近年、百貨店業界に逆風が吹いている。「リアル」よりも「ネット」の消費が年々拡大し、国内のEC市場は18兆円と試算され(※1)、百貨店業界の売上規模5兆8870億円(※2)を大きく凌駕している。さらに、若年層を中心に百貨店を利用する機会も減少しつつある。――このような課題が見られる百貨店業界の中、長い歴史を持つ三越伊勢丹が業界に先駆けてシェアリングサービスに挑戦し、大きな注目を集めている。それが「CARITE(カリテ)」だ。

CARITEは、専用のスマートフォンアプリから三越伊勢丹の銀座三越が用意するシーズントレンドの衣類を中心にレンタルできるサービス。――本サービスを起案し、サービス化したのは、三越伊勢丹と富士通という大企業2社の若手社員たちだ。

「百貨店業界の大きな危機を打破したい」、「様々なビジネスモデルを根底から覆す、シェアリングサービスに挑戦したい」、そんな想いを持って2016年に出会った両者により、CARITEの事業の芽が生まれ、2018年6月に実証実験を実施。同年8月から銀座三越3Fプロモーションスペースでお客様へ正式なサービスとしてリリースした。2019年の4月からは、富士通と三越伊勢丹の社内それぞれにCARITE専任の部署も設立され、サービスを次のフェーズへと加速させている。

三越伊勢丹のファッション領域のナレッジと、富士通のIT・デジタルテクノロジーを組み合わせた大企業同士のオープンイノベーションを、二社のイントレプレナーたちはどのようにして立ち上げたのか?そして、今後の展望は?――共創プロジェクトの中心メンバーとして、サービスの企画やシステム開発に関わった3名にお話をうかがった。

※1 経済産業省:平成30年度 電子商取引に関する市場調査〜日本の BtoC-EC 市場規模の推移より

※2 日本百貨店協会:2018年の全国百貨店売上高

【写真左】富士通株式会社 共創イノベーション事業部 山田修平 氏 

2008年に富士通へ新卒入社。金融機関に関わる法人営業を8年担当。その後、社会インフラの創造を目指し、新規事業部門へ異動。現在に至る。


【写真中】株式会社三越伊勢丹 デジタル事業部 新規事業ディビジョン カリテ プランニングスタッフ 神谷友貴 氏

2011年に三越伊勢丹へ新卒入社。販売やバイイングを経験後、新規事業に関わる部署へ異動。シェアリングサービスという新たな価値に可能性を感じ、CARITEのプロジェクトに携わり、現在に至る。


【写真左】富士通株式会社 流通ソリューション事業本部 第二ソリューション事業部 第一ソリューション部 張力 氏

2009年に富士通のグループ会社に入社。SEとしてファッション業界を中心にシステム導入を担当。山田氏の誘いをきっかけに、CARITEのシステム開発に関わる。


■シェアリングサービスの“黒船”がやってくる前に

――まずは、どのようにして富士通さんと三越伊勢丹さんが出会い、CARITEというサービスが誕生したのか。その背景からお聞きしたいと思います。

富士通・山田氏 : UberやAirbnbといったシェアリングサービスが世界を席巻している中で、このまま外資のシェアリングサービスがやってきたら、国内の産業は大きなダメージを受けるという課題感を持っていました。しかし、先行者であるUberやAirbnbと同じ土俵では戦えない。――そこで、日本で初となるシェアリングサービスでありながら、個人的に考えていた「ファッションがもっと手軽になればいい」という思いを実現するビジネスの企画をあたためていたんです。

ただし、私が所属する富士通単体では、このファッション×シェアリングサービスの実現が難しい…。そういった状況の中で、2016年12月に大企業の若手有志団体のコミュニティであるONE JAPANを通じ、今の百貨店業界に危機感を感じている三越伊勢丹さんの担当者と出会いました。そこで、私の構想しているアイデアを伝えたら、興味を持っていただいたのがCARITEの始まりです。

――その後、山田さんと出会った三越伊勢丹の担当者さんが異動してしまい、後任としてこのプロジェクトにジョインしたのが神谷さんだとお聞きしました。2016年〜2017年当時はまだシェアリングサービスの認知度も日本では低く、「商品を仕入れ、販売する」といった百貨店の商習慣にそぐわないビジネスモデルで社内の理解も得難い状況だったと思います。ただ、それでは百貨店業界に変革やイノベーションが起こせない……。そのようにジレンマを感じる状況を、神谷さんはどのように打破していったのでしょうか?

