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【イベントレポート】テクノロジーの発展により、「移動」も再定義される――未来の暮らしや働き方とは?

【イベントレポート】テクノロジーの発展により、「移動」も再定義される――未来の暮らしや働き方とは?

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2022年1月、DMM.make AKIBAとeiicon companyの共催によって、まちづくりとモビリティ領域において活躍する第一人者を招いたトークセッションが開催され、好評を博した(※)。その第二弾として2022年11月9日、「移動」を軸に未来の姿を考えるパネルディスカッションがDMM.make AKIBA にて行われた。

※参考記事:【イベントレポート】効率にとらわれない自由な発想がカギになる――「移動」を起点に思考するまちとモビリティの未来とは?

11月8日から11月11日の4日間にわたるDMM.make AKIBAの8周年イベント『DMM.make AKIBA 8周年祭 ANNIVERSARY Week』を開催。そのイベント内でのトークセッションということもあり、前回からよりパワーアップした内容でお届けした。

テーマは「一人ひとりの住まい方・働き方を含めたライフスタイルや移動をHackする~ 『移動(モビリティ・海運)・物流(配送)・観光(地方創生)の未来を読み解く』」。登壇したのは、株式会社シグマアイにて量子コンピューティングの社会実装を目指す事業全般に携わり、モビリティ・ロジスティクス領域を起点とした価値創造に注力する羽田成宏氏。造船関連製品などを製造するイワキテック株式会社でDX推進を担う山口雄一氏。小田急電鉄でXRのプロジェクトチームを立ち上げ現在10件ほどのXRを活用したプロジェクトを推進する、岡本 享大氏。eiicon companyの入福愛子がモデレーターを務めた。

コロナ禍により私たちの暮らしは変化し、住まい方・働き方の幅が広がり、どこからでも仕事ができるようになった。

そんな中、多くの事業会社が社会課題解決に資するべく、イノベーション創出の必要性を説き、事業開発の在り方や方向性を模索している。

今回は新規事業を進める上でActor(=新規事業を実践する人びと)が不足している現状を打破すべく、実際に新規事業を実践するActorをお招きし、実証実験(PoC)や開発など実際の取り組みに注目したうえで移動(モビリティ・海運)・物流(配送)・観光(地方創生)をテーマに「移動」を軸に未来の姿を考えていく、という多角的な内容を展開した。

そのなかで改めて、「移動そのものの価値」とは何か見直す中で、移動(モビリティ・海運)・物流(配送)・観光(地方創生)をテーマに様々な意見が飛び交い、このイベントから新たな共創が生まれる気配も感じられた。本記事では、そのイベントの模様をレポートする。


<登壇者>

■パネリスト

・株式会社シグマアイ 事業開発マネージャー 羽田 成宏 氏

・イワキテック株式会社 業務部DX推進グループ副グループ長 山口 雄一 氏

・小田急電鉄株式会社 XRチームリーダー 岡本 享大 氏

■モデレーター

・eiicon company/パーソルイノベーション株式会社 Open Innovation Conductor 入福 愛子

同じ「移動」でも、その人の立場によって見える景色や感じることは違う

最初のテーマは、「暮らしの多様化に伴う『移動そのものの価値』とは?(移動・モビリティ)」

入福からのパスを受け、はじめにこのテーマに言及したのは、シグマアイの羽田氏。国内各地への出張が多いという羽田氏は、新幹線などでの移動中に資料作成やミーティングをしたりアイデアを出したりと、移動を「考える時間」として位置づけているという。また、「最近思うのは、クルマで移動する時は、YouTubeをラジオとして聴いています。コンテンツを自分の好きなモーダルに落とし込むことがクルマはできるので、移動中の感覚の使い分けはXRに通じる部分があると思います」と、XRに対する考えを述べた。


羽田氏の発言に対して小田急電鉄の岡本氏は、「ロマンスカーの例もそうですが、小田急沿線の箱根芦ノ湖では、海賊船に乗ることができます。しかし当然ながらその船に本物の海賊が乗っているわけではないので、XRで海賊を出してみたら面白いのではないかと考えています」と、沿線の色んなアセットに対し、XRで”物語”を付加しようとしていることを語った。


それを受けて羽田氏は、「先週は広島に出張して、合間に四国に渡ってきましたが、夜間に移動する時と、昼移動する時、同じルートでも景色がまったく違って見えることに気が付きました。それも、XRで表現できると思います。また、今回は具定展望台(日本夜景遺産(2010年)、日本夜景100選(2004年)にも認定された愛媛県にある夜景スポット)と言う恋人の聖地にも立ち寄ったのですが、僕が1人で写真を撮っているのを警戒してか、そこにいたカップルが逃げてしまいました(笑)。それもあって、実体を消してその場所を体験するためにも、XRが必要だと思いました」と、笑い話も交えながら持論を展開した。


