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「紫外線対策」後進国の日本にイノベーションを――コーセーが高3女子起業家の共創プランを採択

「紫外線対策」後進国の日本にイノベーションを――コーセーが高3女子起業家の共創プランを採択

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1946年の創業以来、化粧品業界を牽引する株式会社コーセー。40以上の多彩なブランドを展開し、さまざまな販売チャネルで提供している。

コーセーは、2019年3月期は6期連続で売上高・営業利益・純利益とも過去最高を塗り替えた。特にアジア圏では前年比46.1%増の売上高を記録するなど、グローバルブランドとしても急激に成長をしている。また、2019年12月には、銀座にデジタルと体験を融合したコンセプトストア「メゾン コーセー」をオープンさせ、パナソニックやカシオとの協業を行うことでより豊かな顧客体験の創出にも取り組んでいる。

そんな同社が2018年よりスタートさせ、今年で2回目を迎えるアクセラレータープログラム「コーセーとの共創における Innovation Program」のデモデイが、2019年12月13日、コーセー本社で開催された。

6チームが提案を行った結果、1チームの提案が採択。――それが、高校3年生の伊藤瑛加氏が代表を務める株式会社Sunshine Delightの共創チームによる「紫外線から美と健康を守るプロジェクト」だ。また、残るファイナリスト5チームのプランも、コーセーの関連部門との連携によって継続的な取り組みを検討していくこととなる。今回は、その詳細をレポートしていく。

「感性にテクノロジーを。美に新体験を。」をテーマに、6領域で共創を図る

いま、化粧品業界は、グローバル競争の激化、ECの発展、AIなど先端テクノロジーとの融合、ニーズの多様化やSNSの台頭による需給予測の困難、新規事業開拓の必要性など、大きな変革の時を迎えている。こうした状況の中、コーセーはオープンイノベーションに着目。

これまでコーセーが蓄積してきたリソースと、社外の技術やアイデアを組み合わせ、共創による新たな価値創造を目的としたアクセラレータープログラム「コーセーとの共創における Innovation Program」を、2018年にスタートさせた。第1回目は、量子コンピューティングに強みを持つ株式会社MDRの提案が採択され、共創が進んでいる。

2回目となる今回は、「感性にテクノロジーを。美に新体験を。」をテーマに設定。前回は3テーマだったが、今回は6テーマの幅広い領域に拡大した。

(1)デジタルマーケティング部門/リアル×デジタルによる新しい顧客体験の創出

(2)研究開発部門/先端技術や新素材を活用した新たな化粧品創造、研究プロセスの革新

(3)生産・SEM部門/生産・物流・需給予測の自動化/高度化

(4)商品開発・美容開発部門/グローバル市場で独自性を生み出す商品開発や美容提案力の強化

(5)新規事業・beautytech領域/新領域での美容サービス・ビジネス創出

(6)人材開発部門/次世代組織や人材が活きる仕組みづくり

2019年6月の募集開始以降、86社の多様なスタートアップ企業から応募があった。そこからテーマごとに選抜された6社と、コーセーの社内ベンチャー制度「Link」に立候補した社員が、6つの共創チームを結成。外部有識者や役員によるメンタリング、社内リソースの活用、プレ実証実験の実施など3カ月以上かけて提案をブラッシュアップし、デモデイに挑んだ。

イノベーティブな取り組みが、日常的に起こるために

デモデイでは、コーセーの代表取締役社長 小林一俊氏、常務取締役の小林正典をはじめとする役員と、外部有識者として株式会社WiLのCEO伊佐山元氏が審査員となり、各提案の評価を行った。審査基準としては、提案の独自性・新規性や、中長期での協業意識を重視。ファシリテーターには、プログラムでのメンタリングサポートもつとめた株式会社インキュベータの石川明氏を迎えた。

▲コーセー 代表取締役社長 小林一俊氏をはじめ、経営に携わる役員陣が出席し、審査を行った。

冒頭、まずはコーセー執行役員 原谷美典氏が開会の挨拶を述べた。原谷氏は「メンタリングの過程でも、非常に有望な提案が多いという声が上がっている。こうしたイノベーティブな取り組みが、日常的に起こるようになって欲しい」と期待を述べた。