三越伊勢丹・神谷氏 : おっしゃる通り、シェアリングサービスは既存の百貨店事業と真逆のビジネスになりますので、社内での抵抗感が強くありました。――そこで、サービスの承認を得るために3つの取り組みを進めていきました。

1つ目が、経営層にこの新しいサービスの必要性を理解してもらうことです。そのために、三越伊勢丹の経営方針をきちんと理解し、照らし合わせながら、シェアリングサービスが経営方針に相反するものではないと資料に落とし込み、経営層を説得しました。

2つ目は、社内に味方になる人を見つけ、巻き込むことです。幸いにもバイヤー部門の上長がCARITEのプロジェクトに興味を持ってくれて、後押しをしてくれたんです。それによって、徐々に味方が増えていき、社内連携もスムーズも進めることができました。

そして最後が、CARITEのアプリやシステムのプロトタイプを富士通さんに開発してもらったことです。プロトタイプがあることにより、周囲にも説明しやすく、理解を得ることに大きく役立ちました。

富士通・山田氏 : 今回の共創では富士通と三越伊勢丹が持つ、大企業ならではの強みが出せたと思っています。アプリやシステム開発などIT領域は富士通がコミットし、アパレル領域は三越伊勢丹さんが担当。それぞれの強みを持ちよりながら、サービスを作り上げました。――大企業がイノベーションを起こせない理由として、縦割りでなかなか承認がおりず、スピード感を持って進めないという部分があります。それらをお互いがカバーしながら前進できたと思います。

▲CARITE専用アプリの開発は、ファッション業界の知見を持つ富士通の張氏が牽引した。アジャイル開発を導入したことで、プロトタイプもスピーディーに作り上げることができたという。


■実績が何よりの提案材料になる

――CARITEのアプリ開発やサービスづくりは、どのように進めていきましたか。

富士通・山田氏 : 最初は付箋に必要な機能を書いていきながら要件定義を行い、デザインも含めアジャイルでプロトタイプのアプリを開発していきました。三越伊勢丹さんからCARITEの事業化について正式にGOが出た後は、本番環境に向けた開発へ移行しました。

また、開発の間に仕組みづくりも固めて、レンタルした商品のクリーニング方法なども検討しました。QRコードの付いたタグを商品に取り付けるのですが、タグがなくなると識別できなくなってしまうので、それが落ちないようにしたり、衣類の耐久性テストも行いましたね。レンタルだと1商品ずつ管理するためにオペレーションが煩雑になりますので、その部分をアジャストするなど、細かい点を解決していきました。

三越伊勢丹・神谷氏 : オペレーションをどうするかは非常に苦労しましたね(笑)。お客様に満足いただけるサービスを提供するため、起こり得るリスクを一つずつ排除していきました。

富士通・張氏 : CARITEはオンラインだけでなく、銀座三越で試着ができるオフラインの場所もあります。オンラインとオフラインがシームレスで繋がるために、お客様がオンライン予約から来店されているかなども、すぐ確認できる体制を整えました。

――CARITEのサービス開始時点では、ブランドや商品数はどれくらいありましたか。

三越伊勢丹・神谷氏 : 2018年6月に実証実験を行い、お客様にサービス提供を開始したのが同年8月。その時点で、13ブランド200アイテムを用意することができました。現在はその倍くらいに増えています。

CARITEに参加していただくために、さまざまなアパレルブランドにお声かけしていたのですが、当初は話しすら聞いてくれない企業もあったんです。しかし、サービス開始後の反響を見せたら興味を示してくれて、参加してくれるブランドが増えていきました。――まずはやってみるのが大事だなと実感しましたね。

▲CARITEは、リアルの「場」も提供。銀座三越3Fプロモーションスペースでの試着・レンタルにも対応している。


■サービスをリリースし、改めてニーズを実感

――CARITEをリリースした後の社内やお客様の反応はいかがでしたか?

三越伊勢丹・神谷氏 : 2018年8月1日に、銀座三越でプレスプレビューを行いましたが、メディア・マスコミ約30社が参加し、テレビや新聞社、雑誌社など多くのメディアがCARITEを取り上げてくれました。――それからは経営陣の目の色が変わりましたね(笑)。このプレスレヴューを通じて、シェアリングサービスは社会から求められていることを実感をもって理解していただくことができたんだと思います。

また、CARITEを体験したお客様にアンケートを取っていましたが、そこで「満足した」と答えた方が9割にのぼり、「こんなサービス待っていた」、「シンデレラ体験ができた」といった、嬉しいお言葉もいただきました。

――サービス利用者は20〜30代が多いですか?