瀬戸内海に浮かぶ岩城島に本社を構えるイワキテックの山口氏は、「同じ移動でも、そこに住まう人と、観光で初めて訪れる人では、見方がまったく違うと思います。今年の3月、当社がある岩城島に橋が架かりました。以前はフェリーが移動手段だったのが、かなり便利になったと感じています。しかし、東京の人から見ると、それでも離島は交通の便が悪いという印象がありますよね」と、移動に対して感じる便利・不便の感覚は、利用する人によって随分異なるという感覚を語った。


テクノロジーの発展により、「移動」の意味が再定義されていく

2つ目のテーマは、「働き方から考える『移動そのものの価値』とは?(物流・配送)」

岡本氏は、「XRのテクノロジーが発展すると、どんどんコミュニケーションがリアルに近づくでしょう。たとえばインドにいる人が、目の前に現れるような世界は、将来的に実現されていくはずです。その時に、コストをかけて移動する意味とは何か。つまり、『移動する』という行為自体が再定義されていくと考えています」と、これまでとは異なる価値が移動そのものにうまれてくるという考えを語り、「オンラインミーティングで済むことも多い時代に、なぜこれほど移動しているのですか?」と、羽田氏に問いを投げかけた。


岡本氏の問いを受けて羽田氏は「僕は“移動中に得られる考える時間”が欲しいと思っています。また、社会人になってから出張が多かったので、移動中に何をするか、考えるスタイルが身に付いています。リアルな移動空間の中でしかできないことがあると信じています」と回答。

さらに、「オンラインミーティングの場合、パソコンの画面を通じて説明することがほとんどですが、移動して現地に出向くと、紙のパンフレットを渡されることがありますよね。これが結構いいなと思っています。以前CuboRexとしての仕事(副業)で、愛媛大学で開催されたとあるプロジェクトの全体会議に行った時、シグマアイと女子美術大学共創デザイン学科(当時仮称)のパンフレットをCuboRexの顧客である先生に手渡しました。

するとその先生が、ソフトウェアに課題を抱えているという先輩の先生に、パンフレットを渡してくれて、それがきっかけでなんとその先生とシグマアイとの共同開発に発展しました。もちろんXRでもこういった偶発的なことはできるようになると思うのですが、リアルなものにしかできないこともあると思います」と、移動するからこその価値を語った。

山口氏は「たとえば長距離トラックドライバーが運ぶコンテナは、港や駅まで運ばれた後、船や鉄道を使って輸送されます。以前まで、長距離トラックドライバーはなかなか自宅に帰れない働き方でしたが、最近ではモーダルシフトによって到着地の港でまた別のドライバーが荷物を受け取り、目的地に配送する効率化が進みました。その結果、長距離トラックドライバーの働き方改革が進んでいます。」と、物流の変化がドライバーの働き方改革と合わせて進んでいる事例を紹介した。

XRとの掛け合わせで、これまで観光地ではなかった場所にも人を呼べるように

最後のテーマは、「地域の暮らし・ライフスタイルから考える『移動そのものの価値』とは?(観光・地方創生)」

イワキテックは、瀬戸内海の離島・岩城島に工場を構える一方、DMM.make AKIBAに入居し、工場内のデジタル化を進めている。山口氏はDMM.make AKIBAで共同開発し、現場で導入している3DCADを1分の1で現実世界に映すシステムと、今年3月に工場見学会でのエピソードを紹介した。

「工場見学にお越しいただいた方には、2つの観点で見ていただくようにお願いをしました。1つは、工場の自動化・DXという切り口。そしてもう1つは、地方創生という切り口です。そこで地方創生ではワーケーションに関するご意見が多く、島の魅力を感じていただけたのではないかと思いました」。令和時代の持続可能な造船業を目指し、DMM.make AKIBAへの入居を決めたという山口氏。雑談からアイデアやコラボレーションが生まれているという。「3DCADのシステムも、『ポケモンGO』のようなシステムが欲しいという現場の声から始まりました。『造船GO』ですね(笑)」。


▲モニターに映し出されているのが、3DCADを1分の1で現実世界に映すシステムだ。

自動車業界で働いていた羽田氏は、XRでできることとして「クルマでこのビルの前を通ったとして、『ここに山口さんがいますよ』とか、『高校の同級生がこの会社で働いていますよ』という情報が出てきたら嬉しいなと考えているのですが、山口さんのお話を聞いて、イワキテックさんの近くを通ったら船の図面が手に入るとかも面白いですね」と話した。

