「オープンイノベーション」。耳触りがよかったこの言葉が「耳障り」となるような事象も出始めている。成果を出すための確固たる手法が確立されていないオープンイノベーション黎明期の今、そのブームによって振り回される事業会社も出てきてしまっているのが現状だ。

こうした事態をとらえ、オープンイノベーションや新規事業支援を手がける三井不動産 BASE Q運営責任者の光村氏フィラメント 代表取締役 CEOの角氏という両名が「日本のオープンイノベーションブーム」にメスを入れるトークセッションの模様をお届けする。

※このトークセッションは、オープンイノベーションプラットフォームeiiconが主催したイベント「Japan Open Innovation Fes 2019(JOIF2019)」にて実施されたものです。


<本トークセッションのポイント>

●オープンイノベーションを辞書的に定義付けすれば、「自社内では起こせないイノベーションを起こすために、社外の会社や自治体、研究機関等と連携するための方法論」となる。

●さらに、「新たな事業を創るための方法論」、「既存事業の事業構造やオペレーションに付随する課題を解決の方法論」という解釈もできる。

●オープンイノベーションはバブルの様相を呈しており、本質を捉えずに形だけ踏襲するケースが増えている。支援会社に対して丸投げしたり、提供するプログラムに乗っかっているだけではまず上手くいかない。

●オープンイノベーションに取り組む際には個々人のwillが重要となる。それを養うためには、社外の価値観に触れることが大事。

●オープンイノベーションを担う新規事業部門は、社内向けの調整も大切な仕事。既存事業の協力を取り付け、新規事業との温度差をなくすことが、腕の見せ所。


 <SPEAKERS>

【写真左】 三井不動産株式会社 BASE Q 運営責任者 光村圭一郎氏

【写真右】 株式会社フィラメント 代表取締役CEO 角勝氏

※光村氏が運営責任者を務め、本トークセッションの会場ともなった「BASE Q」では、【オープンイノベーションに関する意識調査】を実施中。なお、調査結果を詳細に分析し、共有するイベントを2019年9月に開催予定だ。詳細はコチラ


■そもそもオープンイノベーションとは何か

BASE Q・光村氏 : 本日は「ブームによる不協和音 本質的なオープンイノベーションとは」というタイトルで話してみたいと思います。

こういうタイトルが付いているということはつまり、今のオープンイノベーションを取り巻く状況の中に、「ブーム」や、ともすれば「バブル」と言うべきものがあるとか、本質的ではない動きが見えているのではないかという考えが、私たち2人の中にあるということを示唆しているわけですが、まずはしっかり言葉の定義をしておきましょう。

角さん、オープンイノベーションってそもそも何ですか?

Filament・角氏  辞書的な定義をさせてもらうと、自社内では起こせないイノベーションを起こすために、社外の会社や自治体、研究機関等と連携するための方法論だと思います。ただ、イノベーションと言っても、これも幅の広い概念なので、僕は新たな事業を創る、新規事業を生み出すための方法論というふうに考えています。

BASE Q・光村氏 : 僕も概ね同意なんですが、一つだけ付け加えたいです。僕は、必ずしも事業を創る、つまり新たなビジネスや売上を生み出すためだけにオープンイノベーションがあるのではなく、例えば既存事業の事業構造やオペレーションに付随する課題を解決するためのオープンイノベーションもあると思っています。

例えば三井不動産の場合、建物の運営管理は我々の本業なんですが、多くの業務を人手に依存しているという現実がある。将来的な労働力不足を考えると、これは大きなリスク、課題と考えられるわけです。となると、いかに業務を自動化、無人化していくかという話になるんですが、三井不動産は単独ではロボットやドローンを開発したり運用したりする能力を持っていない。そこで、これらの技術を提供してくれる社外のパートナーとオープンイノベーションをするという必要性が出てくる。

これは、必ずしも新規事業や新たな売上につながるわけではないけれども、必要な活動であると理解しています。

Filament・角氏 : なるほど。今、オープンイノベーションが非常に盛り上がっている中で、オープンイノベーションでなければならない理由というのはあるんですかね?

