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【宮崎県が挑む共創プログラムとは?<前編>】―食の宝庫・宮崎県で「第一次産業×デジタル」のイノベーションを創出

【宮崎県が挑む共創プログラムとは?<前編>】―食の宝庫・宮崎県で「第一次産業×デジタル」のイノベーションを創出

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日本のひなた・宮崎県。年間を通じて日照時間や快晴日が多い、南国情緒あふれる土地であり、農産物・畜産物などの数々の食料品を産出する「食の宝庫」としても知られる。そうした豊かな気候風土を基盤にしたイノベーション創出の取り組みが、現在、宮崎県庁主導により進められている。

2021年10月、宮崎県庁はオープンイノベーションプログラム「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」(以下、BUSINESS BUILD)の募集を開始した。同プログラムは、宮崎県庁の「デジタル・イノベーション構築事業」の一環として開催され、宮崎県内のホスト企業とICT企業が2日間のディスカッションを通じて、新規事業創出を目指す取り組みだ。

ホスト企業には、小売、水産、メディア、物流と、幅広い分野から4社が名を連ねる。いずれも、宮崎県内で高い知名度・実績を誇る企業であり、プログラムの成果に期待が高まる顔ぶれだ。

TOMORUBAでは、2回に分けて、ホスト企業並びに宮崎県庁の担当者の声をお届けする。前編となる本記事に登場するのは、宮崎県庁の湯淺伸弘氏と川野優太氏に加え、第一次産業に関わるホスト企業から、宮崎県内最大級のローカルスーパーチェーン・株式会社マルイチ(以下、マルイチ)の高木資子氏、先進的なデジタル施策で宮崎県の水産業界をリードする有限会社浅野水産(以下、浅野水産)の浅野龍昇氏だ。

三者が語るプログラムへの熱意や想い。その言葉からは、宮崎県の産業分野における現状や課題をうかがい知ることができる。宮崎県は、今、何を求め、何を実現しようとしているのか。その向かう先が明らかになった。

※本記事では、行政組織としての宮崎県を「宮崎県庁」、行政区域としての宮崎県を「宮崎県」と表記する。

【宮崎県庁】――県内中小企業のお手本となるモデル事業を創出したい

――まずは、宮崎県の特徴についてお聞かせください。

宮崎県庁・川野氏 : 宮崎県の主力産業は一次産業です。きゅうりやブロイラーは全国1位の出荷量を誇り、かつおの一本釣りの漁獲量も全国1位と、農業・畜産業・水産業が幅広く盛んです。また、焼酎の出荷量も全国1位と、酒類や食料品の製造業も活発であることから、全体的に「食」の豊かな土地だと言えます。

また、民間調査会社が行った「都道府県別幸福度ランキング」では、宮崎県が2019年、2020年と2年連続で1位に輝くなど、県民の幸福度が高い県としても知られています。宮崎県は、全国平均でも通勤・通学にかかる時間が短く、子育てもしやすいことから、県民がおだやかに過ごせる環境があります。 

※出典:株式会社ブランド総合研究所「地域版SDGs調査2020」


▲宮崎県商工観光労働部企業振興課 川野 優太氏

宮崎県庁・湯淺氏 : 一方で、課題としては、人口流出が顕著です。特に、進学・就職に伴う、15歳から24歳の学生世代の流出が目立っています。宮崎県庁としてもU・I・Jターンなど、様々な対策に取り組んでいますが、歯止めがかかっていないのが現状です。

若者世代が魅力を感じる就職先が少ないというのが、人口流出の一つの要因となっているため、今回のプログラムが県内企業の魅力の増進につながることを期待しています。


▲宮崎県商工観光労働部企業振興課 湯淺 伸弘氏

――今回、BUSINESS BUILDを開催する背景や狙いについてお聞かせください。

宮崎県庁・川野氏 : 新型コロナウイルスの感染拡大により、世の中のデジタル化は急速に進みました。それは宮崎県も例外ではありませんが、数多くの中小企業に足を運ぶ中で、「デジタル化をしたいが、なかなか進まない」というお声をいただくことも多く、デジタル化を図ることで、県内企業のますますの発展が期待されるところです。

そこで、今回のプログラムを通じて、県内の中小企業におけるデジタル技術の活用により、新たなモデル事業を生み出し、デジタル化の取り組みを波及させていきたいと考えています。

――BUSINESS BUILDには、小売、水産、メディア、物流など、幅広い業界から4社がホスト企業として参加しています。これらのホスト企業をラインナップした理由は何でしょうか。

宮崎県庁・湯淺氏 : 基本的には公募で集まっていただいた事業者なのですが、県内の中小企業のモデルとなることを想定しているため、できるだけ幅広い業界から選出しました。いずれも、すでにデジタル化を積極的に推進し、一定の成果を残されている事業者であり、ホスト企業として適任だと感じています。

