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【イノベーターインタビュー】 「すべての日本企業に、新規事業創造の力を」――元リクルート・麻生要一氏の挑戦。

リクルートでシリアル・イントラプレナーとして、社内事業開発プログラム「Recruit Ventures」や、スタートアップ企業支援プログラム「TECH LAB PAAK」など、続々と新事業を立ち上げてきた麻生要一氏。eiiconの取材やイベントでも、たびたび登場していただいている。

その麻生氏が、2018年春にリクルートを退社。企業内新規事業を支援する”株式会社アルファドライブ”と、ゲノム解析の医療実装を目指す”株式会社ゲノムクリニック”の2社を、ほぼ同タイミングで立ち上げた。

多くのスタートアップを支援してきた麻生氏が、大企業を飛び出し独立した理由とは?なぜ、畑違いの2社を同時に立ち上げたのか?――各社の事業ビジョンをはじめ、大企業に対するメッセージなども伺った。

▲麻生要一氏

・株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO / ファウンダー

・株式会社ゲノムクリニック 代表取締役 共同経営責任者(経営・ファイナンス管掌)

株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に入社後、ファウンダー兼社長としてIT事業子会社(株式会社ニジボックス)を立ち上げ、経営者としてゼロから150人規模まで事業を拡大後、ヘッドクオーターにおけるインキュベーション部門を統括。社内事業開発プログラム「Recruit Ventures」及び、スタートアップ企業支援プログラム「TECH LAB PAAK」を立ち上げ、新規事業統括エグゼクティブとして約1500の社内プロジェクト及び約300社のベンチャー企業・スタートアップ企業のインキュベーションを支援した経験を経て、自らフルリスクを取る起業家へと転身。2018年2月に企業内インキュベーションプラットフォームを手がける株式会社アルファドライブを創業。また、2018年4月に医療レベルのゲノム・DNA解析の提供を行う株式会社ゲノムクリニックを共同創業。


フルリスクを取って、実現したい世界に突き進む。その生き方に憧れた。

――この度、リクルートを出て起業するに至った理由を聞かせてください。

麻生氏 : この3年くらい、リクルートで「TECH LAB PAAK」というスタートアップ支援の活動を行ってきました。そこで、応援すればするほど「自分もあっち側に行きたい」という気持ちが強くなってきたんですよ(笑)。

――それはなぜですか?

麻生氏 : 今でも、大企業の中で大企業の力を使って世の中を変えていくことは、すごくエキサイティングだと思っています。でも、起業家の皆さんと接していくうちに、彼らのような生き方に憧れたんです。彼らって、自分にしか見えてない世界があって。「この技術を使ってこんな風に世の中を良くしていくんだ」と没入しているんですよね。そんな、自分でフルリスクを取って、誰にはばかられることなく自分が作りたい世界に向けて突き進んでいく生き方をしてみたいと思いました。

――今回起業した2社は、ゲノム解析のゲノムクリニックと、新規事業支援のアルファドライブ。まったく違う分野ですよね。なぜこの2つの分野だったんですか?

麻生氏 : 2つの分野を選んだのは、全然違う理由です。まずゲノムクリニックですが、ここ数年、「もし自分がリクルートを辞めて起業するとしたら、インターネット以外の分野でしよう」と考えていました。インターネットは今後も成長する産業だと思うのですが、それ以上に未だ市場化されていない、今後10年で産業化されるような領域で起業したいと思ったんです。インターネットがなかった時代にインターネットを始めるような。その領域の一つが、ヒトゲノムです。共同創業者の曽根原弘樹は、高校の同級生なのですが、彼がずっとやってきたゲノム解析の研究をビジネス化したいという相談に乗っているうちに、一緒にやろうという話になって。ちょうど僕が起業したいという熱も高まり、彼の研究も成熟してきたことから創業に至りました。

――なるほど。新しい産業となる分野であること、そして共同創業者の方とのタイミングが合致したんですね。では、アルファドライブ創業の背景は?

