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【イノベーション識者による特別対談】  キーワードは「まぜるな危険!」 企業発イノベーションを成功に導くコツとは?

【イノベーション識者による特別対談】  キーワードは「まぜるな危険!」 企業発イノベーションを成功に導くコツとは?

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社内ベンチャー制度の導入により、企業の「内側」からイノベーションを興そうとする動きが活発化している昨今。果たして、どのような仕組みがあれば、企業発のイノベーションは成功するのか――。

この問いに対してヒントを与えてくれるのが、複数の起業経験があり、ベストセラー『起業の科学』の著者としても知られる田所雅之氏だ。去る6月11日、田所氏の呼びかけに対しイノベーション識者である3者が集まり、オンライン上で「企業発イノベーションの極意」をテーマに対談を繰り広げた。

対談に参加したのは、セコム株式会社でオープンイノベーションを推進する沙魚川 久史氏。株式会社アドライトで、大企業の新規事業創出を支援する木村 忠昭氏。パーソルグループの社内ベンチャー制度を活用してeiicon companyを立ち上げ、オープンイノベーションプラットフォーム「AUBA」(旧・eiicon)を運営する中村 亜由子だ。

この4名がそれぞれの立場から、「企業発イノベーション」にまつわる事例や成功に導くコツ、注意すべきポイントなどを語った。本記事では、その対談の一部を紹介する。


<左→右>
■株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長 田所雅之氏 (モデレーター)
大学卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、複数のスタートアップを起業し、シリコンバレーでも活動する。2017年、新たにスタートアップの支援会社、株式会社ユニコーンファームを設立。同年、『起業の科学』を上梓する。

■株式会社アドライト代表取締役CEO 木村 忠昭氏
大学院卒業後、大手監査法人に入社し、株式公開支援業務に従事。2008年、イノベーション共創を手掛ける株式会社アドライトを創業。国内スタートアップ企業に対し、社外役員就任によるハンズオン支援を行い、そのうち5社が上場を果たす。国内外スタートアップの知見やネットワークを活かし、大手企業のオープンイノベーションにおける一気通貫での事業化支援を得意とする。

■eiicon company 代表/founder 中村 亜由子
2008年株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)入社。 以来、doda編集部、人材紹介事業部法人営業など、HR転職領域に従事。2015年「eiicon」(現AUBA)事業を起案・推進。現在は全国各地の15,000社を超える様々な法人が登録し、日本最大級の企業検索・マッチングプラットフォームとなった「AUBA」を運営するeiicon company の代表を務める。

■セコム株式会社 オープンイノベーション推進担当リーダー/東京理科大学フェロー 沙魚川 久史氏 
セコムでは、科学研究助成の事業責任者を経て、現在オープンイノベーションチームを率い新価値提案から協働商品開発まで担う。イノベーション推進に向け「セコムオープンラボ」を主宰。挑戦的ブランド「SECOM DESIGN FACTORY」を立ち上げ。本社企画部担当課長を兼任。プライベートでは、東京理科大学客員准教授を経てフェロー、国研や学会などでも広く活動。


「3階建て」組織が、企業発イノベーションを成功に導く


対談の開始に先立ち、本企画の主催者である田所氏が、「企業発イノベーションの極意」について持論を展開した。田所氏は、VUCAの時代、既存のやり方だけに固執していると、「ゆでガエル」になると指摘する。そうならないように、イノベーションが生まれ続ける強い組織をつくる必要がある。強い組織にするためには、企業内の組織を「3階建て」にするべきだと提唱する。

「3階建て」とは、市場の成熟度・成長率に応じて、組織を3つに分割することをいう。1階に「コアビジネス(既存事業)」、2階に「新規事業」、3階に「イノベーション」を置く。ここで大事なポイントが、それぞれの階における理想的なKey KPIや活躍できる人材の種類、あるべき評価制度などが異なるため、組織を分けることだという。

ひとことで言うと、「まぜるな危険!」であり、まぜると必ずハレーション(悪影響)が起こる。既存事業と新規事業の「棲み分け」こそが、企業発のイノベーションを生み出すために重要なポイントだと説明する。



この組織論を前提に、4者がオンラインで対談を行った。その一部を紹介する。


「新規事業」が、「既存事業」と棲み分けるには?


