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【インタビュー】「富士通はスタートアップに選ばれる会社をめざす」。元エンジニア・徳永奈緒美が語る共創への想い。

富士通が、オープンイノベーションに本気で取り組んでいる。同社が開催するアクセラレータープログラムは既に第4期を迎え、スタートアップとの協業事例が数々と生まれている最中だ。日本を代表するIT企業である富士通が、なぜスタートアップとの協業に力を入れているのか。同プログラムを推進するシニアディレクターの徳永氏に話を聞いてみた。

▲富士通株式会社 マーケティング戦略本部 戦略企画統括部 シニアディレクター(ベンチャープログラム担当) 徳永奈緒美

※関連ページ : スタートアップ向け支援プログラム「富士通MetaArcベンチャープログラム」https://eiicon.net/about/fujitsu/


エンジニア時代に芽生えた、オープンイノベーションの萌芽

——徳永さんがベンチャープログラム担当になるまでのご経歴を教えていただけますか。

もともとはデータベースのエンジニアとして富士通に入社しました。当時はメインフレーム全盛期でしたが、「若い人には新しいことをやってもらおう」と、UNIXを学ぶために私だけサーバを1台与えられて、好きにやっていいと言われたんです(笑)。ですが、当時の勤務地の大阪にはUNIXを知っている人がおらず、東京で開催されていたUNIXのユーザー会に毎週のように参加していました。

そこには学者の人など、いろいろな人が集まっていて、社内のSEだけで語っているのとはまったく違う広がりがありました。そういう人たちに接しているなかで、「会社の中で立ち止まっていると、富士通が終わってしまう!」と危機感を感じたのです。

——元エンジニアというのは意外な経歴でしたが、早速オープンイノベーション的な気づきがあったのですね!

UNIXのことを周囲に知っている人がいないから、話が通じない。上司も知らない。だから、上司の言うことを聞くのは、私には「正しくない」と思えてしまったんですよね(笑)。UNIXに限らず、たとえばOracleにしても富士通の技術ではないわけで。既に存在するものを社内で作る必要なんてない、と当時から感じていました。

——若い時期からその視点を持ってしまうと、富士通の外に出る、という選択肢もあったのではないかと思いますが。

たしかにありました。ですが、日本の大企業の特徴としてジョブディスクリプションの範囲が緩やかなので、富士通の社内にいても、いろいろと自分のやりたいことには挑戦することができました。なので、実はそれほど不満が溜まるということもなかったのです。

エンジニアを経験した後も、事業開発の部門でデジタルマーケティングのサービスを開発したり、ベンチャーとの協業なども経験できましたから。


富士通よりも優れたプロダクトとも、積極的に協業したい。

——なぜ今、富士通がスタートアップとの共創に注力しているのでしょうか。

立ち止まっていると、富士通という会社が停滞してしまう。私個人としても、会社のために新しいことをしたい、という危機感があります。今の時代、自前の技術や製品だけですべてをまかなうことはできない、という考え方は常識になりつつありますが、富士通においても同じことが言えます。

以前、こんなことがありました。富士通がある製品を開発しているときに、別のスタートアップが開発した同様の製品が既に存在していることが分かりました。そこで、厳密に性能の評価をしてみると、少なくともその時点ではスタートアップの製品の方が優秀だった。それで、社内の開発を中断したというエピソードもあります。

——富士通ほどの大企業でその判断は、まさに英断だと思います。

第2期アクセラレータープログラムで出会い、現在協業しているMobingi(モビンギ)さんの例も同様です。AWSの運用コストを下げるプロダクトを提供しているスタートアップなのですが、実は当時、富士通社内でも同様の機能を作ろうとしていました。ですが、既にMobingiさんのプロダクトがあるのだから、と開発を止めて、富士通のソリューションと連携することにしたんです。

