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世界初の実用化。運転席のない近未来型「電気輸送トラック」 スウェーデン発「Einride」の狙い

世界初の実用化。運転席のない近未来型「電気輸送トラック」 スウェーデン発「Einride」の狙い

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世界中で実用化が進む「自動運転」。また、ヨーロッパでは「電気自動車」の販売シェアが飛躍的に伸びており、気候変動対策として期待されている。日本でも経済産業省が電気自動車の導入を推奨しているが、2019年の国内の電気自動車の普及率は、わずか0.49%(2.1万台)と遅れを取っているのが現状だ。

ヨーロッパでは、すでに自動運転技術を備えた「電気輸送トラック」が実用化され、公道を走っている。自動運転レベル4を搭載するこのトラックはドライバーの乗車が必要なく、運転席がない。

開発したのは、2016年にスウェーデンで創業したスタートアップ「Einride」(アインライド)だ。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第4弾では、運転席のない近未来型「電気輸送トラック」を展開するアインランドをピックアップ。同社初のエンジニアとして、2017年に入社したTomas Olsson(トーマス・オルソン)氏に、ビジネスモデルと経営戦略を聞いた。

自動運転レベル4を搭載し、リモートで操作

アインライドが提供する電気輸送トラック「Einride Pod」(以下、Pod)は、特定の条件下に限られるが、ドライバーは乗車せず、システムがすべての運転タスクを実行する。


▲国土交通省「自動運転のレベル分けについて」より

国土交通省が公表する上記図のとおり、自動運転レベルは1〜5までに分けられ、3以降はドライバーの乗車が必要ない。Podが搭載するレベル4は、完全自動運転の一歩手前となる。

レベル4を搭載した自動運転車の実用化といえば、2018年にアメリカ・アリゾナ州でサービスを開始したWaymo(ウェイモ)の自動運転配車サービス「Waymo One」(ウェイモ・ワン)が世界的に知られる。ウェイモは、Googleの自動運転車部門が分社化して誕生し、現在はAlphabet(アルファベット)子会社だ。

ウェイモ・ワンは、しばらくドライバーが同乗してサービスを提供していたが、2020年10月、完全無人車両の自動運転配車サービスを開始すると発表し、話題をさらった。レベル5の実用化については、未だどの企業も実現していない。


アインライドが提供するPodは、運転席も窓もなく、近未来を思わせる洗練されたビジュアル。目視では確認できないが、車体を取り囲むように最先端の光センサー技術・LiDAR(ライダー)を用いたセンサーや高精度カメラ、電波を用いるレーダーが合計20以上搭載されている。これらが取り込んだ位置情報にGPSやAIをかけ合わせ、“今いる場所”や“周囲に何があるのか”を特定し、AIが運転の指示を与えているという。

「最新のセンサーは以前よりもはるかに高解像度であり、悪天候でも正常に機能します。もし、極端な天候により自動運転が難しくなった場合は、Podは安全を確保しながら自動的に停止します」(トーマス氏)


Podの監視・制御は、離れた場所からでも操作できる専用のプラットフォーム上で行う。自動運転が難しい複雑な交通状況や極端な悪天候に見舞われた際、あるいは荷物の積み下ろし時はオペレーターが監督するよう設計されている。複数台のPodを1人で管理することも可能。過去には、スペインで走行するPodをスウェーデンで操作する実証も行われた。管理者は運転免許が求められる。

メリットは環境負荷の削減と業務効率化

PodはAET1〜4までの4種類が公開されているが、現状提供されているのはAET1・2のみ。1は閉鎖空間の中で決められたルートのみ、2は公道の短距離ルートのみ走行可能だ。いずれも最高時速は30kmで、穏やかに走行する。

3は交通量の少ない道路を通るルートに対応。4は主要道路や高速道路を通るルートの走行が可能で、世界の大半の輸送ルートをカバーする。3・4は現在、予約注文が可能で2022年中に出荷見込みだ。1・2はグローバルに提供するが、3・4はアメリカとヨーロッパに限定される。

ビジネスモデルは、毎月定額を支払ってPodを運用するサブスクリプション契約がメイン。例えば、AET1をサブスクリプションする場合、最初に支払う予約料金が10,000ドル(約110万円)、毎月のコストが18,000ドル(約200万円)で、オペレーションサポートや車両マネージメントなど一式の料金が含まれる。その他、ソフトウェアだけの提供やドライバーが乗車するタイプの電気輸送トラックも可能だという。


利用のメリットは複数あるが、電気を用いることによる環境負荷の削減は外せない。

「道路貨物輸送業界では、現在、1日あたり1100万バレル(約13億リットル)以上の石油が使用されており、世界の年間排出量の7%以上を占めています。この数字は数十年間に渡り着実に増加しています。

そんななか、弊社の複数のパートナー企業は、これまでに22万km以上のPodを走らせ、220トン以上のCO2を相殺してきました。これは、ディーゼル車と比較して94%以上の削減に相当します。弊社のPodが広く普及することで、今後15年以内に道路貨物輸送によるCO2排出量を60~70%削減できる可能性があります」(トーマス氏)

ドライバーが不要なことから、人件費の削減や効率的な配送も実現する。人間のドライバーはトイレや食事休憩が必要だが、Podは1度の充電で130〜180kmの走行が可能だ(AET1・2の場合)。

「初期投資は必要ですが、燃料費や人件費が削減できることを踏まえると、長期的にはコスト削減になるでしょう。弊社ではコスト競争力の面でも強みがあると考えています」(トーマス氏)