麻生氏 : 1年くらい前にある方から、「リクルート1社の新規事業に閉じずに、あらゆる日本企業の新規事業を手掛けたらよいのに。その仕組みを創る力が君にはあるし、それが日本の産業全体のためだ。」と言われたことが大きいですね。それから、だんだんその気になって。しだいに、「うちでもやってよ」と色んな方から声を掛けていただくことが多くなり、気持ちが大きくなっていったというか(笑)。


兼業や複業があるように、「2社同時創業」もあっていいと思う。

――独立してすぐ2社同時創業、かなり珍しい起業の形ですよね。

麻生氏 : やりたいことが2つ同時にできたから選べなかった、というのが1つの側面です。あと今、複業とか兼業ってよく言われるじゃないですか。これからは組織に所属するという概念ではなく、プロジェクトベースで全てが動いていく世の中になっていくと思うんです。起業家やスタートアップの働き方も、そういうものを率先して取り入れていった方がいいはずなのに、そこは割と旧態依然としていますよね。「1社にコミットしろ」みたいな。

――確かに!1社1事業にフルコミットしなければならない文化がありますね。

麻生氏 : もちろん、それが効く分野やタイミングはあると思います。でも、起業家って最も自由に働けたり、最も新しい価値を社会に提示できるはず。だから、「なぜ1社だけにこだわって創業しなければならないんだろう?」と真面目に考えたときに、1社である理由が見当たらなかった。だから2社同時に立ち上げました。

――麻生さんはリクルートの中で様々な事業を同時に見ていらっしゃったこともあって、同時進行でプロジェクトを回すことに違和感がなかったんですね。

麻生氏 : それもあります。あとは、複数のプロジェクトを同時に手掛けることで、それぞれにプラスになる働き方ができると思うんです。僕のケースで言うと、アルファドライブをやっているからゲノムクリニックに還元できることがあるし、その逆もある。例えばアルファドライブで製薬業界やヘルスケア向けの新規事業を支援する時、そこで得たものやつながりがゲノムクリニックに還ってくると思います。

――そうですね。

麻生氏 : また、僕はゲノムクリニックの創業者として、骨太な市場を相手にゼロイチでビジネスをやっていく。その経験を持ちつつ、アルファドライブとして企業の新規事業支援に入る。これって、一般的な支援事業者さんと比べて、生々しい知見を提供できたりするんですよね。そんな好循環はきっとあるだろうし、起業家はもっとそうなっていっていいと思います。


企業が、内部からイノベーションを創出できるよう支援する。

――アルファドライブについてもう少し詳しく伺っていきたいと思います。まず、実現したいビジョンについてお話していただけますか?

麻生氏 : ”インキュベーション・アズ・ア・サービス”(IaaS)を、事業コンセプトとして掲げています。一番の思想的特徴は、社内新規事業開発を社内起業家の人材育成だと捉えているところです。人が育つことによって事業が育ち、事業が育つことによって人が育つ。これは表裏一体で切り離せない関係。人材育成をやりながら事業開発を行い、事業開発をしながら人材育成をする、この仕組みをあらゆる日本企業に植え込んでいきたいと考えています。――僕たちは、新規事業を「作ってあげる」のではなく、「作れるようになること」を支援する。これが結構ポイントですね。

――SaaSならぬ、IaaSですね。

麻生氏 : 今、日本は新規事業開発ブームです。まずCVCが盛り上がって、そこからオープンイノベーションの流れになり、スタートアップアクセラレートプログラムが盛んになっている。それは素晴らしい発展の仕方だと思うのですが、それだけでは、日本企業の事業開発において抜けているものがある。外から風を入れる仕組みは開発されていますが、入ってきた新しい風を燃やすための「エンジン」が中にないんですよね。いくら外から新しい知見を入れても、その知見を受け取って中で事業を創れる人や組織がないと、結局その企業の事業にならない。僕たちはそれを行うノウハウを開発して、提供していきたいと思っています。

