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東京メトロが取り組む「ポストコロナ」を見据えたアクセラとは?

東京メトロが取り組む「ポストコロナ」を見据えたアクセラとは?

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技術の進化やリモートワークの定着により、私たちは、移動することなく生活を送れるようになった。―そうした世界のなか、鉄道会社が取り組むべき事業とは何だろうか。

その答えが明らかになるのが、東京地下鉄株式会社(以下、東京メトロ)が開催するアクセラレーションプログラム「Tokyo Metro ACCELERATOR 2020」。今年度で5回目を数える同プログラムは、外部企業との共創を通して、新規事業創出と鉄道事業の進化を目指すものだ。


▲プログラムの詳細はコチラ▲

今年度は「ポストコロナも『選ばれる鉄道会社へ』」というコンセプトを掲げ、7つの共創テーマを設定し、パートナー企業を募集。11月19日よりエントリーを開始し、2021年3月まで約5ヶ月間に渡る審査を行う。

そこで今回、プログラムの運営を担当する東京メトロ企業価値創造部の森信治氏、そして、昨年のプログラムで”VR”や”eスポーツ”という新しい価値を生み出した2社、及びそのサポートに当たった東京メトロのコーディネーター2名にインタビューを実施。東京メトロがポストコロナに目指す新たな事業の形に迫った。


【Tokyo Metro ACCELERATOR 2020 運営担当】

■東京地下鉄株式会社 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業企画担当 森信治氏

ポストコロナも「選ばれる鉄道会社」へと変革するプログラム 

――今年度で5回目を迎える「Tokyo Metro ACCELERATOR 2020」。今回のコンセプトである「ポストコロナも『選ばれる鉄道会社へ』」に込めた想いや、その狙いについて教えてください。

東京メトロ・森氏 : このコンセプトに至る前提として、コロナ禍の影響があります。新型コロナウイルスの感染拡大は、東京メトロの鉄道事業に大きな影を落としました。移動自粛やテレワークの普及による影響は予想以上で、現在のところ乗客数が元の水準に回復する見込みは立っていません。

そうした状況に危機感を抱き、全社一体となって、新規事業の創出や新たな付加価値の提供、鉄道事業の進化などに取り組もうというのが、今年度のコンセプトに込めた狙いです。

――7つの共創テーマを設定しています。それぞれのテーマが定められた経緯について教えてください。


東京メトロ・森氏 : まずは①「東京メトロの資産を活用した新商品の開発」、②「リアル×デジタルで新サービスを開発」、③「あらゆる世代が都心を楽しめるサービスを開発」について説明します。

これらは企業価値創造部のメンバーがリストアップした新規事業アイデアの中から、実現性が高く、さらに我々として取り組むべきだと考えるものを挙げました。東京メトロが2019年に発表した中期経営計画「東京メトロプラン2021」でキーワードとして掲げた、「東京の魅力・活力」を引き出すことを狙っています。

続いて④「『my!東京MaaS』との共創」、⑤「東京メトロの非鉄道事業との共創」に関しては、東京メトロの非鉄道事業との連携を前提としています。

東京メトロのMaasサービス「my!東京MaaS」、事業開発本部が行っている関連事業、さらには近年新規事業として進めている子供向けロボットプログラミング教室事業、キッズスぺース併設ワークスペース、駅構内個室型ワークスペース、アウトドアフィットネスクラブといった事業にパートナー企業のアイデアを盛り込み、さらなるサービスの価値向上を目指しています。まだ事業として小さく、機動力があるため比較的チャレンジングな共創が実現しやすいのが特徴です。

最後に、⑥「安心な空間の提供」、⑦「駅・メンテナンス業務の効率化」の2つです。

この2つについては、全部署から業務に関する課題や困りごとを募り、それをプログラムの運営をする企業価値創造部のメンバーで整理して、テーマ化しました。主に、デジタル技術の活用などを通じて、鉄道事業の効率化や価値向上を図ることを目的としています。

――今年度のプログラムの魅力やメリットは何でしょうか。

東京メトロ・森氏 : 昨年よりも全社的な協力が得られているため、関連領域が大きくなったことは大きな魅力だと思います。上層部はポストコロナを支える新規事業の創出に注目しています。また、各事業部においてもプログラム自体の認知度が高まっており、昨年よりも幅広い協力が期待できます。

そして、今年度から鉄道事業に関係するテーマを新たに設定したため、東京メトロならではのアセットとして鉄道車両や駅施設、車両基地といった鉄道施設と、そうした施設に深く入り込んだ実証実験やデータ収集が実現しやすくなります。安全が最優先であるため、正直に申し上げて導入のハードルは高いのですが、これまで新たなテクノロジーが入りにくかった領域で挑戦できることは、参加するスタートアップにとって大きな魅力だと思います。

