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水路のUberを目指す「水上タクシー」も。先進的な「水上電動モビリティ」に挑む世界のスタートアップ4社

水路のUberを目指す「水上タクシー」も。先進的な「水上電動モビリティ」に挑む世界のスタートアップ4社

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コロナ禍の影響で、一時は緩和されたように見えた都市部の交通渋滞。しかし、厳しいルールが撤廃された2023年現在は、コロナ禍前の水準、あるいはそれ以上の交通渋滞が世界の都市部で発生している。

交通情報調査会社のインリックス・リサーチが公表したレポートによれば、2022年にもっとも交通渋滞が多かった都市は、1位から順にロンドン (156時間)、シカゴ (155時間)、パリ (138時間)、ボストン (134時間)、ニューヨーク (117時間)の結果に。欧州の42%、米国の39%はコロナ禍以前よりも渋滞が悪化しているそうだ。

こういった交通渋滞の解消や陸路以外の移動、スポーツの手段として、持続可能な「水上モビリティ」に挑戦するスタートアップが登場している。世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第46弾では、ユニークな水上モビリティを開発する世界のスタートアップ4社のプロダクトを紹介したい。

ニュージーランド、Manta5の「水上電動バイク」

▲Manta5が開発した電動バイクは水面をサイクリングできる(Manta5提供)

2011年にニュージーランドで創業した「Manta5」は、湖や川、海の水面をサイクリングできる電動バイク「The Hydrofoiler」を開発している。

最新製品は「the Hydrofoiler SL3」シリーズで、ハンドルを握るだけで簡単に起動する。もっとも高性能の「the Hydrofoiler SL3 PRO」は最長4.5時間の乗車が可能だ。速度は乗車条件、ライダーの体重や能力によって異なり、時速6〜20kmとなる。

https://www.youtube.com/watch?v=heSPbLHftKw

特許取得のイージー・ローンチ・テックを搭載しているため、初体験のライダーでも数分から数十分で乗り方をマスターできるという。動画を見る限り、それほど難しそうには感じず、海のアクティビティを好む人であれば「乗ってみたい」と好奇心をそそられるのではないだろうか。乗車における登録や免許取得は、国や州ごとに異なるという。

同社の電動バイクはニュージーランドのほか、認定再販業者を通じて米国やヨーロッパ、一部のアジアの国で販売されている。価格は地域によって異なり、ホームページ上では明かされていない。

特にヨーロッパには注力しており、販売エリアが広がっている。2023年7月に開催されたサイクルロードレース「ツール・ド・フランス」では、デモンストレーションを実施して観客から「未来的」と高評価を得たそうだ。

▲ツール・ド・フランスでのデモンストレーションの様子(Manta5提供)

同製品は排気ガスや油を放出しないため水を汚すことがなく、騒音もないという。簡単に組み立ることができ、持ち運びしやすい設計も特徴だ。短距離の移動やスポーツとして楽しむことが想定されている。創業者のGuy Howard-Willis氏は、世界的なモータースポーツに成長させたいと意気込みを語っている。

サンフランシスコ、Navierの「電動ボート」

▲Navierの水中翼船の電動ボート「N30」(Navierの公式ホームページより)

2020年に米国・サンフランシスコで創業したNavierは、水中翼船(すいちゅうよくせん)の電動ボート「N30」シリーズを開発している。現在のラインナップは「N30 CABIN」「N30 HARDTOP」「N30 OPENTOP」の3種類だ。

水中翼船とは、船底の前・後部にとりつけた水中翼から生ずる揚力によって、船体を水面上に出しながら走る船を指す(学研キッズネットより)。船体を水面上に出すことで水の抵抗が減るため、高速で走れる特徴がある。

https://www.youtube.com/watch?v=y25u_QN0q0E

最高速度は30ノット(時速約56km)で、動画からは、そのスピード感が伝わる。長距離を走ることも可能で、標準設定で時速20kmとしたとき、航続距離は75海里(約139km)となる。電気の活用により、騒音や水質を汚染する懸念がないのもメリットだ。

▲現在の「N30」は6人乗りの小型タイプ、写真は「N30 CABIN」(Navierの公式ホームページより)

