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「コロナ禍は“革新”のチャンス」 仙台・老舗百貨店トップに聞く、オープンイノベーション戦略とは?

「コロナ禍は“革新”のチャンス」 仙台・老舗百貨店トップに聞く、オープンイノベーション戦略とは?

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1819年(文政2年)に創業し、200年もの歴史をもつ百貨店「藤崎」。仙台の中心である一番町に本店を構え、東北5県には17店舗もの地域店舗を展開。東北を代表する百貨店として、高い支持を得ている。

同社は「伝統ある老舗」としての地位を築いている一方で、業界の常識を覆すような新たな取り組みにも積極的だ。過去には国内で初めて、ダブルエスカレーターを百貨店に導入するなど、先進的な取り組みで世間を沸かせたこともあるという。

新型コロナによる打撃もあり、苦境にあえぐといわれている百貨店業界だが、そんな荒波のなかで、藤崎がどのような戦略をとっているのか。本記事では、取締役として事業を牽引する㔟田誠一氏へのインタビューをもとに、地方百貨店の抱える課題や、それを打開するためのオープンイノベーション戦略、具体的な取り組みと成果について紹介する。


▲株式会社藤崎 取締役 営業副本部長 㔟田 誠一(せた せいいち)氏

1996年に入社し、約11年にわたりリビング部門などでバイヤーを担当。その後、食料品部門でのバイヤー、マネージャーを経験。経営企画を経て、営業企画や営業推進部門で地域の課題解決などに取り組む。店長を3年経験した後、現職へ。富山県出身、ロシア発祥の格闘技「サンボ」において日本チャンピオンの実績も持つ。

「アパレル依存」の弊害が、浮き彫りとなったコロナ禍

――まず、百貨店業界のトレンドや、地方の百貨店が置かれている現状からお伺いしたいです。

㔟田氏 : 長期的に見ると、百貨店業界は1991年まで、継続して右肩上がりを続け、小売の王者として君臨をしてきました。それが、1991年のバブル崩壊をきっかけに潮目が変わり、少しずつ過去の蓄積を失ってきたというのが現状です。私自身、10年近く現場にいましたが、現場は一生懸命に取り組んでいるものの、時代の流れとずれて、疲弊していくのを肌感覚として感じてきました。

背景にあるのは、やはりカテゴリーキラーの登場です。ファストファッション、アウトレットモールや直近だとECですね。加えて、小売の商流そのものを崩すようなシェアリングサービスなども出てきました。百貨店業界としては、そのサインに気づいてはいたものの、過去の成功モデルにとらわれて、アクションを起こせませんでした。これが、業界全体が共通認識として感じている反省点だと思います。

――なるほど。御社は東北を代表する百貨店として地位を確立されています。東北は少子高齢化や人口流出が深刻だと聞きますが、その影響などはありますか。

㔟田氏 : 東北の百貨店は相対的に苦戦をしています。ただ藤崎は、本店のある仙台が東北のハブ拠点として一極集中していることや、商圏が東北全域と広いため、比較的健闘はしています。過去10年の売上推移をみると、東北の百貨店全体では、2010年と比較して75%まで売上が下がりました。一方で、藤崎は商圏に恵まれていることもあり、105%と売上を維持しています。

――10年前と比較してプラスなのですね。新型コロナによる影響はありましたか。

㔟田氏 : 新型コロナがきっかけで、アパレル依存からのシフトを、より強く認識するようになりました。というのも、従来の百貨店モデルでは、地方の窓口として東京のトレンドを提案していけば、ある程度の売上をキープすることができたのです。正直なところ、少し他人任せなビジネスモデルでした。それが新型コロナの影響で、お取引先の倒産などもあり、花形の婦人服フロアを埋められない状況になりました。

――アパレル依存の弊害が一気にきたと。

㔟田氏 : そうです。しかし、もともと中長期的には「アパレル依存をやめて、商品構成を変えよう、ポートフォリオを組み替えていこう」との考えはありました。「劇的に舵を切っていかねばならない」という危機感は持っていましたので、今回のコロナ禍は、変化の好機だと捉えています。今までの習慣を崩し、若手を中心とした意識改革を進めるチャンスです。

――「ピンチはチャンス」ということですね。

㔟田氏 : はい。それと、こういった有事のときに改めて気づかされるのは、藤崎に対するお客様からの支持です。休業後に営業を再開したとき、お客様からたくさんの応援メッセージをいただきました。2011年の東日本大震災の際もそうでした。コロナ禍で、お客様から必要とされていることを再確認できたので、これを資産として、次につなげていきたいと思っています。私は、伝統と革新のバランスが非常に重要だと考えています。今後、お客様からの信頼・支持という資産を活かして、革新につながる取り組みを推進していく考えです。


