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【ICTスタートアップリーグ特集 #26:ARK】小規模事業者でも手の届く陸上養殖システムを開発。「養殖の民主化」の実現を目指し海外にも進出する、ARKの戦略とは?

【ICTスタートアップリーグ特集 #26:ARK】小規模事業者でも手の届く陸上養殖システムを開発。「養殖の民主化」の実現を目指し海外にも進出する、ARKの戦略とは?

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2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「共創の場」を提供するプログラムだ。

このプログラムでは総務省事業による研究開発費の支援や伴走支援に加え、メディアとも連携を行い、スタートアップを応援する人を増やすことで、事業の成長加速と地域活性にもつなげるエコシステムとしても展開していく。

そこでTOMORUBAでは、ICTスタートアップリーグの採択スタートアップにフォーカスした特集記事を掲載している。今回は、「養殖の民主化」をミッションに掲げ、小型・分散型の陸上養殖システムを開発する株式会社ARK(アーク)を取り上げる。取材場所は、相模湾に面した同社の平塚陸上養殖研究所。この海に面した土地から、どのような野望が生まれ、事業という形で結実しようとしているのか。代表の竹之下氏に話を聞いた。

▲株式会社ARK 代表取締役 竹之下航洋 氏

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<スタートアップ解説員の「ココに注目!」>

■写真右/眞田幸剛(株式会社eiicon TOMORUBA編集長)

・JR東日本グループ、ENEOS、損保ジャパンなど、多様な業界のトッププレイヤーと共創事例が多数。直近では商船三井のCVC「MOL PLUS」より資金も調達。

・2022年4月より琉球大学と共同研究に着手。アカデミアとの連携も抜かりなく、キャンパス内に試験場を設けて養殖技術の確立を目指しています。

・設立当初よりロンドンに拠点を構え、現地で寿司店をオープン。日本のみならず世界の飲食の形をも変えようとするアグレッシブなスタートアップ!

ガレージは湘南にある駐車場、海に興味を持った男3人ではじめたモノづくり

――まず、創業の経緯からお聞かせください。

竹之下氏 : 当社は吉田、栗原、そして私の創業メンバーでスタートしました。この3人の共通点は、前職が同じであること。前職では、IT関連のスタートアップで働いていました。当社の創業は2020年12月で、その時期はまさにコロナ禍の真っ只中。私たちも完全にリモートワークとなり、自宅でパソコン画面を相手に作業をする日々で…。「何をやっているのかな」と虚しさを感じるようになり、「もっと社会の課題解決につながることをやりたい」という気持ちが芽生えたのです。

――それで、3人で起業されたと。IT企業でご勤務されていた3人が、なぜ「陸上養殖」という異色の分野を選ばれたのですか。

竹之下氏 : 実は、創業メンバーの1人である吉田の趣味が素潜りなんです。吉田が素潜りをする度に、「海がやばい、海がやばい」と言うんですね。これはよく言われる磯焼けと呼ばれる問題で、海の環境変化によって魚が減少しているということなんです。それに紐づいて、知人の漁師さんたちも廃業を余儀なくされる状況にまで追い込まれていると。その話を聞いて、自分たちで提供できるソリューションが何かあるのではないかと考えるようになりました。

創業のネタとして私が最初に考えたのが、ウニを自動採取する水中ドローンの開発です。もともと私はエンジニアで、ロボットの開発経験もありました。なので、水中ドローンを開発し、磯焼けの原因となるウニを自動で採取すればいいのではないかと。

でも、ウニを自動で採ってくることがそう簡単ではなくて…(笑)そこで、陸上という海以外の場所で魚を育てる方法に着目しました。実は前職でも、陸上養殖向けのITシステムを開発したことが何度かあり、ノウハウを持っていたのです。

――経験を活かせる分野だったのですね。

竹之下氏 : ただ、陸上養殖をリモートセンシングやリモートコントロールを使ってICT化、効率化するだけでは、陸上養殖業者の根本的な課題を解決することはできません。ITによる効率化以前に、コストの問題があったり、陸上での魚の育て方が分からないという問題があるのです。

こうした根本的な課題にも対処するため、単にソフトを提供するだけではなく、養殖に必要なモノも開発・提供したいと考えました。モノも一緒に開発するなら会社を設立するしかありません。それでまず平塚に駐車場を借りて、そこを拠点に3人でモノづくりをはじめたのです。ITシステムだけを提供するなら、おそらく起業はしなかったでしょう。

▲ARKの開発拠点である平塚陸上養殖研究所(神奈川県平塚市)。閉鎖循環式陸上養殖システム『ARK-V1』などを活用しながら、様々な実験やテストに着手している。

大手資本とは真逆のスタイルで勝負、ポイントは「小型」「地魚」「複合養殖」

――その平塚の駐車場から誕生したのが、小型・分散型の閉鎖循環式陸上養殖システム『ARK-V1』ですね。このプロダクトの概要や特徴についてお聞かせください。

竹之下氏 : 今、陸上養殖で注目されているのはサーモン養殖です。大手商社が何百億もの初期投資を行い、巨大な養殖場を作っています。私たちの陸上養殖システムは、それとは2つの意味で対局に位置します。

