日本を代表するSNSとして広く知られている「mixi」、スマートフォンアプリとして世界的な人気を誇る「モンスターストライク」など、コミュニケーションを軸として、まさに “ホームラン級” のサービスを創出し続けている株式会社ミクシィ。

そんなミクシィが今、人々のコミュニケーション体験のあり方に再びイノベーションを起こそうとしている。目指しているのは時間や場所、既存の遊び方、通信環境などに捉われることなく、誰もがもっと自由に楽しむことができるポストソーシャルゲームの創出である。

ポストソーシャルゲーム構想の実現に向けて、アクセラレータープログラム「CROSS ACCELERATOR」の開催を発表。同社の想いに賛同し、共にポストソーシャルゲーム創出の実現を目指すパートナー企業を募っている。

今回は「CROSS ACCELERATOR(クロス アクセラレーター)」に関する取り組みの背景や今後の展望、生み出そうとしている世界観などについて、同社デジタルエンターテインメント事業本部を率いる本部長・安藤拓道氏、江本真一氏の両名に詳しく伺った。

【写真左】 株式会社ミクシィ デジタルエンターテインメント事業本部 本部長 安藤拓道氏

東京大学大学院在学中に共に教育系ITスタートアップを立ち上げ、取締役に就任。その後、IT企業の新規事業開発責任者などを担当し、2011年に株式会社Compath Meを創業。家族間のコミュニケーション課題を解決する家族SNSサービスを立ち上げ、2016年にミクシィへ売却しミクシィグループ入り。事業開発室/事業推進室の室長を経て現職。

【写真右】 株式会社ミクシィ デジタルエンターテインメント事業本部 インキュベーション事業部 部長 江本真一氏

NECにてインフラエンジニアを経て、新規事業部門でWeb2.0やコンテンツ管理領域のソリューションに携わる。2011年にグリーへ入社。SNS事業およびクリエイティブセンターを統括、さらにはVR事業、VTuber事業といった新規事業を推進。ミクシィ入社後はデジタルエンターテインメント事業本部にて、ゲーム開発、M&A/PMI、エンタメ事業全般の推進を担当。


スマホでゲームをしていない5000万人にリーチできるサービスを目指す

――最初にお二人が所属されているデジタルエンターテインメント事業本部について教えてください。

安藤氏 : デジタルエンターテインメント事業本部のミッションは非常にわかりやすく、SNS「mixi」、「モンスターストライク」に続く、収益の柱となる事業を生み出すことを期待されている部門です。当社にはスポーツやライフスタイルといった事業セグメントもありますが、私たちはそれら以外のデジタルエンターテインメントに関わる領域でヒットを生み出すことを目指しています。

――デジタルエンターテインメント市場が主戦場になると思いますが、現在のマーケットや業界を取り巻くトレンドについてはどのようにお考えですか?

安藤氏 : インタラクティブ&エンターテインメント領域ということでいえば、市場の成長を牽引しているのは間違いなくゲームです。グローバルマーケットを考えると年平均10%以上のペースで成長している市場なのですが、日本のソーシャルゲーム会社の多くでは厳しい決算が続いており、日本だけが一人負けしている状況であると認識しています。

――なぜ、日本のソーシャルゲーム会社だけが一人負けしているのでしょうか?

安藤氏 : 日本のゲームはコアゲーマー向けのコンシューマゲームからスタートし、フィーチャーフォンゲーム、スマートフォンゲームへと発展を続けてきました。その過程でLINEゲームさんに代表されるようなカジュアル層を取り込めるゲームが生まれたり、当社の「モンスターストライク」のように友達と楽しめるようなゲームが登場したりすることで新たなユーザーを獲得してきたと考えています。

ただ、次第にミッドコアに寄っていった結果、現在ではハイパーカジュアルを除くと、カジュアル層やライト層と呼ばれる方々に向けたゲームが作られているとは言えない状況であり、新規ユーザーがゲームを始めにくい環境が生まれていると思います。これにはソーシャルゲームが宿命的に内包するインフレ構造の問題も影響しています。だからこそ、現状のソーシャルゲームに手を加えるのではなく、まったく新しいものを作り出すべきだと考えています。

――そのような市場・業界の状況がポストソーシャルゲーム構想につながっているのですね。それではイメージや目指すべきゴールについて教えてください。

安藤氏 : 先ほど申し上げたように、世界のゲーム市場の成長は年々加速しています。また、ここ数年は成功が大規模化しており、一部の勝者に成功が集約されるような構造が生まれています。

最近の成功例としては「フォートナイト」が有名ですが、サービス開始から1年足らずで1億人近いユーザーを獲得したほどです。ポストソーシャルゲームで目指すべきは「フォートナイト」のような大規模MAUを誇り、かつ友達や仲間と気軽に楽しむことをコアな体験価値として届けられるようなものであるべきだと考えています。

――「友達や仲間と遊ぶ」ということがポイントとなりますか?

