日本企業の訪問は時間の無駄?

シリコンバレーや、最近はエストニアやイスラエルなどに日本の企業から「視察」に行く方が増えてきています。

「もう海外から学ぶことはない」などとチャレンジ精神を失って日本国内から出ようとしない人たちに比べれば「とにかく行こう」とすることはとてもいいことです。でも、せっかく行っても「ホームページやインターネットで得られる情報」と「観光」だけでは本当にもったいないですよね。

残念ながら多くの「視察」がそうなっています。その大きな原因の一つが「訪問先のベンチャーにとって魅力ある訪問になっていないから」ということです。ストレートに言うと「日本企業の訪問は何も生まない、時間の無駄」とさえ現地のベンチャーに思われてしまっているケースが増えてしまっています。そういう考えや噂が広がると、他の日本企業が訪問しようとしたときにまで変な障壁を作ってしまうことになりかねません。

本来、「視察」という言葉そのものがいけない。「見て(コミュニケーションも図らず自分勝手に)察する」という意味ですから(ちょっと違うかな)。


「ついで訪問」でセレンディピティを生む

「海外視察」の多くは、「大きな展示会やイベントに参加するので、せっかく行くからそのついでに現地のベンチャーを訪問したい」というような「ついで訪問」というパターンです。

もう既に関係ができていて、具体的な交渉・相談事がある場合と違い、「なんかあるかも」「最先端の空気に触れてみたい」というぼんやりとした期待を持って訪問先を探します。

それはそれで決していけない訳ではなく、セレンディピティが起こる可能性があるので、いいことです。逆に、最近の日本ではなんでも「目的を明確にする」「その目的に対して最適で効率のいいやり方をする」ということばかりが求められていて、新しい世界を拓くための「セレンディピティ」的な人やコトとの出会いのチャンスがとても少ないのが現状です。出張も「何をしに行くか」を明確に出張申請書に書き、そのために最短の日程で日本に帰ってくるようにしがちです。多くの上司が「もっと効率よく日程を短くできないか検討しろ」とか指示してしまいます。

しかし、海外出張という非日常にこそ新たな「気づき」や「出会い」が溢れています。定められた目的だけをこなしてばかりいると新たな世界に踏み出していくのは困難です。


自分を全面に出して魅力ある話に

ただ、前述のように、訪問先のベンチャーにとって「何をしにきたのだ?時間の無駄だ」と思われては元も子もありません。

じゃあ、「しっかりとした訪問目的が必要」だということになってしまうと、「ついで訪問」によるセレンディピティを期待することも難しくなってしまいます。

実は、その「しっかりとした目的のある訪問」と「なんかあるかも訪問」の間に「ついで訪問」に適したやり方があります。

そのポイントは「会社を代表して」ではなく「(会社を使うけれど)個(自分)がやりたいこと」を持っていくことです。

日本の企業人の多くは「しっかりと会社として固まってからでないと外部の人間には話せない」と思い込んでいる人が多いです。その結果、新規事業であるにも関わらず、社内だけで永遠と議論を重ね、しっかりとしたビジネスプランができてからちょっとだけ外部に漏らす、ということをやりがちです。

対局にあるのはシリコンバレー文化です。思いついたら他社の知り合いや関係しそうな人と話して議論する。「そんなことまで言っちゃっていいのか」と私でも心配してしまうほどオープンに話をする。そして、「じゃ、XXをやってみよう。協力するよ」と次のステップにつなげていく。

会社のパワーやリソースは使うけれど、あくまで「私がやりたいこと」なので、いい意味で「会社の責任」はない状態で話ができます。


「ついで訪問」のネタを準備する

海外視察の「ついで訪問」のネタを準備しましょう。

具体的には、「(会社で)自分がやろうと思っている新規事業」の「アイデア紹介」と「お願い」をプレゼン形式にまとめておくのです。複数の人間がその海外視察に一緒に行くのであれば、一人ひとりが準備する。どうしても「自分のやろうと思っている新規事業」がない場合は、同僚からそのネタをもらう。

そして、まず、現地のベンチャーに詳しいVC(Venture Capital)やコーディネータに事前にTV会議などでそのプレゼンを聞いてもらい、「訪問に適しているベンチャー」を紹介してもらう。そして、訪問先に応じて、多少プレゼンの内容をモディファイすることも大事です。どの訪問先にどの参加メンバーのプレゼンをするかも検討しておきましょう。

留意点としては、自分が勤めている日本の会社が大会社の場合、ついつい会社の全体紹介に時間をかけすぎてしまいがちですが、本当に短くやる(せいぜい2分以内で)ことです。プレゼン全体も7分までで。

「まだまだ海のものとも山のものとも分からないものを紹介していいのか」という心配はいりません。ベンチャー自身が「不確実の世界」を切り開いているので、「不確実」に対しての理解は安定した日本の大企業の何倍もあります。

そして、できるだけ「私」という一人称で話すこと。日本人の多くが「We」や「Our company」という言い方をしていまいますが、そうすると、他人事に聞こえてしまい本気度が薄れます。


「宿題(≒Action Item)」を無理やりでも作って自分も縛る

どういう「お願い」をするかが、訪問後の「実活動」につながっていきます。「お願い」には「こういう技術が必要だが、御社のXXは使えそうか」「対象となるような顧客候補やプロトタイプ実験に協力してくれそうな会社はその国にありそうか」などです。そうして、お互いの「宿題(≒Action Item)」を決める。単に言葉だけの「Keep in touch」ではなく、本当の「Keep, continue」にしていく。そうすれば訪問後の関係継続から新たなセレンディピティが起こる事も期待できます。

話題のきっかけは「自分がやりたい新規事業」であっても、その話の中で所属している大企業の活用できる強み・リソースの話の紹介にもなり、「アナタの会社はそんな技術や販路があるのか。それだったら、ウチのXXにとってとても魅力的なパートナーになる可能性もあるのでは」とベンチャー側が気付き、話が広がる可能性もあります。

確かに最近よく言われているように「単なる表敬訪問」で日本企業が評判を悪くしているのはその通りですが、だからと言って「どこにも行かずさっさと日本に帰ってくる」というのはあまりにもったいないです。相手にとっても「魅力ある訪問」を「不確実だけど自分(個)がやりたいこと」を中心とした話題提供・活動で「意味のある『ついで訪問』」を実現しましょう!


■漫画・コラム/瀬川 秀樹

32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。