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【知財のプロ・深澤氏の視点(1)】 米国・日本の宇宙開発の「今」と、オープンイノベーション

以前、eiicon labに登場いただいた明立特許事務所 所長弁理士 深澤潔氏。弁理士・技術士、そしてイノベーションパートナーとして、10年以上にわたり300社以上を「知的財産」の観点から支援してきた深澤氏だが、実は、石川島播磨重工業(現:IHI)において宇宙開発に携わるエンジニアを経験したという異色のキャリアを持つ。そんな深澤氏の視点から、現在の国内外の宇宙産業について、そして、宇宙開発におけるオープンイノベーションについて、コラムを寄稿してもらった。

*関連記事:【弁理士・深澤氏に聞く】「知的財産」を活かしながら「共創」を生み出すためのノウハウとは?



今まで政府中心だった宇宙産業でも元気なベンチャーが出てきました。お世話になった宇宙産業が元気になっていることは大変嬉しいことです。そこで、オープンイノベーションに関するコラムを始めるにあたり、まずは宇宙産業を取り上げてみたいと思います。

1.米国における宇宙開発

世界における宇宙産業は、衛星産業と政府の宇宙事業関連支出など衛星以外の宇宙事業とに大きく分かれます1)。衛星産業については民間企業の参入が古くから行われてきましたが、近年、宇宙輸送についても民間企業の参入が進むようになりました。

■官から民へ

NASA(米航空宇宙局)は2014年9月16日、国際宇宙ステーション(ISS)と地上とを行き来する新しい有人宇宙船開発の委託先として、米ボーイング社と米スペースX社を選定したと発表しました。

スペースシャトルの引退後、ISSへの人員輸送はロシアのソユーズ宇宙船、貨物輸送は同じくロシアのプログレス補給船、欧州の補給機 (ATV)、日本の宇宙ステーション補給機 (HTV)に限られていました。しかし、貨物輸送については米スペースX社のファルコン9とドラゴン補給機、米オービタル・サイエンシズ社のアンタレスとシグナス補給機を使用した商業補給サービス (CRS)が開始され、そして人員輸送についても民間委託が開始されました。

この米スペースX社や米オービタル・サイエンシズ社は、もともと宇宙ベンチャーとして立ち上げられた会社です。米国の宇宙開発はNASAとともに軍事産業に関連する米ボーイング社や米ロッキード・マーチン社といった大手企業中心に行われてきました。それが近年の宇宙関連国家予算の縮小や議会からのコスト削減要求に伴う選択と集中によって、宇宙利用分野における宇宙開発事業が民間に委託されるようになってきました。

■宇宙ベンチャーの活躍

現在、ロケットの打ち上げなどで話題になる宇宙ベンチャーの多くは、2000年代初頭に立ち上げられた会社が多いです。ここ数年では、投資を含めてIT企業の積極的な参入が見られます。例えば、ロケット開発・打ち上げ分野でのSpaceX社、Blue Origin社、インターネットインフラ分野でのSpaceX社、OneWeb社、Google社、Facebook社、リモートセンシング分野ではPlanet Labs社、Spire Global社といったところです1)。

IT・通信機器/技術の進歩により小型衛星を安価で短期間に開発・製造できるようになり、より安価かつ高頻度で衛星データを収集できるようになってきたことから、これらビッグデータを利用して新たなサービスを生み出そうと投資が行われるようになってきました。

一方、宇宙輸送分野で宇宙ベンチャーが成長できた要因として、次のようなものがあるといわれています2)

●民間の資金援助

●政府の資金援助

●政府による開発支援・調達

民間の資金援助で賞金付きコンテストとして有名なのはXプライズ財団によって運営されたAnsari X Prizeです。いくつもの開発チームが高度100kmの有人宇宙飛行の実現と賞金の1,000万ドルの獲得を目指しました。2004年に米スケールド・コンポジッツ社によって開発されたSpaceShipOneが賞金を獲得しています。現在は、月面無人探査を目指すGoogle Lunar X Prize (優勝2000万ドル)が進行中です。

その他にも、宇宙開発事業に特化したアクセラレータープログラムStarburst Acceleratorなどがあり、民間ファンドがベンチャーを支援する仕組みが増えています。

