“オープンイノベーション”という言葉がバズワードのように広く聞かれるようになり、アクセラレータープログラムやCVC設立などに取り組む企業も増えてきた。――しかし、2018年末には日経平均株価が下落するなど、2019年に入り日本経済にリセッション(景気後退)の影が見え隠れしてきている。

令和という新しい時代を迎え、2019年、そして2020年以降は、オープンイノベーションはどうなるのか。そして、オープンイノベーションはどのようにすれば企業の生存活動に組み込まれるのか。さらに、不景気のタイミングでオープンイノベーションはどうなるのかーー。

eiicon代表である中村がモデレーターとなり、数々のスタートアップに投資を行ってきた実績を持つグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)の今野穣氏、リクルートを経て起業家・投資家・経営者として活躍するアルファドライブの麻生要一氏、「東急アクセラレートプログラム」の運営統括を手がける東急電鉄の加藤由将氏という、オープンイノベーションのキーパーソンが語ったトークセッションの模様をお届けする。

※このトークセッションは、オープンイノベーションプラットフォームeiiconが主催したイベント「Japan Open Innovation Fes 2019(JOIF2019)」にて実施されたものです。


<本トークセッションのポイント>

●百花繚乱とも言えるオープンイノベーションだが、その目的が明確化できていない企業も少なくない。

●オープンイノベーションを実施する目的は3つ。「買収」と「提携」と「新規事業」。

●リセッションは年内中に来るかもしれない。リセッションによって大企業の事業再編や組織改革が始まる。

●SaaS領域のベンチャーがVCから熱い注目を浴びている。SaaS系ベンチャーはデータ蓄積によって大企業の事業を凌駕する可能性を秘めている。

●大企業は、余らせているお金で独立系VCにLP出資すべき。それによって、リセッションが起きたとしても事業をしっかり育てられる「箱舟」を作る。


<SPEAKERS>

・グロービス・キャピタル・パートナーズ COO 今野 穣氏 <写真左>

・株式会社アルファドライブ代表取締役社長 兼 CEO ファウンダー 麻生 要一氏 <写真中>

・東京急行電鉄株式会社 都市創造本部 戦略事業部 事業統括部 企画担当 課長補 加藤 由将氏 <写真右>


■アクセラ実施やCVC設立――百花繚乱と言えるオープンイノベーション

eiicon・中村 : まずみなさんにお聞きしたいのは、オープンイノベーションは2年前と比べて、どのように進化したのか?という点です。オープンイノベーションという方法論が、日本で一般化したのは、2014年〜2015年くらいからだと言われています。そしてこの2年の間に、オープンイノベーションという言葉は広まり、企業には担当部署も新設されるケースが増えています。まず加藤さんから、お話を伺えたらなと思っています。

東急・加藤氏 : 凄まじいオープンクエスチョンですね(笑)。立場によってだいぶ見え方も変わってくるのかなと思うんですが――大きいところでいくと、余剰資金が生まれた大企業からのリスクマネーというものがスタートアップ業界に一気に流れ込み、アクセラレータープログラムであったりCVCであったり、そういったものが立ち上がってきて、本当に百花繚乱みたいな感じになっているのかなと思います。

eiicon・中村 : 加藤さんは東急電鉄において2015年度からアクセラレートプログラムをやってきて、周りの大企業さんからオープンイノベーションに関する相談を結構受けられたと思いますが。

東急・加藤氏 : めちゃめちゃきましたね(笑)。年間でヒアリングがおよそ80社。大企業からヒアリングがほぼ毎週来るんですよ。数年前にヒアリングが来た企業が今、オープンイノベーションを展開してきたところで、百花繚乱のような状態になったかなと見ています。

eiicon・中村 : 相談は今もかわらず結構あるんですか。

東急・加藤氏 : オープンイノベーションの取り組み自体をやめちゃったところも出てきていますね。企業風土にフィットしなかったのか。何なのか理由はいっぱいあると思うんですけれども。継続しているところはだいぶ絞られてきたように感じます。

eiicon・中村 : 加藤さん、それから麻生さんから見て、アクセラレータープログラムなど、オープンイノベーション活動をやめてしまった企業さんって、どのようなことがその理由だと思いますか?

