あり!」が4社の結果となった。


【2】 「面倒なことを簡単にする」をテーマに高精度位置情報システムを提供(ムーバクラウド)

ムーバクラウドは、「面倒なことを簡単にする」をテーマに、さまざまな技術を開発しているスタートアップだ。今回のピッチでは、まず、社員のスマホやPCのセッティングを一括して行えるキッティングサービス「MovaKitting」や、デジタルサイネージの保守、運用が遠隔から実施できるMDM(モバイルデバイス管理)サービス「MovaViewer」について説明された。そして現在同社がもっとも力を入れているという、位置情報プラットフォームの「MovaLocation」が紹介された。

「MovaLocation」は、建物内で、数10センチ単位の高精度でモノや人の位置をリアルタイムで検知できるシステム。通信は、高速なUWBと汎用性の高いBluetoothの双方に対応しており、用途に応じて使い分けられる。

実証実験として、幕張メッセで行われたイベントで、多数の人がどう動いているのか分析した様子もデモンストレーションされた。「工場、倉庫、医療施設、オフィスなどにおいて、人やものの位置を把握することで、スペースや作業の効率化が可能になります」(同社・李氏)という。

同システムは、すでに工場などでの導入実績があり、場内の作業員の所在地検知や、作業工程管理に導入されている。各種生産管理システムとデータを連動させることで、動線を最適化し、作業員の負担を最小化する管理システムを実現している。

ピッチの後、「物流現場への導入実績はあるのか?」(日本郵政)、「一般のオフィスでの応用可能性は?」(住友不動産)などの討議を経て、審査発表。1社から「興味あり!」の札が上げられた。


【3】ビジネスプロセスそのものをAIで変換していく(ストックマーク)

ストックマークは、2016年に設立されたAIスタートアップで、特に自然言語処理をベースとしたSaaS(クラウド運用ソリューション)を開発している。とかく非直感的なものとされる自然言語処理に、いかに直感的なユーザーエクスペリエンスを与えるかという視点から研究を進めているのが特徴だ。

同社では、現在のビジネスが直面している、人間の処理能力を大きく超えた情報量による非効率な情報収集や意志決定の遅れに対して、ビジネスプロセスそのものをAIで変換することによる解決を目指している。

その課題に対応するサービスとして、現在、以下の3つのAIソリューションをSaaSとして提供中だ。

(1)国内外3万メディアをソースとしてテキストを解析し、ビジネスのミッションに直結するニュースをAIが収集、流通させて、全社員の現場力を向上させる「A news」。(2)ニュースや社内外の情報を収集し、マーケット動向や競合動向をAIが解析しレポーティングしてくれる「A strategy」。(3)商談やメールのテキスト情報から営業の勝ちパターンをAIが解析し、より売れる営業組織に変革できる「A sales」。

これらのうち2017年4月にリリースされた「A news」は、すでに累計1,000社超の導入実績を持つ。同社の森住氏は、これらのツールによって、「情報の収集や整理はAIにまかせて、人間は打ち手の策定に専念する。そんなデジタル時代の意志決定を加速していきたい」と締めくくった。

ピッチ後、「企業内部に埋もれた情報も発掘できるのか?」(JR東日本スタートアップ)、「今回の共創目的は、既存サービスでの活用か、新しい技術開発か?」(アマナ)といった質問が出され、討議を経た後に、「組みたい!」に2社、「興味あり!」に5社の札が上がった。


【4】語られる価値のあるモノとリアル店舗とをつなぐプラットフォーム(Catalu JAPAN)

30年前、日本には90万社の製造業が存在したが、現在はその半分の45万社以下になっているという。かつて日本経済を底力として支えた中小の製造業が急速に減少している。しかしそれは、技術力が落ちているためではない。いいものを作っているのに、その魅力を消費者に伝える販路がないためだ。Catalu JAPANの吉本氏は、そのように考えたという。そして、リアルな場でモノを手にとってもらい、モノを通じて人と人とが語りあえる場を作りたい、そのような想いから、製品展示のプラットフォーム「カタルスペース」をスタートさせた。

