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【ICTスタートアップリーグ特集 #25:AiTrax】建築現場や土木現場、造船所、工場などに手軽・安価なWi-Fi環境を構築するーーAiTraxが見据える新たなICT利活用のビジョンとは

【ICTスタートアップリーグ特集 #25:AiTrax】建築現場や土木現場、造船所、工場などに手軽・安価なWi-Fi環境を構築するーーAiTraxが見据える新たなICT利活用のビジョンとは

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2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「共創の場」を提供するプログラムだ。

このプログラムでは総務省事業による研究開発費の支援や伴走支援に加え、メディアとも連携を行い、スタートアップを応援する人を増やすことで、事業の成長加速と地域活性にもつなげるエコシステムとしても展開していく。

そこでTOMORUBAでは、ICTスタートアップリーグの採択スタートアップにフォーカスした特集記事を掲載している。今回は、メッシュWi-Fiを安価に構築する事業を展開している株式会社AiTraxを取り上げる。大手通信キャリアのフィールドからベンチャーにフィールドを移し起業した経緯や、Wi-Fiの持つ可能性など、代表取締役の田村氏に話を聞いた。

▲株式会社AiTrax 代表取締役 田村勉 氏

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<スタートアップ解説員の「ココに注目!」>

■眞田幸剛(株式会社eiicon TOMORUBA編集長)

・2018年に設立されたAiTraxは、建設・土木・造船所などの屋外フィールドや工場などの広いエリアカバーを行うための配線不要のメッシュ分野で先端のメッシュWi-Fi中継アルゴリズムを開発しています。

・代表の田村氏は、大手通信キャリアにて通信インフラ、CRM、基幹システム等のセールスをはじめ、メガ運輸向けのSIプロジェクト、金融業界の再編に伴うシステム統合プロジェクトを経験。さらに、無線中継技術のベンチャー企業に参画、営業部門の立ち上げ、役員として同社が持つ無線中継の要素技術のIoTインフラ業界への普及ビジネスを開始するなど、通信・無線技術に関する知見に加えて事業づくりの経験も豊富な人物です。

・現在は、市場からの製品化の強い要望も受け、各種業界のリーディングベンダー、ハードウェアベンダー、カメラなどのソリューションベンダーとの連携強化を開始している注目度の高いスタートアップです。

通信インフラの復旧で気づきを得た、新たなICTの利活用方法

ーー田村さんは大手企業を経て起業されていますが、その背景を教えてください。

田村氏 : 大手通信キャリアに勤めていましたが、現場では新しいことにチャレンジしにくい環境がありました。それでも会社の業績は上がり続けている、といった状況が15年くらい続いていました。私はいま50歳ですが、同世代の人たちがなにか挑戦的なことをやれているか、国益になるような仕事をやれているか、と考えるようになったのです。

私の父はICTの先駆けになるような道路ITSシステムを考案、開発した人物で、当時は理解されにくかった領域だったのですが、20年くらいかけて世の中に浸透させた実績があります。現在はそれが道路のICTの基礎基盤となっています。それこそ、子の代、孫の代まで残っていく仕事です。

では、国益になる仕事とは一体なにか。一つは海外に出て外貨を稼ぐことだと思います。もう一つは新しい市場を開拓すること。ただ、私が経験してきたIT分野でのインテグレーションという領域は、世の中では一定の役割を果たしたものだと感じていました。しかし、その考えを大きく変えるきっかけが東日本大震災だったのです。

ーーどのように考え方が変わったのですか。

田村氏 : 震災から1ヶ月後、仙台へ行って通信インフラの復旧に携わりました。ところが、当時は設備がなにも整っていない状況から通信網を復旧しなければならず、とても時間がかかったんです。

その時、もしかしたらICTの利活用が必要なのは、工事現場や造船の現場、土木現場といったような場所ではないか。それらの現場に導入されていくと、新たな知見が得られるのではないか、という気づきがありました。

ーーその気づきを経て、どうアクションを起こしたのですか。

田村氏 : そこから私は通信会社から事業フィールドを変え、メイドインジャパンで世界に進出できる技術を探すために、無線の通信技術の論文を読み漁ったんです。そこで出会ったのが、当時はまだ浸透していなかったメッシュWi-Fiの研究事例でした。

これはWi-Fiを活用して誰でも利用できる技術なのですが、Wi-Fiというと「古い技術だ」と言われがちです。確かにWi-Fiは昔からありますが、Wi-Fiとはただの周波数の話です。加えて、誰でも触ってOKな無線の周波数帯は世界でもWi-Fiくらいなんです。

ですから、Wi-Fiを有効活用すれば世の中が変えられるのではと思い始めました。これがきっかけになって起業に至りました。

従来比250%の性能を立証した「改良型メッシュ Wi-Fi」

ーー次にプロダクトについて聞かせてください。AiTraxで開発・提供している「先端メッシュWi-Fi」という技術にはどういった独自性があるのでしょうか。

田村氏 : Wi-Fiは誰でも使えますが、構築をしようと思うと調査機器を使って調査しないといけません。家にWi-Fiを設置する程度ならば難しくはありませんが、それ以外の場合は専門的な知識が必要です。電波は目に見えないものですから、必要な箇所に十分な電波が行き届いているかを調査しなければなりません。

