複合機で知られるリコーが、2期目となるアクセラレータープログラムを実施する。昨年度は、社内外からそれぞれ100件以上の応募があり、その中から13チームが採択された。成果発表会(RICOH ACCELERATOR Investors Day)では、各チームのビジネスアイデアが披露され、社内外から大きな注目を集めた。

▲2020年2月に行われた成果発表会の模様

今年度は、プログラムを「TRIBUS(トライバス)」にリブランドし、取り組みをさらに強化するという。そこで本記事では、株式会社リコー イノベーション本部 戦略統括センター 大越瑛美氏を中心に、昨年度の採択スタートアップ6社も含めたオンライン取材を実施。本年度のプログラムの特徴や魅力を、後半に実際に参加したスタートアップ6社の「リアルな声」も交えて、紐解いていく。(※取材は4月にオンラインにて行った)


リブランドされたプログラム、「TRIBUS」の中身

――まず、御社がアクセラレータープログラムを開催する背景からお伺いしたいです。

大越氏: 当社の主力事業は複写機事業で、長い間、同じビジネスモデルに依存してきました。しかし、これからのことを考えると、従来から継続している方法だけではなく、新しいビジネスモデルを打ち立て、競争力を確保していく必要があります。こうした意図から、新規事業を推進する本プログラムを開始しました。

▲株式会社リコー イノベーション本部 戦略統括センター 大越瑛美氏

――今年度は、プログラムを「TRIBUS(トライバス)」にリブランドされましたね。

大越氏: はい、リコーグループ全社の新規事業を推進する取り組みとして、「TRIBUS」ブランドを2020年度から使用しています。トライは「3」を意味しますが、ここにはリコーの創業の精神である「三愛精神」と、社内起業家、スタートアップ、リコーグループの3者が一体となって取り組むという意味を込めています。

このプログラムは、社内外統合型プログラムとして設計しており、10月に統合ピッチを行い、社内起業家とスタートアップが合流します。その後、社内と社外が一緒にアクセラレーター期間へと入る流れです。

▲スタートアップの募集に先立ち、社内起業家を募集。社外スタートアップと合流する前に、3カ月の検証期間を設けている。

――プログラムは、どのような体制で実施されるのですか。

大越氏: まず、社内起業家とスタートアップの方たちを「チャレンジャー」と呼んでいます。そして、社外のスタートアップには、「カタリスト」がつきます。カタリストとは、スタートアップの方たちがリコーグループのリソースやアセットを活用していくときに、相談に乗ったり、橋渡しを行う支援者のことです。

カタリスト以外にも、「チャレンジャーを応援したい」と手を挙げてくれた人たちが、リコーグループ全体に200名以上います。これらの支援者を「サポーターズ」と呼んでいます。チャレンジャーから、「このサポーターズに協力してほしい」という声があがれば、その人に協力を依頼する仕組みにしています。

「コミッティー」は、私たちプログラム運営事務局のことです。経営企画やR&D(研究開発)を中心に、広報、デザイン、人事、知財、法務、生産などさまざまな専門知識を持つメンバーが参画し、チャレンジャーをサポートします。

――手厚いサポート体制が魅力ですね。今年度のプログラムのコンセプトや募集テーマは? 

大越氏: 2020年度のコンセプトとして、「次の当たり前になる」を掲げています。募集領域は以下の5つの領域です。

――スタートアップがプログラムに参加するメリットは? 

大越氏: やはり一番は、リコーグループのリソースを使えることでしょう。たとえば、営業を専門にするリコージャパンの顧客基盤、あるいはハードウェアの会社なので、生産分野においても支援できることはあると考えています。

また、国内に約3万人の従業員がいるので、法人向けのビジネスを検討していらっしゃるなら、当グループの社内で実証実験を行っていただくことも可能です。

――経営陣や社員の皆さんは、プログラムに対してどのような反応を?

