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【特集インタビュー/リアルテックファンド 代表・永田氏】KPIは、「何件、テクノロジーが社会実装されたか」。事業会社のみで構成される日本最大の技術特化ファンドの挑戦。

東大発のバイオベンチャー、ユーグレナ。2012年に東証マザーズへ上場し、2014年には東証一部へ市場変更。売上100億円を超える企業へと成長した、大学発ベンチャーの数少ない成功事例だ。同社の財務・経営戦略を担当し上場を実現させた取締役の永田暁彦氏は、次世代テクノロジーベンチャーを支援すべく新しいファンド「リアルテックファンド」を立ち上げた中心人物。バイオ、ロボティクス、エネルギー、アグリ、IoTといった「リアルテック」を育成する、日本で初めてのファンドだ。リアルテックファンドは、どのような特徴があるのか。今後の展望は。——永田氏に話を伺った。

▲リアルテックファンド 代表/株式会社ユーグレナ 取締役 財務・経営戦略担当 永田暁彦氏

慶応義塾大学商学部卒。2007年インスパイアに入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。数々のベン チャー投資およびコンサルティングに従事する。2008年12月に投資先の一つであったユーグレナの社外取締役に就任。2010年4月に取締役事業 戦略部長 として完全移籍。2015年4月に設立した「リアルテックファンド」の代表を務める。


■ユーグレナに続く、次世代のテクノロジーベンチャーを育成する

――リアルテックファンドは既に17社のテクノロジーベンチャーに出資しているそうですが、そもそもどのような背景で立ち上がったのでしょうか。

日本の投資環境は以前より改善されており、ベンチャーキャピタルもどんどん立ち上がっています。しかし研究開発型であるテクノロジーベンチャーのアーリーステージに対する投資はほとんどないということに課題を感じていました。技術がビジネスとして花開くまでに時間もコストもかかりますから。また、ユーグレナが2012年に東証マザーズに上場してから「なぜミドリムシで上場できたのか」「どうしたら大企業と資本提携ができるのか」といった相談が毎日のように寄せられており、次世代のテクノロジーベンチャーを支援できる仕組みを作れないかと考えたのです。

では、日本のテクノロジーが発展していくためには、何が必要か。それは大企業との連携です。そこでファンド形式として、大企業が億単位の出資を行い、人やノウハウも提供する実用性プラットフォームを生み出そうと立ち上がったのがリアルテックファンドです。1号ファンドは75億円でスタートしました。

――出資者は民間の事業会社のみで構成されているのですね。

そこがリアルテックファンドの大きな特徴のひとつです。投資リターンを求めるのではなく、テクノロジーベンチャーの立場に立って支援できる仕組みを作りたかった。ですからキャピタルゲイン目的のLP(リミテッド・パートナー)ではなく、事業会社に絞って出資を募りました。そんなしばりを付けていたので、やはり資金集めにはかなり苦労しましたね。

――なぜ政府系、大学系VCが入っていませんね。

投資先をジャンル、大学、ロケーションで区切りたくない、という考えがあります。公なお金で行っているVCは関東や関西の有名大学に資金が集まりがちです。しかしテクノロジー分野で特徴的な研究をしている研究者は全国の各大学にいらっしゃいます。現に、この10年でノーベル賞を受賞した研究者で東大・京大以外からも多く出ています。


■KPIは、「何件、テクノロジーが社会実装されたか」

――事業会社に絞り、現在23社が出資しているのですね。何か統一したルールは設けているのでしょうか。

 リアルテックファンドは、テクノロジーが育って世の中に実装されることに最大価値を取ります。そのためIPOの数ではなく、「何件、テクノロジーが社会実装されたか」をKPI(重要業績評価指標)にしています。投資委員会で決済を取る時も、IPO(新規上場)したらいくらになるとか、そんな議論が起こったことはありません。どれだけこの技術がイケているか、人々がびっくりするのか、社会に使われるのか、だけ議論します。

また、リアルテックファンドのキャピタリストは、9割以上が理工系のマスターかドクター所持者、もしくはメーカー出身者です。そのため研究者と最初から共通言語で話せます。これは大きなアドバンテージですね。