世界的物流企業DBシェンカーも。大手への導入実績

アインライドは、すでに複数の企業と提携し、Podを実用化している。世界にはウェイモやテスラといった強力な競合他社が存在するが、他社と提携しての実用化は世界的にもめずらしく、トーマス氏は「私たちは確実にリーディングポジションにいる」と主張する。

提携先は、気候変動対策への取り組みに積極的な大手企業がメインだ。2018年11月には、ドイツに本社を置く世界的な物流企業である「DBシェンカー」と商業利用の契約を締結。現在は、スウェーデン南部のヨンショーピングという都市に位置する同社の倉庫間の移動にPodが利用され、公道を走っている。

「持続可能で革新的な物流の実現を目指すDBシェンカーは、Podの利用により配送時間やエネルギー消費を最適化し、物流の新たな基準を確立したいと語っています」(トーマス氏)


今年3月には、世界130カ国で事業を展開する総合機械メーカー「SKF」とも、貨物輸送のテストを実施するパイロット契約を締結。現在は、スウェーデン第2の都市・ヨーテボリにあるSKFの工場間の公道でPodを使ったテストを開始するために、スウェーデン運輸庁に公道通行許可証を申請中だ。

そのほか、コカ・コーラ社、オーツ麦からオーツミルクを製造する「Oatly」(オートリー)、100年以上の歴史を持つヨーロッパ最大の家電メーカー「Electrolux」(エレクトロラックス)とも提携しているが、いずれもドライバーが乗車する電気自動車の提供のみにとどまっている。

自動運転車が公道を走る場合、特別な許可を取得しなければならないため、運転席のないPodが広く浸透するには、もう少し時間を要するようだ。

完全自動運転より「安全性」を優先する戦略

創業からわずか数年で、アインライドが世界初の公道を走る輸送トラックとして商用化を実現できたのは、「競合他社と異なる戦略を取っているため」だとトーマス氏は言う。

「ウェイモやテスラは、自動運転レベル5の実現に向けて多額の資金を投資し、野心的に取り組んでいます。一方、弊社は、レベル4を維持しながら限られた環境下での配送に注力しています。2022年中には、人通りがある一般道や高速道路での走行ができるAET4の出荷を目指していますが、そこに到達するまでにシンプルなルートでの検証を繰り返して、知見を溜めています」(トーマス氏)

ウェイモはこの6月、第5世代の自動運転システムの実用化に向け、25億ドル(約2770億円)を調達。研究開発を加速させる姿勢を見せている。テスラのCEO イーロン・マスク氏も「テスラの技術は、レベル5にかなり近づいていると感じる」と発言。

誰も成し遂げたことがない「自動運転レベル5」を実現すれば、世界中から一目置かれることは必至だが、アインライドはその道を選んでいない。安全性の検証について尋ねると、具体的な数字等の明言は避けつつも、「安全性は弊社の最優先事項であり、自信を持っている」とのこと。


「私たちは、あらゆるシーンを想定して検証を重ねています。その結果、人間が運転する従来のトラック輸送と比較して、Podは事故率が低く、安全に走行できることがわかりました。交通事故は主に人的ミスによって起こりますが、Podはこの要素を排除できます。車両がルートを外れたり、衝突したりすることを未然に防ぐ数々の安全システムも搭載されています」(トーマス氏)

自動運転をめぐっては、過去にウーバーやテスラの車両で死亡事故が起きていることから、その安全性には厳しい視線が注がれている。しかし、アインライドは「レベル5の完全自動運転を目指さない戦略」を取り、安全性を担保しているのだ。トーマス氏いわく、「スウェーデンの自動運転の規制は世界でもっとも厳しく、この国で承認されていること自体が安全性の高さの証明となる」とのことだった。

日本を含む、アジアでの展開はいつ?


▲アインライド初のエンジニアであるTomas Olsson(トーマス・オルソン)氏

現状、アインライドはヨーロッパとアメリカに焦点を当てており、アジア進出は果たしていない。日本進出への意欲を尋ねると、「今すぐではないが、アジア展開を検討している」とのこと。

「弊社は、シンガポールを拠点とするテマセク・ホールディングス、そして日本にルーツを持つノルディック・ニンジャという、注目すべきアジアの投資会社に支えられています。これまでに多くの日本人の方と打ち合わせをしましたが、弊社の技術に非常に興味を持っていました。ですから、いずれ日本展開をしたいと考えています」(トーマス氏)

では、彼らが考える日本進出の一番の障害とは。

「主に2点あり、まずは距離の遠さ。スウェーデンと日本には大きな時差もあり、コラボレーションするうえで障害となりえます。もう1点は、日本の交通規制がヨーロッパやアメリカと大きく異なること。この課題をクリアするには一定期間が必要でしょう」(トーマス氏)

日本では、2020年4月に改正道路交通法が施工され、自動運転レベル3の自動車が公道を走れるようになった。レベル4の解禁についても議論が進んでおり、政府は2022年度頃をメドに、まずは過疎地などで公共交通サービスを開始する目標を立てている。

いくつかのハードルは存在するが、トーマス氏は「日本は自動化のイノベーションを推進するのに適した国であり、すばらしいユースケースが多くある」と締めくくった。一日も早いアインライドの日本進出に期待したい。

編集後記

ここ数年で、著しい進化を見せている自動運転技術。一度の取材や短期間のリサーチで、すべてが理解できるほど単純な世界ではないことも理解できた。しかし、アインライドは確かな技術力を武器に、大手競合とは別路線で堅実に前進しているようだ。華々しい注目を浴びるより、着実に持続可能性を追求する姿勢があり、この先も追い続けたい注目企業の一つとなった。

(取材・文:小林香織

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  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

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