BASE Q・光村氏 : さっき、角さんは「自社内では起こせない」という定義をしたけれども、これも細かく見たほうがいいなと。

先ほどの例でいうと、三井不動産は本当にロボットやドローンを自社で作れないのか、という論点があります。新たな人材を獲得する、大きな予算をかける、長い時間をかける、こういうことをすれば、必ずしも不可能ではないかもしれない。しかし、それが現実的ですか?戦略的に正しい判断ですか?ということかと思います。

Filament・角氏 : 不動産会社である三井不動産がロボットやドローンという話だと、さすがに唐突感がありますが、似たような話は、特に技術力のあるメーカーであればしょっちゅうある。社外と連携しなくても、中にリソースはあるし、自分で開発すればいいじゃないかと。

しかし、外部の環境変化が激しいときに、時間をかけて内部だけで取り組んで、市場は待ってくれるんですか?競合に勝てるんですか?そこに人的リソースや資金を投入することが合理的ですか?という話です。加えるなら、本当に自社だけでその技術を完成させることができるんですか?という観点も必要です。

つまりオープンイノベーションには、時間を買う、コストを抑える、社外にあるリソースをある程度確実に手に入れる、という考え方が含まれているということですね。

BASE Q・光村氏 : 今、会場から「オープンイノベーションと業務委託は何が違うのか?」という質問が出ました。これに答えるとするならば、「お互いのリソースを持ち寄る」と、「不確かなものに挑戦する」という要素が、オープンイノベーションにはあるのだと思っています。

先ほどのロボットの例ばかりで恐縮ですが、三井不動産が建物の運営管理に役立つロボットを社外と連携して開発しようとするときに、私たちは私たちで開発会社に対して管理に関するノウハウを提供しているわけです。私たちが知っていて、彼らが知らないことがあるならば、それを提供して前に進めましょうという考え方です。

Filament・角氏 : 一方のリソースを使うだけでなく、相互にリソースを持ち寄る発想ですね。

BASE Q・光村氏 : また、まだ誰もやったことがないようなプロジェクトの場合、開発のプロセスが不明確で、進行する中で想定外のことが多く起きる。わかりやすく言うと、事前に作成する見積書に表せないようなことが頻発する。受発注の関係だとこういうときに身動きがとれなくなってしまう。

Filament・角氏 : 仕様書で決めきれない不確かなものを、ともに創りたいと願う人たちが一緒になって創っていくということですね。


■オープンイノベーションはバブルなのか?

BASE Q・光村氏 : そんな形でオープンイノベーションの定義ができたところで、本題に入りましょう。角さん、ズバリ聞きますけど、今の日本の状況ってバブルですか?

Filament・角氏 : バブル気味な状況が一部あるとは思いますね。本質を捉えず、形だけ踏襲する人が多いように感じます。

BASE Q・光村氏 : どういうことでしょうか。

Filament・角氏 : よくあるパターンが、会社の中でたまたまオープンイノベーション部とか新規事業部のような部署が設立され、そこにたまたま異動してきた人たちが、よくわからないまま周囲のモノマネをしているようなやつですね。

BASE Q・光村氏 : オープンイノベーションという言葉が一般化して、だいたい5〜6年くらいでしょうか。多くの大企業でそのような部門が立ち上がっているのは確かですね。

Filament・角氏 : 昔は産学連携のことをオープンイノベーションと言っていたんですね。しかし、オープンイノベーションで求めるものが技術だけでなく、ビジネスモデルや人材など多彩になり、相手先も大学や研究機関ばかりではなくスタートアップなどにも広がってきた。そして、それをサポートするという仕組みもどんどん増えています。フィラメントもBASE Qもその一部かもしれないけど。

BASE Q・光村氏 : そうですね。僕がそういう状況の中で気になっているのが、大企業の「丸投げ」とも言える態度です。オープンイノベーションを支援する会社に対して、よくわからないけど丸投げしたり、彼らが提供するプログラムに乗っかっているだけ、という姿を見ることがあります。これは、まず上手くいかないでしょう。