東急・加藤氏 : とりあえず予算を付けたのでオープンイノベーションに取り組んでみました、みたいな。「やる」って言っても自分で考えて動くというよりかは、コンサルさんのような動きをしてくれる方に発注をして「やりました」という考え方だったところは、そこから得るものがあまり多くなかったんじゃないかなと思います。実際に、どれぐらいちゃんと目的設定をして大企業の方はアクセラレーションプログラムをやっていますかと。

というのは「アクセラレータープログラム」という言葉の定義上、スタートアップをアクセラレートするプログラムじゃないですか。大企業側がいろんな協力をしてくれて、スタートアップを伸ばしてくれるし後ろ盾にもなってくれる。何だったら商品買ってくれるかもしれない。ただ、それを大企業側は何のためにやっているかというか……。

アルファドライブ・麻生氏 : 「百花繚乱」と「目的なき」という2つの言葉が、結構キーワードになっていると思います。僕は今改めて「オープンイノベーションって何なの?」というところを再定義が必要なタイミングなんじゃないかと感じています。そもそも何をオープンするのみたいな局所的なところもあれば、オープンイノベーションはアクセラもあれば出資もあればといろいろある中で、何のためにやっているかというのは本当に大事だと思いますね。


■オープンイノベーションを実施する「3つの目的」

eiicon・中村 : 二つ目の設問は、2019年、2020年、オープンイノベーションはどうなっていくか。今、オープンイノベーションは百花繚乱だけど、闇雲にやっているところもある。――ですが、私の感覚としても地に足がついている企業さんが増えている感覚があります。皆さんから見て今年、来年、オープンイノベーションがどうなっていくかをお聞かせください。

アルファドライブ・麻生氏 : 質問に答えているようで答えていない、しゃべりたい話をするんですけれども(笑)。そもそもみんな気付き始めていると思うのが、オープンイノベーションで目的じゃなくて手段なんですよ。だから、「オープンイノベーションをどうするか?」って手段の話しかしていないから、そこに気が付いてオープンイノベーションを推進しようみたいなのがなくなるんじゃないかなと。

また、オープンイノベーションは手段ではありますが、その先に目的があるわけじゃないですか。何を実現するための目的なのかというのは、企業経営においても3パターンぐらいしかないと思っていて。1が買収、2が提携、3が新規事業だと思うんですね。それぞれによってオープンイノベーションの手法も違えば考えることも違うんです。

グロービス・今野氏 : 僕は、今年〜来年とオープンイノベーションがどこに向かっていくのかと考えたときに、より本質に迫っていくタイミングに来ているのかなと思います。とりあえずオープンイノベーションが百花繚乱で広がって、そこからまた収斂されていくそのタイミングにあるということです。

様々な会社がいろんなことに挑戦してみてそれぞれに気づきがあったと思うので、その気づきごとに新しい戦略をバチバチッと将棋みたいに打っていく。そんな時期に来ていると思います。これからすごく楽しみですよね。

――ただリセッションが起き、景気に大きな変化が起きた瞬間に、大企業では、一気に本業に立ち返るようなことを経営陣が言い出してしまう可能性もあります。そうすると、オープンイノベーションは一気にしぼんでしまう。もうやらなくていいみたいな話になって。

eiicon・中村 : 先ほど麻生さんが、オープンイノベーションの先にある目的は、買収と提携と新規事業の3つに集約されるというお話がありました。その3つは基本的に「自社の企業価値向上」だと思うんですよね。来年くらいには、会社から出てしまうスピンアウトという形も増えてくるかなと思っていますが、今野さんはどのようにお考えですか?

グロービス・今野氏 : スピンアウトが増えるかどうかという問いですか?――増えるし、僕は増やすべきだと思っています。僕はすべての事業を100%自社内でやるというのは、企業経営として限界がきていると思っています。例えば、33.4%とか51%とか、グループ経営としての意味あるシェアを保有していれば、外部資本や上場という手段でレバレッジすることの方が、特に海外企業との競争戦略などを考えると重要だったりする。

すでにインターネット企業であっても、実は資金調達ができるタイミングにおいては、自社内でやる予算よりも、外でやる予算調達の方が楽なんですよ。かつ自由度も高い。毎年、予算申請をして連結決算への影響という意味で毎年のP/Lをチェックされて。……それで苦しんでいる社内の新規事業も結構あります。そういう意味では増やすべきだと思っています。