田所氏: 中村さんにお伺いします。eiicon companyはパーソルの一部ですが、ひとつのスタートアップのようにも見えます。スタートアップのように動けている理由は?何かコツはあるのでしょうか。

eiicon・中村: もともとパーソルに、スタートアップ的な気質があったことには救われています。ただ実態が伴っていたかというと、グローバルで5万人に到達しつつある組織なので、大企業ですね(笑)でも、経営幹部陣の中に「スタートアップ魂」はずっと残っていて。なので、要望は通りやすい方だと思います。

ネットワークやセキュリティもeiicon company独自のものにして、パソコンや備品等も自分たちで購入していたりとスタートアップ最適を図らせてもらっていますし、パーソルは株主というか、VCのような関係性で、PL・BSベースで月次コミュニケーションをとっている状態です。

ただ立上げ1年目は、パーソルキャリア内の新規事業部内の一課でしかなかったので、実際の予算対比に対して数百パーセントを売り上げたとしても、そこで独立採算にあるわけではなく、パーソルキャリアの収益に左右される身の上でした。しかし、いまではパーソルイノベーションとして会社も分けてもらっていますし、M&Aでグループに加わったスタートアップと同じ並びで、本当に「別会社」として扱ってもらっています。

田所氏: なるほど。(コアビジネスから見て)異質なものを、異質なままでやりきるという話ですが、異質と聞けばアレルギーを起こす企業も多いです。セコムではどう棲み分けているのか、あるいは棲み分けずにうまく運営しているのか。組織運営のコツはあるのでしょうか。

セコム・沙魚川氏: 商品を出す場合も、PoCを行う場合もそうですが、取り組み自体が「ブランド連想」の中におさまっているかは問われます。たとえば、セコムが高齢者向けの実験をやろうとすると、「何があっても駆けつけてくれるんでしょ」と言われてしまうわけです。

ブランド連想の内側におさまるものだけをやればいいのか、それに縛られずに新しいことも挑戦していくのか。これらは違う考え方だと思っています。内側におさまるものはいいですが、外側にも挑戦していかないといけない。そうすると、コーポレートブランドとは違うラベルが必要になります。

なので、私たちは新しい価値に取り組むための挑戦的ブランド「SECOM DESIGN FACTORY」をつくりました。セコムらしくないもの、ブランド連想の外側にあるものは、その挑戦的ブランドを使って、世の中に出すようにしていますね。 ※参考:セコム株式会社 SECOM DESIGN FACTORY

田所氏: 今の沙魚川さんのお話に関連して、中村さんにお伺いします。eiicon companyは、パーソルのブランドイメージと切り分けができていますが、それは立ち上げ段階から意識して行ってきたのか。あるいは途中から徐々に切り分けていったのか、どちらですか。

eiicon・中村: 最初から切り分けていました。eiicon companyはパーソルから資金調達をしてスタートしたのですが、資金調達のタイミングから、「人のサービスではない、オープンイノベーションのプラットフォームをつくりたいんだ」と言い続けてきました。なので、立ち上げ段階からですね。


0→1領域に、「既存事業」の仕組みは転用できない


田所氏: お話を聞いていると、両社はイノベーションが巧みな企業だと思うんです。一方で、そうではない企業も多い。木村さんは新規事業支援を行う立場から、うまくいっていない企業に対して、どのような企画や提案をされているのでしょうか。

アドライト・木村氏: 色々なアプローチがあります。アドライトは3階建ての3階部分、0→1の支援を行うことが多いのですが、0→1なのに事業計画を必要としたり、既存事業と同じKPIを求められることはあります。ただ、(0→1のように)解がない場合には評価指標もないので、「解を積みあげていくためのKPI」を一緒につくることはあります。

eiicon・中村: 大企業だと、0→1でも事業計画が基本になっていることが多いですよね。

アドライト・木村氏: そうですね。基本になっている場合は、それを壊すことも難しいので、「何らかの事業計画をつけるのか」、あるいは「事業計画なしのKPIを設けるのか」、進め方はさまざまです。

