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【ICTスタートアップリーグ特集 #22:エルシオ】オートフォーカスグラスの最先端を走るプロフェッショナル集団は、人々の「視生活」をどのように変革していくのか

【ICTスタートアップリーグ特集 #22:エルシオ】オートフォーカスグラスの最先端を走るプロフェッショナル集団は、人々の「視生活」をどのように変革していくのか

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2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「共創の場」を提供するプログラムだ。

このプログラムでは総務省事業による研究開発費の支援や伴走支援に加え、メディアとも連携を行い、スタートアップを応援する人を増やすことで、事業の成長加速と地域活性にもつなげるエコシステムとしても展開していく。

そこでTOMORUBAでは、ICTスタートアップリーグの採択スタートアップにフォーカスした特集記事を掲載している。今回は、老眼者や眼病患者などの「視ること」に関する課題を解決するオートフォーカスグラスの開発を進めている株式会社エルシオを取り上げる。同社が開発を進める製品や技術の特徴・優位性、現在の開発状況、今後の事業の展望などについて、代表取締役の李蕣里氏に話を聞いた。

▲株式会社エルシオ 代表取締役 李蕣里 氏

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<スタートアップ解説員の「ココに注目!」>

■眞田幸剛(株式会社eiicon TOMORUBA編集長)

・2019年に創業した大阪大学発のスタートアップです。同社が独自開発した薄型・広視野・度数変化の幅が大きい液晶レンズは、電圧を変えるだけで度数や見え方を変えられる特殊なレンズです。視力の衰えなどによるメガネの買い替え、掛け替えの必要がなくなるだけでなく、将来的には目の状態や視力をセンシングし、自動で度数を合わせるオートフォーカスグラスの開発も予定しています。

・同社には、上記の液晶レンズを発明・開発した澁谷義一氏(CTO)に加え、大手メガネ会社の研究所で活躍していた技術者、電気回路系のエキスパートなど、多くのプロフェッショナルが揃っています。また、大阪大学との強固なつながりもあるなど、大学発スタートアップとしての強みも有しています。

・現状のプロダクトや技術、研究領域を考えると、教育業界や介護業界、映画業界などの企業とも相性が良さそうです。将来的にはグローバル展開も視野に入れているなど、様々なポテンシャルを秘めたスタートアップと言えるでしょう!

自分たちの技術で「視ること」に不安や課題を抱える多くの人たちを助けたい

ーーまずは起業の経緯について教えてください。

李氏 : 大阪大学の博士課程に在籍していた頃、大阪大学が主催する起業家育成イベント「リーン・ローンチパッドプログラム」で澁谷義一特任研究員(現:エルシオCTO)の発明した液晶レンズに出会い、「この技術は多くの人の役に立つ可能性がある。ぜひ事業化したい!」と強く思ったことが、エルシオ創業の直接的なきっかけとなりました。

その後、澁谷と共にレンズの応用先を調査し、大阪大学附属病院で様々な方へのインタビューを行っていた際に、小児弱視と知的障害を併発しているお子さんと出会いました。視力検査を受けるのも難しい状況であったため、その子のお母さんはお子さんの将来に大きな不安を感じられていたようです。

そのお母さんに、私たちが開発を目指している自動で視力を合わせるオートフォーカスグラスのことをお話しすると、「ぜひ開発してください! 完成したら連絡してください!」とおっしゃっていただけました。私自身も「自分たちの開発した製品で多くの人を助けたい」と考えていたので、そのときに完全に覚悟が決まりました。

ヘルスケア分野とXR分野をターゲットに据えて事業を推進していく

ーーエルシオが開発しているオートフォーカスグラスの特徴や独自性について教えてください。

李氏 : 私たちが開発している液晶レンズは、液晶を電気的に制御することで、レンズの焦点距離を様々な形でコントロールすることができます。近視や遠視(老眼)、小児弱視など、様々な目の課題に幅広く対応することが可能な技術です。

▲エルシオが開発中のオートフォーカスグラス(画像出典:プレスリリース

ーー現在、オートフォーカスグラスの競合製品は存在しているのでしょうか?

李氏 : 先日、ある企業様が物体との距離をセンシングするオートフォーカスグラスの先駆け的な製品をリリースされました。ただし、弊社が開発しているような日常的に使いやすいサイズのレンズではありません。また、弊社が開発を進めているグラスには、物体との距離を測るだけでなく、目の状態をセンシングする機能も搭載していく予定です。

ーー現在の製品開発状況について教えてください。

李氏 : 現在は開発フェーズの真っ只中ですが、2024年の秋頃には、手動でピント調節できるタイプの製品を企業様向けに販売していく予定です。自社で直接エンドユーザー様に販売するのではなく、様々な販売チャネルをお持ちの企業様と連携することで、その企業様が有する幅広いお客様に製品を届けていくことからスタートする方針です。

▲スマートフォン経由でピント調節可能なメガネのプロトタイプ(画像出典:プレスリリース

ーーヘルスケア分野とXR分野をターゲットに開発を進められているそうですが、まずは両分野ともに企業様向けに販売していく方針なのでしょうか?