三越伊勢丹・神谷氏 : 実証実験ではCARITEのニーズをブライダルやパーティーに絞っていたので、ブライダルゲストのためのレンタルが7割、あとは普通のパーティーでのご利用が多く、世代も30代以下が中心となりました。驚いたのは、70代の方からぜひ利用したいという意見をいただいたことです。幅広い消費者層にシェアリングサービスが浸透していることを改めて感じました。

富士通・山田氏 : もともと「服は借りるものではなく、買うものだ」という考えが三越伊勢丹さんの中にあったと思います。しかし、CARITEをリリースしてその考えが変わったのではないでしょうか。長年その世界を専門にビジネスを続けていると、世の中が変わってきていても、その部分に気付けない場合があります。今回の共創プロジェクトは、そういったことに気がつくためのキッカケにもなったと思います。

――富士通社内での評判はいかがでしたか。

富士通・山田氏 : 実は富士通の経営層にも「服なんかレンタルするの?」といった意見がありましたが(笑)、三越伊勢丹さんの本気の取り組みを見てもらうことで理解してもらえました。また、サービスリリース時のプレスプレビューで注目度の高さも分かりましたし、ユーザーの反響も大きかった。そして何より、三越伊勢丹さんから、「このサービスは意味のあることだ」と言っていただけたのが、とても嬉しかったですね。


■できない理由より、どうやったらできるかを考える

――これからのCARITEの展開についてお聞かせください。

三越伊勢丹・神谷氏 : CARITEをスタートさせて、シェアリングサービスのニーズがあることは分かりました。今後は、引き続き一つのサービスとして提供するのか、事業化して大きな収益を上げるビジネスに成長させるか、分岐点に来ていると思っています。個人的には事業化していきたいですし、CARITEを通してレンタルのその先の世界観も実現させていきたい。良い商品を循環させ、良い体験をどんどん広げていく。お客様のライフスタイルをより良くしていくサービスを目指していきたいと思います。

富士通・張氏 : 富士通では本プロジェクトの経験、ノウハウをベースに、様々な企業のシェアリングサービス導入や、店舗や販売員をデジタルでエンパワーメントするニューリテールの施策を支援していきます。

6月19日には、アパレル企業を中心とした小売企業の皆様がCARITEと同じように、モバイルアプリを通してオンラインと実店舗でシェアリングサービスを開始できるソリューション「Dassen boutique」(ダッセンブティック)の販売を開始しました。

――CARITEは大企業同士のオープンイノベーションの代表的な事例と言えると思います。最後に、みなさんが、業界に新風を吹かせるサービスを実現できた理由はどこにあったかを、改めてお聞かせください。

富士通・山田氏 : 富士通だけではシェアリングサービスを実現できませんでした。三越伊勢丹さんというパートナーがいてくれたからこそ実現できたんです。もし、他の企業に提案していたら、企画自体が通っていなかったかもしれません。さらに、張さんも富士通社内の他部署にいながら全力で協力してくれた。このメンバーでなければ、失敗していたかもしれない。――全て偶然かもしれませんが、それらを必然にできたのが成功の理由だと思います。

富士通・張氏 : このサービスが成功した理由は、やっぱりチーム力だと思います。私はシステムというサービスの裏側を担当しましたが、メンバーや協力会社が同じ方向を向いて開発に取り組んでくれました。アジャイル型の開発で、それぞれが自分で試行錯誤しながらプロジェクトを進めたことは、大きな力になったと思います。

三越伊勢丹・神谷氏 : 私たちはIT・デジタルにそこまで強くなく、専門用語も分からない。でも、富士通の山田さんが分かりやすく、噛み砕いて伝えてくれた。逆にアパレルの領域は、私たちが同じように説明しました。根気よくお互いが取り組めたのが、チーム力に繋がったと思います。

さらに、それぞれが自分の仕事はここまでと決めず、垣根を飛び越えて行動しました。そして、「できない理由を考える」のではなく、「どうやったらできるのか」を考えながらCARITEを作り上げたんです。できる方法を考えて、プロジェクトを前進させるという点は、今回、山田さんから最も学んだところかもしれませんね(笑)。


■取材後記

CARITEは百貨店業界では珍しいシェアリングサービスとして、大企業同士の共創プロジェクトとして、大いに注目されている。それを実現させたのは、取材した3名を中心とする若手社員たちだ。百貨店の商慣習に相反するシェアリングサービスを自社の経営方針に結びつけて役員を説得し、その材料としてアプリのプロトタイプをアジャイルで開発する。――お互いを補完しながら、スタートアップのように迅速に動いていく。そうした熱量とスピードが、このサービスが生まれた要因になったはずだ。今後、CARITEは事業をスケールさせ、日本に根付くシェアリングサービスとなるのか。これからも、その動向を追っていきたい。

※関連リンク : 「FUJITSU Retail Solution Dassen boutiqueシェアリングアプリ」製品サイト

(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:齊木恵太)