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打倒Apple?「リファービッシュ(整備済)スマホ」でトップシェアを狙うフランス発「Back Market」の野望

打倒Apple?「リファービッシュ(整備済)スマホ」でトップシェアを狙うフランス発「Back Market」の野望

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2014年にフランスで創業したユニコーン企業「Back Market(バックマーケット)」が勢いを伸ばしている。同社が扱うのはいわゆる中古品なのだが、厳しい品質チェックのもと整備が施されているため、「Used(中古)」ではなく「Refurbished(整備済み)」と表記している。

フランスをはじめとした欧州では、このリファービッシュ製品の認知が高まっており、スマートフォン市場全体の20〜30%をリファービッシュスマホが占めているという。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第49弾では、リファービッシュ製品のトップシェアを狙うBack Marketを取り上げる。

世界18ヵ国で展開し、2021年に日本進出も叶えている同社のグローバルにおける戦略と反響を、アジア太平洋地域ディレクターのAlexis Jerome (アレクシー・ジェローム)氏に聞いた。

徹底した「品質管理」でブランド価値を向上

Back Marketの事業アイディアは、「整備済みスマホの品質の高さ」と「中古市場」とのギャップに気づいたことが始まりだった。創業前にeコマース分野で働いていた創業者は、ある電子機器の再生業者が持つ技術や巨大な工場を見て、そのクオリティに驚いたという。同時に、高品質ながら市場で販売することに苦労している現実も目の当たりにした。

「AmazonやeBayといった巨大なマーケットプレイスで販売していたにもかかわらず、中古の電子機器が売れないのは、消費者が品質に不安を抱いているためでした。確かに中古品には高品質なものもあれば、低品質のものもあります。そこで、高品質な中古品に焦点を当て、それらが『なぜ高品質なのか』を適切に伝えるマーケットプレイスをつくろうと考えました」(アレクシー氏)

▲共同創業者 兼CEOのThibaud Hug de Larauze氏(中央)、共同創設者 兼最高クリエイティブ責任者のVianney Vaute氏(右)、共同創設者 兼最高技術責任者のQuentin Le Brouster氏

創業初期はスマホなどの電子機器に限定し、高品質のリファービッシュ製品を扱うリファービッシャー(販売業者)だけを選定して事業を開始した。しかし、実際に販売を始めると、当時のリファービッシャーの基準は予想よりも低かったことが判明した。

当初の不良品率は約15%と高く、顧客の手に届いた時点で動作しないものもあった。迅速に交換することで顧客満足度を上げることには成功したが、製品の品質評価が不十分であることは明らかだった。そこで、適切な品質の評価を追求することにした。

そうして生まれたのが、独自に設けた厳密な品質ルールだ。28の製品チェックポイントを漏れなくチェックするほか、バッテリーは初期容量の80%以上でなければならない。

「当社は自社で研究室を持ち、製品を分析して品質を高めるための整備プロセスを研究しています。この結果を明記した指示書を作成してリファービッシャーと共有することで、市場にある中古スマホと品質を差別化しています」(アレクシー氏)

欧州には類似のビジネスモデルを持つオーストリア発「Refurbed」(2017年創業)やフィンランド発「Swappie」(2016年創業)などが存在するが、自社に研究室を持つ企業は他にはないとアレクシー氏は主張した。

顧客体験を大きく左右するカスタマーサポートにも細心の注意を払う。クレームや問い合わせへの対応は、各リファービッシャーではなくBack Marketが担当することで、顧客満足度を高めている。

Back Marketに入社した従業員は全員カスタマーサポートを1日経験するという。顧客と触れることで、顧客の要望や顧客が抱える可能性のある痛み、顧客が直面するかもしれない問題の複雑さを理解するためだ。

世界18ヵ国で展開、主力製品は「スマホ」

品質と顧客体験の向上に努めた結果、Back Marketの売上は伸びていった。スマホの端末価格が上昇するにつれ、市場では「安いiPhone」の需要が増していた。そこで「安さ」をウリとした広告を打ち出して注目を集め、購入につなげたという。

「安さ」を打ち出した販売サイトの中には信用度が低いものが多く見られるため、信頼を得るのは簡単ではなかったが、品質へのこだわりを丁寧に説明したり、顧客の高評価のレビューを増やしたりしながら、信頼を構築していった。

▲向かって左がAグレードのリファービッシュ製品、右が新品。実際に並べてみると、その違いはほとんどわからないレベルだそう

現状のBack Marketのサイトを見ると、品質を評価するレビューが目立つ。同社の製品にはA・B・Cの3種類のグレードがあり、Cがもっとも低いのだが、「Cでも新品のように見える」といった声もある。Aになると、多くの人が新品と見分けがつかないほどだという。