アルファドライブ・麻生氏 : スピンアウトに関連してお話しすると、パナソニックがやっているBeeEdge(ビーエッジ)という会社が今すごいいいと思っています。BeeEdgeはパナソニックの事業を新規で受け取る会社であるにも関わらず、パナソニックから資本が32.4%しか入っていないんですよ。パナソニックの連結対象外の会社なんですけれども、そこでパナソニックの中の新規事業を受け取って投資して育成していくんですよね。

その後のオプションって結構あって、事業が育った後にパナソニック側に戻すということもできるし、戻さずにIPOをさせてキャピタルゲインというのもありますし、配当銘柄にするということもあります。資本設定に自由度を持たせるというのは新規事業の育成にはすごく有効だと思います。


■リセッションで、本物以外がスクリーニングされる

eiicon・中村 : ラストの質問です。今後、リセッションが来るのではないかという声も聞かれます。景気後退のタイミングでオープンイノベーションがどうなるかについて、お聞きしたいと思います。

アルファドライブ・麻生氏 : 目的が明確になっていることが前提ではありますが、不景気が来たら業績が悪くなり、トランスフォーメーションしなければならなくなるので、オープンイノベーションをやらざるを得なくなりますよね。一方で、目的が明確化されていないところは、ただ単にコストセンターからカットされてしまうと思います。

eiicon・中村 : ちゃんと目的を持ち、オープンイノベーションが会社の戦略としていれば、不景気とか関係なく、むしろ企業が生き残るために必要な活動として残る、と。

アルファドライブ・麻生氏 : 戦略とかそういう難しい話ではなくて、自社を変革しようと思っているかどうかなんですよ、経営陣が。どうみても頭を打ちしていて、毎年3パーセントずつ売り上げが下がっているのに、変える気がないという経営者が少なくないんです。変えようという意志さえあれば、何をどう変えたらいいのという議論になるし、戦略論にもなると思うんですけれども。できればあと3年間何も変えたくないみたいな、そういう形だと難しいですよね。

東急・加藤氏 : 「既存事業に集中投資したいけど、一応イノベーション活動に予算だけつけとこうかな」といった感じの対応のところだと効果は出ないでしょうね。

eiicon・中村 : ところで今野さん、リセッションはいつ来ますか?

グロービス・今野氏 : 今年中という話もありますよ。リセッションが来れば、おそらく本物以外はスクリーニングされると思いますし、本当に考えている経営者はリセッションを待っているんじゃないかと思っています。というのも、事業や組織を組み替える大義名分が欲しいから。

eiicon・中村 : なるほど。

グロービス・今野氏 : また一方で、今ベンチャー投資でいうと、SaaS領域が極めてホットです。古い業界をソフトウェアで変革していこうというSaaS領域のベンチャーはデータを豊富に蓄積しています。なので、大企業は本当にウカウカしていたらそれらのベンチャーに全てシェアを取られてしまう可能性もある。そうするとオープンイノベーションという枠を超えて、業界・業種そのものの定義も結構変わるんじゃないかと思っていますね。

また、SaaS企業が持っているデータは、ヒト・モノ・カネに関わる重要なデータを蓄積していて、ソフトウェア領域でマーケットシェアを取った後には、人材や金融や購買・調達といったようなプラットフォーマーとしての展開余地がある。その期待度から投資しています。ソフトウェアの領域から入るベンチャーって大企業の脅威になると思うので、麻生さんのいう「提携」というのはその点はすごく大事だと思います。

eiicon・中村 : それでは最後に、加藤さんにもお話いただきたいと思います。

東急・加藤氏 : ひとつだけ言うのであれば、今後の景気動向を見据えた上で、大企業が余らせているお金をどれだけ独立系VCにプールさせるかどうか肝になります。一回入れておけば、10年間もちますから。大企業が今持っているお金を10年間VCにプールして、しっかり日本の将来を背負って立つ新産業を育成しつつ、日本にリセッションが起きたとしても事業をしっかり育てられる箱舟みたいなところを作れるかどうかが、これからすごく大きなポイントになると思いますね。

※eiiconが2019年6月4日〜5日に開催した「Japan Open Innovation Fes 2019(JOIF2019)」では、各界最前線で活躍している多くのイノベーターを招聘。11のセッションを含む様々なコンテンツを盛り込んだ日本におけるオープンイノベーションの祭典として、2日間で述べ1060名が来場、経営層・役員・部長陣が参加の主を占め、多くの企業の意思決定層が集まりました。JOIF2019の開催レポートは順次、以下に掲載していきますので、ぜひご覧ください。

(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:加藤武俊)