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国土交通白書が掲げる「カーボンニュートラル貢献」と「生産性向上」の両輪を回す新技術とその事例とは

国土交通白書が掲げる「カーボンニュートラル貢献」と「生産性向上」の両輪を回す新技術とその事例とは

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回は、2023年6月末に公表された『令和5年版国土交通白書』の中から、カーボンニュートラルについて言及された部分について解説していきます。同白書から、国土交通の分野が注目している新技術や、カーボンニュートラルを通じて実現したい社会、実装までのマイルストーンなどがよくわかる内容となっています。

令和5年版国土交通白書はデジタル化がテーマ

はじめに、『令和5年版国土交通白書』の概要について触れておきます。白書では、テーマをデジタル化としていますが、その理由として下記のような背景を挙げています。

・近年、デジタル化が急激に進展しおり、国際社会、企業活動、ライフスタイルのありようを変化させていること

・人口減少による地域の足の衰退や担い手不足、気候変動に伴う災害の激甚化・頻発化、脱炭素化等が大きな課題となっていること

・デジタル化の特性を踏まえて効果的に取り込むことにより、直面する課題を解決し、豊かな暮らしと社会を実現することが重要であること

・防災、交通・まちづくり、物流・インフラ、そして行政手続のデジタル化など、「国土交通分野のデジタル化」は持続可能な社会を作る上で必要不可欠であること

こうした背景から、情報を整理することで現状を俯瞰し、デジタル化がもたらす豊かな暮らしと社会の展望について考察することを目的として作成されています。脱炭素を「大きな課題」と捉えていることからもわかるように、国土交通省がカーボンニュートラルにコミットしていることがうかがえます。

参照記事:デジタル化がテーマの『令和5年版国土交通白書』を読み解く。日本の競争力を挽回する6つ施策とは

DXやスマートシティによる「エネルギー利用の効率化」でカーボンニュートラルに貢献

白書は「第1章 国土交通省のデジタル化施策の方向性」と「第2章 豊かな暮らしと社会の実現に向けて」の2章立ての構成になっており、第1章では国土交通省が抱える5つの課題を洗い出し、それらを解決するための5つの方向性が示されています。

出典:令和5年版国土交通白書 概要

5つの課題のうちのひとつは「増大する消費エネルギーとそれに伴う温暖化の進行」となっており、その解決の方向性として「エネルギー利用の効率化」が示されています。

では、具体的な課題はどのようなものでしょうか。白書では2050年カーボンニュートラル達成と、そのマイルストーンである2030年度の温室効果ガス46%削減を前提として、消費エネルギーの削減を図ることが課題であるとしています。

白書内で、エネルギー削減が重要であると示す調査結果も引き合いに出しています。国土交通省「国民意識調査」では、国土交通分野のデジタル化による産業競争力や付加価値の向上に対して期待するものについてたずねたところ、「省エネや創エネ等を活用し環境に配慮した建築物(ZEH・ZEB等)や交通機関(EV、FCV等)の整備」については、期待している(とても期待している、やや期待している)と答えた人の割合が7割を超え、環境分野への期待がうかがえる結果となっています。

出典:第1章 国土交通分野のデジタル化

また、スマートシティの分野で積極的に取り組むべきものについてたずねたところ、「新技術の応用によるエネルギーの総使用量の削減や、再生可能エネルギーの普及を進めるべき」との項目について、そう思う(とてもそう思う、ややそう思う)と答えた人の割合が約8割であり、エネルギー効率化の取組みについても、高い期待がうかがえることがわかっています。

出典:第1章 国土交通分野のデジタル化

カーボンニュートラルに向けたデジタル化の役割と実例

前章から、DXやスマートシティに取り組むべきであるという課題が明確になったことがわかりました。このことから、家庭や企業など、社会全体でICTを活用することで生産性の向上とグリーン社会の実現、この両輪を回すことがデジタル化の役割だと言えます。白書にはこのようなデジタル化の役割を果たしている事例がいくつか挙げられています。

【国交省×横浜市】3D都市モデルを活用した壁面太陽光発電ポテンシャルの推計

都市部でも実装できる太陽光発電である『壁面太陽光発電』は、カーボンニュートラルへの貢献度が高い技術として期待を集めています。言葉の通り、建物の外壁に発電パネルを設置する技法ですが、壁面の日射量や発電量を推計する方法が確立されていない課題がありました。

この課題に対して国土交通省は、同省が主導する日本全国の3D年モデルのオープン化プロジェクト『PLATEAU(プラトー)』と、気象データ等を組み合わせて発電ポテンシャルを推計する実証実験を横浜市と連携して実施しています。

