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【ICTスタートアップリーグ特集 #14:ペアチル】 ひとり親の悩みにソリューションを。社会課題に挑むペアチルが描く未来とは?

【ICTスタートアップリーグ特集 #14:ペアチル】 ひとり親の悩みにソリューションを。社会課題に挑むペアチルが描く未来とは?

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2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「共創の場」を提供するプログラムだ。

このプログラムでは総務省事業による研究開発費の支援や伴走支援に加え、メディアとも連携を行い、スタートアップを応援する人を増やすことで、事業の成長加速と地域活性にもつなげるエコシステムとしても展開していく。

そこでTOMORUBAでは、ICTスタートアップリーグの採択スタートアップにフォーカスした特集記事を掲載している。今回は一般社団法人ペアチルを取り上げる。同社が目指すのはひとり親の方の「望まない孤独」の解消だ。2023年6月にひとり親向け専用トークアプリをリリースし、多くの支持を受けているという。代表を務める南氏に、起業の背景やアプリの特徴、そして今後の展望などを聞いた。

▲一般社団法人ペアチル 代表理事 南 翔伍 氏

ーーーー

<スタートアップ解説員の「ココに注目!」>

■眞田幸剛(株式会社eiicon TOMORUBA編集長)

・代表・南氏は、デジタルマーケティングのベンチャー企業に就職後、「マーケティング×社会問題」をテーマに社会的企業を渡り歩きながら経験を積んでいます。その後、元ZOZO前澤友作氏からの出資を受け、養育費の未払い問題に取り組む株式会社小さな一歩にボードメンバーとして参画。養育費以外のことで困っているひとり親の方々の力になりたいとの思いから、ペアチルを創業されました。

・ペアチルは、ひとり親の方の「望まない孤独」解消を目指す非営利スタートアップです。2023年6月にひとり親向け専用トークアプリ「ペアチル」をリリースし、公開から2.5ヶ⽉で1,000ダウンロードを突破するなど、注目度を集めるアプリとなっています。

・現在、大手生命保険会社や人材サービス会社と協業しながら相互送客を推進。将来的には、格安の日用品が買える、スキルアップに必要な機関・情報にアクセスできる、士業などの専門家にアクセスできるといった「スーパーアプリ」化を目指しており、ひとり親の様々な悩みに答えるソリューションを提供することを構想しています。

自らの体験を原点に、営利・非営利の「二刀流」で社会課題の解決を目指す

――まずは起業した経緯を教えてください。

南氏 : 私自身の体験に基づきます。私が育った家庭環境は決して良いとは言えませんでした。高校生のころに両親が離婚し、母と私、妹の3人で暮らすことになったんですね。3人での生活は経済的に恵まれてはいませんでしたが、幸せだった面もあると思います。

ただ、それでもやはり、夜に一人で泣いている母の姿を何度か目にしましたし、正直お金に困ることが続きました。相談しようにも同じ境遇の人が周囲にいない、いるかどうかもわからない。社会経験もないため、自分の力ではどうすることもできない不甲斐なさも感じていました。そうした思いが原点となり、当社を含めいくつかの事業を手がけています。

――例えば、これまでどんな事業を行ってきたのでしょうか。

南氏 : 以前、養育費の保証サービス事業を行っていたことがあります。養育費は離婚後に親権者でなくなった親が支払う義務のある費用ですが、不払いが10兆円にものぼると言われています。ただ、事業を進めながら養育費以外でひとり親の方の悩みを聞くことが多くありました。つまり、困っているのは金銭的問題に限ったことではないということです。もっと包括的にひとり親の悩みを解決しようと、ペアチルを設立したのです。

――設立に当たり、ひとり親の方々にインタビューを実施し、課題を見つけたとお聞きしました。

南氏 : はい。実はこれまで、自分のアイデアを起点に事業作りを行っていました。しかし、今回はインタビューを通して課題を見つけ、その課題を解決するためのソリューションを生み出しました。ひとり親は時間のない方が多いのですが、ご協力いただき感謝しています。

――ペアチルは「株式会社」ではなく、「一般社団法人」です。どのような意図があるのでしょうか。

南氏 : 社会課題の解決は、一般的なビジネスの発想だけでは太刀打ちできないことが少なくありません。非営利と営利の共存が必須なのです。私はこれまで営利側で事業を行ってきましたが、非営利セクターの方と連携しようとすると拒絶反応が見られたんですね。金儲けのために自分たちを利用しているのではないかと捉えられてしまったのです。話し合いを進めようとしても、共通言語のようなものがなく、意志の統一が図れません。こうした経験を受け、自ら非営利組織を設立することにしたのです。

一口に「ひとり親」と言っても、置かれた境遇や悩みは異なる

――インタビューをもとに生み出されたのが、ひとり親専用のトークアプリ「ペアチル」ですね。特徴をお聞かせください。

南氏 : ひとり親が抱える課題の包括的解決を目指していますが、現状では多角的な機能はまだありません。小さく始め、段階的に解決を図っていく計画です。その中で、大切にしているのが「ひとり親」という大きな主語を分解することです。