安藤氏 : 現在でも大規模・同時接続型のゲームは多数ありますが、それらとはプレイする目的自体が異なってくると考えています。たとえば今までのゲームでは、レベルを上げたい、強敵を倒したい、宝箱が欲しい…といったゲーム内での目的があって、それらを達成するための手段として友達と一緒に遊ぶ、ギルドプレイをするといった側面がありました。

一方で私たちが作ろうとしているものは、友達と遊ぶという目的が先にあり、そのための手段としてプレイされるようなコミュニケーションに溶け込んだ存在になることを目指しています。

――ポストソーシャルゲームで実現したい世界観、ユーザーに提供したい価値について、さらに詳しく教えていただけますか?

江本氏 : 日本市場だけで考えてもスマホを持っている人は8000万人もいます。ただ、その8000万人のうちスマホゲームで遊んでいる人は3000万人程度です。今までのようなゲームを作っているだけでは残りの5000万人にリーチすることはできません。

だからこそ3000万人のゲームユーザーが、残りの5000万人の人たちと一緒になって楽しめるようなゲームを作っていきたいですし、ゲームを通して互いのコミュニケーションが活性化されるような世界を実現していきたいと思っています。

安藤氏 : 私たちはゲームをコンテンツとして提供するのではなく、コミュニケーションサービスとして提供したいと思っています。そうすることがユーザーに対しての新しい価値提供につながるのではないかと考えているのです。


コミュニケーションとコンテンツ。双方のノウハウを強みとして提供したい

――ポストソーシャルゲーム構想の実現化に向け、アクセラレータープログラム(CROSS ACCELERATOR)に取り組まれるということですが、このようなプログラムを立ち上げることになった背景や目的についてお聞かせください。

安藤氏 : デジタルエンターテインメント事業本部では、以前からVCを通じての投資に加え、個別でもスタートアップとの業務提携や投資を行ってきました。実際にパートナー企業と事業共創を進めていく中で、いくつかのモデルケースにできそうな事例もでてきています。

今までは、モデルケースを作るという意味でもクローズドに取り組んできましたが、こうした取り組みをもっとオープンにしていくことで、「これまで以上に多種多様な企業の皆さんと協業できるのではないか」と考えたことが、今回のプログラムを立ち上げた背景となっています。これまでは海外のベンチャー、スタートアップとの協業検討が中心であり、国内企業との取り組みは少なかったのですが、国内パートナーを募集することでチャレンジの幅も広がると考えています。

江本氏 : プログラムの目的は単純明快であり、目指すべきところはポストソーシャルゲームの創出です。もちろん内製でも頑張るのですが、パートナーの方々と共創することで、より良いものが生まれる確率が高まると考えています。

また、今以上にミクシィ社内で「新規事業を立ち上げられるぞ!」という空気感を醸成したかったこともあって、オープン募集を選択したという側面もありますね。

――事業本部長である安藤さんの視点から、今回のプログラムを通してパートナー企業に提供できる独自のアセット・リソースなどがあったら教えていただけますか?

安藤氏 : この取組を進めている私自身が元々起業家であり、ベンチャー企業の経営者であったことは大きいと思います。私は3年前に自社の会社をミクシィに売却しましたが、それ以前はVCや事業会社に出資される側であり、買われる側の人間だったので、ベンチャーやスタートアップが「どのような支援があったら嬉しいか」、「どのようなアセットを提供されたら助かるのか」という気持ちがすごく良くわかるのです。

また、私たちはこれまでにも様々なスタートアップと協業の検討を進めてきましたが、基本的には「一緒に組むことでスタートアップを伸ばす」というスタンスで取り組んできました。スタートアップの成長がミクシィグループの利益につながるような設計のもとで協業・共創を進められるように努めています。

――スタートアップ側の立場を経験している安藤さんが関わっていることは、応募企業にとっても大きな安心材料になりそうですね。

安藤氏 : ミクシィとしては、もう1つ大きな価値を提供できる部分があると考えています。先ほどコミュニケーションの手段としてゲームやエンタメコンテンツを提供していくとお話しましたが、そのためにはリアルグラフでのコミュニケーションへの理解が必要ですし、さらにはそこに対する最適なコンテンツの企画・設計・投下を行うノウハウも重要になります。とは言え、この2つのことを同時にできる会社は世界を探しても多くないと考えてます。