BASE Qでも大企業の支援プログラムを提供していますが、僕らは常に「伴走者」であると言っています。つまり、大企業の担当者が当事者意識を持って取り組んでくださいと。そうであるなら、伴走者として支援しますという言い方です。

Filament・角氏 : そもそも、なんのためにオープンイノベーションをやるのかという整理が曖昧な会社が多い。なぜ今、自社でイノベーションが必要なのか、そこからどんなことを生み出したいのか。そもそもオープンイノベーションだって、イノベーションを起こすための選択肢の一つであり、先ほど話したとおり、オープンにしないでやることだってあり得るわけです。「オープンイノベーションをやる」ということ自体が目的化し、教科書に書かれているメソッドをなぞることを目指しているような動きが目立ちます。

BASE Q・光村氏 : この問題は、大企業という組織レベルだけでなく、そこで行動する個人レベルにも共通するものだと思っています。率直にいって、大企業でオープンイノベーションを担当している人の中で、「やりたいこと」を持っている人がどれくらいいるのだろうか、という疑問があります。そこが曖昧だと、当事者意識は育たないんじゃないかと思ってるんですが。

Filament・角氏 : 日本のサラリーマンの課題ですよね。そもそも、新規事業部やオープンイノベーション部に、自ら希望して異動する人って珍しいじゃないですか。

BASE Q・光村氏 : 僕は「志願兵」ですけどね。

Filament・角氏 : それがそもそも珍しいわけですよ(笑)。嫌々とまでは言わないけれども、特に目的意識がなく異動してきて、在籍している間にも目的を見つけられないという人も多いんじゃないですか。少なくとも、このような部署に異動してくることが、「勝ち組」「出世ルート」とは思われてないのが現状ですよね。

BASE Q・光村氏 : 日本のサラリーマンって、会社が示す戦略や方向性を忠実にトレースすることが「優秀なサラリーマンの条件」だと考えてきたわけじゃないですか。しかし、こと新規事業やイノベーションというテーマになると、そもそも会社自体がなぜ、それをやらなければならないかを言語化できていない現状がある。

大企業の経営者は、「自社のビジネスモデルが限界を迎えている」「このままでは潰れてしまう」という危機感は持っていると思いますが、それを乗り越えて「どんな社会を目指すのか」「その社会において、自社はどんな貢献をするのか」というビジョンを語れなくなっていると思うんです。ゆえに、イノベーションとか新規事業についても「潰れたくないからやる」という、ビジョン不在の取り組みになっている。だから、会社として戦略や方向性を示せないし、そこに配属されたサラリーマンも右往左往するだけになっちゃう。

Filament・角氏 : そこで、せいぜい成果を出さなければという意識から、支援会社に丸投げしたり、方法論をモノマネするような話になっちゃうんですよね。

僕は、イノベーションを起こす、オープンイノベーションに取り組むというとき、個々人のwillがもっとも重要だと思っています。会社が戦略や方向性を示せないということは、逆に言えば、自分のやりたいことをやるチャンスですよ。


■意思を持つために、まずは社外の価値観に触れる

BASE Q・光村氏 : どうすれば、そういう人が増えるんでしょうね。

Filament・角氏 : さっき、光村さんは優秀なサラリーマンは会社の戦略をトレースするのが上手いって話をしたじゃないですか。僕はそれに加えて、大企業が歴史を重ねる中で、どうやったらもっと稼げるか、儲けられるかということを考える人が減っちゃったという問題があると思っています。過去の人が敷いたレールの上で、黙々と働いて稼ぐというだけじゃなくて。

例えば、工場で毎日クルマを組み立てる仕事がある。これはもちろん、重要で尊い仕事です。しかし将来、クルマがなくなる社会がくれば、この仕事もなくなるし、会社も立ち行かなくなってしまう。それじゃ、あまりに悲しいじゃないですか。そうならないように、今からできることは何か考える。打てる手は打つ。そういうマインドを、もっとみんなが持つ必要があると思うんです。