――最後に、応募を検討している企業に向けてメッセージをお聞かせください。

宮崎県庁・川野氏 : 今回のプログラムでは、全国のICT企業から応募を募っています。県内企業からも県外のICT企業のお力を借りたいという声は根強くありますので、この機会にぜひ手を挙げていただきたいです。そして、共に宮崎県内におけるDXの土壌づくりを手掛けていきましょう。

【ホスト企業①:マルイチ】――生産者と消費者をつなぐプラットフォーム構築

次に登場するのはホスト企業である株式会社マルイチだ。宮崎県内でスーパーマーケットを展開し、来店数2万人/日を誇る。加えて、グループ内で年間約100品種のオーガニック野菜を生産したり、積極的に電子マネーやスマートレシートを導入している点も特徴的。BUSINESS BUILDでは、以下2つの募集テーマを掲げている。

・オーガニック食品や特産品の購買促進を実現するソリューション開発

・サプライチェーン上での双方向コミュニケーションの実現

テーマ設定の背景や提供できるリソースなどについて、取締役の高木氏に話を聞いた。

――マルイチの事業概要や特徴についてお聞かせください。

マルイチ・高木氏 : マルイチは、2021年で創業70年のローカルスーパーチェーンです。現在、宮崎県内に9店舗を展開しています。

マルイチの特徴の一つは、生産から販売までを自社で一貫して行っているオーガニック野菜事業です。「地域社会の食を豊かにする」というスーパーの本来的な役割を果たすため、5年ほど前から有機農業に取り組み始めました。現在は、マルイチの各店舗のほか、月1回のファーマーズマーケットを通じて、年間約100品種のオーガニック野菜をお客様にお届けしています。

また、10年ほど前からネットスーパー事業に取り組んでいるほか、電子マネーやスマートレシートなど、小売業界でも先進的にデジタル施策を推進しています。特に、キャッシュレス決済には力を入れており、全社を挙げたキャンペーンや普及活動などを通じて、お客様のキャッシュレス決済率を全国の小売業者のなかでもトップクラスにまで引き上げています。


▲株式会社マルイチ 取締役 高木資子氏

――今回の募集テーマを設定した理由や背景についてお聞かせください。

マルイチ・高木氏 : 「オーガニック食品や特産品の購買促進を実現するソリューション開発」についてですが、この背景にはオーガニック野菜の認知度や購買数が、期待しているほどには上がってこないという課題があります。

これまでもテレビCMを放映するなど、マスメディアを通じた認知度向上の取り組みは行っていますが、お客様の消費行動を変容させるには至っていません。そこで、新たな認知拡大施策や、オーガニック野菜の価値を伝えるソリューションの構築などを通じて、お客様がオーガニック野菜を手に取りやすい環境を作りたいです。

また、「サプライチェーン上での双方向コミュニケーションの実現」についてですが、この募集テーマは、オーガニック野菜を購入していただいたお客様とのコミュニケーション手段の構築を目指したものです。

現在、オーガニック野菜などに関するアンケートなどは実施されておらず、なぜお客様がオーガニック野菜を購入されたのかは把握できていないのが現状です。お客様の声が聞ければ、商品の改善や生産計画への反映によって更にお客様に喜んでいただける環境が作れると考えています。そのため、購入後のコミュニケーション手段の確立を通じて、お客様のニーズや購買行動などの分析を可能にしたいと考えています。

――応募企業に提供できるリソースについてお聞かせください。

マルイチ・高木氏 : まずは、お客様の購買データです。お客様のお住まいの地域や、年齢層、性別、購買商品など、個人を特定できる情報を除いた各種データをリソースとして活用できます。先ほど申し上げた通り、マルイチはキャッシュレス決済率が非常に高いため、お客様の購買データは有効なリソースになり得るのではないでしょうか。

また、マルイチの店舗やオーガニック野菜の生産現場、運営するSNSアカウントなどもリソースです。特に、宮崎県庁を始め、共同イベントの開催は数々の実績があります。これらの「場」を利用したご提案もぜひ頂ければと思います。

――応募企業にメッセージをお聞かせください。

マルイチ・高木氏 : 私は、これからは地方の時代だと思っています。特に、「食」の豊かな地域には様々な可能性が秘められています。その「食」の前工程、つまり、生産現場は非常にアナログな環境ですが、だからこそデジタル技術を活用したときに大きなインパクトが生み出せるのだと思います。

マルイチとしては、そうした活動を通じて、「儲かる農業」「若者に憧れられる農業」を作り上げたいというビジョンがあるので、その点に共鳴していただける方に、ぜひご応募いただきたいです。

【ホスト企業②:浅野水産】――船舶ICT化の基盤構築、漁業の未来を切り拓く

続いて登場するのは、近海かつお一本釣り漁船「第五清龍丸」を操業する有限会社浅野水産。同社は、東京のスタートアップと共創し、漁師の意思決定プロセス(漁師の勘)をAIシステム化する事業を立ち上げるなど、IT導入にも積極的だ。BUSINESS BUILDでは、以下3つの募集テーマを掲げている。