すると岡本氏も「図面以外にも、船には色んな歴史や人の興味深いストーリーがあると思います。そういうものが船の近くを通ると表示されるようにすれば、これまで観光地ではなかった場所が観光地のように賑わう場所になるのではないでしょうか」とアイデアを披露。羽田氏は「小田急さんとゲームを創ったら面白くなりそう」と言った。

さらに羽田氏が「業界の中での生き残りも大切だけど、各社の知見を業界全体の集合知として残すこともすごく大切だと思います。それを造船や鉄道業界でできたらすごくいいストーリーになりそうですね」と話すと、岡本氏は「鉄道会社はあまり路線での競合がいないので、各社連携してプラットフォームを整備できると思う」と希望を語った。


モデレーターの入福が「共創が始まりそうですね」と水を向けると、羽田氏は「山口さんが先ほど雑談から共創が生まれたという話をしていましたが、今このディスカッションもパブリックな雑談だと思います。ここから事業が生まれ、今後のDMM.make AKIBAさんの共創事例になるといいですね!」と話した。

次にモデレーターの入福が、小田急電鉄が神奈川県のオープンイノベーションプログラムBAK(ビジネスアクセラレーターかながわ)で共創が決まった株式会社CinemaLeapとの共創について話を振ると、岡本氏はロマンスカーミュージアムでのXRのプロジェクトを紹介。

「昔の車両に入って座席につき、VRゴーグルをかぶると、その時代にタイムスリップできるようなコンテンツを作り、場の価値を向上させていくことを目指しています」と実証実験について語った。


▲小田急電鉄とCinemaLeapで、「観光体験をアップデートするXRを活用した『場』の魅力体感モデルの創出」というプロジェクトを推進している。(画像出典:プレスリリース

移動とコミュニケーションを掛け合わせた新たな価値とは?

3つのテーマでのディスカッションの後は、会場の参加者とのQ&Aが行われた。

「XRの価値」について尋ねられると、岡本氏は「デジタルを活用することで、ハードをいじる必要がなくなることです。例えば、英語の看板を立てるには建設コストがかかりますが、デジタルで表示すればその必要はありません。ハードをいじらずとも、XRを活用すれば空間に様々な情報を載せることができます。もう1点、パーソナライズできることも利点です。人に応じて様々な情報やコンテンツを瞬時に出すことができるのは、XRの価値です」と語った。

同じ質問に対して山口氏は、「1つは、船をどう作るのが安全かという検討を、図面を読めない人も一緒に入って組立の共通認識を形成することができることです。2つ目は、業務の属人化を防げること。これまで作業長しかできなかった業務を、XRによって誰でも代行ができます」と、メリットを2つ挙げた。

一方、デメリットについて岡本氏は「技術先行になりがち。先に技術があり、その後に目的を設定するようなアプローチがまだ多いと思います」と述べた。

続いて「移動とコミュニケーションを掛け合わせて、新しい価値を生み出せないか」という質問に対して羽田氏は、「人流と物流」両側面から回答した。まず人流については、「移動の間のコミュニケーションや、目的地に行ったあとの感想戦などは、オンラインではなかなかできないことです」と話し、物流については「コミュニケーション物流というものを考えています。例えば、物流会社が撤退している地域に対して、日用品を何人かを経由しながら届ける仕組みをつくれば、モノを手渡す時にコミュニケーションが起こるのではないかと思います」と構想を語った。

最後に「移動に関わるサービスを考える時に、誰をターゲットに設定するのか難しいが、どう設定しているのか」という会場からの声に対して、羽田氏は「サービスデザインで、value in contextという言葉があります。同じ人でもライフステージの変化などによって求めるものは変わるじゃないですか。だから、どういう人かというのももちろん大事だし、個人の中の変化も意識しますね」と回答した。

山口氏は「離島に住んでいる身としては、お越しいただく方には非日常を味わっていただきたいですが、住民に対しては便利な移動を提供することが必要だと思います」と語った。そして岡本氏は「XRでいうと、やはり若い人から広がっていく。そこから年齢・国籍など個人のバックグラウンドを越えていくのだと思う。だからこそ、最初に誰をターゲットにするのかは重要ですね」と述べた。


取材後記

テクノロジーが発展し、私たちは「移動しない」という選択肢も持てるようになった。岡本氏が話したように、「移動を再定義」する時代がやってきているのだろう。今まで否応なく行っていた「移動」をするのか、しないのか。選択する時の観点は、効率性だけではない。その人にとって「移動」とは何か、丁寧に考えてサービスをデザインする必要がありそうだ。

(編集:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)