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工業製品から日用品、食品まで、無限の応用可能性を持つ素材「CNF」の利活用――産学官約180の会員を擁する「富士市CNFプラットフォーム」を運営する富士市のオープンイノベーション事業の全貌

工業製品から日用品、食品まで、無限の応用可能性を持つ素材「CNF」の利活用――産学官約180の会員を擁する「富士市CNFプラットフォーム」を運営する富士市のオープンイノベーション事業の全貌

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木材などの植物を原料とし環境負荷が少なく、かつ応用範囲の広い次世代素材として注目を浴びているのが「セルロースナノファイバー」(以下、CNF)だ。CNFは、自動車、家電、住宅建材など、多くの産業での利活用に期待が寄せられている。

静岡県富士市では、同市の基幹産業である紙・パルプ産業とも関連の深いCNFに着目し、2019年3月に「富士市CNF関連産業推進構想」を策定。さらに同推進構想に基づき同年11月には「富士市CNFプラットフォーム」を設立し、CNFの実用化に向けた支援や、用途開発の加速、関連産業の創出・集積を図るための産学金官等の連携・ネットワーク構築などを展開している。

2022年11月には、同市とeiicon companyがパートナーシップを結び、同プラットフォームの活動や、会員の持つシーズ等を発信し、幅広いパートナー探索、コミュニティ形成による課題の解決、CNF利活用に関する議論や技術のすりあわせ等をおこなうべく、「デジタルツールを活用したCNFオープンイノベーション促進事業」をスタートしている。さらに、2023年1月10日には、同事業における支援企業5社が下記のように決定。eiicon companyが運営するオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA」を活用しながら、共創を進めていく予定だ。

【1】相川鉄工株式会社 http://www.aikawa-iron.co.jp/

【2】大昭和紙工産業株式会社 https://www.daishowasiko.com/

【3】東洋レヂン株式会社 http://www.resin.co.jp/

【4】日本製紙株式会社 研究開発本部 https://www.nipponpapergroup.com/

【5】ユニチカ株式会社 https://www.unitika.co.jp

――そこで今回、「デジタルツールを活用したCNFオープンイノベーション促進事業」への取り組み開始にあたってキーパーソンとなるお2人に取材をさせていただいた。まず本記事の前半では、富士市 産業交流部 産業政策課 CNF・産業戦略担当 主幹 平野貴章氏に、富士市CNFプラットフォーム事業の全体構想や、実現を目指したい取り組み内容、求めるオープンイノベーションの形などをお聞かせいただいた。

また後半では、富士市CNFプラットフォーム会員であり、「富士市CNF連携拠点」に設置されたラボで、企業の技術相談や研究開発支援をおこなっている東京大学大学院 農学生命科学研究科 特別教授 磯貝明氏にインタビュー。CNF研究の世界的権威として知られる磯貝氏に、同事業が持つ可能性や将来の展望などについて教えていただいた。

紙のまちとして発展してきた富士市が目指すCNFのまち・富士市の姿

――前半は、平野さんにお伺いしていきます。富士市では、2019年に「CNF関連産業推進構想」を策定し、いち早くCNF関連の産業発展に積極的に取り組まれています。これにはどのような背景があったのでしょうか?

平野氏 : 富士山の伏流水による豊富な地下水資源を擁する富士市は、近代製紙が最初に導入された地であり、長らく紙のまちとして発展してきました。戦後は、東海道の道路、鉄道の陸路と田子の浦港からの海路の両方による交通・物流の利便性もあって、輸送機器関連、化学関連、食品関連など、様々な製造業が集まり、ものづくりのまちとして今日に至っています。それでも、基幹産業は製紙業であることに変わりはありません。

近年、その製紙業を取り巻く環境が、急速に変化してきました。1つには、IT・DX導入によるペーパーレス化の流れです。この流れは、コロナ禍以降、一層加速し、紙に対する構造的な需要減をもたらしています。もう1つには、いわゆるSDGs的な観点から、木材などのバイオマスを原料とする製紙業に対しての構造転換が求められている側面もあります。

まちの基幹産業である製紙業を取り巻くこのような環境変化に対して、富士市が、今後も持続的に発展する都市であるために、紙と同じく木材を原料としたCNFという画期的な新素材の研究・開発等を進め、市内産業の活性化と経済の新たな好循環を創り出していきたいというのが、CNF関連産業推進の背景にあります。


▲富士市 産業交流部 産業政策課 CNF・産業戦略担当 主幹 平野貴章氏

――「CNF関連産業推進構想」では、どのような将来像が構想されているのでしょうか?