2016年から欧州の他国でも事業展開を広げ、2018年には米国に進出、2021年に日本にも進出している。2023年現在は18ヵ国で事業を展開する。日本ではスマホやタブレットといった電子機器とその周辺機器のみの取り扱いだが、欧米では家電やゲームまで幅広く扱っている。

▲欧米のサイトを見ると、掃除機やコーヒーマシンなど、さまざまな製品が販売されている(イギリスのBack Market公式ホームページより)

欧米における売上比率はスマホが約50%を占めており、タブレット、ノートパソコン、スマートウォッチ、ヘッドフォン(イヤフォン)と続く。大都市のユーザーは30歳以下の若年層が目立ち、2〜3年前に発売された製品がもっとも人気が高い。日本ではiPhone、韓国ではサムスンなど国によって多少の需要の違いはあるが、それほど大きな差は見られないそうだ。

欧州では、スマホ市場全体の20〜30%をリファービッシュスマホが占めるほど浸透しており、フランスにいたっては最新の統計で32.7%となる。グローバルでのBack Marketのユーザーは、2023年に1000万人を突破した。

これらの数字を見ると、欧州でリファービッシュ製品の選択がかなり一般化していることがうかがえる。リーズナブルで高品質であることに加え、環境への配慮という観点も急成長の要因かもしれない。

Appleを挑発するマーケティングキャンペーンも

欧米での知名度やブランド価値を高めるにあたり、広告を活用したキャンペーンも非常に役立ったという。彼らが放つメッセージには、新品の電化製品を販売する企業を挑発するような内容もある。

例えば、上記の広告では、ガイコツのイラストに「We sell what Big Tech pretends is dead(私たちは大手ハイテク企業が死んだことにしているものを売っている)」というメッセージを添えた。

また、2023年に実施した最新のマーケティングキャンペーン「Let Them Buy New(新品を買わせる)」は、あえてAppleの新製品発表会の日程に合わせて実施した。

「この日に発売される極秘の新型スマホ『R』は、それ以前の製品よりも持続可能で手頃な価格だ」と広告で予告したうえで、インフルエンサーに製品が入ったボックスを送付した。そして、Appleの新製品発表会の当日に、それが「リファービッシュスマホである」と種明かしをした。

https://www.youtube.com/watch?v=09E0bWo0LgI

今年9月にYou Tubeに公開された同キャンペーンの動画は、11月現在で282万回も再生されている。明らかにAppleを挑発するようなキャンペーンであり、メディアの反応もよかったようだ。

Back Marketが目指すのは、新品ではなくリファービッシュ製品が一番の選択肢になる世界であり、その実現にはパワフルで楽しさを伴うメッセージが必要であると彼らは考えている。「仕方なくリファービッシュ製品を買うのではなく、誇りを持って選んでほしい」とアレクシー氏は野望を話した。

さらなる選択肢の提供で、リファービッシュ製品をNo.1へ

18ヵ国まで事業を拡大し、グローバル企業となった今、さらなる成長のために何がハードルになるのか。アレクシー氏があげた具体的な戦略は、「ローカライズ」と「選択肢の提供」だ。

「例えば、欧米と比較して日本のECサイトは、デザインや支払い方法が大きく異なっています。約2年をかけて土台を整えてきましたが、日本におけるリファービッシュ製品の認知度は低いままです。来年以降は多くの新機能を追加するなどしてローカライズを進め、一気に認知とブランド価値を高めていけたらと考えています。韓国もまた同様です」

電子機器が中心となるアジア市場においては、家電やゲームといったカテゴリの拡充や買い取りへの参入も求められる。すでに幅広い製品を扱う欧米でも、電子機器以外のカテゴリをより充実させ、売上を伸ばしていく必要があるという。

そして、さらなる事業成長の後押しとして同社が考えているのが、「支払い方法」の選択肢を増やすことだ。

「通信会社などでは、端末代金を月払いとすることで合計金額が高価であっても支払いやすくなっていますよね。当社でも通信会社とパートナーシップを組んで月払いを提供したいのですが、どうすれば競合にならないかを検討しています」

2024年は、これらの戦略に注力して売上を伸ばしていく方針だ。2025年以降はエリアを拡大したいとアレクシー氏は締めくくった。世界的に盛り上がる中古市場は、これからどう進化するのか。期待が高まる。

写真提供:Back Market

編集後記

日本市場においても、中古品やレンタルの需要は急成長している。個人的には、家具家電のレンタル・サブスクサービス「CLAS(クラス)」とファッションサブスク・レンタルのairCloset「エアークローゼット」を活用しており、所有しない心地よさを感じている。リファービッシュ製品はそれとは異なるものの、新品よりも気軽に利用できる点は似ている。買い取りも同時にできるようになれば、より使い勝手が良くなるはずだ。

(取材・文:小林香織

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  • 増山邦夫

    増山邦夫

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  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

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