個人向けの自動家計簿サービスや法人向けの各種クラウドサービスで知られるマネーフォワード。同社初となる子会社として2017年3月に分社・独立したのが、企業間請求業務のアウトソーシングサービスを手掛けるMF KESSAI株式会社だ。創業1年後の2018年4月にはソフトウェアテスト大手のSHIFTとの業務提携を発表し、2019年5月には全国にホームセンターを展開するカインズと連携するなど、大企業との共創にも積極的に取り組んでいる。

そんな同社の代表を務める冨山直道氏は、公認会計士や事業再生コンサルタントとしてキャリアを積んできたが、スタートアップの経営については「常に右往左往しながら、ブラッシュアップを続けています」と話す。――冨山氏がぶつかり、乗り越えてきた壁とは?そして、その道程で得た大企業との連携を可能にするノウハウとは?詳しいお話を伺った。

■MF KESSAI株式会社 代表取締役 冨山直道氏

2010年、慶應義塾大学経済学部卒業。有限責任あずさ監査法人に入社。大手エンタテインメント会社、リゾート運営会社を中心に会計監査業務及び内部統制監査業務に従事。コンサルティング企業にて、大手製造会社等の私的整理や法的整理の案件に多数関与。2014年、マネーフォワードに入社。マネーフォワード クラウドシリーズの事業戦略立案や新規事業展開に従事。2017年、MF KESSAI株式会社代表取締役就任。


■会計士・コンサルティングをして実感した「事業をつくる仕事がしたい」

――まずは冨山さんがMFKESSAIを起業されるまでのストーリーを伺えればと思いますが、キャリアのスタートは大手監査法人だったそうですね。

冨山氏 : はい。学生時代に公認会計士の資格を取得して、一般的な新卒キャリアとして「まずは監査法人に」という感じで入社しました。2年ほど企業の財務や企業再生に携わり、次にコンサルティング会社に転職したのですが、そこでの経験が大きかったですね。

コンサルティング会社では国内でも認知度の高い企業の事業再生に携わりまして、大企業の良い部分と悪い部分、両方を目の当たりにしました。そうした時に、事業再生のコンサルティングはなんと言いますか……、「コストを削減する」ことはできるけれども、「クライアント自体の売り上げを伸ばす」「事業をつくる」といったことに関わるのは立ち位置的に難しいんですね。

――冨山さんとしては、事業をつくる・伸ばす仕事がしたいと。

冨山氏 : そうですね。事業再生は誰かがやらなきゃいけない重要な仕事ではありますが、人間の血管で言うと“静脈”に近い。それよりも私は、“動脈”となる仕事と言いますか、トップラインを延ばすことであったり、事業をつくっていく仕事をやってみたいと思うようになり、3年ほどコンサルティング会社で経験を積んだ後に「スタートアップに行こう」と考えたわけです。

――そのタイミングでマネーフォワードと出会うわけですね。キャリアの選択肢は様々あったと思いますが、なぜマネーフォワードを選ばれたのでしょうか?

冨山氏 : たしかに私のキャリア的には、投資ファンドなどにいく選択肢もあったと思います。実際、そういう道も考えていました。けれど、事業再生に取り組む中で多くの金融機関と関わり、「金融」は日本経済や企業全体を支える存在だと再認識したんですね。それを考えた時に、マネーフォワードには金融そのもののあり方をドラスティックに変革する可能性があると感じ、非常に興味深いなと思ったのが決め手になりました。それが2014年のことです。


■「古い商慣習」が生み出す課題を解決したい

――2014年にマネーフォワードに入社されて、2017年6月にはグループ会社から「MF KESSAI」のサービス提供を開始しています。立ち上げるに至った経緯を伺えますか?

冨山氏 : マネーフォワードは個人向けの自動家計簿サービスから始まって、現在は「マネーフォワード クラウド」という名前で主に中小企業や個人事業主をメインターゲットとしたBtoBサービスへと事業を拡大しています。私はその中で事業戦略をつくる役割を担っていましたが、ITテクノロジーやソフトウェアの提供によって企業のお金の流れを見える化する、効率的に計算するという点では、一定の価値提供ができている手ごたえを感じていました。

その一方で、お客様の声を収集・分析すると、もう1歩深く社内のお金の流れに介在して困っている部分を解決していくほうがよいのではないかとも思っていたんですね。

――具体的に、お客様はどんな点に困っていたのでしょうか?

