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【After SOIP】「地域版SOIP」のその後を追う――長野県の地域パートナー・NICOLLAPが描く未来構想と、Jリーグ初となる松本山雅×DATAFLUCTの取り組みに迫る

【After SOIP】「地域版SOIP」のその後を追う――長野県の地域パートナー・NICOLLAPが描く未来構想と、Jリーグ初となる松本山雅×DATAFLUCTの取り組みに迫る

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スポーツ庁が推進する「SOIP(Sports Open Innovation Platform)」は、スポーツと他産業とのオープンイノベーションによって、新たな事業の創造や価値創出、社会課題解決などを目指すプラットフォームだ。「全国版SOIP」と「地域版SOIP」があり、すでに日本各地で多くの実証や事業化の事例が生まれている。

「地域版SOIP」の形成に向けて、2021年度より開催されている「SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS BUILD」は、「地域×スポーツ産業」の共創でビジネス創出を目指すアクセラレーションプログラム。第1期となる2021年度は4エリア(北海道/関西/中国/沖縄)、第2期となる2022年度は3エリア(北海道/甲信越・北陸/東海)で開催。そして第3期を迎える2023年度は、3エリア(東北/関東/九州)で開催され、2024年3月21日にデモデイの実施が予定されている。

TOMORUBAでは、これまでの「地域版SOIP」に参加したプレイヤーの“その後”に関する取材を実施。「地域版SOIP」への参加を通じて生まれたオープンイノベーションの進捗状況、地域におけるスポーツ産業の変化などについてレポートする。

今回は第2期となる「地域版SOIP<甲信越・北陸>」にフォーカス。記事の前半では、地域パートナーとして参加した一般社団法人長野ITコラボレーションプラットフォーム(略称:NICOLLAP)の高畠靖明氏にインタビューを実施。「地域版SOIP」に参加したことが大きな転機となり、NICOLLAP内にスポーツオープンイノベーションDIV(デイビジョン)という新チームを立ち上げたという。高畠氏が描く、今後の構想について話を聞いた。

また、記事の後半では「地域版SOIP<甲信越・北陸>」に参加したサッカーJ3リーグに属する地域密着クラブ・松本山雅と、データサイエンスで企業と社会の課題を解決するスタートアップ・DATAFLUCTの共創事例を詳しく紹介していく。

【NICOLLAP・高畠氏インタビュー】 地域版SOIP参加以降、県のスポーツ政策に対して意見を求められる立場に

――NICOLLAP(※) として第2期の地域版SOIPに参加されましたが、その後の状況はいかがですか?

高畠氏 : 地域版SOIP参加以前のNICOLLAPはスポーツ色ゼロの団体でしたが、現在では「NICOLLAPってスポーツのこともやっているらしいよ」という周知が広がったと感じています。

地域版SOIP参加後の1年間は、私が以前からベンチマークしていたSPOPLA北海道さん(第1期・第2期の地域版SOIPに参加した北海道の地域パートナー)のようなプラットフォームを長野にも作るべく、メンバーには「SPOPLA長野(仮称)を作ろう!」と呼びかけながら様々なことにトライしてきました。

たとえば2023年11月には、地域版SOIPへの参加をきっかけに集まった仲間同士で「スポーツオープンイノベーションDIV(デイビジョン)」という新チームをNICOLLAP内に立ち上げました。スポーツを掛け合わせ、コラボレーションによる新規事業を生み出すことを目的としたチームですが、熱量が高くすでに40回以上のミーティングを重ねていると思います。

※NICOLLAP(一般社団法人 長野ITコラボレーションプラットフォーム)…2019年に設立された民間団体。長野県が掲げる「信州ITバレー構想」の実現をビジョンに、長野市を中心とした北信地区を、ITを活用した新規事業にチャレンジする事業者と、その支援者が集まる魅力ある地域にすることを目指した活動を展開する。第2期の「地域版SOIP」には、地域のスポーツチームとスタートアップをつなぐ運営主体(地域パートナー)として参画。