続いてWiLの伊佐山氏が、「こうしたイベントは、継続して流れをつくっていくことが大切。コーセーにとっても、スタートアップにとっても、ここが学びの場、ブラッシュアップの場になればいいと思う。また、コーセーのようにIT産業ではない企業が、IT企業と戦わなければならない時代の中、新しいモノを組み合わせていく場は不可欠。ぜひ、想いをストレートにぶつけて欲しい」と、これからプレゼンテーションに臨む6チームを激励した。

採択チームは高校3年生が代表取締役社長を務める株式会社Sunshine Delight!

【新規事業領域】 株式会社Sunshine Delight 『紫外線から美と健康を守るプロジェクト』

6チームによるプレゼンテーションの後、審査が行われ、採択されたのは株式会社Sunshine Delight。代表取締役社長の伊藤瑛加氏は、高校3年生だ。

2019年設立の同社は、性別や年齢、ハンディの有無に関わらず、すべての方々が「太陽の下で安心して暮らせる環境」づくりに取り組んでおり、紫外線下でも、より安心して過ごすことができる社会を目指すプロジェクトを提案。“大容量×子供向け× 環境にやさしい”日やけ止めの開発と幼児期からの日やけ止めの使用習慣を定着させる啓蒙活動の推進を行い、さらには、幼稚園・保育園への日焼止め製品および教育教材の販売を推進する予定である。

「紫外線から美と健康を守るプロジェクト」をテーマにプレゼンテーションを行った同チーム。オゾン層の破壊など環境の変化により、グローバルで注目される「紫外線対策」。皮膚がんの発症率の高いオーストラリアなどでは、幼児期から日焼け止めの習慣化が進んでいる。しかしながら、日本では未だに学校で日焼け止めの使用が禁止されるなど、対策が遅れている。

そこで、“大容量×子供向け×環境にやさしい”日やけ止めの開発、そして国内の保育園・幼稚園・小中学校に対して、紫外線に対する正しい知識と日焼け止めの使用についての教育を実施するプランを提案。太陽の下で安心して暮らせる世の中の実現という大きな社会問題への貢献と共に、紫外線対策ブランドとしてのコーセーの認知向上も狙うという事業的な側面でのメリットも示した。

コーセー常務取締役 小林正典氏は、「満場一致の採択だった。事業的な側面のみならず、日本ではまだ意識が低い『紫外線対策』は、全社で取り組むべき課題。さらに、サンゴ礁に有害な成分を含む日焼け止めの使用禁止法案がハワイなどで成立する中、『環境にやさしい』日焼け止めの開発も行うという提案内容も評価された。そして、伊藤社長の熱意がストレートに伝わってきたことも大きい。事業化に向けてさまざまなハードルがあるが、なんとしてもこの事業を成功させて、新たな習慣を作るべく、共創していきたい」と、採択チームを評した。

Sunshine Delight代表取締役社長の伊藤氏は、「このアクセラレータープログラムを通して、チームを組んだコーセー社員3名をはじめ、たくさんの方のサポートをいただいた。スピード感を持って事業化に向けて駆け抜けたい」と、感謝と決意の言葉を述べた。

また、Sunshine Delight以外のファイナリスト5社については、提案内容がそのまま採択とはならないものの、コーセーの関連部門との連携により継続的な取り組みを検討していくという。

ファイナリスト5社によるプレゼンテーション

【デジタルマーケティング領域】 株式会社ACES 『Deep感性~ユーザーのメイクアップ感性を科学する~』

ACESは、2017年設立。東京大学松尾研究室のスピンオフベンチャーであり、Deep Learningを用いた画像・動画解析のアルゴリズムライセンス事業を行う。人の表情や身体動作を認識するヒューマンセンシングに強みを持つ。