私たちは独自の経路アルゴリズムを活用したインジケータで電波状況を可視化する技術を持っています。エリアカバーできていればインジケータのライトがグリーンに、電波が弱ければ黄色く光る、といっただれでもかんたんにわかる要領です。

我々の機器はアンテナ間の見通しが前提になるものの、親機から子機への接続が最大10段程度です。インジケータが全てグリーンになるように設置、その後は電源を入れるだけで自動的に最適な通信経路を自動設定してくれるのが特徴です。これによって誰でも簡単に屋外や工場などにWi-Fiを導入できるようになります。よくある「Wi-Fiには接続されているけど、ネットにつながりにくい」という状況を減らせるはずです。

ーー技術的な優位性についてお聞かせください。

田村氏 : 当社の機器は通信キャリアの試験で3段目の中継エリアで計測したスループットが他社製品と比較すると250%の性能を立証しています。これは日本のお家芸である組み込み式の開発や独自のCPU負荷軽減の技術アプローチをした結果です。

大手の通信キャリアの試験では他社の機器価格は一台あたり30万円以上のハイゲインアンテナやCPU装置等も重厚な製品でしたが、弊社は非常に安価な家庭用製品に弊社技術を移植したもので試験に臨みました。最初は関係者から無茶な挑戦に見られたようですが、このようなWi-Fi機器の試験には各種項目があるのですが、すべての項目で我々の機器は優位性を立証しました。

この結果に対するリアクションは大きかったです。NTTの研究所で紹介されたり、技術情報協会という業界誌で特集されたりしました。それをきっかけにさまざまな国内外の業界から引き合いがきていますし、今回のようなICTスタートアップリーグへの参画にも縁ができました。

「デジタル・ディバイドの解決」を見据えた海外展開

ーー引き合いが増えたとのことですが、いまは事業としてどのようなフェーズですか。

田村氏 : プロダクトのプロトタイプまではできていて、テストを開始している状態です。商談も複数進めていて、大手企業からプロジェクトの打診もあります。また、省庁の海外戦略とも話し合っていて、海外展開も視野に入れています。

海外展開については、ある企業にプロダクトを見てもらって販売ライセンスを持ってもらう計画もあります。こうした動きのめどがつけば、資金調達などでお金を集めて、生産まで一気に持っていけるはずです。

ーー海外の通信網市場はどう見ていますか。

田村氏 : ブラジルでは国土をすべて光ファイバー化しようという計画が進んでいますが、これは日本が10年前くらいにやっていたことです。BRICSやアジアなどの国々のほとんどはこのくらいの状況のはずで、Wi-Fiのラストワンマイル問題は必ず出てくると思います。この市場を取りに行くことが、AiTraxが成し遂げたい目標の一つである「デジタル・ディバイドの解決」に繋がると考えています。

また、大型の農業や鉱物資源プラント、日系の工業団地等からも様々なメンテナンス、ICTの利活用を背景にした相談も多くなっていますが、わたしたちの性能と価格のバランスのとれた製品像は非常に競争力をもちあわせている実感も日々強くなりつつあります。

ーー成し遂げたい目標はほかにどのようなものがあるのでしょう。

田村氏 : 二つ目は日本市場の開拓です。先ほども話したようにこれまでインフラが整備されていなかった屋外や工場のICT化を進めます。この目標を達成するために社会インフラの保全ネットワークを構築したいと思っています。例えば、日本の電柱は45年経つと老朽化しますが、そのような情報を我々の技術で安く仕入れることができるよう寄与したいです。

三つ目は衛星通信とタイアップしようとしています。衛星通信で先行するStarlinkは、機器があればコンセント一つで基地局が作れてしまいます。そこに一般の方々がアクセスするにはやはりWi-Fiが必要です。すでにStarlinkと我々の機器を使って検証しましたが、5分くらいで公園一つ分をカバーするネットワークを構築できました。そういう意味でも衛星通信は市場を広げるチャンスだと捉えています。

取材後記

大手通信キャリアでの経験を活かし、新たなICTの利活用を開拓すべくAiTraxを立ち上げた田村氏。安価でかつ手軽に大規模なメッシュWi-Fiが構築できるソリューションは、工事現場や公園、工場などで需要が増えそうだ。Wi-Fi環境が整っているのはオフィスなどの屋内だけ、というイメージがあったが、メッシュWi-Fi構築のハードルが下がり裾野が広がることで、新たなイノベーションが生まれるきっかけになるかもしれない。

※ICTスタートアップリーグの特集ページはコチラをご覧ください。

(編集:眞田 幸剛、文:久野太一)

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  • 奥田文祥

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