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【オープンイノベーションの立役者たち/Creww・水野智之】〜オープンイノベーションは「弱みを補う」ものではなく、「強みと強みの掛け算」

約3000社のスタートアップ企業が登録している国内最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「creww」。大企業とスタートアップ企業のオープンイノベーション「crewwコラボ」は、2012年のスタート以来5年間で約100社の大手企業と開催し、多くの協業を生み出してきた。今回はcrewwコラボを生み出し、日本のオープンイノベーション市場を創ってきた水野智之氏にお話を伺った。

▲Creww株式会社 取締役/Managing Director Open Innovation事業統括 水野智之氏

アメリカの大学を卒業後、10年間IT業界での経験を経て、ソーシャルチケッティングサービスの共同創業者としてスタートアップの立ち上げに携わった後、Crewwに参加。オープンイノベーションプログラムの責任者を務める。


スタートアップ企業に、多くのチャンスを提供したい

――水野さんがCrewwにジョインしたきっかけを教えてください

私は学生時代に渡米し、卒業後も少し向こうで仕事をしていました。帰国後は ITベンチャーで働いていたのですが、起業したいという気持ちが強くなり、2011年にソーシャルチケットのスタートアップ企業を立ち上げました。Creww代表の伊地知と知り合ったのはその頃ですね。若くして自分より遥かに上位の課題に取り組む伊地知を、尊敬し応援していました。その後、ソーシャルチケットの会社を大手企業に引き渡し、さあ次に何をしようというとき、伊地知から声が掛かったんです。当時はまだ、オープンイノベーションには取り組んでいませんでした。

――Crewwがオープンイノベーションに取り組み始めた理由は?

Crewwは、もともと「スタートアップ企業支援」を軸足に置いています。スタートアップ企業が成長していくために必要なヒト・モノ・カネ、そしてチャンスをオンラインで提供するスタートアップコミュニティとしてスタートしました。そこにはスタートアップ企業の他に投資家やアドバイザー、また、スタートアップ企業に興味のあるデザイナーやエンジニアなど様々なサポーターが登録しており、資金調達面、人材面などの課題に対するマッチングを行っていたのです。

――なるほど。

とはいえ、どんなに優秀な人材が揃い資金調達ができたとしても、ビジネスチャンスがなければ元も子もありません。スタートアップ企業に何を提供すれば、彼らのKPIは伸びるのか―。そこで着目したのが、大企業とのオープンイノベーションです。大企業は、顧客網や店舗、データなど巨大な事業アセットを持っています。その事業アセットを活用できれば、スタートアップ企業の成長チャンスは各段に広がります。そこで2012年から、大企業に対して提案を行うようになりました。

――2012年頃は、まだオープンイノベーションが盛んではない時期ですが、大企業の反応はどうでしたか?

最初はなかなかうまくいきませんでしたね。しかし提案を続けているうちに、ほぼすべての大企業が新規事業に課題を持っていることが見えてきたのです。既存事業に近ければM&Aなどで拡大をしていけますが、まったく新しい領域には手を出せていない企業が大多数でした。大企業サイドにも、焦りや危機感はあったのです。そこで、2012年12月に、大企業のリソースとスタートアップのサービスを掛け合わせて新しい事業を世に送り出す「crewwコラボ」を本格的にスタートさせました。


大企業のアセットをオープンにし、新たな活用の道を見出す

――最初はなかなかうまく行かなかったオープンイノベーション。その潮目が変わったと感じたのはいつ頃でしょうか?

2015年頃ですね。マーケット自体が盛り上がってきて、国や自治体を含めたベンチャー支援の動きが出てき始めました。その頃に手がけた読売新聞様のアクセラレータプログラムが印象に残っています。新聞業界は巨大な事業アセットを保有しているものの、金融業界と同じくらい情報をオープンにしにくい業界です。一方で人口減少やテクノロジーの発展により、新聞需要がシュリンクしていることには危機感があり、新しいことに挑戦しないといけないとは考えていらっしゃいました。

――オープンにすることで、大企業サイドにも新たな発見があったのですね。

 「自社のリソースを棚卸しして、それを外部に開放する」ということを、これまで大企業は行ってきませんでした。しかし、一度オープンにして外から多角的な視点で見てみると、自社では気付くことができなかった新鮮な強みが見えてくるんです。新しい事業創出の前に、まず自社のアセットが外部からどう見られるかを知ること。これが本当に大切ですね。

――その後も、様々な業界の大企業とスタートアップとのオープンイノベーションを実現させていますが、実用化されている事例を紹介していただけますか?