今後、この実証実験で得られた発電ポテンシャルの推計結果などを、自治体や再生可能エネルギー業者、太陽光発電の研究機関などと共有し、脱炭素推進の施策や面的なエネルギー計画の基礎データとして利用することを目指しています。

出典:第1章 国土交通分野のデジタル化

【国交省×北海道】カーボンニュートラル実現に向けた総合開発計画

北海道では、その豊富な資源や広大な国土を利用するため、「北海道開発法」が昭和25年に制定され、国民経済の復興や人口問題の解決、産業の適正配置、さらには食料やエネルギーの供給など、その時々の国の課題の解決に貢献する施策が打ち出されてきた経緯があります。その流れを引き継いで、現在では令和7年度までの計画期間で第8期の北海道総合開発計画が推進されています。

新たな北海道総合開発計画では、新型コロナ対策やカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの加速といった社会経済情勢の変化を受け、二つの目標として、「我が国の豊かな暮らしを支える北海道」と「北海道の価値を生み出す北海道型地域構造」の計画が進行中です。

打ち出された施策の中には、北海道の持つ高い脱炭素貢献のポテンシャルを生かすものもあります。具体的には北海道の持つ再生可能エネルギーとの相性の良さを活かした「地球温暖化対策を先導する活力ある脱炭素社会の実現」と「地域の強みを活かした産業の育成」を掲げています。

出典:新たな北海道総合開発計画 計画部会による中間整理(概要)

編集後記

国土交通省の白書ではありますが、5つ挙げた課題のなかにカーボンニュートラルへの貢献が明記されていました。DXやスマートシティといった新技術をもって生産性を向上させ、さらに脱炭素へも寄与する計画が記されており、すでに事例も出てきています。全ての省庁でカーボンニュートラルへの貢献が盛り込まれれば、高いハードルをクリアする道筋も見えてくるかもしれません。

(TOMORUBA編集部 久野太一)

■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

第21回:海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

第22回:ビル・ゲイツ氏が提唱する「グリーンプレミアム」とは?カーボンニュートラルを理解するための重要な指標

第23回:内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?

第24回:カーボンニュートラルの「知財」はなぜ重要か?日本が知財競争力1位となった4分野とは

第25回:再エネ資源の宝庫であるアフリカ。カーボンニュートラルの現状とポテンシャルは?

第26回:「ゼロ・エミッション火力プラント」の巨大なインパクト。圧倒的なCO2排出を占める火力発電をどうやって“ゼロ”にするのか?

第27回:消費者の行動変容を促す「カーボンフットプリント」は、なぜカーボンニュートラル達成のために重要なのか

第28回:脱炭素ドミノを目指す「地域脱炭素ロードマップ」と「脱炭素先行地域」の戦略とは?

第29回:次世代原発の『小型原子炉』はなぜ低コストで非常時の安全性が高いのか?

第30回:『SAF』なら燃焼しても実質CO2排出ゼロ?廃食油をリサイクルして製造する次世代型航空燃料とは

第31回:日本は「海洋エネルギー」のポテンシャルが世界トップクラス。再エネの宝庫である海のパワーとは

第32回:80年代から途上国に輸出される『福岡方式』とは?温暖化防止にもつながる再現性の高いゴミ問題の解決策

第33回:カーボンニュートラル必達を掲げ『GI基金』に2兆円を造成。支援する分野や採択されたプロジェクトとは

第34回:排出されるCO2を捕捉して貯蔵する技術『CCS』はカーボンニュートラルの救世主となるか?

第35回:次世代送電網『スマートグリッド』は再エネの弱点を補う?カーボンニュートラルの観点から解説

第36回:間もなく普及が完了する次世代電力計『スマートメーター』が脱炭素に与える影響と、新たなビジネスチャンスとは

第37回:電力送電網とつながらない『オフグリッド』がカーボンニュートラルになぜ貢献するのか?一般家庭や事業者への導入事例を紹介

第38回:「GX基本方針」で示されたふたつの目標とは。「GX推進法」「GX推進戦略」との違いなど解説

第39回:「電力貯蔵技術」がなぜ脱化石燃料と再エネ活用の促進になるのか?脱炭素達成にはマストの重要な技術を解説

第40回:『脱炭素アプリ』でどうやって企業や自治体のカーボンニュートラルを実現するのか?仕組みと事例を解説

第41回:「米国インフレ抑制法(IRA)」がなぜカーボンニュートラルに貢献するのか?バイデン政権が3910億ドル投じる肝入りの政策を解説

第42回:GI基金も支援する水素サプライチェーン・プラットフォーム。化石燃料の代替として期待がかかる水素技術の未来とは

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