▲NICOLLAP コミュニケーションマネージャー 高畠靖明氏

スポーツマネジメント会社を経て、B.LEAGUE 秋田ノーザンハピネッツの共同創業者として10年間クラブ運営に従事。2021年NICOLLAPにジョイン。同団体のコミュニケーションマネージャーとして、会員企業と外部企業との橋渡しなどを担い、新規事業開発の促進に取り組む。

――改めて、NICOLLAPとして地域版SOIPへの参加を決めた経緯・きっかけについて教えてください。

高畠氏 : SNSで第1期の地域版SOIPのデモデイ開催の告知を見たことがきっかけです。「オープンイノベーション×スポーツ」という掛け合わせに大きな可能性を感じたため、実際にデモデイも観にいきました。そこで「これは長野でもやるべきだ」と強く感じたため、翌年の地域版SOIPにエントリーさせていただきました。団体設立以来、オープンイノベーションによる新規事業創出に取り組み続けてきたNICOLLAPを挙げて参加する価値のあるプログラムだと感じたことも大きいですね。

――サッカーJ3リーグに属する地域密着クラブ・松本山雅とスタートアップ・DATAFLUCTによる共創プロジェクトも順調に進んでいるようですが、地域版SOIPを契機としたオープンイノベーションについての手応えはいかがですか?

高畠氏 : 「こんなやり方があったのか」「こんな方法で進められるのか」と驚くことばかりです。私は、B.LEAGUEの秋田ノーザンハピネッツの立ち上げに参画し、それから10年ほどクラブ運営にも関わりました。そのためスポーツチーム運営の難しさや課題点なども肌感覚で理解していましたが、これからのスポーツチーム運営には地域版SOIPのような座組やオープンイノベーションが必要不可欠になるだろうと実感しています。

――地域版SOIPへの参加以降、各スポーツクラブやスタートアップによる共創などの情報が様々なメディアを通して拡散されていますが、このような取り組みが関係各所から注目を集めている感触はありますか?

高畠氏 : これまで「長野エリアのスポーツビジネスのことはどこに問い合わせればいいの?」と思っていた人たちが、最近ではNICOLLAPに声を掛けてくれるようになりました。たとえば先日はスキージャンプのオリンピアンの方からフラットに相談を受ける機会がありました。

地域版SOIP参加以降、長野県のスポーツ政策に対して意見を求められることも増えています。長野県では以前からプロスポーツチームの意見交換会を取りまとめていたのですが、結局のところ「県として何をどのように支援すればいいかわからない」という状況が続いていたようです。

また、長野県には10団体のスポーツチームがありますが、現在のところ各チーム同士が十分に連携できているとは言えません。今後はNICOLLAPから県に対してスポーツチーム支援に関する適切な提言・提案を行いつつ、県とスポーツチーム間、さらには各スポーツチーム間のハブ的な役割を担っていきたいと考えています。

▲2023年3月に開催された「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD 2022」のデモデイに登壇した高畠氏。

北海道・沖縄の地域パートナーと共にアルムナイコミュニティを形成

――冒頭、「SPOPLA北海道をベンチマークしていた」というお話がありましたが、その理由について教えてください。

高畠氏 : 第一にSPOPLA北海道さんは、NICOLLAPと非常に近い形態の組織であったことが大きいです。SPOPLA北海道は、経済産業省 北海道経済産業局と北海道二十一世紀総合研究所が作ったプラットフォームですが、組織の中で活動しているのは北海道二十一世紀総合研究所の人たちであり、専任のスタッフを雇っているわけではありません。そうした組織構成がNICOLLAPと似ているんです。

――NICOLLAPとSPOPLA北海道のように、地域パートナー同士で情報交換や連携ができることも、地域版SOIPに参加するメリットの一つであると感じられますか?