「東京メトロ以外とは実現できない共創」―他社には無い鉄道関連の”実物”アセット

次に、2019年度のプログラムで採択された株式会社魔法アプリとの共創内容について、同社代表・福井氏と東京メトロ側のコーディネーター・佐藤氏に話を聞いた。

【2019年度採択企業①:株式会社魔法アプリ】


▲株式会社魔法アプリ 代表取締役CEO 福井健人氏


▲東京地下鉄株式会社 鉄道本部 営業部 営業企画課 佐藤雄哉氏(魔法アプリコーディネーター)

――まずは、魔法アプリが「Tokyo Metro ACCELERATOR 2019」に参加した経緯について教えてください。

魔法アプリ・福井氏 : 魔法アプリが展開しているのは、VR技術による擬似体験を通じて、苦手や恐怖感情を克服するプログラムです。日本には鉄道や飛行機など、公共交通機関を苦手とし、利用できない方が200人に1人の割合でいるとされていて、そうした方々にVRで再現した鉄道に乗車していただくことで、苦手を克服するソリューションを提供しています。

ソリューションの効果を向上させるためには、より現実に即したVR制作が不可欠で、東京メトロさんのアセット活用を目的にプログラムへの参加を決めました。

――プログラムで採択された共創案が、2020年10月に苦手克服VRトレーニングシステム「NaReRu」としてリリースされました。ここに至るまでの共創の過程について教えてください。

魔法アプリ・福井氏 : プログラムの最中は、審査員の方々に共創にかける熱意をアピールするため、可能な限り完成形に近いVRを作り上げていきました。コーディネーターの佐藤さんにご協力いただきながらデータを収集して、最終審査会では東京メトロさんの丸ノ内線の車両を模したVRを発表することができました。

採択いただいてからは、現実により即したVRを制作するのが目的のため、駅構内のアナウンスやホームドアが開閉する音声なども、東京メトロさんの施設を利用して実際のものを録音し、さらに、車両に掲げる企業ロゴも、商標利用に関する法的リスクを全てクリアしたうえで、利用することができました。

他にも、NaReRuは例えば心療内科など医療機関でも利用されることから、行政が定めたガイドラインを遵守しなければならないため、システムに関する文言や表現のチェックも東京メトロさんと共に進めていきました。


▲地下鉄車内VRイメージ(実際の駅構内や車内風景とは異なる)

――まさに、二人三脚の共創体制ですね。コーディネーターの佐藤さんは、共創のなかで、どのような点に注意していましたか。

東京メトロ・佐藤氏 : 私は鉄道本部に所属しているのですが、鉄道事業は安全な鉄道運行が最優先されるため、私自身、知らず知らずのうちに、課題に対して制約条件から想起する習慣が付いていました。「こうすれば解決できる」よりも、「こういうリスクがある」の方が先行してしまう。

しかし、今回は新規事業の取り組みですから、既存の枠組みを乗り越えるためにも、「なぜそれが制約されているのか」までを考えて、制約条件を解きほぐしながら共創を進めることに留意しました。

――福井さんは、東京メトロと共創するメリットはなんだと思いますか。

魔法アプリ・福井氏 : 他社との共創ではなかなか手に入らない「実物」がある点です。鉄道車両や駅施設、地下空間、車両基地など、「東京メトロだからこそ」のアセットが豊富なのは、共創における大きな魅力であり、東京メトロさん以外のパートナーとは実現できない事だと思います。

「魅力は地域に根付いた駅施設」―鉄道路線から東京全域へ広がるeスポーツ 

続いて、2019年度のプログラムで採択されたゲシピ株式会社との共創内容について、同社代表・真鍋氏と東京メトロ側のコーディネーター・川尻氏に話を聞いた。

【2019年度採択企業②:ゲシピ株式会社】


▲ゲシピ株式会社 代表取締役 CEO 真鍋拓也氏


▲東京地下鉄株式会社 人事部 労務課 川尻明氏(ゲシピコーディネーター)

――ゲシピの真鍋さんにお伺いします。昨年のプログラムに参加された経緯について教えてください。

ゲシピ・真鍋氏 : ゲシピはeスポーツスタートアップで、これまでオンラインプラットフォームや学習動画サービスなどを通じて、「いつでも誰でもeスポーツを真剣に楽しめる世界の実現」に向け、普及促進に努めてきました。

eスポーツの普及を図るうえで、ゲシピが重要視しているのが「草の根的」であることです。大規模イベントで大勢の人々を一挙に動員するのではなく、地域に根付いた小規模施設の裾野を広げ、どの地域でも誰でもeスポーツを楽しめる環境を作ることがゲシピの目標です。そうしたビジョンを目指すうえで、東京メトロさんの東京一円に広がる鉄道路線や、地域に根付いた駅施設は非常に魅力的でした。