同製品を開発した目的は、水路を高速道路と同じようにアクセスしやすくするためだ。同社の共同創業者であるSampriti Bhattacharyya氏は、「将来的に水上タクシーとして、最適化されたルートで運行することを目指している。運航コストを大幅に削減し、これまで不可能だった規模で世界を結ぶ新時代のクリーンな水上輸送を可能にする」と展望を語っている。

「N30」は2022年12月に予約注文を開始しており、価格は375,000ドル(約5,300万円)〜。納品は2024年中を予定している。

フランス、SeaBubblesの「電動ボート」

▲SeaBubblesは5人乗りの「Taxi Bubble」(写真左)と6~12人乗りの「Smart Bubble」を開発(SeaBubbles提供)

2016年にフランスで創業したSeaBubblesは、Navier同様に水中翼船の電動ボートを開発している。同社の電動ボートは人の移動手段として設計されており、パイロットを含めた5人乗りのコンパクトな「Taxi Bubble」と6~12人乗りの「Smart Bubble」のラインナップがある。

「Taxi Bubble」は12ノット (時速22km)、 「Smart Bubble」は22ノット (時速40km)のスピードで航行する。同社がモットーとして掲げているのが「ゼロウェーブ、ゼロノイズ、ゼロエミッション」だ。安定した航行、静かさ、環境への配慮が伴った最先端の電気ボートとして設計している。

https://www.youtube.com/watch?v=XGop_v8Q-YU

同社の電動ボートもまた予約注文を受け付けている。フランスではアヌシー湖で乗船体験を提供しており、価格帯は1時間の体験で税抜1,490ユーロ(約23万円)〜となる。

▲窓や天井が開くので、ダイナミックな景色を楽しめそうだ(SeaBubbles提供)

SeaBubblesは「水路のUber になることを目指している」と報道されており、今後5年以内に50都市でサービスを開始予定だという。

スウェーデン、Candelaの「電動ボート」

▲スウェーデン発「Candela」の電動ボート「C-8」(Candelaのプレスリリースより)

2014年にスウェーデンで創業した「Candela」もまた、水中翼船の電動ボートを開発している。同社の製品には、レジャー目的の「C-Series」とビジネス用途での活用を目的とした「Pro Series」の2種類がある。

▲左から「Pro Series」(3種類)と「C-Series」(2種類)(Candelaの公式ホームページより)

「C-Series」は8人乗りで2種類のラインナップがあり、最高速度は27ノット(50km)、価格は33万ユーロ(約5,200万円)〜となる。推定航続距離は22ノットで75海里(約139km)だ。「Pro Series」は6人乗り、8人乗り、30人乗りの3種類のラインナップがある。最高速度は30ノット(56km)、推定航続距離は40〜60海里(約74〜111km)と紹介されている。

「Pro Series」は、大気汚染ゼロ、騒音公害ゼロ、水質汚染ゼロのゼロエミッションを達成しており、エネルギー消費量を最大95%、CO2を最大97.5%、エネルギー・サービスコストを最大90%削減するという。

https://www.youtube.com/watch?v=2i2Zf9WVlNY

同社の「C-Series」である「Candela C-8」は、ボート業界のオスカーと呼ばれる「the European Powerboat of the Year 2023」の「電動ボート」部門で受賞した実績を持つ。「C-Series」はすでに150件以上の注文があり、最短で2024年春の納品を予定しているそうだ。

▲2023年5月には、スウェーデンの電気自動車ブランド・Polestarとコラボした「the Candela C-8 Polestar edition」を発表(Candelaのプレスリリースより)

2023年5月には、ボルボ・カーズグループ傘下の電気自動車ブランド・Polestarとコラボした新デザインも発表。創業から約9年が経過しているだけあり、Navier、SeaBubblesと比較してボートのラインナップが多く、市場の評価も得ている印象だ。

編集後記

本企画の始まりは、海外のイノベーショントレンドを追うなかでManta5の電動バイクに興味を抱いたことだった。筆者はサイクリングやジェットスキーを好む層ではないが、それでも電動バイクや電動ボートが水上を走る近未来的な光景に視線を奪われ、「乗ってみたい」と強く惹かれた。機能性が高くエコフレンドリー、市場への浸透は時間の問題のように思えるが、唯一のハードルは価格帯だろうか。

(取材・文:小林香織


シリーズ

Global Innovation Seeds

世界のスタートアップが取り組むイノベーションのシーズを紹介する連載企画。