田所氏: 私も『起業の科学』の中で、「0→1に事業計画は不要だ」と言っています。事業計画の一番の問題は、仮想PLだと思うんですね。仮想PLのトップラインは、「顧客数×顧客単価」なんですが、潜在的なユーザーの数や単価は分かりません。分からないにも関わらず、Excelを駆使して辻褄をあわせようとする。そんなことをやっていても、PMF(Product Market Fit)は無理なんです。そうではなくて、0→1はどちらかというとOKR型だと思うんですよね。

異質なものを評価する場合、既存事業と同じでは機能しないと思うのですが、セコムさんは評価軸を設ける際、何か工夫はされていますか。


▲田所雅之著「起業の科学 スタートアップサイエンス」(日経BP社)


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セコム・沙魚川氏: 私たちのチームは、そのプロジェクトに対して「おもしろい」と思えるかが重要だと考えています。「これ、楽しくないか?」とならないと、チームとして前に進まないからです。なので、そのプロジェクトや価値検証に対して、どれくらい情熱を持って取り組めるかを重視しています。


企業発イノベーションに、「足りていないピース」とは?


田所氏: 私は大企業を対象に、年間160回程度の講演を行っていますが、大企業に一番欠けている知見が、「UX(User Experience)」だと思っています。イノベーションを創出するにあたって大事なことは、「あるべきUX」から考えることです。AI・RPA・ブロックチェーンなどはすべて「手段」。何のための手段かというと、「今の負がある状態」から「あるべき姿」への差分を埋めるための手段です。

今、DX(Digital Transformation)ブームで、DXが連呼されていますが、私は「DXよりも、まずUXだ」と言っています。テレワーク・ニューノーマル時代が到来しましたが、今はまさに負が多い状態。なので、この状況下で「あるべきUX」をつくったら、大きなチャンスがあります。しかし、この「UX」から逆算する考え方が、大企業には欠けています。木村さんは、大企業に欠けているピースは何だとお考えですか。

アドライト・木村氏: そうですね。UXという話もありますが、アドライトではBX(Business Transformation)という言葉を、最近使うようになりました。環境が変化する中で、本業もそれに合わせて変えていかねばなりません。そうしないと、既存事業もワークしない状況になってきています。

ここで必要なのは、外部環境に早く適応していくこと。そのためには、スタートアップ的な要素やアプローチが有効です。つまり、新規事業だけではなく、既存事業においても、スタートアップの考え方が使えると考えています。

田所氏: なるほど。DXやBXの大事な部分は、「トランスフォーメーション」なんですよね。たとえば、ハンコロボット(自動でハンコを押印するロボット)はDXではなく、単にデジタライゼーション(デジタル化)しただけなんです。やり方を劇的に変えたわけではないですから。

「デジタル・トランスフォーメンション(DX)」と「デジタライゼーション」は異なります。DXで大事なポイントは、トランスフォームした後の「変身した後の姿」から引っ張ってくること。なので、DXは「あるべき姿」からの逆算思考だと思うんですよね。

アドライト・木村氏: デジタライゼーションは、それ自体が「目的」になっているので、そうではなく「手段」として取り扱うことが大事ですよね。


今、起こりつつある「DX」の新潮流


田所氏: 沙魚川さんにお聞きしますが、うまく「トランスフォーム」させるコツはありますか。

セコム・沙魚川氏: そうですね、ひとつ事例をお話します。以前、セコムオープンラボの課題探索の中で学生を含めたワークショップを行ったときに、女子大生から「恋人はバーチャルでいい。むしろバーチャルOKだ」という声があがりました。「人間とのコミュニケーションコストは高くて、リアルな恋人はめんどくさい。バーチャルな恋人と自分の好きなようにつき合えたら楽だ」というんです。 ※参考:セコム株式会社 セコムオープンラボとは

これは、「人よりもバーチャルとのコミュニケーションの方が楽だ」という若い人の価値観なんです。若い人の価値観は、5年後・10年後の当たり前になっていくはずです。もちろんこれはインサイトの一つですが、こうした一つひとつのインサイトに気づいていけるかが問われます。この気づきは、「バーチャル警備システム」の開発に役立ちました。