――具体的な事業内容として、企業にどんな支援を行っていくのでしょうか。

麻生氏 : 日本企業が中でインキュベーションができない理由、三重苦どころか七重苦くらいになっていると思います。段階的に壁があって。

「従業員からアイデアが出ない、やる気がない」、

「やる気もアイデアもあるのだけど、ビジネスプランにならない」、

「ビジネスプランにはなるけど、いざ事業にする時のエグゼキューションができない」、

「事業は沢山作っていても、なかなか大きく育たない」、

「新規事業は育っているが、事業ポートフォリオをどう管理したらいいか、戦略にどう結び付けたらいいか分からない」、

「事業をどう撤退させたらいいのか、どう追加投資したらいいのか分からない」と、次々と課題が出てきます。

――なるほど。

麻生氏 : そして、根底に横たわっている共通の課題が、「新規事業をやる人を育てる人材育成のやり方が分からない」ということ。――この七重苦を全部解消しないと、新規事業はできません。僕たちは、それぞれを解消していくソリューションを開発しています。企業の状況に応じて、ソリューションを組み合わせてオーダーメイドで提供する事業を行っていきます。


すべてのサラリーマンは、「社内起業家」となれる。

――アルファドライブの支援で企業が骨太になり、新規事業をどんどん生み出せるようになっていくということですね。やはりクライアントとして想定しているのは大企業ですか?

麻生氏 : そうですね。日本という国は、大企業がイノベーションを生まないと社会にインパクトを与えられない領域がたくさんあると思います。もちろん、スタートアップからイノベーションを起こすことも重要です。しかし、それだけでは足りないんです。大企業が大企業のままで、イノベーションを起こしていけるようにならないと、日本は面白くならないし、世界から取り残されていくでしょう。

――それは、日本ならではの現象なんでしょうか。

麻生氏 : 日本の社会構造が大きく関係していると思います。例えば、アメリカは優秀な人がどんどん独立して起業していきますよね。しかし、日本は大企業の中に優秀な人たちがたくさんいる。そして、なかなか辞めない。

――なるほど。人材の流動性が低いというのは、確かにそうですね。

麻生氏 : まだ創業して数カ月ですが、様々な日本の大企業とお話していて驚くのが、大企業の中で働く方々は、創業以前に想定していたよりもっとずっと優秀だということ。だから、自信を持って新規事業をやって欲しい。個人的には、みんな辞めて起業家になればいいのにと、結構本気で思いますよ。

――大企業にいる人たちは、自分たちの能力にもっと自信を持った方がいいということですね。

麻生氏 : 本当に、めちゃくちゃ優秀ですよ!確信を持って言えます。アクセラレータプログラムなどでスタートアップと接する時に「我々はサラリーマンだから起業家にはなれない」と、引け目のような感情を抱く大企業の方がいらっしゃるとしたら、それは大きな間違いです。もちろん、起業家も素晴らしいです。でも、どちらかというと大企業の皆さんの方が優秀ですよ、と伝えたいですね。マインドセットや仕事の進め方、リスクの取り方をちょっと変えるだけで、劇的なイノベーションが生まれるのではないかと思います。僕たちも、全力で支援します。だから、自信を持っていただきたいですね。

 

取材後記

空前のオープンイノベーションブーム。その中で、麻生氏は大企業が抱える課題を見据え、アルファドライブを立ち上げた。優秀な大企業の社員が、社内起業家としてその能力を存分に発揮できるようになったら、日本でどんなイノベーションが生まれるのだろうか。そんなワクワクするような未来を感じられるインタビューだった。

eiiconでは今後、麻生氏のコラム連載を掲載する予定だ。新たな産業を創るスタートアップの創業者として、大企業の内なるイノベーション創出を支援するインキュベーターとして、リクルート時代とはまた異なる麻生氏の活躍を追っていきたい。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:佐々木智雅)