TOMORUBA

事業を活性化させる情報を共有する
コミュニティに参加しませんか?

AUBA
  1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3. 性差をイノベーションに繋げる「ジェンダードイノベーション」に集まる期待と、科学・技術分野の構造が抱える問題
性差をイノベーションに繋げる「ジェンダードイノベーション」に集まる期待と、科学・技術分野の構造が抱える問題

性差をイノベーションに繋げる「ジェンダードイノベーション」に集まる期待と、科学・技術分野の構造が抱える問題

  • 11904
  • 11903
2人がチェック!

新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。

今回のテーマは『ジェンダードイノベーション』です。昨今、ジェンダーという概念は浸透し続けており、性差による格差が社会課題として取り上げられることが増えました。ジェンダードイノベーションは性差に着目してイノベーションを創出することを指しますが、いったいどのようなアプローチなのでしょうか。解説していきます。

ジェンダードイノベーションは欧米で広まる、性差を考慮して研究開発をするアプローチ

ジェンダードイノベーションとは、研究開発において性差を考慮し、男性中心の視点に偏らないアプローチを取ることを指す概念です。お茶の水女子大学のジェンダード・イノベーション研究所によると、この概念は2005年に米スタンフォード大学のロンダ・シービンガー教授が提唱したとされています。

特に欧米諸国を中心に広まりつつあるこの考え方は、医療や製品・技術開発において、従来の研究が主に男性を対象としてきた方法や目的を見直し、女性や性別の多様性にも焦点を当てることを目的としています。これによって、性別特有のニーズや体験に基づいた革新を促進し、より包括的かつ効果的な解決策を提供します。

加えて、ジェンダードイノベーションは新しい視点からのイノベーションを生み出す戦略としても重要視されています。性差(生物学的だけでなく社会学的な側面も含む)を考慮することにより、新しい医療アプローチ、製品設計、プロセス開発、サービス提供方法が生まれる可能性があります。

このようにジェンダーの多様性を重視することで、新市場の開拓や未開のビジネスチャンスを創出する可能性を広げます。このアプローチは社会全体の利益に寄与し、より公平で包括的なイノベーションを推進する力となることが期待されています。

科学・技術分野で性差が考慮されにくかった背景と課題

なぜこれまで、科学・技術分野において性差に基づいた研究開発が行われにくい状況だったのか、その背景には3つのポイントがあります。

一つは、女性研究者の「数」が少なかったことが挙げられます。二つ目に、ワークライフバランスの問題から女性リーダー少なかった「組織」の問題があります。そしてこれら二つの問題の先に、三つ目のポイントとして研究開発の現場で性差が考慮されないなどの「知識」の問題がありました。この三つ目の部分がまさにジェンダードイノベーションのコアになります。

出典:ジェンダード・イノベーションGendered Innovations

経済産業省の運営するメディア『METI Journal』がジェンダードイノベーションの特集記事を掲載した際にも、日本国内での女性研究者の少なさには触れられており、「日本の研究職・技術職に占める女性の割合も16.9%(2020年)で、OECD(経済協力開発機構)加盟国で最下位」と紹介されています。

出典:多様な人材・知見により、包括的なイノベーションの創出へ

このような統計からもわかるように、これまでの研究開発の現場ではそもそも女性研究者の数が少ないこと、女性のリーダーが少ないことなどが研究開発の結果に影響を与えていました。例えば「生物の実験でオスばかり使う」といったように偏った研究が行われていた経緯があります。

そのため、女性に適した投薬量、検査法、治療法にスポットがあたりにくい、または女性の体や病気に関する知識が不足している状況があったのです。

成功事例と実践的アプローチ

ジェンダードイノベーションの成功事例はいくつも出てきています。なかでも急成長しているのは「フェムテック」の分野で、2025年にはグローバルで5兆円超(500億ドル)にまで成長する見込みです。

関連記事:フェムテックで先行する欧米と追従する日本。市場が活気づいている背景とは?