政府の資金援助については、国防総省の内部部局であるDARPA(国防高等研究計画局)の研究プログラムです。現在は宇宙開発に限らないのですが、宇宙関係予算が約1.8億ドル/年とされ、この資金が、助成金、協同契約、契約といった形態によって民間に提供されています(米Apple社の音声アシスタントアプリSiriもこのプログラムに基づくといわれています)。

政府による開発支援・調達については、国際宇宙ステーション(ISS)への物資・人員の輸送に関するNASAのCOTS/CRS/CCPプログラムがあります。従来、NASAは民間企業と契約する際、開発にかかったコストを支払う開発委託方式でした。しかし、一部のプロジェクトについては民間企業が開発した製品・サービスを調達する方針となり、契約も定額方式になったことからベンチャーも含む競争環境ができてきました。この際にNASAは技術支援もしています。

前述のDARPAの一つである再使用型打ち上げ機の開発では国と産業との連携だけでなく、技術力をつけてきたベンチャーと大手企業との連携による開発も進められており、オープンイノベーションが推進されています。


2.日本における宇宙開発

■日本の宇宙産業

今でも日本の宇宙開発のメインはJAXA(宇宙航空研究開発機構)です。しかし、日本でも徐々に民間委託が進んでいます。例えば、H-IIロケットの打ち上げについては、そのとりまとめがJAXAから三菱重工業株式会社(MHI)に移管されています。

平成28年に「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」が制定され、民間がロケット打ち上げや商業衛星運用などの宇宙開発関連事業に参入しやすい法律環境が整備されました。これによりMHIも人工衛星の打ち上げサービスを積極的に営業しています。

JAXAは安全確保及びミッション達成のために行う活動に対して民間からの技術支援調達を行っています。一種のオープンイノベーションです。資金面では、米国ほどの規模ではないものの、政府、JAXA、民間企業による宇宙ビジネスアイデアコンテストS-Boosterが行われています。

2017年5月に内閣府宇宙政策委員会より公表された宇宙産業ビジョン2030によれば、今後、日本も米国のような宇宙ベンチャーの創出環境を整備していく計画です。

■生まれ始めた宇宙ベンチャー

日本の宇宙ベンチャーとしては、例えば、商用の超小型衛星の打ち上げサービスを行っている株式会社アクセルスペースや、小型ロケットの打ち上げサービスを行っているインターステラテクノロジズ株式会社などが話題になっています。

ユニークなところでは、前述したGoogle Lunar Prizeに日本から唯一参加している株式会社ispaceや、宇宙ゴミ(スペースデブリ)除去に関する株式会社アストロスケール等があります。これらの企業は、米国のようにIT企業等からの出資を得て開発を進めています。日本でも宇宙利用の事業化への投資が行われるようになってきました。


3.宇宙開発におけるオープンイノベーション

政府主導の開発の場合は、とりまとめを行うメインコントラクターの会社のもと、サブシステムを開発する複数の会社が集まって進められます。各社のインタフェースは明らかにされても、各社が担当する箇所の内部までは互いに開示されません。でも、複数の会社が共同でロケットや人工衛星を開発していく体制は従来から確立されていました。

近年は宇宙開発をさらに先へ進めるための研究開発は政府が主導して進め、宇宙輸送や人工衛星の開発は民間企業が進めていくという役割分担ができつつあります。民生品技術の転用が可能となり、コスト面でも宇宙輸送や人工衛星開発における技術的な参入障壁が低くなってきたことによります。この過程で、民生品技術の活用というオープンイノベーションが大きな貢献をしています。

ハードウェアだけでなく、衛星データというビッグデータの民間開放による新サービスの創出も含めて今後の宇宙ビジネスの展開が期待されます。


■参考文献

(1)「米国における宇宙空間を使ったビジネスとITに関する動向」JETRO

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2017/2a6e5d9759674160/nynews-201703.pdf

(2)「新しい宇宙活動を創出するための官民連携方策に関する調査研究」一般財団法人 日本宇宙フォーラム

http://www.jsforum.or.jp/2016/05/09/img/upload/new_business.pdf


【コラム執筆】 明立特許事務所 所長弁理士 深澤潔氏 http://www.meiritsu-patent.com/

<深澤氏プロフィール>

京都大学工学部卒業後、石川島播磨重工業(現:IHI)入社し、小型ロケットや宇宙ステーションなど、宇宙環境を利用する機器の研究・技術開発・設計に携わり、技術士を取得。その後、国内最大手国際特許事務所へと転職し、弁理士資格を取得。独立し、明立特許事務所を立ち上げる。