そこで、昨年のプログラムでは、ゲシピの知見やノウハウと東京メトロさんのアセットを掛け合わせてeスポーツジム店舗を展開し、東京を「世界一のeスポーツ都市」として活性化させる共創案をご提案しました。

――その後、ゲシピは見事採択され、2020年10月にeスポーツジム事業の展開に向けた業務提携を東京メトロと結びました。今後、予定している事業の概要について教えてください。

ゲシピ・真鍋氏 : まず、2020年12月頃にオンラインジムを先行してスタートさせ、次いで2021年3月頃に1店舗目となるeスポーツジムを東京メトロ沿線に出店する予定です。本来であれば、2020年内に実店舗をスタートさせる予定でしたが、コロナ禍の影響により遅れが出ています。

しかし、それは逆にいえば、コロナ禍の最中にあっても一度も途切れることなく共創が進められた証拠だと思うので、東京メトロさんには熱心にコミットしていただいたと実感しています。


▲eスポーツジム店舗イメージ

――コーディネーターの川尻さんは、共創をサポートするうえで何か気を付けてらっしゃったことはありますか。

東京メトロ・川尻氏 : まず、「サポート」といった感覚は全くなかったです。すべてを自分事として捉えて、まさしく文字通りの”共創”に取り組んでいたという意識の方が強いです。もともと、東京メトロにとってeスポーツは完全に未知の領域の事業ですから、事業開発においてもゼロベースが基本で、その分、より主体的な姿勢が求められたのだと思います。

ゲシピ・真鍋氏 : それは川尻さんに限った話ではなく、東京メトロさん全体が、そうしたフラットかつフェアな姿勢でプログラムにのぞんでいます。コミュニケーションにおいても上下関係は一切ありませんし、ジムで提供するコンテンツもお互いにアイデアを出し合って練り上げました。

また、PLなど事業計画に関わる面も対等に進めてくださっています。スタートアップ側からすると、そうした関係を築いてくれることが、一番の「サポート」ではないでしょうか。

――今後の共創の展望やその先に見据えるビジョンについて教えてください。

ゲシピ・真鍋氏 : 今はまだ具体的には申し上げられませんが、中長期的な拡大戦略は既に用意されており、両社で共有しています。

そうした目標を実現するためにも、まずは1店舗目のeスポーツジムを成功させ、事前に見込んでいた収益性や価値提供を実証していきたいです。そうした取り組みの先に「東京を世界一のeスポーツ都市に!」という、本来のビジョンを実現したいですね。

長期に渡って伴走し共に新たな価値を創り出す、正真正銘の共創

――最後に、今年度のプログラムに応募を検討している企業にメッセージをお願いいたします。

魔法アプリ・福井氏 : 正直なところ、プログラムに参加する以前は、ここまで手厚い共創体制で、長期間に渡った伴走をしてくださるとは思っていませんでした。実際に、NaReRuがリリースされてからも、ほぼ毎週のように打ち合わせをして、今後の展開について議論をしています。そうした長期的な共創を望まれる企業にはぴったりのプログラムではないでしょうか。

また、一方で、魔法アプリのように社会貢献性に重きを置いた企業でも採択されるプログラムのため、事業モデルに自信がなくても、熱い想いがあるならまずは応募することをお勧めします。

ゲシピ・真鍋氏 : 私も似たような内容なのですが、このプログラムは正真正銘の「共創」だと思います。既存のアセットにひと工夫加えて、効率良く収益を出そうといった類のものではなく、共に事業を作り上げる本質的な取り組みです。

そのため、共創のなかで、事業を進化させたり、今は予想もつかない新たな事業にアップデートさせたりといったことを望む企業には、非常に適したプログラムだと思います。

東京メトロ・森氏 : プログラムは今年で5回目になりますが、その運営に携わるなかで、企業価値創造部内にも共創に対するナレッジが蓄積していっているのを感じ、それを基に今年度はさらに精度の高い共創を実現するつもりです。この記事をお読みの方で、ご興味を持たれた方はぜひご応募いただければと思います。

取材後記

昨年度のプログラムが終了したのは、2020年3月。その後、コロナ禍のなか共創は着実に進められ、同年10月に、2社共にサービスのリリースを発表している。

これだけでもプログラムによる大きな成果といえるが、何よりも驚きなのは、現在も2社の共創は継続しており、今後のサービス展開や事業の拡大にも東京メトロが深く関与していくことだろう。数あるアクセラレータープログラムのなかでも、募集企業がここまで長期的かつ広範囲に事業開発にコミットするものは稀ではないだろうか。

今年度のプログラムは、2020年11月19日にエントリーを開始する。この記事を読んでいる方も、東京メトロの真摯な姿勢に魅力を感じたのなら、ぜひ募集要項を確認し、共創の接点を探ってみてほしい。


▲プログラムの詳細はコチラ▲

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:加藤武俊)

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