大越氏: 経営施策の一環で実施しているプログラムなので、審査には当社社長執行役員の山下良則や、各部門のトップクラスも参加します。経営陣のプログラムにかける期待は大きいです。また、社員についても、「新しいことに挑戦したい」と考える社員がたくさんいるので、とても協力的ですね。


実際の参加者たちが語る、アクセラレーターの「真価」と「得たもの」

実際に昨年度の「RICOH ACCELERATOR 2019」に採択され、約4カ月のアクセラレーター期間でビジネスアイデアをブラッシュアップしたスタートアップ6社の「リアルな声」のポイントは、以下の点だ。

●リコーグループや、顧客ネットワークを活用した市場ニーズ検証や営業へのヒアリングが可能

●市場規模・リアルな顧客の声など、大手企業しか持ちえないデータ・情報の展開

●リコーグループの先端技術を活用したプロダクトのブラッシュアップ

●技術に明るいリコー社員によるビジネスのブラッシュアップ

スタートアップ6社がそれぞれプログラム期間中に、どのような支援を得て、どう成長できたのか――。ぜひ参考にしてほしい。(※各社の画像は2020年2月に行われた成果発表会などから抜粋)


●「リコー社内で実証実験、法人向けモデルの構築へ」 (オーロラ株式会社・金子氏)

<概要>国内外のキャッシュレスペイメントに応じたバッテリーシェアリングサービス

――このプログラムに応募しようと思った理由は?

金子氏: リコーは複合機が主力事業なので、企業のオフィスの中に入り込んでいます。当社は、toC(to Customer)だけではなく、toB(to Business)に事業を広げていきたいと考えていたので、法人顧客のオフィス領域に強みを持つリコーと、ぜひ一緒に事業を展開したいと思いました。

モバイルバッテリー領域には競合が4社ほど存在しますが、当社の差別化ポイントは、「カスタマイズできること」です。なので、カスタマイズして複合機に組み込めないか、そのうえで法人向けに定額で販売できないかという思惑もありました。

――具体的に、どんな支援から、どんな成果を得られましたか。

金子氏: 法人向けにバッテリーを売っていくにあたり、まずリコーやリコージャパンの社内14カ所にモバイルバッテリーを設置し、稼働率や反応をみる実証実験を行いました。この実験から、稼働率がとても高いこと、社内にもバッテリーのニーズがあることが分かりました。この結果のおかげで、初の法人契約が結べましたし、今の営業活動にもプラスになっています。

――今後、どのように展開をしていく予定ですか。

金子氏: プロダクトは完成しているので、今後はリコーグループと組んで法人向けに拡販していきたいです。また、複合機部門やリコーデジタルサイネージ部門との連携や、リコー社内ベンチャーの小型水力発電事業との連携も模索しているところです。

――応募を検討中のスタートアップに、何かアドバイスはありますか。

金子氏: 大事なのは「リコーとどのように協業するか」をイメージすること。それと、採択後は「あれもしたい」「これもしたい」と遠慮なく言うことだと思います。しっかりアピールすれば、こちらの要望を受け止め、適切な支援をしてもらえます。


●「ハッカソンを開催、得られた技術をもとにサービス化」 (株式会社オープンルーム・田沼氏)

<概要>不動産の「帯替え」業務をなくし、物件広告をデータ資産に変えるサービス

――このプログラムに応募しようと思った理由は?

田沼氏: ちょうど創業2年目を迎えるタイミングだったので、このようなプログラムを探していました。いくつか応募を検討する中で、当社は不動産業界に特化したSaaS事業を展開しているため、リコーの「技術力の高さ」、中でも「画像処理技術」に興味を持ちました。 

――具体的に、どんな支援から、どんな成果を得られましたか。

田沼氏: 支援内容としては、大きく2つありました。ひとつは、リコーグループ関連企業との共創です。リコーの複合機と当社のサービスを連携させ、不動産業界向けに新たなサービスを共同提案していくことを検討しています。もうひとつは、画像処理技術に関するハッカソンの共同開催です。

――それは、オープンルームさんのためのハッカソンですか。

田沼氏: そうです。リコー本社事業所をお借りして開催したところ、社内外から約10名のエンジニアが参加してくれました。このハッカソンによって得られた画像処理技術をもとに、今年の4月に新しいサービスを立ち上げることができました。当社だけでイベントを企画して、人を集められたかというと、定かではありません。やはり、リコーのネームバリューによるところが大きかったと思いますね。

