「新規事業」は「世の中にない新しい事業」ではないので

「新規事業」って、「世の中にない新しい事業」ではなくて、実は多くの場合は「自社にとって新規な事業」のことを指します。つまり、これまで培ってきた技術や販売方法などの強みを活かすだけでは足りないことが沢山あります。

その中で最も「足りない」のが「新規事業に必要な人材」です(最近は人財って言う人が多いですね。まさしく財産)。新規事業を探索したり立ち上げたりするために、当然、まずは社内から向いた人を公募などで集めます。「向いた人」というのは、「新規」なので、現在のスキルをそのまま活かす訳にはなかなかいかないので、変化・成長を喜んでしそうな人のことです。いくら現在の事業で優秀でも、自分の殻を強固に守ろうとするだけの人は向いていません。

しかし、社内調達だけではどうしても足りない。自社から見ると未知の部分が一杯あるのが「新規事業」だからです。そのために、社外から人を獲得する必要が出ていきます。


何がなんでも「この人欲しい〜♪」

「社外人材」を獲得するためには、最近は「人材紹介会社」に依頼して、候補を集めてもらい、書類審査して面接をして……というのが一般的です。その際、いつも問題になるのが「条件が合わない」ということです。特に、「給与・報酬」と「肩書」で、本人の希望と人事部門のガイドラインの間のギャップが埋められないことが多いです。あなたが新規事業の責任者であれば、その人物の獲得こそが事業の成否を決めるくらい重要な事項であれば、何がなんでも人事を説得しなければなりません。

日本の企業の場合、給与と肩書はほぼ連動しているので、入社してもらうための給与レベルにするには、あるレベルの肩書が必要になるのですが、そうすると人事部門から「そんな若い部長は我が社にはいない」というようなクレームがつきます。めげないで交渉を続けましょう。「わが社にとっていかに新規事業が重要か」「若返りのきっかけにもなる」「なかなかいない人物だ」などとあれこれ言い続けましょう。直接口にするのはあまりよくありませんが、言外に「お前のせいでこの人を取れずにこの新規事業が失敗してもいいのか」という脅しのような部分も塗(まぶ)して交渉しましょう。

そういう人材紹介会社経由で外部の方を見つけ、入ってもらうのが一般的なはずなのですが、私の個人的な経験の範囲では「神風型人材獲得」と「飲み友達型人材獲得」がかなり大きな比率を占めていました。


神風型人材獲得

「この事業を成功させるには、一人二人の外部人材獲得ではなかなか埒が明かない。どうすればいいのだろう」と悩んでいる時に、突然、他社で同じ領域の事業をクローズするという話が飛び込んできて、丸々チームごと入社していただけることになりました(詳細は割愛)。つまり、本気でその事業を立ち上げたい!という気合を持っていると、思わぬ神風が吹く……というスピリチュアルに近いことが割とよく起こります。なんか、神様が「この事業を前に進めなさい。ほら、これでどうだ」ってプレゼントをくれたような気分でした。(逆に、神様が「やめとけば~」と言って、やたら邪魔してくる事業もあって、それはなかなかうまく行きません)

また、私がシリコンバレーでCVC(Corporate Venture Capital)をやっていた時には、投資先の会社から、欲しかったマーケティングの優秀な人間が、立ち上げていた新規事業の部門に転職してきました。予想外でした。投資先にとっては痛手のはずだったので、投資した者としては素直に喜べないはずですが、割と素直に喜んでしまっていました。


飲み友達型人材獲得

結構「要」となる人物は、「必要となって捜す」より前から知り合いであるケースが多くありました。いくつかの例は、前々からの単なる飲み友達で、その人が「転職」を考えるような状況なった時に、私に声をかけてくれて、私が勤めていた会社に結果的に転職されました。今も活躍されている方が多いです。その場合は、私が「是非」とお願いしたというより、私を通じて会社がやっていることを知り、魅力を感じてくれたようです。私は会社員時代から、社外の友人も多く、それが今で言うオープンイノベーション活動のベースになっていたからこそ起こったことかもしれません(「オープンのみゅベーション」、かな?)。

直接の飲み友達ではなくて、飲み友達から紹介されて転職してこられたケースもあります。

この「個人的なつながり」は、人材紹介会社経由よりもいい点として、じっくりと付き合って人物像もある程度分かっているということです。短時間の面接ではなかなか分からない性格なども把握できます。

アメリカでは、転職するときに「リファレンス」が求められることが多いです。「リファレンス」とは「知り合いにアナタの評判を聞く」ということで、転職先の会社が、その人物を知っている人から「どんな人?」と電話などで確認する方法です。本人の口から聞いているだけでは分からないことを把握するのにいい方法ですが、残念ながら日本ではまだまだ一般的ではありません。それの代替に近いのが「元々の知り合い」や「飲み友達ネットワークからの紹介」です。

ただ、こうやって私だけを通じて会社を知った気になって、入社してみると「瀬川さんみたいな人(いい加減で新しモノ好き?)が一杯いる会社かと思っていたのに、殆どいないじゃん。固い人ばかり……」と苦労されたという苦言も沢山いただいてきましたが(ごめんね)。



■漫画・コラム/瀬川 秀樹

32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。