李氏 : そうですね。ヘルスケア分野に関しては開発だけでなくターゲットの探索も含めて協業していく方針です。

また、XR分野に関しては、「どのようなデバイスを作るか」という部分から企業様と一緒に取り組みたいと考えています。基本的にXRグラスのメーカー様は、来年度以降の新しい製品に弊社のレンズを搭載したいといったニーズをお持ちです。具体的な用途についてはエンターテイメント、ビジネスソリューション、あるいはスマートフォンに代わる次世代デバイスとしてのグラスなど、千差万別なイメージですね。

ーーヘルスケア分野に関して、どのような企業様と、どのような課題にアプローチするかなど、決まっていることがあればお聞かせください。

李氏 : まだ公にお話しできる内容がほとんどないのですが、顧客の課題解決に対して真摯に向き合うトップのいる企業様との連携を進めている最中です。データのシェアやユーザーテストの場の提供など、中長期的な視野に立って様々な取り組みを進めていく方針で動いています。

ーーこのような流れの中、今回のICTスタートアップリーグでは、ヘルスケアAIを搭載したオートフォーカスグラス用システムの開発に取り組まれるということですね。

李氏 : その通りです。将来的にはXRの技術もオートフォーカスグラスとの一体化が進んでいくと考えています。ICTスタートアップリーグでは、そのような世界に至るための第一歩となるような取り組みにチャレンジしたいと思っています。

大阪万博では、多くの方々にエルシオの製品・技術を体験してもらいたい

ーー今後1、2年内における短期的な事業展望についてお聞かせください。

李氏 : 先ほどお話ししたXR分野に関してはレンズの提供が主となるため、私たちとしてはレンズの生産コストを下げていくことに注力し、出来る限り多くのユーザー様に手に取っていただきやすいような価格帯を実現したいと考えています。

もう一方のヘルスケア分野に関しては、お客様のニーズやペインをさらに深く理解し、協力企業様と一緒になって、それらを解決するためのソリューションを明確に定めていかなければならないと考えています。

また、2025年に開催される大阪万博への出展も決まっています。大阪万博ではオートフォーカスグラスのプロトタイピングを行うほか、2024年秋のリリースを目指している手動でピントを調節できるメガネなどを展示し、多くのユーザー様が手に取って体験いただける場にしたいと考えています。

ーー5年後、10年後を視野に入れた長期的なビジョンについても教えていただけますか?

李氏 : 私たちが大阪大学で作っていたのは「液晶レンズ」というハードウェアでしたが、そこにユーザー様の目の情報から得られたデータおよび解析結果を加えていき、レンズへのフィードバックを自動的に行う製品を開発したいと考えています。そのようなソフトウェアが載ったハードウェアとしてのヘルスケアレンズを生み出し、2030年までには、日本から世界に向けて発信していくことを目指していきます。

ーーエルシオが実現を目指す「XRグラスを通して人々の眼のビッグデータを収集・解析するヘルスケアプラットフォーム」にも通じるお話しなのでしょうか?

李氏 : まさしくそのものですね。ヘルスケアプラットフォームの拡充に伴い、弊社のレンズの入ったメガネが多くの皆様に使われている未来を想像していますし、そのような世界を創り出していくことが、私たちの大きな目標となっています。

スタートアップのカルチャーや考え方を尊重してくれる企業様と協業したい

ーーエルシオの今後の戦略やビジョンをお聞きしていると、どのような企業と連携するかが重要になりそうです。これから先、どのようなタイプの企業とのオープンイノベーションをイメージされていますか?

李氏 : ヘルスケア分野での協業が想定されるリテーラー様であれば、単純にデザイン性が高くて安いメガネを販売することだけに重きを置くのではなく、「本当に必要な機能を備えたメガネを、本当に必要な人たちに届けたい」という私たちの思いに共感いただける企業様と協業したいと考えています。そのような企業様であれば、国内企業様に限らず、海外企業様でも連携させていただきたいですね。

XR分野に関しては、XRグラスをエンターテイメント領域で使うことだけにとどまらず、「もっと世の中を便利にしたい」「社会や人々の暮らしにも貢献したい」といった大きなビジョン・構想をお持ちの企業様と協業したいと思っています。また、XR分野に関しては、必然的に大手企業様と連携するケースが多くなると考えていますので、スタートアップのカルチャーや考え方を尊重してもらえる企業様であれば尚嬉しいです。

取材後記

エルシオは、独自開発した液晶レンズの展開だけにとどまらず、手動で度数を調節できるメガネやXRグラス、自動で度数を調節するオートフォーカスグラス、さらには収集したデータを活かすことでメガネがスマートフォンや健康サポート器具のように機能するヘルスケアプラットフォームまで構想している。自社の強みであるレンズのテクノロジーを起点に、次々と大きな価値創造へのチャレンジを見据える同社のマイルストーンは、他のスタートアップと比べても非常に魅力的である。同社の事業に可能性を感じた方々や同社とのオープンイノベーションにチャンスを見出せそうな企業は、ぜひ積極的にアプローチしてほしい。

※ICTスタートアップリーグの特集ページはコチラをご覧ください。

(編集:眞田 幸剛、文:佐藤直己)

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  • 奥田文祥

    奥田文祥

    • 神戸おくだ社労士事務所
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  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

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