BASE Q・光村氏 : そのためには何が必要なんでしょう。

Filament・角氏 : やはり社外の価値観に触れることでしょう。「クルマ?いらないよね」という声は、なかなか自動車会社の中からは聞こえてこない。外に出て、そういうことを当たり前に言われる中で、考えるきっかけを作っていくんだと思います。

BASE Q・光村氏 : そういう意味では、オープンイノベーションって、別に新規事業部の専売特許じゃなくなってきますよね。

Filament・角氏 : そうです。僕はもっと、オープンイノベーションが当たり前に行われる時代になってほしいと思っているんです。新規事業部も既存事業部もスタッフ部門も、みんなオープンイノベーションが必要なんですよ。別に、経営企画部や新規事業部がスタートアップに出資したりM&Aしたりすることだけではないんですよ。

BASE Q・光村氏 : そういう体験を通じて、マインドとか考え方を変え、強い危機感と当事者意識を高めていく。そうすれば自ずと、自分のやりたいことが見えてくる。で、そこから自分や自社がやれることとやれないことを整理し、やれないことは社外と連携してやっていくと考えれば、これはもう自ずとオープンイノベーションになると。


Filament・角氏 : もちろん、人によって向き不向きはあるだろうし、興味の方向性も違うと思いますよ。新しいものを考えることが好きな人もいれば、今あるものの改善に取り組むのがいいって人もいるわけで。それぞれが、それぞれのやりたいことを持って、取り組めばいい。

BASE Q・光村氏 : これ、「鶏が先か、卵が先か」みたいな話なんですけど、日本のサラリーマンが社外に出ていくときに、何もやりたいことがないと自己紹介にすら窮する、みたいなとこありません?社名と部署名と名前しか言えることがない、みたいな。やりたいことを見つけるためには、まず外に出なければならないけれど、外と上手く付き合うためにはやりたいことがないと難しいという。

Filament・角氏 : 僕、公務員時代からSNSで結構発信してたんですよ。

BASE Q・光村氏 : 珍しいですよね。

Filament・角氏 : うん、珍しい。基本的には歓迎されないので。でも、そこで情報発信を続けていると、他の人がやらないだけに、わかりにくい行政の世界を説明してくれる人として重宝されるようになった。そうすると、外から人が来てくれるようになるんです。だから、いきなり「私は○○がやりたいです」みたいな大げさな話じゃなくても、自分が知っていること、書けることを、外に発信するというだけでもいいと思うんですよ、最初は。

BASE Q・光村氏 : 最初から肩肘張る必要はないと。

Filament・角氏 : あと、例えばLinkedInのプロフィールを全部埋められるようにするとかね。最初は難しいと思うし、書いたり発信したりしても、なかなか外には伝わらないことも多いと思う。でも、そういう失敗をして学べば、次はもっと上手く発信できるようになるわけだから。

 

■失敗したくない、内向きでありたいという大企業のリアル

BASE Q・光村氏 : 大企業内のリアルな話をすると、新規事業部に行く人に対する社内の微妙な感情というものがあるような気がします。

これはある方から聞いた話ですが、この方はいわゆる既存事業のエースだった。で、自分で志願して新規事業部に行くことになった。自分でやりたいことがあったんですね。ところが、上司や先輩から心配されたらしい。「せっかく出世ルートに乗っているのに、新規事業部に行くなんてもったいない」「新規事業に挑戦して失敗したら、お前のキャリアに傷がつく」と。

Filament・角氏 : そんな忠告をする人がいるんですか?

BASE Q・光村氏 : いるらしいんです。その方は、そんなことを言われても意に介さずなんですが、大企業内にそんな空気があるとすれば、やりたいことがあると声を挙げるのも簡単ではないのかもしれない。

少し話が飛びますが、僕、働き方改革をめぐる社会の動きって、結果的にはよかったなと思ってるんです。本質的な生産性向上に関する議論が置き去りにされたまま、残業削減とか時短とか表層的な取り組みばかり注目されるのはナンセンス。でも、少なくとも意味のない長時間労働はダサいことであるとか、それを強要することはNGなんだという空気は広まったじゃないですか。