その点、ミクシィはSNS「mixi」でリアルグラフのコミュニケーションを捉えたサービスを展開してきましたし、「モンスターストライク」のようなコンテンツを企画・設計してきた強みを活かすこともできます。このようなミクシィ独自のノウハウや強みを活用できることは、スタートアップの方々にとっても大きなメリットになると考えています。


ミクシィは、「前例がないからやらない」という意思決定は絶対にしない

――3年前に安藤さんがミクシィに会社を売却されたというお話がありました。様々な買い手企業があったと思いますが、その中でミクシィを選んだ理由について教えていただけますか。

安藤氏 : 当時、私の会社は家族SNSの事業を展開していまして、ミクシィが同じ市場で「家族アルバム みてね」というサービスをリリースしていました。そのため、「みてね」を担当していたミクシィの会長である笠原(※)と会って意見交換をしていたのですが、いろいろと話す中で、「一緒にやったほうがいいんじゃないか」という話になり買収が決まりました。

細かく話せば様々な理由があるのですが、それぞれの強みが異なっていたので、プロダクトやチームが一緒になることで、より大きな成長が目指せると考えたことが売却を決断した大きな理由です。

また、何よりもユーザー目線を大切にしてプロダクトを開発していくカルチャーが、当時の私の会社と近いと感じたことも大きかったですね。ミクシィは本当にプロダクトが大好きで、ユーザーが大好きな会社です。

※ミクシィの創業者であり、現在は取締役会長である笠原健治氏。

――どのようなシチュエーションがあって「ミクシィはプロダクトが好きで、ユーザーが好きな会社」であると感じられたのでしょうか。

安藤氏 : ミクシィグループに入って一番驚いたのが、会長の笠原が「みてね」のCSもやっていたことです。私達もCS対応はユーザーの声の分かる貴重な機会と思い対応することもありましたが、ミクシィ規模の会社で会長職の笠原が自分たちと同じように対応し、ユーザーの声を学んでいるというのは非常に感銘を受けましたね。「ユーザーにとっての新しい価値は何か」「ユーザーにとって何が刺さるのか」ということはプロダクトの企画会議などで話される話題としては珍しくないと思いますが、ミクシィでは経営会議の場でも同じことが徹底的に議論されます。売却するときもそう感じましたが、ミクシィに入ってからも「本当にこだわりが強いな」と感じることが多いですね。また、前例がないからやらない、という判断もミクシィでは絶対にありません。全ての根底にあるのは、ユーザーサプライズファーストという思想で、そこにどう価値を届けるか、というのが徹底されています。

――最後になりますが、今回の「CROSS ACCELERATOR」に興味を持っている方々に対して、安藤さんからメッセージをいただければと思います。

安藤氏 : かつて世界のゲーム市場をリードしていたのは間違いなく日本の会社でしたが、現在では海外勢に押されて苦しい状況に立たされています。日本企業はコンテンツを作る素晴らしい能力を持っているにもかかわらず、「友達と遊ぶ手段としてのゲーム」という領域へと脱皮することができなかったのです。

だからこそ、長年コミュニケーションを軸としたサービスを手掛けてきた私たちミクシィと一緒に、「次の時代の新しい体験を生み出していきたい」という方々に来ていただけると嬉しいです。

現在の海外勢に押されている状況は、私としても本当に悔しいです。日本には素晴らしいクリエイターの方々も大勢いるので、そうした方々の力も借りて、一緒に次のホームランを打ちたいです。


取材後記

安藤氏がインタビューで語っていたように、SNS「mixi」で培ってきたリアルグラフでのコミュニケーションに関するノウハウ、「モンスターストライク」に代表されるコンテンツの企画・開発・運営力の双方を有する企業は、グローバル規模で考えてもミクシィの他に思い浮かべることが難しい。そんな同社だからこそ、コミュニケーションを基軸とした事業創出を目指すことも必然の流れだったのではないだろうか。

今回の「CROSS ACCELERATOR」に参加することで、一般的なアクセラレータープログラムにおけるマーケティング支援やテクノロジー支援に加え、ミクシィ独自のリソースやアセット、ノウハウの提供を受けながら次世代のコミュニケーション体験を生み出すことができるはずだ。まだ誰も見たことがないもの、前例のないエンターテインメントを生み出したいと考えるベンチャー、スタートアップ企業にとっては、またとない大きなチャンスとなりそうだ。

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3月25日に掲載するインタビュー記事【後編】では、CROSS ACCELERATOR」の具体的なテーマや提供できるリソース・アセットを紹介していく。


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(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:齊木恵太)