高畠氏 : これについては声を大にして言いたいですが、本当にその通りだと思います。つい先日もNICOLLAP のイベントに、SPOPLA北海道の高松さん、第1期の地域版SOIP<沖縄>の地域パートナーとして参加したスポーツデータバンクの石塚さんの両名にご参加いただき、「北海道・長野・沖縄の地域パートナー同士で連携していきましょう」という話しで盛り上がりました。

自分たちで「新しいビジネスを生み出そう」という話ではなく、あくまでもアルムナイ(地域版SOIPのプログラム経験者)として年度を超えた関係性を構築できることが、私自身は非常に素晴らしい取り組みだと感じていますし、地域版SOIPの「暖簾分け」のようなことができることに価値を感じています。

――地域版SOIPの「暖簾分け」として、NICOLLAPが長野県を中心としたエリアで取り組みたいことについて教えてください。

高畠氏 : 本格的なSPOPLA長野(仮称)を作ってキックオフをすることが直近の目標です。また、スポーツ業界では、お金と人のリソースが常に足りていません。それは長野県内のスポーツチームも同じです。大抵の場合、1人のキーマンの情熱だけで何とかしていることが多いので、そのようなキーマンを第三者としてサポートするような取り組みができると考えています。

また、部活動地域移行に関しては、長野県内の全基礎自治体が必須の取り組みであると捉えているため、ここに関してNICOLLAPが何らかのサポートを行えると考えています。

――そのようなNICOLLAPの活動や志に対し、賛同してくれるようなスポーツチーム、地場の企業・団体なども出てきていますか?

高畠氏 : スポーツチームに関しては、ほぼ全クラブが賛同してくれていると考えています。冒頭にお話したNICOLLAPの新チーム、スポーツオープンイノベーションDIVの立ち上げイベントにも、長野県内10クラブ全員の関係者にご参加いただきました。

ただし、企業・団体に関しては、まだまだこれからだと感じています。NICOLLAPが目指していること、支援してほしい内容などについて、丁寧に周知を重ねていく必要があると考えています。

松本山雅とDATAFLUCTの取り組みが県境を越える波及効果を創出

――地域版SOIPで生まれたオープンイノベーションや、そこから派生した地域パートナー同士の連携により、様々な新事業や価値が生まれていきそうですね。

高畠氏 : 実際に県を飛び越えるような波及効果も生まれているんです。地域版SOIPをきっかけに、松本山雅とDATAFLUCTが、脱炭素・ゼロカーボンチャレンジのプロジェクトを進めていますが、この取り組みは隣県の新潟県にも飛び火しており、エコドライブすることで、地域のお店の割引が受けられる実証などにもつながり、松本山雅とDATAFLUCTがおこなった脱炭素・ゼロカーボンチャレンジが地域を超えて、また地域貢献領域にもスコープ拡大しています!(※) これこそがスポーツならではの影響力・波及力ではないでしょうか。

※参考:「日常行動の見える化とインセンティブ付与で個人のCO2 排出削減を促進する実証実験を開始」(https://www.biprogy.com/pdf/news/nr_240131.pdf

▲「地域版SOIP」をきっかけに出会った松本山雅とDATAFLUCT。両者の脱炭素・ゼロカーボンチャレンジに関する取り組みは現在も進行中だ。

――素晴らしい事例をご紹介いただきありがとうございます。地域版SOIPの意義や価値の大きさを実感できますね。

高畠氏 : 事業会社の場合、ビジネス観点での意義や価値を感じられない事象かもしれませんが、一般社団法人である私たちは、このようなネットワーキングにこそ大きな意義を感じています。

――今後の中長期的なビジョンをお聞きできればと思いますが、先ほどの新潟県の事例のように、今後は隣県や甲信越全体に影響を与えるような活動も視野に入れているのでしょうか?

