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ごみを「燃やさない」「運ばない」ーー新たな循環型モデルを提唱するスタートアップ・JOYCLEに迫る

ごみを「燃やさない」「運ばない」ーー新たな循環型モデルを提唱するスタートアップ・JOYCLEに迫る

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これまでの「大量生産」「大量消費」「大量廃棄」を前提にした経済モデルに代わり、注目を集める「サーキュラーエコノミー(循環型エコノミー)」。日本でもさまざまな取り組みが始まっていますが、これまで目を向けられてこなかったのが過疎地でのごみ処理です。

過疎地ではごみを処理するための焼却炉の運営が維持できなくなるところもあり、近くの焼却炉まで運んで燃やさなければなりません。離島では、わざわざごみを船で運ぶため搬送コストがかかり、環境への負荷も増してしまいます。

そのような課題を解決に取り組んでいるスタートアップが、2023年3月創業の株式会社JOYCLE(ジョイクル)です。ごみを燃やさず、運ばず、「カーボンクレジット」で利益も得られる仕組みを構築し、環境に貢献しながら豊かになれるサービスを提案しています。数々のコンテストでも受賞を果たす注目のビジネスの秘密とは。

今回は同社代表の小柳 裕太郎氏にインタビューを実施し、起業の経緯や事業の特徴、今後の展望について語ってもらいました。

▲株式会社JOYCLE 代表取締役社長 CEO 小柳裕太郎 氏

双日・サーキュレーション・電通・U3イノベーションズにて事業開発。双日にてパプアニューギニア駐在経験あり。2022年9月より独立。「死後100年後の社会を変えるビジネスを創る」という想いでJOYCLEを立ち上げる。名古屋商科大学MBA在学中、環境エネルギーイノベーションコミュニティ立ち上げ。経済産業省カーボンニュートラル分科会若手有識者。

100年後の社会を変える事業を作りたい。きっかけとなったパプアニューギニアでの経験

ーーまずは起業に興味を持ったきっかけを聞かせてください。

小柳氏 : 明確に起業を考えていたわけではありませんが、事業作りに興味を持ったのは社会人1年目のことです。商社に新卒入社した私はパプアニューギニアに赴任し、現地の6,000人ほどの村に”海水を淡水に変える技術”を導入するプロジェクトを担当しました。そこには飲み水がなく、子どもたちが片道2時間かけて水を汲みに行くエリアで、村民からも大きな期待が寄せられました。

しかし、国からの補助金がおりずにプロジェクトが頓挫してしまい、村民を失望させる結果になってしまったのです。その経験から、いつか『人々の選択肢を増やせる事業』『自分が死んだ100年後の社会を変える事業』を作りたいと考えるようになりました。

その後、5年に渡って総合商社で営業を経験した後、興味のあったベンチャーの世界に飛び込みました。パプアニューギニアより自分を成長させてくれる環境はないと思い新たなチャレンジをしようと思ったのです。

ーーその後は、どのような経緯で起業に至ったのでしょうか?

小柳氏 : 事業作りができる環境を求めて転職したのですが、次の会社はIPOへの準備が忙しく当面は新規事業に投資する余裕はありませんでした。営業でトップの業績を残したものの、しばらくは新たな事業作りができないと感じた私は、今度は広告代理店に転職したのです。

そこでは、様々な事業アイデアの可能性を検証し、最もチャンスを感じたのが環境ビジネスでした。しかし、広告代理店にいたままでは環境ビジネスについて学べないと思い、環境やエネルギー領域のスタートアップを支援する「U3イノベーション」にジョインすることにしたのです。

そこでは様々な環境ビジネスを支援しながらスキルとノウハウを得られました。その時に知ったごみの問題を解決したいと思って立ち上げたのがJOYCLEです。

ーー環境ビジネスにチャンスを感じた理由を教えてください。

小柳氏 : 日本の特性を活かせると思ったからです。日本は世界に先駆けて超高齢化社会を迎えており、いかに社会インフラを維持するかという課題を抱えています。一方で、先進国の多くも高齢化の傾向があり、日本が抱える課題は将来グローバルでも課題になっていくでしょう。日本の課題をいち早く解決できれば、それは将来グローバルの課題も解決できることになると思ったのです。

そして社会インフラと密接に関係しているのが環境ビジネスです。人口が減り、労働力が減っていく過疎地域で社会インフラを維持していくためには、エネルギー産業をはじめとした環境ビジネスが欠かせません。日本で社会インフラを維持できる仕組みを作れば、それを世界に広げることができると考えたのです。

焼却炉不足により、ごみがたらい回しに

ーー起業のきっかけになった、ごみの問題について聞かせてください。

小柳氏 : 現在、過疎地では焼却炉の維持が難しく、閉鎖している自治体が年々増えています。ごみを燃やせないためにリサイクルを積極的に行い、住民への説明を繰り返しながらリサイクル率85%を達成した自治体もありました。

一般的なリサイクル率が2割程度なので、その取り組みは素晴らしいのですが、一方で他の過疎地や海外で再現するのは容易ではありません。リサイクルができなければ、別の方法で処理しなければならないのです。

ーー他の方法で処理するのは問題があるのでしょうか?