「カタルスペース」は、空きスペースなどにいいモノを展示したい店舗と、多くの消費者に実際のモノを手に取って見てもらいたい製造業とのマッチングプラットフォームである。

店舗には「こんなモノを置きたい」という要望を出してもらった上で、Webサイトに掲載。製造業は、それら店舗の中から自社の製品にあっていると思われる店舗を選び、展示のオファーを出せる。

マッチングが成立してモノが展示されれば、製造業側は月額定額の料金を支払い、手数料を差し引いた残りが、店舗側に支払われる。

まだリリースしてから1か月(発表時)ほどだが、すでに「高級和食店と工芸品」「美容室と日傘」「観光案内所と地域産品」「コワーキングスペースと雑貨」など、多くの展示事例が生まれている。

店側も、単に空きスペースを活用するだけではなく、自分たちが応援したいモノを置くため、積極的に利用客にアピールできる。そこから顧客とのコミュニケーションが生まれ、関係性が強化されるメリットがある。

現在は、参加店舗は約50店舗だが、想定を上回るペースで伸びており、当面の目標として、年内には200店舗の参加を目指したいとしている。

ピッチ後の質疑では「店舗開拓の方法は?」(KDDI)、「どのような産業とのマッチングなら相性がいいと思うか?」(KNT-CTホールディングス)などが問われ、討議の後、「組みたい!」に1社、「興味あり!」に6社の札が上げられた。


5】強化学習AIで、激増する物流を効率化(Datumix)

Datumix(データミックス)は、2017年5月にアメリカ・カリフォルニア州で設立されたAIスタートアップ企業だ。AIの中でも「強化学習」という、コンピュータが自ら試行錯誤しながら最適解を考えていく仕組みを使い、人間には考えつかないソリューションを生み出すことを目指している。

囲碁など、ゲームの領域においては、すでに強化学習AIが生み出す新しい定石を人間が学ぶ状況になっている。しかし、ビジネス分野では、自動車の自動運転や、データセンターの省電力システムなどに少しずつ使われ始めている程度で、まだまだ実装は少ない。

Datumixでは、Eコマースにより増大している物流領域をターゲットとして、AIによる効率化を実現した。同社が考案した出庫ルート最適化アルゴリズムにより、10%の出荷効率化が可能になっているという。

その際に用いられる同社の強みが、高度な3Dモデリング技術を持つ点。3Dモデリングによって物流倉庫を精緻に再現し、そこに強化学習AIのアルゴリズムを実装することで、精度の高い効率化の検証を実現している。

現在は物流に特化しているが、アメリカ本社ではレコメンドシステムのアルゴリズム開発もしており、今後はその分野での開発も進めていくということだ。

ピッチの後の質疑は、「倉庫の新規建設では強力な武器になると思うが、既存の設備でも効果はあるのか?」(日本郵便)、「物流以外への応用で考えていることは?」(住友不動産)といった声が上がった。審査では「組みたい!」が2社、「興味あり!」が3社という結果であった。


6】 地産地消型の流通システムのインフラを担いたい(レスティル)

レスティルの足立氏は、両手で「箱」を抱えて登壇。この箱が、同社が開発した「ポスケット」と名付けられたIoTデリバリーボックスだ。

レスティルが課題として設定しているのは「地域経済の活性」「買い物難民問題」で、それを解決するために開発されたのが「ポスケット」である。このシステムが目指すのは、地域内の需要と供給をダイレクトにつなげること。たとえば、近所の農家がその日採れたての野菜を届けてくれる、あるいは、かかとのすり減った靴を回収して、修理して届けてくれる、そんな世界を目指している。