イノベーションとか新規事業もそれと同じで、少なくともそれに取り組む人間の足を引っ張っちゃいけない、できれば応援すべきという空気になってくれればいいのかなと。そういう空気を作り出せればと思って、こういう場で発言したり発信したりするようにしてるんです。

Filament・角氏 : 大企業内の空気という話でいうと、これだけオープンイノベーションと言われながらも、本音では内向きでありたいという部分があるんじゃないかと思っています。

BASE Q・光村氏 : 本音ですね。

Filament・角氏 : そう、本音。最近、若手や中堅の社員が積極的に社外と関わろうとする動きが盛んじゃないですか。これはある会社であったことなんですが、若者が上司にそういう活動をしたいとお伺いを立てる。そもそもそんなこと、上司に相談するなよという気がするんだけど(笑)。で、上司は「社外とつながることも大切だけど、大企業には社内に眠っているパワーやリソースがいっぱいあるんだから、それを活用することをまず考えては」と答えたらしい。

BASE Q・光村氏 : ほう。

Filament・角氏 : たしかにそういう側面はあるけど、じゃあ同時にやればいいわけだし、少なくとも外に出ようとする動きを止める必要はないわけじゃないですか。

BASE Q・光村氏 : たしかにそうですね。

Filament・角氏 : 実際、大企業内にリソースがあると言ったって、そんなに簡単に使えるわけじゃない。冒頭に言ったように「自社でできない」という前提があるからオープンイノベーションという選択肢が浮上してくるわけだから。

たしかに、大企業内にはリソースがあります。それを本当に上手く活用できるなら、オープンイノベーションは必要ないかもしれない。でも、実際にはそれを阻害する要因がある。一番大きいのは「人」の問題。

BASE Q・光村氏 : 新しいことに取り組みたくない、リスクをとるのは怖い、という人の感情ですね。

Filament・角氏 : そう。リソースを使うも使わないも、結局最後は人の判断ですよ。頼んだから貸してくれる、正論だから必ず通るというのものではないのが、大企業の今の現実でしょう。


■大企業のリソースは「可用性」で評価する

BASE Q・光村氏 : 同じような問題が、最近流行のアクセラレーションプログラムにもあると思っています。

今行われているアクセラレーションプログラムって、概ね大企業がスタートアップとコラボレーションするために公募する形ですが、大企業側はスタートアップにアピールするために自らの持つリソースをPRすることがほとんどです。

一方、僕はスタートアップから相談を受けることも多いですが、どこそこの大企業のアクセラレーションプログラムに参加したけど、意味がなかったという声を聞くことも少なくないです。

その要因としては、このセッションの最初のほうにも話したように、大した目的意識もないまま、モノマネのようにアクセラレーションプログラムをやったり、支援会社に乗っかっているだけの大企業が多いということがあると思いますが、リソースに関する問題もあります。スタートアップに聞くと、大企業がPRしていたリソースの多くは、実際には活用できることが確約されていないんですね。

Filament・角氏 : でもPRしているわけですよね。

BASE Q・光村氏 : 大企業のリソースの多くは、既存事業に紐付けられていますから、その活用の可否を決めるのも既存事業部門であることが多い。一方、アクセラレーションプログラムは新規事業部門が主催することが多いですから、両者の間に温度差があるということです。

Filament・角氏 : 既存事業部も、どんな相手先とどのように活用するかが見えない中で、使えると確約するのは難しいですよね。

BASE Q・光村氏 : それはそうです。ただ、アクセラレーションプログラムを主催するのであれば、そんな「出たとこ勝負」みたいな考え方ではダメでしょう。それに参加するスタートアップに対して失礼ですよ。アクセラレーションプログラムで自社のリソースをPRするなら、もっとシビアに査定するようにしなければ。

Filament・角氏 : でも、そうするとPRできるリソースがなくなっちゃいそうな気もします。

BASE Q・光村氏 : 普通にシビアに査定するだけだと、そうなっちゃうでしょうね。ただ、そこが新規事業部門の腕の見せどころだと思っています。

再三の登場で恐縮ですが、さっきの三井不動産のロボットの事例。建物の運営管理ロボットを開発しようとすれば、実証実験を行う場も必要だし、開発会社に対してうちのノウハウというリソースを提供する必要も出てくる。既存事業部門の協力は不可欠です。