――応募を検討中のスタートアップに、一言メッセージをお願いします。

田沼氏: 今回は第1回目のプログラムということもあり、カタリストや事務局の皆さんの熱量を強く感じました。しっかりサポートしてもらえるので、「なぜリコーと協業したいのか」を明確に定義できるスタートアップであれば、参加する価値は大きいと思いますね。


●「カタリストによる手厚い支援のもと、新サービスの立ち上げへ」 (株式会社OpenFactory・堀江氏)

<概要>WEBと全国の印刷工場をつなぐデジタルプリントプラットフォーム


――このプログラムに応募しようと思った理由は?

堀江氏: プログラムを知ったきっかけは、Facebookの広告でした。当社は印刷サービスを展開しているので、印刷機やプリンターを手がけるリコーは、いわばど真ん中。何か新たな展開につながるのではないかと感じ、すぐに応募を決めました。

――プログラム期間中は、どのような支援を?

堀江氏: 木村さんという方が担当のカタリストでした。木村さんは、「やりたいことは全部言ってね、あとは何とかするから」と言ってくださったのです。昔ながらの営業部の上司のような方で(笑)、どんなことでも木村さんに相談するようにしました。

たとえば、プログラムの事務局からサポーターズ(協力者)リストをいただきましたが、リコーは大企業ですから幅が広くて、どこに話をしにいくべきか検討がつきません。なので、まずは木村さんに相談してみるという具合です。また、新サービスの市場規模を調べるときも、木村さんに相談したところ、適切なアドバイスと大手企業しか持ちえない資料をいただけました。

――カタリストの存在が、大きかったということですね。

堀江氏: そうですね、木村さんがいてくれたからこそ、進めやすい部分がたくさんありました。ご飯も食べに行くような間柄になり、プログラムが終わった今でも関係は続いています。実はこの取材が始まる前も、木村さんとオンライン会議をしていたんですよ(笑)。

――カタリストを始めとするリコーの支援により、どのような変化がありましたか。

堀江氏: このプログラムをきっかけに、「Printio(プリンティオ)」という新サービスを立ちあげる目途がつきました。それに、リコー社内ベンチャーチームであるインド柄下着の「Rangorie」とも連携し、個別大量生産のお手伝いをしています。巻き込みつつ、巻き込まれつつ、新しい可能性を広げることのできたプログラムでしたね。

 

●「技術の強みを理解したうえで、拡販支援をしてもらえた」 (株式会社ジオクリエイツ・本田氏)

<概要>VR×視線脳波による空間体験の定量化サービス


――このプログラムに応募しようと思った理由は?

本田氏: 当社はVRを活用したサービスを展開しています。VRといえば「RICOH THETA(360度カメラ)」ということで、リコーとは相性がよいと思いました。

――具体的に、どんな支援によって、どんな成長ができましたか。

本田氏: もともと、当社のターゲットとしていた領域が「建築の設計」でしたが、より幅広い領域へと拡張したいと考え、小売業界などへと少しずつ拡販を進めていました。しかし、当社単体でできることは限定的でしたし、スピード感にも課題がありました。

そこで、プログラム期間中に、リコーグループのキーマン50名以上に「どういった領域にニーズがありそうか」をヒアリングさせていただきました。さらに、ある程度狙う領域が定まったところで、リコーグループのネットワークを活用して、小売・商社などへ一斉にリサーチをしていただきました。このプロセスが非常に有効で、結果的に、従来の建築の設計だけではなく、より広い領域で収益化できる目途をたてることができました。

――リコーグループの顧客基盤を活用してニーズ検証ができた、と。リコーならではの魅力はどういったところにありましたか。

本田氏: うれしかったのは技術面でしっかり話ができたことです。スタートアップ界隈にいると、どうしてもビジネスサイドの話に偏りがちです。しかしリコーの場合、営業さんも含めて技術面に明るい。ですから、たとえば、ディープテックベンチャーなどにはマッチするプログラムだと思いますね。

 

●「ヒアリングをもとに、パッケージ化とターゲットの見直しを実施」 (株式会社batton・川人氏)

 <概要>RPAレシピをネットワーク上で他社とシェア可能にする業務支援サービス

――このプログラムに応募しようと思った理由は? 