「ポスケット」にはコンピュータが内蔵されており、電池で駆動する。折りたたみ式で使わないときはコンパクトになり、利用するときはカギをかけることもできる。利用者は、対応商店にアプリで注文を出せば、「ポスケット」を介して、不在時でも商品を届けてもらったり、逆に店に渡したいモノを集荷してもらったり、あるいは、友人などにモノを届けることもできる。さらに、広告の配信機能も持つという。

こうした仕組みにより、「生活者の地元を中心とした、地産地消型の流通システムのインフラを目指したい」(同社・足立氏)というのが、同社のビジョンだ。

ピッチ後には、「ボックスの価格はどの程度まで下げられそうか?」(アマナ)、「マンションなど共同住宅には対応できるのか」(日本郵便)といった点での討議が行われた。審査後、「興味あり!」の札が2社から上げられた。


7】リアルタイムの顧客データ処理で場を進化させていく(株式会社プレイド)

最後に登壇したのが、プレイドの阪氏。同社が提供している「KARTE」は、データを活用し、顧客へのコネクト体験を改善するCX(顧客体験)プラットフォームだ。すでに、多くの企業に導入されており、解析対象の累計UU数が41.5億、年間解析流通金額は9,719億円という実績を上げている。

従来、顧客データを活用するためには、まず多くのデータを蓄積し、それを分析し、そこから施策に落とし込むというプロセスを踏む必要があり、長い時間がかかっていた。それを解決するために作られたのが、「KARTE」に採用されているリアルタイム解析エンジンの「Brook」だ。Brookは、データのインプット、蓄積と解析、アウトプットを1つのエンジンで行うことができるスキーマレスのシステムとなっている。

同社が「KARTE」の活用によって目指している未来が、その場にいる人々ひとりひとりのニーズやアクション、モーメントを把握して、企業側からのアクションを返していく「場の進化」である。たとえば、観光地なら、その人のニーズやその日の外部状況にあわせて、適切な行き先をアドバイスするといったことだ。

「リアルな場で顧客との接点を持ちたい企業、場を進化させていく技術を活用したい企業と、オープンイノベーションを実施したい」(同社・阪氏)と抱負が語られた。

ピッチ後には、「位置情報とWeb上の行動データを掛け合わせた技術なのか?」(住友生命保険)、「個人とデータのIDをどのようにして紐付けるのか」(JR東日本スタートアップ)といった質問が出されて討議が行われ、「組みたい!」に2社、「興味あり!」に4社の札が上げられた。


■田村淳賞は、Datumix。目指すはAI司会者!?

全ピッチの終了後、“ゲストマッチングオーガナイザー”である田村淳氏によって「田村淳賞」の発表が行われた。田村氏は「ピッチコンテストには、何度も出たことがあるが、全体的にかなりレベルが高くて驚きました。eiiconさんがつないでくれれば、すぐにでも事業化できそうで、スピード感がすごい。いい経験ができました」と感想を述べた後、Datumixを田村淳賞に選定。

選定理由として「どの会社も良かったが、いちばんワクワクしたのがDatumixさんでした」と述べ、「僕のデータを提供するので、AI司会者を開発してください。そうすれば僕が働かなくても仕事ができますから」と夢(?)を語って会場を沸かせた。

受賞したDatumixの大住氏は、「AIはまだまだビジネスでの応用が進んでいないが、実用化により人の暮らしが豊かになるAIを目指しています。今後オープンイノベーションで活性化を進めたいので、よろしくお願いします」と抱負を語り、「JOIF STARTUP PITCH」が締めくくられた。


■取材後記

ゲストの田村淳氏も語っていたように、スタートアップとはいえ、相当の実績と実力を持つ各社が登壇していることが印象的だった。「組みたい!」の札も数多く上がっており、今回プレゼンテーションされたシーズが、ほんのわずかな将来に実用化され、まさに世界を加速している様子が予感できるピッチコンテストであった。


※JOIF2019のレポートについては以下ページにてアップしていきます

(構成:眞田幸剛、取材・文:椎原よしき、撮影:齊木恵太)