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Uber Eatsも本格導入する「デリバリーロボット」、活用広がる欧米の最新動向は?

Uber Eatsも本格導入する「デリバリーロボット」、活用広がる欧米の最新動向は?

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インドと米国を拠点とする市場調査、及びコンサルティング会社のGrand View Researchによれば、世界のオンライン食品配達市場規模は、2022年に2,216億5,000万米ドルと評価され、2023年から2030年にかけて10.3%の年間平均成長率 (CAGR)で拡大すると予想されている。それに伴い、欧米でデリバリーロボットの需要が増している。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第51弾では、欧米で活用が広がる「デリバリーロボット」を取り上げる。

デリバリーロボット市場を牽引するエストニア発のStarship Technologiesは、現在2,000台以上のロボットを保有し、500万件以上の自動配達を達成している。Uber Eats(以下、Uber)やセブン-イレブンと協業するアメリカ発のServe Roboticsは、2023年8月に3,000万ドルの資金調達を発表し、最大2,000台の新たなロボットを導入する見込みだ。両企業のプレスリリースや報道から、デリバリーロボットの最新動向を伝えたい。

※サムネイル写真提供:Serve Robotics

ほぼ全ての天候OK、デリバリーロボットの機能性

▲欧米で活躍の場を広げるStarship Technologiesのデリバリーロボット(Starship Technologies提供)

Starship Technologiesは、Skypeの共同創設者であるAhti Heinla氏とJanus Friis氏によって2014年に設立された。事業本部は米サンフランシスコにあり、エストニアとフィンランドにエンジニアリングオフィスがあり、イギリスにも拠点がある。

同社が開発したデリバリーロボットは、自動運転技術が搭載されており、複数のセンサーと12台のカメラを備えている。歩行者の早歩きと同程度の時速6.4kmで、人や動物、障害物を避けて自律移動する。

▲タイヤは6輪設計で縁石の段差も上り下りできる(Starship Technologies提供)

公式のアナウンスによれば、ほぼすべての気象条件下で動作を継続できる。気象条件が著しく悪い場合は、安全上の理由からサービスを一時停止することがあるという。

写真でもわかる通り、このロボットは一定の存在感がある大きさで、食料品が入った買い物袋を最大3つ同時に持ち運べるそうだ。特別に設計された断熱材を備え、移動中は食べ物を適温に保つ。短い距離を何度も往復するため、エネルギー効率が高く環境に優しいバッテリーが採用されており、1度の充電で丸1日の運転が可能だ。

▲ロボットには盗難やいたずらを抑止する機能がある(Starship Technologies提供)

ロボットが盗まれたり、いたずらされたりしないのかは気になるところだが、前提としてロボットは数十キロの重さで、持ち上げるのに苦労する。さらに、ロボットを持ち上げたり、傾けたりすると大きな警報が鳴るという。

各ロボットはGPS追跡されており、配送中は蓋がロックされている。商品を注文した顧客自身のみが配達先でロックを解除できる。

▲Serve Roboticsのデリバリーロボットは高さがあり、各ブランドのデザインが施されている(Serve Robotics提供)

Serve Roboticsは、フードデリバリー事業を展開するPostmatesの一部門として2017年に誕生した。その後、2020年にUberに買収され、2021年にServe Roboticsとして独立した。

同社が開発するデリバリーロボットもまた、自動運転レベル4での商用配達を達成しており、障害物を避けて自律走行できる。Starship Technologiesのロボットよりも高さがあり、大きなショッピングバッグ2つ、または大きなピザ4枚を入れることができる。

基本的な仕様はServe Roboticsのロボットと変わらないようだが、Serve Roboticsのロボットは、すれ違う歩行者とコミュニケーションが取れるとされている。

複数国で利用されているStarship Technologies

Starship Technologiesでは、2014年の創業から実証実験を重ね、約4年後となる2018年に世界初の都市部での商用レベル4自動運転を完了した(Starship Technologies調べ)。イギリスのミルトン・キーンズから商業展開を開始し、アメリカ、エストニア、フィンランドとサービス提供範囲を広げてきた。

▲アメリカでは大学の敷地内で活躍(Starship Technologies提供)

アメリカにおいては大学での導入が目立つ。敷地には基本的に大学に通う学生とその関係者しか出入りせず、配達範囲が限定されるので導入ハードルが低いのだろうと予想できる。アメリカの大学でよく配達される食品は、1位:フライドポテト、2位:チキンテンダー(ささみの揚げ物)、 3: 朝食用のサンドイッチとなるそうだ。