ジェンダードイノベーションの典型例として、自動車のシートベルトが挙げられます。これまで自動車の衝突実験では男性の人形のみが使われてきたため、女性が重傷を負う確率や胎児の死亡率が高くなっていました。

スウェーデンの自動車メーカーのボルボでは、すべての乗員の安全を等しく確保するプロジェクト『E.V.Aプロジェクト』を推進しています。プロジェクトでは40年以上にわたる研究結果を公開し、女性の方が負傷しやすい傾向があったことを認め、蓄積した研究データからすべての乗員の安全性を考慮した自動車づくりを実現しました。

参照ページ:E.V.A. プロジェクト | すべての人に安全なクルマを - 日本

また、新型コロナウィルスにもジェンダードイノベーションのアプローチが用いられています。男性の方が感染後の銃消化率や死亡率が高い傾向がある一方で、女性はワクチン接種後の副反応が出やすいことが報告されています。

国立感染症学会によると、これは男性の方がウイルス感染に関わるレセプターの発言が多いことや肥満・糖尿などの持病が多いこと、また女性の方がウイルスに対する免疫反応が高いことなど、さまざまな性差が起因していることがわかっています。治療や薬の開発にこれらの性差による特徴がいかされていく期待が寄せられています。

参照ページ:ジェンダード・イノベーションが、私たちの生活にもたらすこと | アナリストeyes | ニュース・トピックス | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所

編集後記

性差を考慮して研究開発に取り組むことで新たなイノベーションを創出するアプローチがジェンダードイノベーションです。しかしジェンダードイノベーションというアプローチができた背景を辿ってみると、女性の研究職が少ないことやリーダーが少ないことがわかっています。ジェンダードイノベーションを加速させるためにも、こうした構造的な問題を解消するところから始めることが重要でしょう。

(TOMORUBA編集部 久野太一)

■連載一覧

第1回:なぜ価格が高騰し話題となったのか?5分でわかる「NFT」

第2回:話題の「ノーコード」はなぜ、スタートアップや新規事業担当者にとって有力な手段となるのか?

第3回:世界的なトレンドとなっている「ESG投資」が、スタートアップにとってチャンスである理由

第4回:課題山積のマイクロプラスチック。成功事例から読みとくスタートアップの勝ち筋は

第5回:電力自由化でいまだに新規参入が増えるのはなぜ?スタートアップにとってのチャンスとは

第6回:「46%削減」修正で話題の脱炭素。46%という目標が生まれた経緯と、潜むビジネスチャンスとは

第7回:小売大手がこぞって舵を切る店舗決済の省人化。「無人レジ」の社会実装はいつ来るか?

第8回:実は歴史の深い「地域通貨」が、挑戦と反省を経て花ひらこうとしているワケ

第9回:音声配信ビジネスが日本でもブレイクする予兆。世界の動向から見える耳の争奪戦

第10回:FIREブームはなぜ始まった?「利回り4%」「生活費の25倍の元本」など、出回るノウハウと実現可能性は

第11回:若年層は先進層と無関心層が二極化!エシカル消費・サステナブル消費のリアルとは

第12回:「ワーケーション」は全ての在宅勤務社員がターゲットに!5年で5倍に成長する急成長市場の実態

第13回:なぜいま「Z世代」が流行語に?Z世代の基礎知識とブレイクしたきっかけを分析

第14回:量子コンピュータの用途は?「スパコン超え報道」の読み解き方はなど基礎知識を解説

第15回:市場規模1兆ドルも射程の『メタバース』で何が起こる?すでに始まっている仮想空間での経済活動とは

第16回:『TikTok売れ』はなぜ起こった?ビジネスパーソンが知っておきたい国内のTikTok事情

第17回:パンデミックが追い風に。マルチハビテーションが新しいライフスタイルと地方の課題解決を実現できる理由

第18回:Web3(Web3.0)とは何なのか?Web1.0とWeb2.0の振り返り&話題が爆発したきっかけを解説

第19回:フェムテックで先行する欧米と追従する日本。市場が活気づいている背景とは?

第20回:withコロナに「リベンジ消費」は訪れるか?消費者の“意向”と実際の“動向”からわかること

第21回:子供が家族の介護をサポートする「ヤングケアラー」の実態と、その問題とは?

第22回:半導体不足はなぜ起きた?米中貿易摩擦、巣ごもり需要、台湾への依存などを解説

第23回:【ビジネストレンドまとめ】注目を集めた5つの事業ドメインとは?