平野氏 : 「CNFでつながり ひろがる ものづくりのまち ふじ」という言葉を、キーセンテンスとして、「CNFの理解促進」「CNFの活用促進」「CNF・地域産業の拠点とネットワーク形成」「CNFの事業化推進」「CNFのまちブランド育成」の、5つの方針を定めています。

具体的には、事業者、教育機関、国や県などの公設研究機関、産業支援機関、他地域の推進組織など、産学金官等の連携により、CNFの利活用を進めていきたいということです。CNFに関心を持つ、それらの人や機関を結びつけ、サポートする場として、会員制の「富士市CNFプラットフォーム」を2019年11月に設立しました。

――富士市CNFプラットフォームは、現在、どれくらいの規模なのでしょうか。また、会員の属性もお聞かせください。

平野氏 : 現在の会員数は、186(法人、個人)です(※2021年12月21時点)。企業、大学、研究機関などの他、個人加盟している研究者もいます。会員の半数は富士市内の企業ですが、その他は、CNFに興味を持たれて参加されている東京や大阪などの企業もあります。

もっとも、このプラットフォームは、規模の拡大を必ずしも第一義としているわけではありません。それよりも、CNFを用いた様々な企業間の連携の動きを、フットワーク良く実現させることができる、小回りの利いた支援活動が作れればと考えています。


▲2022年11月には富士市にて「ふじのくにCNF総合展示会」が開催され、CNFを利活用した様々な製品などが展示された。写真は、CNFを活用した軽量化自動車に向けた評価に関する環境省事業「NCV(Nano Cellulose Vehicle)プロジェクト」の展示紹介。

どらやきから自動車部品まで、CNFの幅広い可能性

――富士市CNFプラットフォームのWebサイトや会報誌などが公開されていますが、かなり充実した内容ですね。

平野氏 : 「CNF関連産業推進構想」では、喫緊に取り組むべき3つのアクションプランを定めているのですが、その一番目を「積極的な広報・PR活動」としています。知名度が高まってきたとはいえ、CNFはまだまだ、誰でも当たり前に知っている素材ではありません。

そこで、まずCNF自体の認知度を上げること、さらには、私たち富士市にその利活用を推進するためのネットワーキングの場があるということを、知ってもらうことが第一の課題だと認識しており、情報発信には力を入れています。また、プラットフォーム上において、どんな会員がいるのか、各会員が持っている開発シーズや技術、展開している事業などを紹介することで、会員同士の相互理解、マッチングに資することも狙っています。


▲富士市CNFプラットフォームでは、CNFの普及啓発を推進することを目的に、会報紙「F CNF」を発行している。

――実際に、このプラットフォームを通じて生まれた、CNFを活用した共創事例、製品化事例も出てきているそうですね。

平野氏 : はい。例えば、田子の月という市内の菓子メーカーと、日本製紙が共創して、食品に活用可能なCNFを用いた「どらやき」を開発して製品化した事例などは、非常にユニークではないかと思っています。他にも、プラットフォーム会員の連携事例として、静岡大学を中心に、天間特殊製紙という製紙会社と、装置メーカーの石川総研や芝浦機械、自動車関連のユニプレスや駿河エンジニアリングといった会社がチームを組んで、自動車用部材等の開発に取り組んでいる事例などもあります。こういった事例は、CNFプラットフォームのWebサイトで公開しています。


▲富士市の老舗・御菓子庵「田子の月」が製造・販売するどらやきに、日本製紙のCNF「セレンピア®」が採用されている。(画像出典:日本製紙ニュースリリース

――成功事例が生まれる一方で、CNF活用の可能性を広げていく上での課題感もお持ちでしょうか。

平野氏 : 課題はいくつかあります。1つは、CNFを応用する製品によっては、サプライチェーンの上流から下流まで、CNFを理解しているプレイヤーが関わって、チームとならないと実装できないことです。なかなか一企業では解決できない面があり、それをつなげ、支援していくことが、私たちの課題になってきました。