フィンランドにおいては、国内で約900店舗のスーパーマーケットを展開するSグループと協業し、7つの都市で配達をしている。

イギリスでは、同国で2500以上のコンビニやスーパーを運営するCo-opと協業して、複数の都市でサービスを提供中だ。いくつかの都市では、デリバリーロボットが市民に浸透しているためか、子どもたちがロボットに餌を食べさせようとするなど親しみをもって接している様子が見られているという。

▲フードデリバリー事業を提供するBoltと協業して、事業成長を見込む(Starship Technologies提供)

エストニアでは同国のユニコーン企業「Bolt」との協業が2023年6月に発表され、その後の進捗は発表されていないものの、事業の拡大につながると見られる。

大手との協業で注目されるServe Robotics

一方Serve Roboticsでは、Uber、セブン-イレブン、Delivery Hero、Pizza Hutなど大手と協業して、ロサンゼルスとサンフランシスコで事業を拡大している。2017年の創立とStarship Technologiesと比較して後発ではあったが、Uber、セブン-イレブン、Delivery Heroなどから投資を受け、順調に拡大しているようだ。

▲Serve Roboticsは大手企業との協業が目立つ(Serve Robotics提供)

2023年3月までに2万件以上の配達を完了させ、同社の報告によれば、デリバリーロボットによる配達の達成率は99%以上、 定時配達率は95%で、2022年にUberとの協業を開始して依頼、毎月30%の配達増があるという。

▲遠隔監視によってロボットを制御するなども可能(Serve Robotics提供)

2023年8月には総額3,000万ドルの資金調達を発表し、同社の調達総額は5,600万ドル以上となった。Uberとは2023年5月に最大2,000台のロボットを配備する商業契約を履行しており、全米の複数の市場でUber向けのロボットが稼働する予定だという。

多数のトラブルを乗り越え、パンデミックで急成長

両社とも順調に事業を拡大させているものの、これまでに多くのトラブルに見舞われたようだ。例えば、Starship Technologiesがサービスを本格化させ始めた2018年の報道では、ロボットを蹴る人が複数いると伝えられている。 その様子を収めたSNS投稿も見られた。

https://www.youtube.com/watch?v=X3C_rpUTYuk

さらに、デリバリーロボットが事故に巻き込まれる動画も複数確認できた。自動運転車においても安全性が議論の焦点になっているが、デリバリーロボットにも同様の懸念があることはまちがいない。

https://www.youtube.com/watch?v=Kaz3S6lZtlU

フィンランドの公共テレビ・ラジオ局が運営するYle Newsでは、2023年12月に、ぬかるんだ雪に埋もれて前に進めなくなっているStarship Technologiesのデリバリーロボットの様子を伝えている。記事内で、同社と提携するSグループの担当者は以下のように答えた。

「配達前に気象情報や除雪状況を確認しているが、確認しきれない降雪があり、(この冬の稼働により)どこに限界があるのかを学べた。雪に埋もれるなどしてロボットが動けなくなった際は、当社かStarship Technologiesがその対応をしている」(Sグループの担当者)

▲現地に居住経験のある筆者が見た限り、フィンランドでは広い通りは除雪されているが、小道など除雪が不十分な場所も多くあった(Starship Technologies提供)

担当者は「ロボットが停止していても持ち上げようとしないでほしい」と注意喚起を加えた。警報が鳴り出してしまうためだ。

一方で、ロボットを助けることを推奨するコメントも。例えば、ボタン式信号の前で赤信号のままロボットが停止している場合は、歩行者がボタンを押して青信号に変わると、ロボットは再び自律走行ができる。実際、フィンランドの人々がそのようにしてロボットを支援する場面があったそうだ。

このようにデリバリーロボットが浸透してきた地域では、ロボットを見守り支援する人の動きも度々見られている。自動運転技術がさらに進化すれば、ロボットと人間が安全に共存できるのかもしれない。

▲パンデミックが追い風となり、2021年1月に100万件の自動配送を達成した(Starship Technologies提供)

Starship Technologiesは新型コロナのパンデミック時に急成長を遂げており、その後も成長が続いている。欧米において、デリバリーロボットはさらなる活躍が期待されているようだ。

編集後記

欧州を中心にイノベーションを追っている筆者にとって、デリバリーロボットは数年前から気になる存在だった。今回Starship Technologiesに取材のアプローチをしたが、残念ながら実現しなかった。雪などの悪天候の対応には限界があるとはいえ、活躍の余地は十分にある。配送の労働力不足を解決するソリューションやCO2削減への貢献として、日本においてもロボットたちが街中を走り回る未来はそう遠くないかもしれない。

(取材・文:小林香織


シリーズ

Global Innovation Seeds

世界のスタートアップが取り組むイノベーションのシーズを紹介する連載企画。