第24回:長引くコロナ禍で顕著になる“K字経済”とは?格差が拡大する「ヒト」と「企業」

第25回:「パーパス」とはなぜ注目されるのか?誰のためのものか?5分でわかる基礎知識

第26回:NFT・メタバース・Web3はどう違う?注目を集める「新しいエコシステム」5選

第27回:サステナブルのさらに先いく「リジェネラティブ」とは?実践企業や背景を解説

第28回:16年で2倍に膨れ上がった『電子ゴミ』は何が問題なのか。唯一の解決策とは?

第29回:サウナビジネスはグローバルで健全な成長も、国内ではサウナユーザーは激減。サウナビジネスの最新事情

第30回:【ビジネストレンドまとめ】話題となった「社会課題」トレンド6選

第31回:Play to Earn(P2E)はなぜ注目を集めているのか?ビジネストレンドとしての基礎知識

第32回:脅威の市場ポテンシャルが期待されるクラウドゲーム。GAFAMやソニー、任天堂が参入するポイントを解説

第33回:FIRE、マルチハビテーションなど注目を集めるライフスタイルに関連するビジネストレンド4選

第34回:「ロボアドバイザー」はミレニアル・Z世代になぜ人気?コロナ禍で加速する新しい資産運用の形

第35回:加速する人への投資。岸田首相「5年で1兆円」の方針表明で注目集めるリスキリングとは?

第36回:画像生成AIはなぜ「世界を変える」のか?ビッグテックが拒む「一般公開」と「オープンソース」がもたらす影響力とは

第37回:クリエイターの6割が収益化!国内で広がる「クリエイターエコノミー」の実態と事例

第38回:ドローン分野でも特に熱い「空飛ぶクルマ」は加速度的な成長見込み!ユースケースやリードする国内企業とは

第39回:『ChatGPT』の何がすごい?Google一強時代をおびやかすポテンシャルとは

第40回:現実と同等の仮想空間を構築する『デジタルツイン』はなぜ製造業に効果的?東京都のデジタルツイン計画とは?

第41回:小売業に革命を起こす「ダークストア」、激化する大手とスタートアップの覇権争い

第42回:物流の2024年問題とは?人手不足とECの急成長で物流企業とトラックドライバーが受けるリスクとその対策

第43回:各社がこぞってトレンド予測する若者世代の「セルフケア」はなぜ今注目を集めているのか?

第44回:大手SNSが問題を抱えるなか台頭する「次世代SNS」の有望株とは

第45回:介護人材は間も無く32万人不足へ。台頭は必須の『介護ロボット』の現状と先行事例を紹介

第46回:存在感を強める「グローバルサウス」なぜ今注目を集めているのか?定義や背景、直面する課題などを解説

第47回:位置情報を活用する「ジオターゲティング」がマーケティングに新風を巻き起こしている理由とは?市場動向や活用事例を紹介

第48回:「GDPR」はEUだけでなく世界中に影響を与える。国内事業者への影響や改正された個人情報保護法との違いを解説

第49回:驚異的な成長が見込まれる『デジタルヒューマン』の有力なユースケースとは?チャットボットとどう違う?

第50回:Googleの研究で注目される「心理的安全性」とは?リーダー、マネジメント、人事担当者ができることを解説

第51回:ヴィーガン市場が拡大中!ヴィーガンの基礎知識から最新の市場動向、ビジネストレンドを解説

第52回:ビジネスにおける『レジリエンス』の重要性。VUCAの時代を生き抜く、組織と個人のレジリエンスのあるべき姿とは

第53回:『ナイトタイムエコノミー』が観光産業の起爆剤になる理由とは?夜間の観光を活性化させるナレッジと国内事例を紹介

第54回:『プライバシーテック』が注目される背景とは?高まる個人情報リスクと、GDPRなど各国の規制を解説

第55回:『モーダルシフト』が担う3つの重責。環境問題、人手不足、コスト削減をどうやって実現するのか?

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント2件

  • 増山邦夫

    増山邦夫

    • エンジニア管理者
    0いいね
    チェックしました
  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

    • eiicon company
    0いいね
    チェックしました