キーワードは、「地域活性化」と「デジタル化」

――“革新”ということですが、どのような方向性で、新しい取り組みを推進していかれるご予定ですか。

㔟田氏 : 重視していることは2つあります。1つ目は、「より地域のことを知り、街づくりを含めた地域の活性化を推進すること」。2つ目は、「デジタルを含めた、新しいお客様へのマーケティング手法を確立すること」です。とくに1つ目について、藤崎は長い間、「地域発展主義」を経営理念のひとつに掲げてきましたが、昨今、地域発展の手法が変わってきていると感じています。

先ほど申し上げたように、今までは東京のトレンドをいち早く提案していくことが、私たち地方百貨店の役割でした。しかし、今はどちらかというと、地域自体を活性化するストーリーやその背景を、発信していくことが求められています。そうなったときに、地方百貨店の役割というのは、地域の良質なもの、そのこだわりや哲学、ワクワク感などを、しっかりとカテゴライズして発信していくことに変わっていくと思います。

ただ、短期的な利益につながらない新しい取り組みに対して、人的リソースを割きづらいという実情もあります。それに対して私たちは、2018年に「未来創造ラボ」という新組織を立ち上げ、一歩を踏み出しました。本日同席している千葉や山田が主体となって活動する「未来創造ラボ」では、仙台市さんと一緒に地域のブランディングに取り組んだり、クロステック(「SENDAI X-TECH Innovation Project」)に参加したりと、今まで私たちができなかったことに取り組んでいます。

――新しい取り組みにリソースを割きづらい中で、「未来創造ラボ」を立ちあげられたとのことですが、何か突破口のようなものがあったのでしょうか。

㔟田氏 : ポイントは、ポートフォリオの足りない部分を可視化したことですね。情熱と意志をもって取り組むことを出発点として、そこに対して強みと機会が合致したときに、話題性を生んでお客様から支持をされます。お客様から支持された部分がコア事業となって、売上と利益に結びつくのですが、売上や利益につながらない「新規事業等のスタートアップの重要性」を可視化したことが、よかったと思っています。


仙台市やスタートアップとともに、新しい取り組みを推進

――2019年5月に、官民連携で仙台地域ブランド「都の杜・仙台」を立ち上げられました。先ほどお話に出た、地域ブランディングの一環だと思いますが、どのような成果が生まれていますか。

㔟田氏 : 「都の杜・仙台」は、仙台市さんと企画段階から一緒に取り組みました。この動きを始めたことで、既存事業を運営しているメンバーも地域ブランドに関わってくれるようになりましたし、地域ブランドを編集することに価値を感じてくれるようにもなりました。

また、羽田空港にある「和蔵場 ~WAKURABA~」という売り場に商品を卸すといった、今まで取り組めなかった領域のマーケティングもできるようになりましたね。これまでも、地域の生産者様と新商品を開発したり、地元の高校・大学と産学連携の商品づくりなどを手がけてきましたが、これに横串を通して考えられるようになったことが、「都の杜・仙台」の成果だといえます。



――昨年度開催された仙台市主催の事業共創プログラム「SENDAI X-TECH Accelerator」では、ミューシグナル社やヒナタデザイン社と共創されました。取り組んでみて、どうでしたか。

㔟田氏 : ミューシグナルさんとの取り組みからお話しすると、過去の百貨店は、五感を刺激するような特別な場所で、買い物をできることが評価されていました。昔はエンターテインメント的な空間を創出できていたのです。しかし、利益や売上、効率を重視しすぎる中で、少しずつ失われてしまった。それをもう一度、見直すきっかけになったと思います。

具体的には、ミューシグナルさんのハイレゾスピーカーと特殊効果音を売り場に導入しましたが、「購買に至るまでの経緯の中で、音がどのような影響を及ぼすのか」「通常の音との違いは何か」を考える機会になりました。実際に、お歳暮ギフトセンターやおせちの特設会場、それに精肉の試食コーナーなどで試してみましたが、各売り場の販売員のみなさんにも、効果を感じてもらえたと思います。

この取り組みを行ったことで、今まで気にしなかったところに目がいくようになりました。たとえば、「メッセージ性を含めた一輪の花を置いてみよう」といったアイデアが、社内から出始めています。五感を刺激する空間づくりを進めるうえで、よいきっかけになりましたね。