同チームが提案したのは、「Deep感性~ユーザーのメイクアップ感性を科学する~」。コスメ領域は、「感性」が非常に重要である。しかし顧客の感性というものは、曖昧で捉えどころがなく、データ基盤もない。その領域に科学的に切り込み、画像解析などでユーザーのメイクアップにおける感性を解析・定量化するDeep Learningのアルゴリズム「Deep感性」を開発。それをAPI化し、コーセーの多様なサービス・商品に展開し、「個人の嗜好性」を反映した新しい美体験を提供するというものだ。

【研究開発領域】 aiwell株式会社 『 “美肌”の内側を解明。』

続いて発表を行ったのは、2018年設立のaiwell株式会社のチーム。東京工業大学の中に協働研究拠点を構えるaiwellは、タンパク質を網羅的に解析し生体の今をAIを用いて細胞レベルで特定する技術、「AIプロテオミクス」の実用化と社会実装を進める。

「“美肌”の内側を解明」をテーマにプレゼンテーションを行った同チームは、「“美しい肌とは何か”を解明するには、体内と肌との関係を知ることが必要」だとし、血液中のタンパク質と肌の美しさの関係に着目。体内のタンパク質の状態を1枚の画像に表して身体の状態を把握する技術を用いて、肌の“未病”状態を捉え、一人ひとりに最適なスキンケアカウンセリングを提供できると提案を行った。また、このサービスによって、肌チェックのための定期的な来店動機の形成につながることも強調した。

【商品開発領域】 株式会社アルヴォリ 「世界で美しい文化を創造する企業KOSÉを目指す。」

2017年設立の株式会社アルヴォリは、工芸職人とともに伝統技術を活かした商品の開発、海外販路開拓の支援を行っている。伝統技術の新たな可能性を広げるために、企業とのコラボレーションも積極的に取り組む。

アルヴォリチームは、「世界で美しい文化を創造する企業KOSÉを目指す。」をテーマに据えた提案を行った。グローバル市場の拡大にあたり、国ごとに異なる嗜好や習慣、ライフスタイル研究をベースとした、ローカライズされたサービスや商品開発を行うことが必要である。

そこで、日本の伝統工芸と各国の生活習慣等を融合させた独自性の高い商品開発や、美容提案力を強化する専門部隊「KOSE GROBAL beauty center」の設立を提案。また、木工、江戸切子、和紙など、日本の伝統工芸作家とコラボレーションした商品のプロトタイプも披露した。

▲審査員席に運ばれた、伝統工芸作家の手によるプロトタイプ。

【生産・SCM領域】 株式会社aiforce solutions 『AIミライ予測』〜美しい知恵、後世(KOSÉ)へ〜

次に登壇したのは、株式会社aiforce solutionsのチームだ。2018年設立の同社は、AI民主化をビジョンに、AI専門家でなくても数クリックでAIによる予測を可能にする「AMATERAS RAY」という機械学習の自動化ツールを開発、販売、AIコンサルティングを提供している。

同チームは、「『AIミライ予測』〜美しい知恵、後世(KOSÉ)へ~」と題し、化粧品業界の大きな課題の1つである需要予測に切り込む提案を行った。企業戦略や顧客行動が多様化する今、需要予測は困難を極める。しかしながら、需要予測は未だ属人的であり、品切れや在庫過多といった課題が企業経営を圧迫する。

そこで、AIを活用した新しい需要予測の仕組みづくりを提案。データサイエンティストといった専門家ではなくとも需要予測ができるツールを開発し、余剰在庫の削減などにつなげると発表した。

【人事領域】 EDGE株式会社 『日本初!音声解析技術を用いた「心理的安全性」可視化システム』

2017年設立のEDGE株式会社は、「エアリーシリーズ」を通じて多様な人事課題を解決する、HRテック企業だ。支援先は大手を中心に600社を超える。

EDGEチームが提案したのは、「日本初!音声解析技術を用いた『心理的安全性』可視化システム」。彼らが着目したのは、販社の若手営業のマネジメントだ。人員構成の半数ほどを占める若手営業のパフォーマンス向上は、業績に直結する。しかしながら、成長に向けた課題も多い。若手営業の生産性を高め、飛躍的な成長を実現するには、「心理的安全性」がカギとなる。