無人環境だとセンサーでセキュリティは確保できます。でも、人が往来する有人環境ではセンサーだけだと不十分で、案内などのコミュニケーションが必要です。なので、有人のオフィスは警備員が立っていることが多い。でも労働力不足が高まっていく中で、人員を前提とすることも難しい。つまり、顧客価値を高めると同時に、企業の運営効率も高めるという、両方のバリューがないといけない。



そういう課題を捉えて、「バーチャル警備システム」をつくりました。このシステムは、画像認識もできるし、LiDARも積んでいて、AIでコミュニケーションを行います。キャラクターは周辺の人の目を認識して、目を合わせ続けるんです。目が合うことの情緒的な効果はすごくて、ちょうどよい気持ち悪さもあります。困っている人は「バーチャル警備員」に聞きに行くし、やましい気持ちの人には不快感が高まることが、実験では得られています。

昨年、このバーチャル警備システムのプロトタイプをリリースしたのですが、今般のコロナ禍では「人と人の接触がリスクになる」という視点もでてきました。なので、この「バーチャル警備システム」にサーマルカメラを新たに連携させ、体温の高い方には入館をお断りしたり、マスクをしていない人には「マスク着用をお願いします」と声をかけるという価値検証を、今月セコムの本社ビルで行いました。ニューノーマル下で、さらに新しい価値を出せるようにもなり、これは海外のメディアでもたいへん話題になりました。※参考:セコム株式会社・報道資料 「バーチャル警備システム」による発熱者対応の実証実験を実施」

eiicon・中村: すごくおもしろいですね。私からもDXの事例をお話ししたいのですが、漁労長の高齢化問題をAIで解決しようという事例です。宮崎にある水産会社・浅野水産さんのお話なのですが、漁労長が高齢により船を下りることが決まっていて。でもカツオの一本釣りなので、漁労長の経験と勘がとても大事だというお話でした。「これを、AIで何とかできないか」と考え、eiicon(現AUBA)にご登録されました。

それに対して、大手町のAIベンチャー・FACTORIUMさんが名乗りをあげて、航海日誌をすべてデータ化し、AIでカツオの位置を予測する取り組みを始めました。今年の2月頃から、航海に出て実証も行っています。一次産業の高齢化は、誰もが感じている大きな課題です。これが実証できれば、横展開ができるだろうと思いますね。


▲浅野水産は、宮崎県で近海かつお一本釣り漁船「第五清龍丸」を操業する。

アドライト・木村氏: 一次産業は予算がないところが多いので、オープンイノベーションを活用して、スタートアップとリーンに開発して実装することが有効ですね。まさにスタートアップとの共創、オープンイノベーションの出番だと、話を聞いていて感じました。

eiicon・中村: もうひとつご紹介したいのが、NTTコミュニケーションズさんが進めていらっしゃるテレイグジスタンス・ロボットの事例です。NTTコミュニケーションズさんは国内でも有数の大手企業なので、おそらく自社でもロボットを開発できるはずです。

でも、「やはりここは、オープンイノベーションで」とのことで、ロボットアームが強い東京ロボティクスさんとコラボして、遠隔操作ロボットを研究開発されています。大手さんも、オープンイノベーションをうまく使いこなし始めているという感覚がありますね。

田所氏: 「リモート診療」の先は、「リモートオペレーション」と言われていますが、この辺の市場規模は非常に大きい。遠隔操作技術がその基盤になったら大きいですね。


取材後記


立ち上がったばかりの新規事業が、既存事業と比較され、解散に追い込まれるという話はよく耳にする。田所氏が提唱するように、既存事業と新規事業は「異質なもの」として、別枠で管理することが、成功につなげられるヒントなのかもしれない。これから社内ベンチャー制度を立ちあげる企業もあるだろう。その場合は、新規事業と既存事業をまぜないこと。つまり、「まぜるな危険!」がキーワードになりそうだ。

(編集:眞田 幸剛、取材・文:林和歌子)

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