――「テクノロジーがいくつ社会実装されるか」をKPIに置いているということですが、現時点の投資先で社会実装のポテンシャルが高いベンチャーの事例を教えてください。

ポテンシャルを「成功の可能性」×「時間軸」×「取れるマーケットサイズ」で考えると、「時間軸」の面では、第1号の投資先である未来機械です。香川大学発のロボットベンチャーで、ソーラーパネルの清掃ロボットを開発しています。中東はメガソーラーの投資が盛んですが、失敗も多い。その原因が、砂です。2週間もするとパネルの上に砂が積もって発電しなくなってしまいます。これまで手作業で清掃作業を行っていたのですが、未来機械は世界で初めて水を使わず自動で清掃できるロボットを開発しました。すでに中東で活躍しており、量産化に向けて動いています。

「マーケットサイズ」の面では、九州大学発ベンチャーのKyuluxです。次世代の有機EL材料を開発しているチームなのですが、日本のVCは「有機ELの時代はもう終わった」と投資をしませんでした。しかし、私たちは支援することを決めました。その後、サムスン社、LG社が出資を決め、Apple社も次期iPhoneに有機ELパネルを採用するというニュースが話題になりました。今後、可能性が広がる技術ですね。


■テクノロジーベンチャーが事業として成功する「轍」を作りたい

――玉石混交、色んなところから投資の依頼がくるのではないですか。

そうですね。でも、私たちが大切にしているのは否定しないということ。だって、「ミドリムシで飛行機飛ばします」なんて、初めて聞いたら変だと思うじゃないですか。実際に、リアルテックファンドが投資している先は、ほとんど他の資本を受け入れたことがないところです。10年一人で研究をしているけれど、大学からも誰からも認められていないような。そこに「それ、すごくいい!」と光を当てていきたいのです。

――誰からも理解されていなかったベンチャーを評価できる理由は、やはり専門知識を持ったキャピタリストがいるからでしょうか。

理由は3つあり、1つ目はそれですね。2つ目は、既成概念を外したことです。先ほどお話した通り、KPIを「優れた技術をどれだけ社会実装させるか」に据え、IPOを前提として設計しない。例えば、クァンタリオンという原子崩壊の波長を読み取り真性乱数を作るベンチャーがあり、その技術はIoTのセキュリティデバイスとして非常に価値があります。

しかし、社長の年齢が65歳。IPOを考えたVCであれば投資は難しい。しかし私たちは、年齢が判断軸ではなく、社会実装するために技術を引き継いでいくことに重きを置きました。VCとしての投資意思決定とイグジットに対する発想に違いがあります。

——それでは最後に、3つ目の理由は?

はい。3つ目は、テクノロジーを理解できるだけではなく、それがどのような未来を創るかまでイメージできる基盤があること。技術をどう使うかは、研究者ではなくマーケットが分かっている人が考えればいいと思います。「この技術、すごい!でも何に使えるだろう?」となった時に、出資企業を含めて議論すると「うちならこんな使い方ができる」とアイデアが出てくるのはすごく面白いですね。

――今後の展開について教えてください。

 現在17社に出資していますが、1号ファンドだけであと1年以内には40~50社にしていきたいですね。また、出資企業もこの先100社まで増やしていきたいと思っています。それぞれ得意領域を持つ企業が100社揃うって、すごいことですよね。

「テクノロジーに投資しようとして失敗したベンチャーキャピタルは過去にたくさんいる」と言われることもあります。しかし私たちが歩みを進め、テクノロジーベンチャーが事業として成功するという“轍”を作っていきたい。そうすれば皆が目を向けるようになり、世の中の資金がテクノロジーベンチャーに流入するようになるのではないかと思っています。


■取材後記

日本が強みとする「リアルテック」分野。しかしいかに優れた技術であっても実用化まで時間がかかるため、なかなか資金が流入しないという課題があった。そこに踏み込んだのが、リアルテックファンドだ。

出資者はすべて事業会社とする。理系大学院卒のキャピタリストを多数擁している。そして投資目的をIPOとせず「技術をできるだけ多く社会実装に導くこと」に据える。こうしたルールの底にあるのは、優れた技術に光を当てたいという強い信念だろう。その信念があるからこそ、他とは一線を画すファンドとなっている。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)