そこで同チームは、音声解析により心理的安全性を可視化するシステムを、上司と部下とのミーティング等に活用し、人財マネジメントに変革を起こすことを提案。実際にデモを使いながらプレゼンテーションを行った。

▲デモ画面。リアルタイムで心理状況を解析、可視化されていく。

全体的にレベルの高い提案。残り5社との継続的な取り組みも検討。

小林常務は、全体的な提案レベルの高さにも言及し、ファイナリスト5社についても、「これで終わりではなく、これからのスタートとして、チームで引き続き議論を続けていきたい」と、前向きな姿勢を示した。――そして、1社ごとの提案も評した。

ACESチームについては、「感性をデータ化するというアプローチは素晴らしい。12月オープンの『メゾン コーセー』での活用など、具体的な活用シーンがあるといい」と、アドバイスをした。また、aiwellチームには、「これまでなかった新しい視点の提案。難しい研究テーマであるため、すぐに事業化というものではなく、基礎研究の1つの要素として、長期的なプランで検討できれば」と、見通しを述べた。

そして、アルヴォリチームには、「日本文化をそのまま海外に持っていくのではなく、欧米文化に迎合するのでもなく、その土地にローカライズさせるという提案が素晴らしかった」と、評価した。さらに、aiforce solutionチームの提案には、「在庫問題は喫緊の経営課題であり、頭を悩ませている。AIでこの課題を解決できるのであれば、すぐにでも入れたいという声もあった」と述べ、緊急性の高いテーマであることをうかがわせた。

最後に、EDGEチームに向けて、「メンタリングの際のアドバイスを反映し、飛躍的に提案が良くなった。まずは音声解析という1つの要素からだが、活用の仕方が色々と広がる提案だと思う」と、可能性を示した。

ファシリテーターを務めた石川氏は、「審査は、小林社長の『全部実現すればいい』という一言から始まった。最終的には1社採択となったが、他の5社も引き続き現場の部署とひざを突き合わせてプランを詰めていくことで、きっと実現できると思う」と語った。

続いて、WiLの伊佐山氏は総評として、「前回からプログラムの進化を感じた。提案内容が具体的で非常に完成度が高く、すぐに使えそうな発表が多かった」とコメント。

そして、「これまで1万を超える事業プランを見てきたが、優れたビジネスプランには(1)バイアビリティ:ビジネスとしてのポテンシャルや継続性、(2)フィージビリティ:実用化するための技術力や強み、(3)デザイヤビリティ:市場とお客さまからのニーズ、これら3要素がバランスよく含まれている。しかしながら、近年は優れた提案も多く、審査員はますます頭を悩ませる。

そこで最も重要な要素となるのは、言葉や情熱。最終的には、論理を超越して、人が人の心を動かす。イノベーターやアントレプレナーは、何万人という数から選ばれなければならない。だからこそ、ファウンダーがどれだけ夢があり、情熱があり、市場に受け入れられるかといった本気度の部分が非常に大切になる」とアドバイスとエールを送った。

取材後記

「紫外線から美と健康を守るプロジェクト」は、WiL・伊佐山氏が語った「優れたビジネスプランの3要素」も、「ファウンダーの夢や情熱」もすべて揃ったプランだと感じた。そして、コーセーにとっても事業的かつ社会的な意義も大きい。

審査結果発表の際、小林常務が「インフルエンザなどの感染症予防のため、公共機関やビルなどに、アルコール消毒剤が備え付けられるようになったのも、つい最近のこと。同様に日焼け止めも、全国の学校や施設に短期間のうちに普及・常設させることができるのではないかと思う」と語っていたのが印象的だった。

幼い頃から日焼け止めを塗る習慣が、日本に根付くのもそう遠くない未来なのかもしれない。コーセーのオープンイノベーションの取り組みに、今後も注目していきたい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)

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