一口にひとり親といっても、シングルマザー、シングルファーザーがいて、パートナーの浮気や離婚でシングルになった方もいれば、死別などの場合もあります。当然、それぞれに悩みもニーズも異なります。通常、表立って自分の置かれた境遇を喧伝する方もいないので、なかなか悩みを共有しづらい。まずはこうした状況を解決しようと、同じ境遇に置かれた方同士がマッチングし、チャット形式のUIで相互に悩み相談ができる場を提供しました。

▲「ペアチル」は、いろいろな境遇のひとり親の方同士で子育て・仕事・家計・家事などの雑談や相談を気軽にできるトークアプリ。完全無償で提供している。

――アプリは2023年6月に公開されました。ユーザーからはどのように受け止められているでしょうか。

南氏 : ダウンロード数は順調に伸びていますが、それ以上にアクティブに利用する方が多いことに驚きと手応えを感じています。月に100~200回もやり取りしている人が全体の約30%。累計トーク数は3万になります。

子育ての悩みを吐露する方も多いのですが、子育てに正解はありません。ないがゆえに自分の子育てが正しいか不安になります。このような悩みをペアチルで吐き出せた、境遇の近しい人と相談して自分の子育てを肯定できた、という声も届いています。アプリを作って本当に良かったと思っています。

――ICTスタートアップリーグでは「マッチングアルゴリズムの改善及び大規模言語モデルの活用」をテーマに掲げ、さらなるサービスの進化を目指していますね。

南氏 : マッチングと共に重要なのが、「情報」だと捉えています。ひとり親の方たちはワンオペで育児や家事を行っているため、情報に触れる機会が少なくなりがちです。取得できる情報が少なくなると、社会生活で大きな損失を招いてしまいます。情報格差をなくすのも、ICTスタートアップを通してアプローチしたいことの一つです。

――ペアチルは非営利組織ですが、ビジネスモデルを教えていただけますでしょうか。

南氏 : 一般社団法人を含め、非営利組織は利益を上げていけないということはありません。むしろ事業活動を継続させるためには必須のことです。現在、構想しているのが、営利法人を同時に設立し、二刀流で資金調達を行い、ビジネススキームを組むことです。

ひとり親は貧困層というイメージがあり、確かに半数が貧困という調査もありますが、年間支出は3兆円で、一定規模の市場があるのです。これまでに、大手保険会社や人材サービス会社と連携し、相互送客のスキームを創ろうと考えています。構想しているのは、ひとり親のニーズに応じたソリューションを持っている企業とのハブになることです。

ただ、連携先として想定されるのは、ひとり親に対するサービスを提供している企業に限りません。子育て世帯にサービスを提供する、すべての企業が対象になります。ひとり親であっても、子育てに関するニーズは両親がいる場合とほとんど変わらないからです。

社会課題に挑戦するプレイヤーのプラットフォームを創りたい

――短期的/中長期的なビジョンをお聞きしたいと思います。まずは直近で、考えていることをご紹介ください。

南氏 : ひとり親家庭の親子が「絶対的幸福になる社会」をビジョンとして掲げています。絶対的幸福とは、自分の中に幸せの絶対軸を持つことです。他の人と比べて相対的な幸せを獲得しようと躍起になることなく、自分なりの幸せの基準を持ってほしいという願いがあります。

そのためには、日常的な悩みを解決できていることが前提で、解決のためのツールが当社のアプリです。将来的にはさまざまな機能・サービスを付加してスーパーアプリ化し、「ペアチル」一つで日常の悩みが解決できる、さらに法的な相談でもできる、仕事に必要なスキル・資格が学べる、リーズナブルに買い物ができる、という状況を生み出したいと考えています。

――最後に、長期的なビジョンをお伝えください。

南氏 : 日本の社会課題に対して、ビジネスアイデアを考えるプレイヤーたちのプラットフォームを創ることです。社会課題は経済合理性が成り立ちにくく、参入するプレイヤーが限られています。それを解決したい。ひとり親というマーケットに関わるプレイヤーも増えてほしいです。大儲けはできないかもしれませんが、黒字化は十分に目指せます。プレイヤーが手を取り合ってソリューションを提供する社会を実現したいです。

取材後記

ユーザーや連携する企業も増えており、「ペアチル」は一歩ずつ着実に成長を遂げている。しかしながら、社会課題の解決は容易ではない。だからこそ、たくさんのプレイヤーが必要になる。社会課題にソリューションを提供するプレイヤーが増えたら、社会が大きく変わっていくのではないか。ペアチルが掲げるこれからの事業の構想に期待したい。

※ICTスタートアップリーグの特集ページはコチラをご覧ください。

(編集:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士)

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2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「競争の場」を提供するプログラムです。TOMORUBAではICTスタートアップリーグに参加しているスタートアップ各社の事業や取り組みを特集していきます。