ただ、それを「コスト削減」という文脈で訴えても、おそらく協力してくれない。なぜなら、今会社は儲かっているから。本来、こういう考え方はよくないんだけど、コストというテーマが大きなペインになってないんです。ただ、人手不足自体はすでに現場でも実感し始めているし、事業の継続性を左右しかねない重大なペインです。だから、人手不足の解消に資する話であれば、協力してくれますよね、という持ちかけ方をする必要がある。こういう事前の工夫や調整を、ちゃんとやりきっているのか、という話です。

Filament・角氏 : スタートアップとの協業という話でいうと、そもそも既存事業部門は数百億、数千億という規模のビジネスのオペレーションに責任を負っているわけだから、スタートアップと協業して数千万とか数億という話には興味を示しづらい。

BASE Q・光村氏 : そもそも論、そうなんですよね。だから新規事業部門の仕事は、社内向けの調整も非常に重要になる。どうすれば協力を取り付けられるか。協力せざるを得ない環境を作れるか。

そういう地味で苦しい仕事もここにはあるわけだけど、それをやりきれるかどうかという観点からも、自分のやりたいことを持つことは大事だと感じます。それがあれば頑張れるから。


■経験とナレッジを蓄積するためには

BASE Q・光村氏 : しかし、今日話してきたような問題というのはこの数年、ずっと変わってないんじゃないですかね。僕らもいろいろなところで話していますが、どこか既視感がある話ばかりしている気がしてならない。

Filament・角氏 : 人事異動の問題があると思ってます。新規事業部に異動してきても、数年で異動しちゃうじゃないですか。だから個人にも組織にも経験とナレッジが蓄積されてない状態だと思うんですよ。

BASE Q・光村氏 : その問題は大きいですね。僕はもう新規事業領域で6年くらいやっていますが、後から入ってきた方ですでに異動されている方は多いです。

Filament・角氏 : やはり、長い期間コミットする人がいないと蓄積できないし、社外からも顔が見えないといい案件とも巡り会えないんじゃないかと思います。

BASE Q・光村氏 : 例えばオープンイノベーションに非常に積極的な会社の一つにKDDIがありますけど、会社としても∞Laboという取り組みを長く続けていますが、人の顔が見えますよね。今は異動してしまったけれども江幡さんという方(※)がずっと長く担当されていて。江幡さんの後任の中馬さんも非常にキャラが立っている。

※現・株式会社mediba 代表取締役社長 江幡智広氏

Filament・角氏 : オープンイノベーションって、結局外部との信頼関係じゃないですか。信頼関係は人から生じるものだから、そういう取り組みをしていかないと、どうしても形式的になってしまう気がするな。

BASE Q・光村氏 : ただ、人事制度を変えるって大変じゃないですか。変えられますかね。

Filament・角氏 : 一つ、いい流れがあるとすれば、本当の意味で終身雇用が終わりを迎えつつあるということですよね。経団連や大企業のトップから、そういうメッセージが発信されるようになった。働いている人たちの目線も変わっていくだろうし、変わらざるを得なくなる。

BASE Q・光村氏 : 自然、人事も変わらざるを得なくなると。

Filament・角氏 : そして、オープンイノベーションという考え方が、新規事業のみならず、すべての事業領域で必要になっていくという流れだと思ってます。

BASE Q・光村氏 : 人によっては厳しい時代に見えるかもしれないけど、ワクワクする面白い時代であるとも思います。


※eiiconが2019年6月4日〜5日に開催した「Japan Open Innovation Fes 2019(JOIF2019)」では、各界最前線で活躍している多くのイノベーターを招聘。11のセッションを含む様々なコンテンツを盛り込んだ日本におけるオープンイノベーションの祭典として、2日間で述べ1060名が来場、経営層・役員・部長陣が参加の主を占め、多くの企業の意思決定層が集まりました。JOIF2019の開催レポートは順次、以下に掲載していきますので、ぜひご覧ください。

(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:加藤武俊)