小柳氏 : たとえば近隣の自治体の焼却炉にごみを運んで燃やす方法がありますが、それでは運搬コストがかさんでしまいます。加えて、ごみを運ぶのにも燃料を使うため環境への負荷も増えますし、人的リソースも必要です。

ただでさえ労働力不足が深刻な日本で、ごみを運ぶのに人的リソースを割いていてはごみ処理が間に合いません。さらに近隣の自治体の焼却炉でごみを受け入れられなければ、別の焼却炉に運ばなければならず、ごみのたらい回しが起きるのも問題です。

ーーそのような問題を、どのようにして解決しようと考えたのか教えてください。

小柳氏 : まず目をつけたのが産業廃棄物です。産廃処理の費用は年々上がっており、産廃処理事業者の経営を圧迫しています。また、産廃処理事業者の多くは産廃処理法が可決された1970年ごろに設立されており、世代交代している企業も多かったのです。イノベーションを起こしたいと考えている2代目社長と共に、業界に変革を起こせないかと考えるようになりました。

そこで考えたのが、『ごみの資源化』のデータ化です。ごみを資源化する装置は以前から存在していたのですが、従来の装置はアナログで普及していませんでした。もしもごみの資源化をデータ化し、効率的にごみを資源化しながらカーボンクレジットで経済的利益を得られるようになれば、社会的にも環境的にも大きな価値を提供できると思ったのです。

ーー産廃処理事業者はどのような課題を抱えていたのでしょうか。

小柳氏 : 業界のイメージがよくないことです。産業廃棄物を処理するには運搬するドライバーが必要ですが、業界の人気がないので人材を確保できません。

一方で産廃処理業界は、近年大きな注目を集めているサーキュラーエコノミーと密接している業界でもあります。本来なら将来性のある業界にもかかわらず、そのポテンシャルを発信できるプレイヤーがいないのです。

産廃処理業界は、問題が起きるとメディアなどにも大きく取り上げられるため、大企業も参入しにくいですし、新しいチャレンジがしにくい風潮があります。そのため、業界外からイノベーションを起こす存在が必要だと思ったのです。

▲JOYCLEの事業概要説明ムービー

https://youtu.be/Oaw1Pd6dwK4?si=r7AbdOIVrjYzCvZJ

『ごみの資源化』をデータ化することで効率的な運用を可能に

ーーJOYCLEの事業内容について教えてください。

小柳氏 : 私たちが実現したいのは、ごみを運ばず燃やさずに資源化できるインフラを、日本から世界に広げることです。そのために展開しているのが、「JOYCLE BOARD」と「JOYCLE SHARE」という2つのサービス。

JOYCLE BOARDはデータ管理プラットフォームで、ごみを資源化する装置にセンサーをつけてデータを可視化し、カーボンクレジット化できるサービスです。データを使うことでオペレーションを効率化したり、安全に管理できるようにもなります。従来の装置にセンサーを取り付けるだけなので、比較的導入しやすいのが特徴です。

また、ごみを資源化する装置を持たない施設に、小型アップサイクルプラント付きの車で訪問するのがJOYCLE SHAREです。ごみを一箇所に集めて処理するのではなく、ごみが発生した場所で処理できる分散型のアップサイクルを実現したいと思っています。現在は地元のごみ収集・運搬事業者を巻き込んで実証実験を進めているところです。

▲データプラットフォーム「JOYCLE BOARD」の画面イメージ(出典:プレスリリース

ーーこれまでごみの資源化をデータ化するプロダクトはなかったのでしょうか。

小柳氏 : 大企業の中には、ごみ処理のデータを取得するセンサーを開発しているところもあります。しかし、多額な開発コストをかけてハイスペックなプロダクトを作るため、高額になりがちです。

一方で私たちのプロダクトは既成のセンサーを用い、スペックも必要最低限に抑えています。将来的にサービスが普及してからは、自社開発に切り替えるなどして、さらにコストを下げていきたいと思っています。