まずサイズ感ですが、当社の設備は非常に小さく、駐車場1台分程度の大きさ。漁師さんが漁船を購入するぐらいの価格で提供することを目指し、このサイズにしました。

また、育てる魚の種類についても、サーモンのような大衆魚ではなく、地魚や高付加価値を見込める魚を育てています。ビールにクラフトビールというジャンルがありますが、それの魚版のようなイメージ。漁師さんや飲食店の店長さんに、オリジナリティのある魚を養殖してもらいたいと思っているのです。

――大手資本が大規模な養殖システムで大衆魚を育てるのとは異なり、小さなサイズで個性的な水産物を育てると。

竹之下氏 : そうです。また技術面では、リモートセンシングで遠隔から状況確認ができたり、スマホを使って遠隔操作ができたり、簡単なプログラミングができるといった特徴があります。ろ過の仕組みも独特です。一般的な陸上養殖が大型で高額な理由は、水槽とろ過システムが完全に分離され、それぞれ別の水槽に水を搬送しているから。この点、私たちのシステムはすべてが機械化され統合されているので、非常にろ過効率の高い仕組みになっています。

ろ過システムと関連して、私たちが今、突き詰めているのが陸上での「複合養殖」。これは、魚と同時に海藻などを複合的に養殖するアプローチです。この手法の利点は、魚と海藻を一緒に育てることで、魚が出す餌の食べ残しやフンが海藻の栄養源となり、海藻がすくすくと成長すること。なおかつ海藻が水を浄化し、酸素も発生させます。

複合養殖で得られた魚と海藻を販売すれば、単位水量や面積当たりの収益向上も見込めるでしょう。つまり、複合養殖により一石二鳥どころか一石三鳥の効果を得られるのです。

――ビジネスの現状に関してはいかがですか。JR東日本グループと「浪江駅」構内で実証実験もされたそうですね。

竹之下氏 : JR東日本さんとはプロトタイプで実証実験を行いました。それが終了した後、昨年2023年3月に量産体制が整い、正式版『ARK-V1』の発売を開始。それを現在、お客さまにお届けしている状況です。2024年から本格的に、お客さま先で陸上養殖が始まっていく予定です。

――どのような企業や個人に購入されているのですか。

竹之下氏 : 導入先として多いのは、地方の中小企業。建築業や製造業を本業とする企業が、新規事業として取り組むケースが多いです。地域貢献や環境貢献、CSRの文脈で導入される傾向が高いですね。

導入エリアは太平洋沿岸部が多く、とくに関西と沖縄で引き合いが増えています。沖縄は色々なプレイヤーが「一緒に取り組みたい」と言ってくれており、2023年末に沖縄支店も立ちあげました。今、非常にアツいエリアです。

――『ARK-V1』の導入先では、どのような魚が育てられつつありますか。導入先の反応についてもお聞きしたいです。

竹之下氏 : 私たちはヤイトハタやバナメイエビを育てていますが、クルマエビに挑戦している方もおられますし、錦鯉を育てている方もおられます。

『ARK-V1』を5台一括購入し、5種類の魚を育てたいという要望もいただいており、多種多様な魚類の養殖に活用されつつあります。このように、お客さま自らが創意工夫をして、色々な魚の陸上養殖に挑戦する事例が増えてきたことが、私たちにとって最もうれしいことです。

「マイクロアクアカルチャー」をコンセプトに、食の新しい形態を世界中に広める

――今後の展開予定や構築したい世界観についても教えてください。

竹之下氏 : 私たちが今、キーワードとしているのが「マイクロアクアカルチャー」。イメージはマイクロブルワリーです。地ビールがクラフトビールに名前を変えて注目を集めましたよね。あれは、店舗などの小規模事業者が醸造をはじめたことで、多彩な形のビールが生まれ、それに合う料理も提供して新しい業態として成立したという経緯があります。

そのクラフトビールが普及した背景には、小規模事業者でもビールの生産ができる装置の存在がありました。ちょうど1000万円程度で購入できるものです。私たちは小規模事業者でも手の届く装置を提供することで、新しい飲食の形、水産物の流通の形、食の形を築いていきたいと考えています。

――ロンドンにも拠点を置いておられるそうですが、海外戦略についてもお伺いしたいです。

竹之下氏 : ロンドンに拠点を設けたのは、イギリスがエシカルに対する意識の高い国だから。陸上養殖で生産された安全で美味しい水産物であることを、非常に高く評価してくれます。そのロンドンで私たちが運営をはじめたのがお寿司屋さん。それも、サスティナブルなシーフードだけを使ったお店です。まずは出口戦略として飲食店を出店し、その供給源として『ARK-V1』を持っていこうとしています。

イギリスを含めたヨーロッパから開始しますが、その後、アラブ首長国連邦やシンガポールなど、平均所得が高く水産物の消費量が多い国へと広げていく計画です。その3つを拠点に東南アジアやアフリカへも進出し、世界中へと事業を拡大していきたいと考えています。

取材後記

2020年12月、まさにコロナ禍の最中で「陸上養殖」という新たなフィールドに踏み出したARK。発足当初より海外拠点を立ちあげている点からも、同社の野心の大きさが窺える。ARKのロゴが輝く小さな水槽で、世界中の珍しい魚が育てられ、世界の食を彩り豊かにしていく――そんな未来の到来が待ち遠しい。

※ICTスタートアップリーグの特集ページはコチラをご覧ください。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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  • 奥田文祥

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  • 眞田 幸剛

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