川人氏: もともと複合機を扱っているメーカーにアプローチをしていて、複合機といえばリコーなので、ぜひ協業したいと考えていました。そんな中、知り合いからこのプログラムのことを教えてもらい、応募しました。

――プログラム期間中、どのような支援を?

川人氏: 僕らの場合、プロダクトはある程度完成していたので、拡販していく段階でした。そこで、リコーグループの営業さんにヒアリングを行いました。20名以上の方に壁打ちをさせてもらって、「こうしたら売りやすいよ」といったアドバイスを、たくさんいただきました。

――具体的に、どんなアドバイスから、どんな気づきがありましたか。

川人氏: 僕らが扱っているRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、説明・説得する商品なので、営業の手離れが悪いんです。導入までに平均3カ月はかかるとも言われています。それを、「いかに手離れよくするか」「どうパッケージ化するか」といったアドバイスをいただき、とても参考になりました。

加えて、プログラム参加前はメインターゲットを中小企業に設定していました。ただ、商材がRPAなので、顧客のITリテラシーが低いと、導入に手間がかかりますし、解約率も上がります。一方で、大企業になればなるほど、導入のハードルは高いものの、解約率は下がります。なので、「広く中小企業」ではなく、「最低でも上場企業」という風に、戦略を大きく見直しました。この見直しによって、ビジネスが加速しました。

――なるほど。応募を検討中のスタートアップに、何かアドバイスはありますか。

川人氏: これだけの規模の会社と取り組む機会はまずないですし、社内に入り込んで、大企業ならではのビジネスの流れやルールを学ぶことができます。そういう意味では、参加してみて損はないプログラムだと思いますね。


●「テストモニターの意見をもとに、ビジネスアイデアをブラッシュアップ」 (株式会社イケてるやつら・キム氏)

<概要>動画制作のインハウス化を支援する動画制作教育サービス

――このプログラムに応募しようと思った理由は?

キム氏: まだスタートアップに足を踏み入れたばかりのタイミングだったので、「少しでも情報を得たい」との想いから参加しました。また、当社は映像を活用した教育事業を立ちあげようとしているので、リコーアクセラレーター2019の対象領域の一つだった「人が中心となるサービス領域」にシナジーを感じたことも理由のひとつです。

――プログラム期間中に得られた支援は?

キム氏: ある程度プロダクトは完成していたので、カタリストと「どうビジネスに落とし込んでいくか」を議論しました。ユーザーとして当社のサービスを使っていただき、たくさんのフィードバックをいただきましたね。どのようにサービスをブラッシュアップしていくべきか、一緒に道筋を立ててもらったイメージです。

――具体的に、どんな支援から、どんな変化がありましたか。

キム氏: リコーグループ社内から当社のプロダクトのテストモニターを10名程度集めてもらいました。そのうえで、「どれだけ需要があるか」「どんな用途がありそうか」などをリサーチさせていただきました。色んなキャラクターの方たちを集めてもらったので、とても参考になりましたね。

――応募を検討中のスタートアップに、一言メッセージをお願いします。

キム氏: スタートアップだと、どうしても目先のことばかりに目がいきがちです。しかし、リコーのような大手企業は、3年後、10年後、その先も考えて動いていらっしゃいます。長期的なビジョンがあるのとないのとでは天と地の差があります。ですから、そういったビジョンを一緒に考えてもらうという意味でも、価値のあるプログラムだと思います。


取材後記

複写機事業を中心に、高い技術力と広い法人顧客基盤を持つリコーグループ。取材からは、これらの強みを活かしながら、新しい事業へと積極的に投資している様子がうかがえた。2回目となる今年度のプログラムは、昨年度よりさらにバージョンアップされた形で実施される。リコーグループと共創したいスタートアップは、応募を検討してみてはどうだろうか。


■プログラムへの応募はこちらから『TRIBUS(トライバス)』

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)