——スタートアップと協業するにあたって、重視していることはありますか。

はっきりした目的意識を持っており、そのために「富士通を使う」くらいの積極性を持っているスタートアップとは組みやすいですね。たとえば、IoTを活用したビル設備監視システムで協業中のスタディストさんという企業の場合、協業にあたって最初に実証実験を行ったのですが、協業モデルも実証実験を行う企業もスタディストさんが提案してくれました。新しい市場は最初はニッチで大企業だと踏み込みにくいものですが、柔軟に動いていただき、こちらとしても協業しやすかったです。

逆に、すごく良い技術を持っていても、正直それだけでは判断しにくいところもありますね。事業部サイドから見ても、製品になっていないところに大きく投資するのは難しいです。

——事業部の話が出てきましたが、大企業の場合、社内の連携で苦労している人も多いと思います。そういった方にアドバイスはありますか。

社内のキーマンとの信頼関係の構築が大きなテーマです。そのためには自分のキャラクターを立たせること。私の場合、富士通での社歴も長いし、オープンイノベーションや新規事業にずっと関わってきたというキャラクターがありますから。向こうから相談が舞い込んでくることもあります。とはいえ、普段からいろいろな場面で相談に乗ったりと、関係性を築いておくことも大切ですね。

——社外へのコミュニケーションについてはいかがでしょうか。

ベンチャーフレンドリーとでも言うんでしょうか。外に対して溶け込んでいく必要性があります。「富士通がスタートアップに求めていること」をあらかじめ準備しておき、具体的な協業を想像してもらえるようにしないといけません。そして、発信を続けていくこと。イベントなどにもチームメンバはみんな、こまめに顔を出すよう、頑張っていますよ。


スタートアップに選ばれる会社であるべく、貢献度合いを高めていく。

——ベンチャープログラムの今後のビジョンについて教えてください。

もともとの富士通のアクセラレータープログラムの目的のひとつとして、社内のファンドを活性化させるために始まりました。まずシナジーを作って、投資につなげるサイクルを作ることを目的に続けてきましたが、スタートアップと協業できる体制は徐々に構築できてきたと感じています。

今は、「スタートアップを選ぶ」のではなく、「スタートアップに選ばれる」ことが大切です。そのため、富士通も選ばれる存在になれるよう、スタートアップへの貢献度合いをもっと高めていきたいと思います。今後はよりステージの若いところへのコミュニケーションも増やしていきたいです。

また、今年度は富士通と協業できるスタートアップを100社にしたいという目標を立てています。富士通から積極的に協業テーマを発信するなど、これまで以上に富士通からアクティブにスタートアップへアプローチしていく予定です。

——徳永さんご自身は、ベンチャープログラムのご担当としてどのようなモチベーションを持っていますか。

純粋に新しい事業を興したい、という気持ちはもちろんですが、単純にエネルギーのある人と一緒にやるのは楽しいんですよね。そういう人のエネルギーにずっと当たっていたいなと。

具体的な協業に結びつくかどうかに関わらず、プログラムの後も個人的につながりが持てたり、プログラムの卒業生同士で集まって人材探しをしていたりするのも、こちらとしては嬉しいですよね。濃いコミュニケーションは今後も増やしていきたいと思います。


取材後記

新卒で富士通に入社後、エンジニアとして社会人の第一歩を踏み出したという、意外なキャリアを持つ徳永氏。インタビューの中で注目すべきは、「立ち止まっていると、富士通という会社が停滞してしまう。私個人としても、会社のために新しいことをしたい」という言葉だ。停滞に対する大きな“危機感”が、徳永氏のモチベーションの一つになっているといえるだろう。

さらに、大企業においてオープンイノベーションを推進するための重要な点は、「社内のキーマンと信頼関係を構築するためにキャラクターを立たせること」と語ってくれた。事実、イベントやメディア取材などで徳永氏を見かける機会は少なくない。出る杭は打たれがちな日本社会ではあるが、そういった逆境をはね返しながら、「共創」の事例を着実に残している徳永氏の行動・思考から学ぶことは多いはずだ。

(構成:眞田幸剛、取材・文:玉田光史郎、撮影:加藤武俊)