▲ミューシグナルが提供する「SIZZLE PANEL」。ハイレゾスピーカーと特殊効果音源を組み合わせた「おいしい音」により集客効果を生み出す。

――百貨店内の空間づくりに、変化が生じているのですね。ヒナタデザイン社との取り組みは、デジタル化の推進に関連すると思いますが、どのような変化がありましたか。

㔟田氏 : ヒナタデザインさんとは、AR技術を用いたエプロンの着せ替えアプリをつくり、新しい体験の創出に取り組んでいます。コロナ禍のイエナカ消費ということで、リビング商品が注目されているのですが、遡ってみるとエプロンは非常に苦戦をしているアイテムでした。取引先も、この状況をなんとか打開したいとの思いがありましたので、当社だけではなく取引先も巻き込んで、新しい販売の仕方に挑戦しました。

私たちはAR技術に知見がなかったですし、リモートでの接客や非接触で買い物をしていただくための成功モデルを描けていませんでした。今回、ヒナタデザインさんのお力を借りて実現できたことが、非常によかったと思います。コロナ以前だと、社内から必要性を疑問視することもありましたが、コロナをきっかけに、「一人ひとりが変わらなければならない」という意識を強く持ったことで、この取り組みを進めることができましたね。

学生から提案を受けるなど、社内外への「波及効果」を実感

――㔟田さんは、「SENDAI X-TECH Accelerator」で審査員を務められました。スタートアップのみなさんと接することで、何かお感じになったことはありますか。

㔟田氏 : 百貨店は、どちらかというと失敗できない状態でスタートする風土ですから、仮説検証を繰り返しながらブラッシュアップしていくスタートアップの進め方には、文化の違いを感じました。それに、私自身、分かっているつもりではいたのですが、リスクばかりを指摘してしまうようなこともありました。改めて、スタートアップの意義をよく理解して、スタートアップとの共創に取り組む理由を、社内のメンバーに対し、よりシンプルかつ明確に伝えていく必要があると思いましたね。

今、デジタルでの接客などが世間から求められています。しかし、百貨店業界はその進捗が圧倒的に遅いですから、そういったデジタル技術を導入するときに、自社だけでは当然できません。ですから、より多くのスタートアップの知見を取り入れつつ、仮説検証の方法自体も学びながら進めていかないと、うまく機能しないでしょう。そういう意味でも、まず社内の受入れ体制をしっかりと構築していくことが、一番大きな課題だと捉えています。



▲2020年1月に行われた「SENDAI X-TECH Accelerator」審査会の様子

――本日、「未来創造ラボ」の千葉さんと山田さんも同席されていますが、お二人からもご感想をお聞きしたいです。

山田氏 : ヒナタデザインさんとの共創で印象に残っているのは、若手社員が売り場の中心となって、先輩社員に使い方を教えていたことです。新しいものを取り入れることで、若い世代がアイデアを出しやすい環境を醸成できるのではないかと感じました。売り場の若い世代からも、どんどん新しい創造が生まれるように、「未来創造ラボ」の取り組みを加速していきたいです。

千葉氏 : 私からは2つあります。ひとつは共創の可能性を強く感じたことです。各分野で強みを持った人たちがたくさんいるので、私たちの目標を達成する手段として、共創は有効だと感じました。もうひとつは、波及効果です。今回、社内はもちろん、地域の事業者の皆様や同業他社に対する波及効果も実感できました。

印象的だったのは、学生さんから私に直接、提案の電話がかかってきたことです。他企業さんにも、「藤崎さんがおもしろいことを始めた」という印象を持っていただけたり、率先して取り組んでいる姿をシェアできたことは、とてもよかったと思います。


▲「未来創造ラボ」の千葉氏(写真左)と、山田氏(写真右)

――最後に、御社と共創を検討している人たちに向けて、メッセージをお願いします。

㔟田氏 : 東北・宮城・仙台の良質なものを域外に伝えていくという部分で、様々な協業をしていきたいと思っています。当社の取り組みや営業活動をご覧いただいて、私たちに足りない部分があればご提案いただけるとうれしいですし、一緒に地域に対してよい影響を与えていければと思います。

取材後記

200年もの歴史を持ち、呉服店から百貨店へと時代にあわせて転換を図ってきた「藤崎」。コロナ禍を好機ととらえ、次の時代に向けた戦略転換、意識改革を加速している様子が伝わってきた。“伝統”と“革新”――守るべきものは守り、変えるべきものは変える。これから、同社がどのように変化していくのか。引き続き、注目していきたい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)

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