 関西電力子会社のケイ・オプティコム、Facepeer、うるるBPOの3社コラボによる、訪日外国人向け「クラウド通訳サービス」ですね。昨今、外国人観光客の数が急速に増加していますが、地方の観光地や温泉旅館などで、「言葉が通じない」ことに旅行者と店舗双方が不便さを感じています。しかし従来の通訳サービスは高額なものが多く、利用が困難でした。

そこで、ビデオチャットプラットフォームであるFaceHubの技術を応用し、主婦らが参加するクラウドソーシングサービス「うるるBPO」とコラボして、専門スマートフォンアプリを経由したビデオチャットによる同時通訳サービスを開発。安価な通訳サービスを実現させました。このサービスは実証実験を経て、2017年から有料トライアルの影響を開始しています。

——その他の事例としては?

金融におけるイノベーションとして話題になったのが、セブン銀行アクセラレータプログラムから誕生した、ドレミング株式会社との「即払い給与サービス」ですね。これまで「月末締めの翌月払い」が主流だった給与の支払いが、当日働いた分の給与を即日支払うことができるようになるという画期的なサービスです。このサービスにより、将来的には日本国内だけではなく、世界20億人の金融難民救済というグローバルな課題にもチャレンジしようとしています。


事業が好調な時ほど、新しいことにチャレンジすべき

――オープンイノベーションに取り組むにあたって、大企業が持つべき心構えは?

「オープンイノベーションは、ミッシングピースを探す足し算ではなく、互いの強みを掛け合わせてシナジーを生み出す掛け算」と、企業トップとの打ち合わせの席で必ずお話ししています。「自社に足りないものを補う」という姿勢の企業も多いのですが、それでは単なる下請け探しになってしまいます。そこから新しい事業は生まれません。まずは互いの武器をテーブルに乗せて、それらを掛け合わせて何を生み出すか考えていく。その姿勢が大切です。ここでトップのコミットメントが取れない場合は正直難しいと思います。

新規事業は緊急性が低いがゆえに、優先度が低くなってしまう現状もあるかと思います。しかし未来を考えたときに、新規事業が必要ない企業はありません。現在の事業が傾いてからでは遅い。好調な時ほど、新しいことにチャレンジしていかないといけません。

――crewwコラボを通して、大企業に変化はありますか?

100%変わります。オープンイノベーションに対する考え方、スタートアップ企業に対する接し方、すべてですね。最初はやらされ仕事だった担当者の方も、自分ごととして目の色が変わってきます。プレゼンテーションの場で、上層部の方が「あいつ、あんなにやる気があったのか」と驚くほどです。そして究極的には、オープンイノベーション専門の部署が立ち上がります。だいたい3社に1社はそうなっていますね。

また、これまでcrewwコラボを通じてオープンイノベーションを実現されてきたお客様が、日々さまざまなセミナーやイベントで登壇され、成功事例をお話しされていることも多々あります。そうした様子を見ると嬉しいですね。

――スタートアップ企業側の心構えとしてはどうでしょうか?

 大企業での勤務経験がない起業家の場合、大企業のコミュニケーションの取り方やスピード感を許容できないケースが見られます。大企業には大企業なりのルールがあり、確認に時間が掛かることは理解していた方がいいですね。もちろん、大企業側もスタートアップ企業にとって時間がどれだけ価値があるものか、理解していくことは必要です。

――今後の御社の取り組みは?

オープンイノベーションに取り組む企業が増加傾向にあることは喜ばしいことです。しかし本質的なことを理解せず、オープンイノベーションが目的となってしまってはいけません。オープンイノベーションは、目的ではなくあくまで手段・概念です。正しい考え方や方法を啓蒙していくことが、私たちの使命だと考えています。


取材後記

2012年というと最近のように思えるが、当時は「オープンイノベーション」という言葉を耳にする機会も少なく、スタートアップ企業との協業の必要性を感じている大企業もほとんどなかった。しかしこの5年で環境は大きく変化し、今では大企業は軒並みオープンイノベーションに取り組んでいる状況だ。市場の黎明期から取り組み、多数のオープンイノベーションをサポートしてきた水野氏だが、手放しでこの市場の成長を喜んでいるわけではない。オープンイノベーションをトレンドに終わらせず、地に足を付いたものにするため、2017年には『OPEN INNOVATIONコンソーシアム』を設立。日本におけるイノベーション創出の加速を図っていくとのことだ。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)