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「GX基本方針」で示されたふたつの目標とは。「GX推進法」「GX推進戦略」との違いなど解説

「GX基本方針」で示されたふたつの目標とは。「GX推進法」「GX推進戦略」との違いなど解説

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回のテーマは「GX実現に向けた基本方針(GX基本方針)」です。今年の2月に閣議決定されたGX基本方針ですが、原子力発電所の運転期間制限を一定の条件下で延長できるといった内容が盛り込まれていることからもメディアに取り上げられて話題となりました。基本方針の一部が取り上げられがちですが、本来はカーボンニュートラルの達成を見据えて閣議決定されたものです。

また、今年5月に改正された「GX推進法」や7月に閣議決定された「GX推進戦略」といった似たようなニュースが次々と話題になっていることから、やや理解しにくい部分があるので、これらも踏まえて整理して解説していきます。

GX基本方針で示されている大きなふたつの目標

GX基本方針は脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の3つを同時に実現するために取りまとめられた、今後10年の政府としての基本方針となります。なお、この基本方針は内閣官房に設置されているGXに関する議論を行う会議体「GX実行会議」の議論を踏まえて作成されたものです。

GX基本方針が策定された背景はさまざまあります。ひとつはカーボンニュートラルを宣言する国と地域が増えて排出削減と経済成長を共に実現する長期的かつ大規模な投資競争が激化していることがあります。こうした国と地域において、GXに向けた取り組みの成否は企業・国家の競争力に直結する時代に突入していると考えられています。

また、ロシアによるウクライナ侵攻の影響から、国内のエネルギー安全保障上の課題が浮かび上がっていることも背景のひとつです。

こうした背景を踏まえて、政府としては国の強みを最大限に活用してGXを加速させることでエネルギーの安定供給と脱炭素分野で新たな需要・市場を創出し、日本経済の産業競争力強化・経済成長に繋げていかなければならないと判断した経緯があります。

GX基本方針で具体的に示されている大きな目標がふたつあります。ひとつは「エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXの取組」、もうひとつは「『成長志向型カーボンプライシング構想』等の実現・実行」です。

エネルギー安定供給の確保を大前提としたGXの取組

エネルギーの安定供給を実現するために、基本方針では明確なポイントを絞ってGXを推進すると明記しています。

①徹底した省エネの推進

まず、複数年の投資計画に対応できる省エネ補助金を創設するなどして、中小企業の省エネ推進を支援します。次に、粗油エネ効果の高い断熱窓への改修など、「住宅の省エネ」への支援を強化します。そして主要5業種(鉄鋼業、化学工業・セメント製造業・製紙業・自動車製造業)に対して、政府が非化石エネルギー転換の目安を示して省エネを加速させる動きがあります。

②再エネの主力電源化

政府のカーボンニュートラルのマイルストーンとして「2030年度の再エネ比率36〜38%」というプランがあります。これを達成するために、今後10年程度で過去10年の8倍以上の規模で系統整備を加速し2030年度を目指して北海道からの海底直流送電を整備するとしています。また、「日本版セントラル方式」と呼ばれる洋上風力の技術を確立させて導入拡大するための新たなルールの公募を開始するとのことです。

③原子力の活用

これはニュースでも話題になっているトピックです。厳格な安全審査を前提に原発の40年+ 20年の運転期間制限をもうけた上で、一定の停止期間に限り追加的な延長を認めるというものです。

④その他の重要項目

①〜③以外にも、有望な新技術・施策には積極的に投資していくとしています。化石燃料の省エネ化が期待される水素・アンモニア、予備電源制度、長期脱炭素電源オークションの導入、戦略的な余剰LNG確保、メタンハイドレート等の技術支援、カーボンリサイクル燃料、蓄電池といったように、数多くの項目が記載されています。

「成長志向型カーボンプライシング構想」等の実現・実行

カーボンプライシングとは企業などが排出するCO2に価格をつけて、温室効果ガスを排出したぶんの金額負担を求めるもので、企業の環境対策に関する態度変容を促すものです。政府はこれを企業の成長に資する形で社会実装しようとしています。

実現するにはさまざまな分野で投資が必要となり、その規模は今後10年で150兆円を超えるとGX基本方針には記載されています。こうした巨額のGX投資を呼び込むためにも「成長志向型カーボンプライシング構想」を実現するためには以下のような施策が必要であるとしています。

①GX経済移行債を活用した先行投資支援

国際標準に準拠した形のGX経済移行債を創設し、今後10年間で20兆円規模の先行投資支援を実施するとしています。そして民間のみでは投資判断が困難な案件で、産業競争力強化・経済成長と排出削減の両立に貢献する分野への投資等を対象として、規制・制度措置と一体的に講じていくとのことです。

②成長志向型カーボンプライシングによるGX投資インセンティブ

成長志向型カーボンプライシングにより炭素排出に値付けし、GX関連製品・事業の付加価値を向上させる狙いがあります。直ちに導入するのではなく、GXに取り組む期間を設けた後でエネルギーに係る負担の総額を中長期的に減少させていく中で導入するとのことです。これによりGXに先行して取り組む事業者にインセンティブが付与される仕組みを作ります。