高畠氏 : NICOLLAPのNは長野県のNですからね(笑)。基本的には県内での活動がメインになると考えています。中長期的ビジョンに関して言うと、私たちはNICOLLAPに長野県のスポーツに関する一次情報を集約したいと考えています。「長野県のスポーツ政策を知りたいときはNICOLLAPに聞けば大丈夫」という認知を広げていくことができれば、長野県内で新しいことにチャレンジしようとするスポーツチームやスタートアップ、さらにはスポーツ庁のような中央省庁にも頼ってもらえる存在になれると思います。

【松本山雅×DATAFLUCT】 地域版SOIPから生まれた共創事例レポート

ここからは、高畠氏のインタビューにも出てきた、サッカーJ3リーグに属する地域密着クラブ・松本山雅と、データサイエンスで企業と社会の課題を解決するスタートアップ・DATAFLUCTの共創事例にフォーカスを当てる。

DATAFLUCTが主催した創業5周年記念イベント「Data Cross Conference 2024」に登壇した両社は「Jリーグ初・脱炭素でスポーツビジネスの課題を解決するオープンイノベーション発の取り組み」と題されたセッションを通して、出会いのきっかけから実証実験の成果、そして今後の事業ビジョンに至るまで語り合った。「地域版SOIP」から生まれたオープンイノベーションは、どのような展開を見せていくのか。――セッションの模様を通して、両社が取り組む共創事例を紹介していく。

【写真右】 柄澤 深 氏/株式会社松本山雅 取締役 営業部長

【写真中】 松田 一朗 氏/ 株式会社DATAFLUCT ソリューションDept. 事業開発(becoz)

※写真は2023年3月に開催された「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD 2022」のデモデイ登壇時のものです。

環境に対する取り組みの定量化・可視化への課題意識が、共創のきっかけ

松本山雅とDATAFLUCTとの出会いは、スポーツ庁が推進する地域におけるスポーツオープンイノベーション推進事業「地域版SOIP」の共創プログラム「SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS BUILD」の場だ。

松本山雅は地域とのつながりが非常に強く、ファンエンゲージメントの高いクラブチーム。地域貢献活動にも積極的に取り組んでいる。そしてJリーグが世界一クリーンなリーグを目指し、全試合のカーボン・オフセットを発表したことから、脱炭素に関する取り組みを進めたいと考えていたという。

「しかし振り返ってみると、環境に対する取り組みをしているものの、そのインパクトを定量化・可視化できていなかった。可視化ができていなければ、スポンサー企業にもアピールができない。そこに課題を感じていた」と、地域版SOIPのプログラムに参加した理由について柄澤氏は説明した。

松本山雅が抱えるそうした課題に対して、DATAFLUCTが提案したのが「スポンサープラン×脱炭素」という新しい切り口でのゼロカーボンチャレンジプロジェクトだった。スポーツチームにとってのスポンサーの存在は大きく、松本山雅は総収入の45~50%がスポンサー企業の協賛で占められているという。

その理由について、「地域貢献活動に対して熱心で地域から愛されているからこそ」だと、松田氏は考察を述べた。それを受けて柄澤氏は「チームの成績に左右される面は当然あるが、その結果に一喜一憂せず、情熱を持ってスポンサー企業にアプローチしていかねばならない。その一つが、今回のゼロカーボンチャレンジだった」と話した。

▲2022年11月に長野県で開催された「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD」をきっかけに出会った松本山雅とDATAFLUCT。

サポーターとスポンサーの“愛”をデータでつなぐビジネスモデル

次に松田氏は、この共創プロジェクトで目指す世界観について説明した。スポンサーは松本山雅への資金提供などを通して企業の成長や松本市の発展を目指している。一方でサポーターは、松本山雅を応援し松本市を盛り上げている。その想いや行動をデータで可視化し、「松本山雅というプラットフォーム上で、サポーターとスポンサーの愛をつないでいく」と、松田氏は語った。それにより、スポンサーには脱炭素の取り組みによる広告効果や定量化・可視化、サポーターは取り組みに参加することで好きなチームも街もよりよくすることができ、松本山雅にとってはスポンサーフィーにより経営の安定とチーム強化、そして地域の中での価値向上が実現できるという、三方よしのビジネスモデルだ。

DATAFLUCTは、自分のエコ活動が、好きなチームや企業を支える「becoz challenge」というサービスを立ち上げた。参加した人々のエコな行動をポイント化していく、“エコポイ活”のサービスだ。応援したいチームのプロジェクトに参加をして、写真を送るなどエコ活動の証明をすることでポイントが付与される。さらにそれをSNSでシェアすることで拡大させていくという仕組みだ。