ーー注力している市場などがあれば教えてください。

小柳氏 : 注力しているのは病院や高齢者施設など、おむつごみが大量に発生する事業者です。おむつごみは尿を含んでいるため、燃やすには大量の助燃剤が必要になる上に、おむつに使用されているポリマーは焼却炉を急速に劣化させてしまいます。

ポリマーが燃えると焼却炉の温度が一気に上昇するため、壁面が劣化してしまうのです。焼却炉が劣化すれば焼却効率が落ちるため、さらに助燃剤が必要になるという悪循環に陥ってしまいます。今後、高齢化が進むと、2030年にはおむつごみがごみ全体の7%を占めるとも言われており、今のうちからおむつごみの効果的な処理を進めていきたいと思っています。

数年以内には、グローバル市場へ参入

ーー今後の事業戦略についても聞かせてください。

小柳氏 : 現在は様々な実証実験を繰り返しながら、何をデータ化したら喜ばれるのか、どうしたら効率的にカーボンクレジットを販売できるのかノウハウを溜めているところです。JOYCLE BOARDは導入企業が増えれば多くのデータが蓄積できるためサービスの質を高められます。

サービスの質が高まれば、国内の過疎地域に限らず、海外の離島やリゾート地など大きな市場も狙えるため、グローバルを視野に入れて戦略を立てています。

ーー長期的には、海外も含めた大きな市場を狙う戦略なのですね。

小柳氏 : はい。私たちの事業は経済的な価値や環境的な価値もありますが、将来的には情緒的な価値も作り出したいと思っています。これまでごみ処理というのは、匂いや煙が出るため人目に触れないところで行われるのが一般的でした。

しかし、私たちの小型アップサイクルプラントを使えば匂いも煙も出ないため、どこでもごみ処理ができます。そのため、小型アップサイクルプラントを積んだコンテナにアートを描いて離島を走るプランも計画中です。これまで敬遠されていたごみ処理を身近に感じてもらうことで、ごみ処理に関心を持ってもらうきっかけを作ったり、業界への興味を高めていきたいですね。

ーー将来的には都市部での事業展開の可能性もあるのでしょうか?

小柳氏 : 一般的に都市部のようにごみが集中的に集まっているエリアでは、大規模な処理場を運用した方が効率がいいです。ただし、おむつごみのように焼却炉に悪影響を及ぼすようなごみに特化して導入してもらうなど、都心部でも分散型ごみ処理の展開の方法はあるかもしれません。

ごみ処理のマーケットは地域によって構造が違うため、それぞれの地域のニーズにあったサービスがあると思っています。これから地域の課題を深掘りしながらサービスを展開していきたいですね。

ーー海外展開についても聞かせてください。

小柳氏 : 日本と同じように離島から展開するのはもちろんですが、国土の広い地域にも私たちのニーズはあると思っています。なぜなら、国土が広いとごみの運搬コストがかかるため、大型の処理場を作るよりも小型の処理装置を分散させた方が効率的だからです。

インドやアフリカなど国土が広い国では、都市部で大型処理場を運用しながら、都市から離れた地域では小型の処理装置を使うなどハイブリッドでの運用も可能になるでしょう。もともとグローバルを想定して事業を作ってきたため、2~3年以内には海外でも稼働していきたいと思っています。

ーー最後に、JOYCLEの事業を通して、どのような社会を作っていきたいとお考えでしょうか。

小柳氏 : 将来的には個人向けにもサービスを広げていきたいと思っています。たとえば、現在は法人間で行われているカーボンクレジットの取引も、今後は個人が行うようになるかもしれません。

さらに技術が進歩すれば、ちゃんとごみを分別して捨てるとIoTごみ箱が計測してカーボンクレジットを持てるような未来も考えられます。今は法人向けにサーキュラーエコノミーが叫ばれていますが、その風潮は個人にも及ぶことでしょう。日々の生活の中でもごみの資源化などを意識して行動することで、個人にも利益が還元される社会を作っていきたいと思います。

取材後記

日本は世界でもリサイクル率が高いと言われているが、そのほとんどがごみを燃やしたエネルギーを利用する「サーマルリサイクル」だ。サーマルリサイクルはCO2が発生して地球温暖化の原因にもなるため、国によってはリサイクルに含まれていない。

JOYCLEのサービスが普及し、多くのごみが資源化されれば、日本も真の意味で高リサイクル国家へとなれるだろう。そして、そのシステムが世界中に広がれば、小柳氏が言うように100年後の社会を変える事業になることは間違いない。これからJOYCLEが世界のごみ問題をどのように解決していくのか楽しみだ。

(編集:眞田幸剛、取材・文:鈴木光平)

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  • 田上 知美

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