・沖合でのオンライン通信環境の構築

・テクノロジーを活用した船舶の機関業務の効率化

・テクノロジー活用による水産バリューチェーンの再構築

テーマ設定の背景や提供できるリソースなどについて、経営企画マネージャーの浅野氏に話を聞いた。

――浅野水産についてご紹介をお願いします。

浅野水産・浅野氏 : 浅野水産は、宮崎県が漁獲量全国1位を誇る「近海かつお一本釣り漁業」を行っています。全長40メートル、総トン数119トンの「第五清龍丸」を操業し、年間漁獲量は1,000トン、年間漁獲高は3億5,000万円にのぼっています。

事業の特徴としては、データサイエンス・ベンチャーである株式会社FACTORIUMとの共創により「漁師の勘と経験のAI化」を実現するなど、デジタル技術やオープンイノベーションの導入を積極的に行っている点です。また、持続可能な漁業の普及に努める国際非営利団体「MSC」の認証を受けるなど、漁業領域におけるSDGs活動にも力を入れており、県内外に活動内容を発信しています。


▲有限会社浅野水産 経営企画マネージャー 浅野龍昇氏

――今回、設定した三つの募集テーマの目的や狙いについて教えてください。

浅野水産・浅野氏 : 「沖合でのオンライン通信環境の構築」では、近海漁業を行う水産事業者にとっては共通の課題である、「沖合での情報共有」の効率化を目指します。

現在、近海漁業では無線による口頭ベースの情報共有が一般的です。一部では、スマートフォンのメッセージアプリで画像を送り合って、情報共有する手法も採られていますが、地上の電波が届かない場所では行えません。そこで、船舶上にオンラインで通信できる環境を構築し、これまでアナログな手法で行われていた沖合での情報共有をアップデートしたいと考えています。

特に、浅野水産は、他の水産事業者に先駆けて、「漁師の勘と経験のAI化」をスタートさせているため、操業中にデータ収集を行うためにも、船舶上のオンライン通信環境が必要不可欠です。ぜひ、多くの企業様にご提案いただきたいです。

次に、「テクノロジーを活用した船舶の機関業務の効率化」については、技術伝承の促進が狙いです。船舶の機関設備は航海の安全を司る重要な場所です。また、機関設備の一部である魚倉(ぎょそう/漁獲物を冷凍保存しておく場所のこと)の温度管理の巧拙によっては、漁獲物の味も左右されるなど、機関業務には高い技術が求められます。

しかし、水産事業者の高齢化は日に日に進んでいて、事実、第五清龍丸の機関長も高齢に差し掛かってきています。そのため、デジタル技術を活用して機関業務を効率化し、これまで難しかった技術伝承を促すアイデアを求めたいと思います。

三つ目の「テクノロジー活用による水産バリューチェーンの再構築」では、漁場の漁獲状況の可視化や、市場との需給マッチングの仕組みを求めています。2020年12月の改正漁業法施行により、船舶ごとに年間の漁獲量の上限が定められました。

つまり、水産事業者は、決められた漁獲量のなかで利益を出す必要に迫られているわけです。そうした状況のなかで、水産事業者が生き残るためには、適切な需給のバランスを見極めたうえで、漁に出る仕組みを作らなければいけません。今回のプログラムでは、そうした仕組みの構築を目指しています。

――応募企業に提供できるリソースについてお聞かせください。

浅野水産・浅野氏 : 最大のリソースは、浅野水産の船舶です。船舶を利用した実証実験では、現場のリアルな課題に出会うことができるはずです。

また、浅野水産はオープンイノベーションによる事業創出の実績を有しており、水産事業者のなかでは比較的、ITリテラシーも高いことから、共創を推進しやすい体制が整っています。この2点は、応募企業にとっても大きなメリットになると思います。

――応募企業へのメッセージをお願いいたします。

浅野水産・浅野氏 : オープンイノベーションでは、しばしば「技術の売り込み」のようなオファーをいただくことがあります。しかし、私たちが求めているのは、共に課題を解決していけるパートナーのような存在です。

募集テーマに掲げている三つは、浅野水産だけでなく、日本の水産事業者全体が抱える課題です。そのため、今回のプログラムではエポックメイキングな仕事ができると自負しています。そうした取り組みに興味があり、共に大きな課題に立ち向かっていけるパートナーを求めたいです。

取材後記

宮崎県といえば、第一に「食」を思い浮かべる方も少なくないはずだ。温暖で、豊かな気候風土が育む農産物や水産物は魅力満点。産業の面からも、高い競争力を有した宮崎県の武器だ。

本記事に登場した2社は、いずれもそれらの産業分野に関わる企業。そのため、共創には大きな可能性が秘められていると言っていいだろう。ご興味のある方は、ぜひ専用ページからプログラムの詳細を参照してほしい。

そして、記事は後編に続く。続いて登場するのは、テレビ宮崎、マキタ運輸の2社。第一次産業とは異なる宮崎県の現状や課題が明らかとなる取材となっている。こちらもぜひ注目してほしい。

※「MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD」の詳細はこちらをご覧ください。

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太)

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  • 眞田 幸剛

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