サービスローンチは、2023年3月26日。松本山雅のホームゲーム初戦の日にリリースイベントを実施した。「あいにくの大雨だったが、登録者数180名でスタートは上々。このまま成功すると期待を感じさせる出だしだった」と、松田氏は振り返る。

▲「becoz challenge」事業イメージ(画像出典:プレスリリース

スタートは好調だったものの、以後低迷。起死回生の“推し活”という観点

実証実験の期間は3カ月。しかし、リリース1カ月ほどでプロジェクトは壁にぶつかった。参加者数は伸びず、エコ活動の投稿数も低迷していたのだ。Web広告を打つなどの対策をしたが、なかなか伸びなかったという。柄澤氏は「画面遷移が難しいと感じた。当クラブのサポーターの方は中高年層の方も多く、登録も含めてハードルが高かったのではないか」と印象を述べた。松田氏も「Webアプリだったことで、アクセスがしにくかったのかもしれない。UI/UX面だけではなく、都市部とは異なるライフスタイルの違いもあったのだと思う」と分析をした。

それを乗り越えるカギとなったのが「推し活」の観点だ。一般的なギフトカードなどでも、もらえれば嬉しいだろうが、モチベーションを強烈に書き立てるものではない。それよりも、“サポーターだからこそ価値を感じられる”リワードを設定することが効果的だ。そこでポイント上位の人たちに、特別なリワードを設定したのだ。

1等は、貴賓席での試合観戦。「基本的には特定のグレード以上のスポンサー様が利用できる。一般の方はほぼ入ることができない」と、柄澤氏はその価値を説明する。2等はスタッフ着用ウェア、3等はスタンドVIP席での試合観戦を設定した。DATAFLUCTが6月3日のホームゲームでリワードの発表を行ったところ、松本山雅のサポーターが目を輝かせて「どうすれば貴賓室で観戦できるのか」と声を掛けてきたという。これがサポーターの参加熱を呼び起こし、実証実験終了2~3週間前での設定だったにも関わらず、急速に巻き返すことができたのだ。

その結果、3カ月間で参加サポーター250名、後援スポンサー6社が集まった。そして目標の150%である750kgものCO2排出量削減を達成することができた。「誰がもらっても嬉しいものではなく、ファンだからこそ嬉しいレアな体験を松本山雅さんに用意いただいたことが、成果につながったのだと思う」と、松田氏は話す。

▲6月17日に行われた試合で、CO2削減の結果を発表した。(画像出典:プレスリリース

多くのサポーターに参加を促すためには、何が必要か

脱炭素など社会的な課題に対する取り組みを拡大させていくときに、「脱炭素と言われると難しい」「意識が高い人しか取り組めないのでは」と考えて、参加に二の足を踏んでしまうことがある。そこで、参加の目的を「松本山雅の貴賓室で試合観戦をしたい」と設定したことが、今回の実証実験の成果につながった。

柄澤氏は「本質的ではないのかもしれないが、取り組みを推進していく上では大切な観点だと思う」と考えを述べた。松田氏は「2022年6月に『becoz』をローンチした当初は、環境意識先進層上位3%という非常に意識の高い人をターゲットに設定していた。しかしそれでは厳しかった。そこで、まず関心を持ってもらう、ユーザーに気付きを与える仕組みを考えることが大切」と語った。

一方で、マネタイズや継続性の難しさについても松田氏は指摘する。「行動変容でリサイクル活動を1回実行するだけでは、CO2削減量は微々たるもの。そこで活動量を上げて、より多くの人を巻き込んでいくことが重要。今回の実証実験は、活動量も参加者数も増加したことで、大きな成功事例となった。こうやって大衆を動かしていくんだという一種のモデルが、松本山雅さんとの共創で見えてきた」と成果について語った。

そして柄澤氏は「長野県の県民性かもしれないが、生真面目な気質で日頃からゴミ分別などに対する意識が高い。だからこそ、このプロジェクトにマッチしたのではないか」と推察。「今後の取り組みでは、リワードをしっかり出すことはもちろん、今回とは異なる形で参加を促す工夫もしていきたい」と述べた。