もう1つは、CNFは応用範囲が広いため、思いも寄らない共創で新しい事業や製品を生み出す可能性は無限にあると思うのですが、そのためには、様々な業界、業種のプレイヤーに参加してもらわなければならないということです。ところが、私たち自身がそんなに広いネットワークを持っているわけではないので、その参加を呼びかけるにも限界があります。さらに、「CNF関連産業推進構想」がスタートしたのは、2019年ですが、その直後、2020年には新型コロナの感染拡大により、対面でのマッチングやミーティングが困難な状況が続いており、それもなんとかしなければならないと考えていました。

そこで、それらの課題を解決・実現するために、今回、eiicon companyさんにもご協力をお願いし、「デジタルツールを活用したCNFオープンイノベーション促進事業」に取り組むこととしたのです。

プラットフォーム内で生まれた共創が横展開していく将来を展望

――CNFオープンイノベーション促進事業では、昨年11月に「実践型オープンイノベーション入門セミナー」を開催しました。この事業においては、どのような方針や目標を掲げていらっしゃるのでしょうか。

平野氏 : まずは、そもそもCNF自体を知らない、あるいは名前は聞いたことあるけれども、自分たちの事業にどう関わるのか、どう使えるのか、詳しくはわからないという人に向けての啓発活動があります。様々な可能性を持ち、非常に将来性のあるバイオマス素材ですから、その優れた特性を、より広い企業に知っていただきたい。あわせて、オープンイノベーション促進事業が、プラットフォーム会員間での共創事業を活性化させるためのツールになってほしいとも考えています。これが当面の、短期的な目的です。

最初から、すべての会員が積極的に行動して、どんどん共創が生まれるということは難しいでしょう。最初は、特に熱心な企業が取り組みを進めていただければいいと思います。そして、そういう取り組みの情報や成功事例が共有されることで、横展開的に、広がっていけばいいですね。

また、ある企業が持つ1つの技術なり事業なりの、応用可能性が広がって、いくつもの企業と連携できるようになるという動きも生まれるかもしれません。中期的には、プラットフォーム内で生まれた共創事例が、そのような形で広がっていくことを望んでいます。

――長期的なビジョンとしては、どのようにお考えでしょうか。

平野氏 : 将来的には、「CNFのまち、ふじ」という理解、イメージが市内外、さらには全国に広まり、富士市に来れば、CNFに関する人、モノ、情報、技術、さらに投資環境も揃っているといったCNF関連産業が集積したまちとなり、市と産業が持続的に発展していける状態が実現できればいいですね。

静岡県との連携、富士市の「CNF拠点ラボ」

――それでは次に、磯貝教授にお伺いしていきます。CNF研究の世界的権威の一人である磯貝教授は、「富士市CNFプラットフォーム」に、起ち上げ当初から関わられていますね。

磯貝氏 : CNFは非常に将来性の高い素材だということで、着目されるようになったのは、2002年ごろからです。その後、経済産業省紙業服飾品課長さんが音頭を取られて、いろいろな支援活動をしていただけるようになりました。富士市で、CNFのプラットフォームが作られるという際にも、その方の協力もあり、単に一地域の活動ということにとどめるのではなく「オールジャパン」でいこうということで、多くの先生方とともに、私にも声を掛けていただきました。


▲東京大学大学院 農学生命科学研究科 特別教授 磯貝明氏

東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 セルロース化学研究室 特別教授。2019年~富士市CNF関連産業推進懇話会 委員。TEMPO触媒酸化により木材パルプからCNFを高効率で生産する方法を開発した業績により、2015年“森のノーベル賞”と呼ばれる「マルクス・ヴァーレンベリ賞」受賞。2016年 本田賞、2017年 藤原賞、2018年 日本学士院賞、2022年 江崎玲於奈賞 他。

――富士市CNF連携拠点には「磯貝明東京大学特別教授ラボ」も設置されているということなのですが、これはどういうものなのでしょうか。

磯貝氏 : 静岡県富士工業技術支援センター内に、富士市のCNFプラットフォームの活動拠点となる「富士市CNF連携拠点」が設けられました。そこに私の名前を冠したラボを設置していただいたのです。

富士工業技術支援センターは県の施設なので、富士市のプラットフォーム活動とは直接関係はないのですが、県としても富士市のCNF推進に理解を示し、協力してくださることとなりました。やはり、CNFは素材ですので、実際にどう使えるか、どんな課題があるのかといったことを検討できる拠点ラボがあるのは、非常に便利で、効果的に活用されています。

――先ほど平野さんにもお聞きしましたが、プラットフォームでは様々な成果が生み出されています。先生はこれをどうご覧になっていますか。

磯貝氏 : 技術や知識を持ち寄ってみんなでその利活用を考えようというオープンイノベーション的な動きを目的とした場として、プラットフォームが作られたことが非常に良かったのではないでしょうか。