冨山氏 : ユーザーさんの声として多かったもので言いますと、今までは地域の経済圏内で十分ビジネス出来たのが、いまはもう少し商圏を広げていかないと昔の売上が維持できないと。それに、以前であれば商品やサービスの販売は、卸問屋さんや販売代理店さん、あるいは商社さんを介在して販売する商流が一般的でしたが、最近はメーカーさんがエンドユーザーに直接販売する「商流の省略化」の動きもかなり強いです。

その結果、BtoBサービスもどんどんEC化が進んでいるのですが、そこで「お金のやり取り」が大きな課題になっているんです。というのも、BtoCは世界的にQRコード決済なども広まってきていて、お金のやりとりのデジタル化が進んでいますが、BtoBに関しては「請求書による後払い」という慣行がずっと残っているわけです。

――たしかに法人同士のやりとりは請求書払いが基本というイメージです。

冨山氏 : 今、日本の企業は大体300~400万社あると言われていますが、実は与信審査に必要なデータは大手調査会社が提供している約10万社分しかありません。となると、残りの大多数は取引実績や経験則、あるいは勘に頼って、「この相手なら大丈夫だろう」と後払いで清算しているのが実態です。しかも、請求書の発行後も最低30日は入金がありませんし、支払いのずれ込みや相手企業の倒産、督促業務が発生した場合にはリスクもコストも大きくなる。

そうした請求業務の課題解決に向けて、どのような付加価値あるサービスができるだろうと考えて設計したのが「MF KESSAI」です。このサービスは、企業の与信審査から請求書発行、代金回収、売上入金までを一括代行し、「企業間後払い決済」を行うのが特徴です。また、掛け売りに伴う未入金リスクも100%保証し、オプションサービスとして最短5営業日で売上入金を行う「早期振込サービス」も用意しました。

▲大手からスタートアップまで、「MF KESSAI」導入企業は着実に増えている。


■創業して初めて分かった「未入金リスク」という壁

――「MF KESSAI」のアイデアを形にするまでには、かなり時間もかかったのでしょうか?

冨山氏 : 起案してから半年ほどでグループ会社を設立してサービスインという、スピード感でした。

――新規事業の場合、社内承認を得るのに時間がかかるケースも多々見受けられますが、サービス立ち上げまで非常にスピーディな印象です。

冨山氏 : たしかにマネーフォワードにとっても実質的に初めての子会社、初めて取り組む領域の金融サービスということで、どういうリスクがあって、どの程度の市場機会が見込めて、どれくらい事業資金が必要になるのか。関係各所に一つひとつ説明をして承認を得ていく、というプロセスは発生しましたね。

ただ結局初めて尽くしですから、承認する側も、承認を上げる側もよく分からないことばかりなので(笑)、会社設立についても、事業展開についても手探りながら密に話し合いをして決めていった形です。

――試行錯誤しながらも、前に進めてきたわけですね。スタートアップの経営というのも初挑戦なのではないかと思いますが、その点はいかがですか?

冨山氏 : 経営についても、やってみないと分からないことばかりと言いますか。予期せぬハードルだらけなので、右往左往しながら進めています。

――特に苦労した点はどんなところでしょうか?

冨山氏 : 「MF KESSAI」は請求業務のアウトソーシングサービスですから、当然、掛け売りに対して未入金が発生すれば当社のリスクになります。そのため、膨大な督促行為が発生するのですが、それをどこまでコントロールできるのかが、最も“やってみないとわからない”部分でした。実際取り組んでみると、想定と違った使い方をされるケースも一定数あって、とてもチャレンジングです。

――未入金のコントロールというのは、たしかに難しいですね……。

冨山氏 : 事業を始めた当初は、どういう企業が貸し倒れを起こす・起こさないといったデータも、感覚的にはあるものの、それが外れることも少なからずありました。その結果、赤字が続いたり、貸し倒れが連続して起こる時期もありました。

もちろん金融事業ですから、リスク・リターンの考えはありますが、当初は未入金に関するリスクがどういうタイミングでどれだけ抑えられるのか、まだ先が見えていない状態だったので、果たしていつリスク・リターンのバランスがとれるのかという不安や疑問はありましたね。

――その不安はどのように解消していったのでしょう?

冨山氏 : ひたすら督促業務を繰り返して、データ収集と改善を行っていきました。ただしマンパワーに頼るのではなく、ITの会社としてAIや機械学習などのテクノロジーを使って課題解決と同時並行で業務効率化も進めている感じです。例えば督促状をメール送付する場合であれば、文面を複数作成して「開封している/していない」のABテストを重ねまして。どういう文言だと開封されるのか、支払いがなされるのかというのを徹底的にデータ収集して、分析して、よりよいものにアップデートしていく……というフローを今現在も積み重ねています。


■共創を実現するために、まずはパートナーを深く知る

――貴社はカインズ、ゼンリンデータコム、SHIFTなど、各業界のリーティングカンパニーとの連携・共同開発プロジェクトも多数展開していますね。MF KESSAIが大手企業に選ばれるポイントはどんな点なのでしょうか?