▲試合が行われた会場にテントを設置し、サポーターの参加を促すなど、地道な訴求活動も実施した。(画像出典:プレスリリース

新シーズンも共創を継続!ゆくゆくはJリーグ全体、他スポーツへの展開を目指す

2024シーズン、松本山雅が所属するJ3リーグは2月に開幕する。新シーズンでも、ゼロカーボンチャレンジの取り組みを続けていくことを柄澤氏は宣言した。「松本山雅FCゼロカーボンチャレンジ」をスポンサー商品として設定したところ、松本日産自動車株式会社の協賛が決定したのだという。2023年に同社から電気自動車リーフの提供があり、共にゼロカーボンの推進について想いを共有するなかで、協賛が決まったのだという。

松本山雅のホームゲーム初戦は3月9日。そこで松田氏らDATAFLUCTもスタジアムに出展し、プロジェクトへの参加者をゼロベースで募っていく。「前回を大幅に超える1,000名規模の参加を目指す。多くの方々に活動に参加していただきながら、スポンサーである松本日産自動車様にも価値を感じていただけるような取り組みにしたい」と、柄澤氏は意欲をみせた。

松田氏は「こうした活動は、最初は草の根的にはじめて、コツコツ続けていく中で1000名、2000名規模のプラットフォームになっていけば、また違う角度から参加を希望する声が出てきて仲間がどんどん増えていくはず。松本山雅さんと私たちの関係性が単なる受発注だったら、きっとここまでの世界観は描けない。一緒に歩んできたからこそ、ここまでのことができたのだと思う」と述べた。

最後に、次のシーズンに向けた共創への期待として、柄澤氏は「こうした取り組み一つひとつが、スポンサーさんと新たなつながりを持てる機会となる。この取り組みにご賛同いただいて1社の協賛につながったことで、そのことを実感した。今後も続けていくなかで、さらにつながりを増やしていきたい。」と、営業としての視点で語った。

そしてDATAFLUCTに対しては「これからもプロジェクトを一緒に続けていくなかで、次はどんなご提案をいただけるか楽しみにしている。そしてこの取り組みを、Jリーグの中だけではなく、他のスポーツにも横展開していけたらいい。クラブが地域を良くし、地域がクラブを強くする、そんな図式が理想。この取り組みは、まさにその一環であると思う」と、この先の大きな期待を込めた。

松田氏は「松本山雅さんとのプロジェクトでは、さまざまな気付きを得られ実り多いものとなった。実際に、バレーボールやバスケットボールなど、他のスポーツからの問い合わせもいただいている。DATAFLUCTは、「becoz」事業以外にもデータ基盤や需要予測など、幅広い支援をしている。クラブを強化していくため、地域コミュニティを盛り上げるための取り組みの1つとなれるよう、今後も活動を続けていきたい」と、締めくくった。

取材後記

高畠氏によって語られた様々なエピソードや事例からも理解できる通り、地域版SOIPが生み出す意義や価値は、短期的な成果や事業創出だけにとどまらず、参画したスポーツチームやスタートアップ、地域パートナーを中心に、地域の政治・経済・コミュニティ・スポーツ文化など、あらゆる分野・領域に対してポジティブな波及効果をもたらしていると言えそうだ。また、地域版SOIPをきっかけに生まれた松本山雅とDATAFLUCTの共創は、新シーズンも続く。次はどのような成果を聞くことができるのか、今から楽しみである。

なお、3月21日(木)に予定されている「SPORTS OPEN INNOVATION BUSINESS BUILD」のデモデイは、2023年度に3エリア(東北・関東・九州)で進められてきた地域版SOIPの熱量や現在地を体感できる絶好の機会となる。地域版SOIPに少しでも興味を持たれたスポーツチーム、スタートアップ、地域パートナー関係者の方々は、デモデイ会場に足を運ばれてみてはいかがだろうか。

https://eiicon.net/about/sports-open-innovation-bb2023-demoday/ 

(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己、佐藤瑞恵)

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