よく、行政が音頭を取ってやられる事業は縦割りになってしまい、広範な連携が阻害されてしまうことが見られるのですが、富士市のCNFプラットフォームでは、本当に幅広い参加者の、垣根のないネットワークが作られています。国や県とも連携して市外の企業などとの橋渡しもしていますし、そこは素晴らしいと思います。

――磯貝先生がご覧になられて、特にユニークだと感じられた成果にはどんなものがあったでしょうか。

磯貝氏 : 紙のまちである富士市ならではというところで、丸富製紙さんの、芯材にCNFを使ったトイレットペーパーなんかは面白いですね。工業用品ではなく、日用品へのCNFの応用で、しかも高い付加価値をつけた輸出品にもなっている。国内市場のみならず、グローバル展開できる製品という点では、ビジネス的にも可能性が大きいと思います。

また、日本製紙さんが食品向けのCNF「セレンピア®」を開発しました。そのCNFを田子の月さんがどらやきに使用した事例がありますが、日本製紙さんの技術的な成果が、プラットフォームで共有され、コラボレーションが生まれ、製品に結びついているのは、大きな成功だと思います。


▲CNFを芯部分に活用した「超ロング5倍巻きトイレットペーパー」(画像出典:丸富製紙HP

地産木材の活用で、持続可能な循環型社会の礎を築く

――逆に、問題や課題などとして感じていらっしゃる部分はあるでしょうか?

磯貝氏 : 懸念として感じているのは、CNFの素材として供給される木材のことです。現在では、CNFの生産量が少ないので、製紙業などでの余剰木材チップ、余剰パルプが利用されています。それはどこからのものかといえば、海外からの輸入木材チップだったりするわけです。その点は、環境負荷や循環型素材という面で課題を感じています。

例えば、静岡県でも、間伐材や、伐採後に使われていない林地残材というのがたくさんある。そういった地産の木材を、県内で加工してCNFにして、地元の製造業で石油系の素材に代えて利用する、さらにはリサイクルするということになれば、持続可能な循環型社会の実現に大きく寄与すると思います。すでにCNFの利用について全国でも先進的な活動をしている富士市は、そういう面でもリーダーシップをとっていけるのではないかと期待しています。

――CNFの将来はどうなっていくでしょうか?

磯貝氏 : 冷静に考えて、CNFには、競合となる素材がありません。誰が見ても、植物由来で二酸化炭素を固定できる素材でこれだけ広い活用ができるのは、CNFをおいて他にはないのです。そして、先にも述べたように、日本には森林資源が豊富にあり、それが利用できれば、わざわざ石油を輸入してプラスチックなどの加工製品をたくさん作らなくてもよくなります。そういうストーリーが描ければ、多くの産業にとって、とても魅力的な素材になることは間違いありません。

やや大げさにいえば、人生を賭けて取り組むのに値するのがCNFだと、私は考えています。ぜひ、多くの人や企業にそのことを知っていただき、CNFプラットフォームでの、持続可能な未来社会への貢献に参加していただければと思います。


取材後記

工業製品から食品まで、応用範囲が広い新素材だからこそ、CNFの用途開発には、既存の発想にとらわれずに新しいものを生み出すオープンイノベーション的な取り組みとの相性が良い。今後、富士市CNFプラットフォームがハブとなり、どんな新産業の芽が育まれるのか、ぜひ注目していきたい。

※富士市が取り組む「デジタルツールを活用したCNFオープンイノベーション促進事業」では、以下の支援企業5社と共創に取り組むパートナー企業を募集中。詳細は各AUBA PRページをご覧ください。

【1】相川鉄工株式会社 http://www.aikawa-iron.co.jp/

【2】大昭和紙工産業株式会社 https://www.daishowasiko.com/

【3】東洋レヂン株式会社 http://www.resin.co.jp/

【4】日本製紙株式会社 研究開発本部 https://www.nipponpapergroup.com/

【5】ユニチカ株式会社 https://www.unitika.co.jp

※参考プレスリリース:「【 富士市 × eiicon company 】「デジタルツールを活用したCNFオープンイノベーション促進事業」共創パートナーを募集する参画企業 5社が決定!」

(編集・取材:眞田幸剛、文:椎原よしき、撮影:齊木恵太)

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