冨山氏 : ひとつは、先ほどもお話しした“商流の省略化”や“BtoBサービスのEC化”といった企業ニーズをうまく汲み取れたからではないでしょうか。また、「請求業務のアウトソーシング」というカテゴリー内では我々は最後発だと思いますが、だからこそ先発企業のいい面悪い面を徹底的に研究したうえで参入することができました。そのため、サービス全体として使いやすさは格段に上がっているはずですし、機能面での強みも大きいと思っています。

――スタートアップの場合、大手企業との連携や共創で苦戦するケースも少なくないのですが、何か成功を目指す上での秘訣があるのでしょうか?

冨山氏 : いえいえ、私たちも決して順風満帆というわけではありません(笑)。私たちは「請求業務」というビジネスのコアな部分を扱っていますから、ただ「サービスを提供します」だけだと連携は絶対に叶いません。大企業ほど請求業務に関わる部門・人が多いですし、色々な部門の最後の終着点でもありますから、アウトソーシングするにはまず連携先の社内フローやデータの流れを整理することが必要不可欠です。

また、各企業の組織文化や個別事情もしっかり把握し、どういう風に社内を調整すると通しやすいのかといった部分も含めてロジックを理解したうえでサービス設計を行い、それでやっと半年、1年後に導入という形なので、リードタイムはかなり長いです。

――大企業の事業体制や社内の状況を踏まえた提案でなければ、プロジェクトが進まないと。

冨山氏 : はい。端的に言えば大企業が描きたい組織像の中に、我々のサービスが入らないと連携は実現できません。ですから、まずは先方の事業戦略や方向性をきめ細かく理解する。そして社内インタビューをして、どういう業務フローが構築されているのかをきちんと理解し、ミーティングや提案を重ねてサービスを個別にカスタマイズして提案していく、というアプローチが私たちの強みになっているんだと思います。

――連携相手に合わせた柔軟な対応力がポイントになっているわけですね。

冨山氏 : 「MF KESSAI」のサービス全体を通しても、私は最初のアイデアにあまり固執せず、都度お客さんが困っていること、欲しいことを実現するように心がけてきました。そしてそれをサービスに反映させてアップデートしてきたのが、成長要因にもなっているのかなと思います。

――自社の組織づくりについても、何かこだわりはありますか? 

冨山氏 : 設立当初は4,5名ほどで事業を始めましたが、現在は採用活動を進めて35名くらいの規模になっています。サービスづくりでは私が出来る範囲は限りなく少ないので、メンバー一人ひとりがなるべく自己決定して動ける環境づくりにはこだわっています。まだまだ設立間もないですし、環境づくりというとおこがましいんですけど、裁量をもって働ける場の提供は心掛けていますね。


■自社の看板だけにこだわらず、金融機関との共創戦略も検討

――MF KESSAIの今後の展開については、どのようにお考えですか?

冨山氏 : 我々のサービスは、いわば“黒子”のサービスです。それに金融サービスですのでビジネス展開には強力な信頼感やブランドが必要になる、というより、それがないとより多くの人に使ってもらえないと思っているんですね。

なので、今後の展開としてはもちろん「MF KESSAI」という形でのサービス展開に加えて、地方銀行さんなどと連携して、「○○銀行決済」といったOEM的なサービスを立ち上げるなど、我々のブランドに捉われない展開も一つの方向性かなと思っています。

――そうした取り組みはすでに始まっているのでしょうか?

冨山氏 : いえ、現状はまだ構想段階です。ただ、実現できれば我々は信頼感や安心感のあるブランド展開ができますし、地方銀行さんにしても、少額決済という今まではなかなか手が伸ばしにくかった部分にリーチ出来るようになります。また、入出金データや請求データといった貴重なデータは、さらにその先の融資の与信材料にもできますから、可能性の高い座組なのではないかと思っています。

――「MF KESSAI」のサービス拡大を通して、企業や社会にどのような影響・変化を与えたいとお考えですか?

冨山氏 : 中小企業にとって、資金繰りは深刻な課題です。実際に、売上は確定しているのにキャッシュがなくて倒産してしまう黒字倒産もまだまだ多いと言われています。僕たちは、お金の流れをスムーズにすることで、企業が資金繰りに困らず「事業に集中できる」、「事業に投資ができる」土台づくりをサポートしていきたいと考えています。商流やビジネス慣行がどんどん変化していく中で、今後は銀行による融資に加えて新たな選択肢が増えてくると思います。そういった時に利用してもらえるような存在になりたいですね。


■取材後記

BtoBの業界では当たり前とも言える「請求書払いの掛け売り」。冨山氏はそこに眠っていた事業リスクを見出し、あえてスタートアップを立ち上げ、課題解決に挑んだ。そして今、創業3年目にして大手企業との連携事例が続々とリリースされていることは、冨山氏が言う「黒子のサービス」に対するニーズがいかに大きいかを物語っている。MF KESSAIと冨山氏が紡ぐストーリーが、企業間の決済のあり方を変え、さらには「金融のあり方」をどのように変えていくのか。今後の事業展開も要注目だ。

(構成:眞田幸剛、取材・文:太田将吾、撮影:齊木恵太)