③新たな金融手法の活用

金融面では、GX投資の加速に向け「GX推進機構」が、GX技術の社会実装段階におけるリスク補完策(債務補償など)を検討・実施します。トランジションファイナンスに対する国際的な理解醸成へ向けた取り組みの強化に加え、気候変動情報の開示も含めたサステナブルファイナンス促進のための環境整備を図るとしています。

④国際戦略・公正な移行・中小企業等のGX

まず国際戦略として、「アジア・ゼロエミッション共同体」構想を実現しアジアのGXを後押しする狙いがあります。また、事業再構築補助金等を活用した支援、プッシュ型支援に向けた中小企業支援期間の人材を育成し、パートナーシップ構築宣言のさらなる拡大等で、中小企業を含むサプライチェーン全体の取り組みを推進する計画です。

参照ページ:「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました (METI/経済産業省)

GX基本方針と「GX推進法」「GX推進戦略」はどう違う?

ニュースでは今年の5月に「GX推進法」が国会で成立したことを伝えており、また7月には「GX推進戦略」が閣議決定されたとも伝えられています。似たようなワードが多く少し複雑に感じるので、これらを整理しておきます。

こうしたワードはいずれもGX基本方針が土台となっています。まず、今年5月に成立したGX推進法は、GX基本方針に基づいて法定された5つの法律案です。

1.GX推進戦略の策定・実行

2.GX経済移行債の発行

3.声量思考型カーボンプライシングの導入

4.GX推進機構の設立

5.進捗評価と必要な見直し

これらの5つを見るとわかりますが、これらの法律案はいずれもGX基本方針でやると決めた方針と関連づいています。要するにGX推進法は、GX基本方針を実現するための法整備だと言えます。

参照ページ:「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」が閣議決定されました

次に、今年7月に閣議決定されたGX推進戦略ですが、正式名称は「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」となっています。GX推進戦略はGX推進法に盛り込まれている法律案のひとつです。

概要は「気候変動問題の対応に加え、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて国民生活及び経済活動の基盤となるエネルギー安定供給を確保すると共に経済成長を同時に実現する」としており、そのために以下の2点の取り組みを進めます。

1.エネルギー安定供給の確保に向け、徹底した省エネに加え、再エネや原子力などのエネルギー自給率の向上に資する脱炭素電源への転換などGXに向けた脱炭素の取り組みを進めること。

2.GXの実現に向け、「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用などを含む「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行を行うこと。

上記の2点もGX基本方針に書かれていたことであることがわかります。つまり、GX基本方針を実現するための具体的な戦略がGX推進戦略となります。

参照ページ:「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」が閣議決定されました

編集後記

GX基本方針は2050年にカーボンニュートラルを達成するための中長期的な戦略です。日本だけではありませんが、この高いハードルをクリアするには多くの課題を解決しなくてはなりません。GX基本方針はそれに加えて経済成長とエネルギーの安定供給をも実現しようとしています。政府の戦略が決まればあとはそれを実行できるかどうかにかかっています。政府だけでなく企業や個人が当事者意識を持って取り組めるかが重要になっていくでしょう。

(TOMORUBA編集部 久野太一)

■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

第21回:海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

第22回:ビル・ゲイツ氏が提唱する「グリーンプレミアム」とは?カーボンニュートラルを理解するための重要な指標

第23回:内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?

第24回:カーボンニュートラルの「知財」はなぜ重要か?日本が知財競争力1位となった4分野とは

第25回:再エネ資源の宝庫であるアフリカ。カーボンニュートラルの現状とポテンシャルは?

第26回:「ゼロ・エミッション火力プラント」の巨大なインパクト。圧倒的なCO2排出を占める火力発電をどうやって“ゼロ”にするのか?

第27回:消費者の行動変容を促す「カーボンフットプリント」は、なぜカーボンニュートラル達成のために重要なのか

第28回:脱炭素ドミノを目指す「地域脱炭素ロードマップ」と「脱炭素先行地域」の戦略とは?

第29回:次世代原発の『小型原子炉』はなぜ低コストで非常時の安全性が高いのか?

第30回:『SAF』なら燃焼しても実質CO2排出ゼロ?廃食油をリサイクルして製造する次世代型航空燃料とは

第31回:日本は「海洋エネルギー」のポテンシャルが世界トップクラス。再エネの宝庫である海のパワーとは

第32回:80年代から途上国に輸出される『福岡方式』とは?温暖化防止にもつながる再現性の高いゴミ問題の解決策

第33回:カーボンニュートラル必達を掲げ『GI基金』に2兆円を造成。支援する分野や採択されたプロジェクトとは

第34回:排出されるCO2を捕捉して貯蔵する技術『CCS』はカーボンニュートラルの救世主となるか?

第35回:次世代送電網『スマートグリッド』は再エネの弱点を補う?カーボンニュートラルの観点から解説

第36回:間もなく普及が完了する次世代電力計『スマートメーター』が脱炭素に与える影響と、新たなビジネスチャンスとは

第37回:電力送電網とつながらない『オフグリッド』がカーボンニュートラルになぜ貢献するのか?一般家庭や事業者への導入事例を紹介

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