そのまま整理しても使えない

新規事業を発案したり推進したりするためには、自分たちの会社で使えるリソース(技術や顧客ベースやノウハウなど)は何があるかをまず知る事が大事です。

「自らの強みを活かし」たり「実現性を高め」たりするために社内のリソースをいかに活用するかが重要だからです。また、オープンイノベーションで外部の会社やベンチャーと付き合うためにも社内リソースをしっかりと把握しておくことは肝要です。

そのため、「新規事業を作るための新組織」ができると、ついつい最初に「リソースマップ」のような「社内リソースの整理した一覧できるような表」をExcelなどで作ろうとしてしまうことが散見されます。

特に「XX技術管理部」や「XX経営管理部」の方々はこのような思考に陥りがちです。

でも、残念ながらそのアプローチではまずうまくいきません。「労多くして効少なし」です(「骨折り損のくたびれもうけ」とまでは言いませんが……)

4コマ漫画に描いたように「とにかく膨大なリソースなので、整理にとんでもない時間がかかってしまう」「その間にどんどん新しいリソースが追加されてしまい、整理されても最新の情報を入れ込めない」などの問題もありますが、一番のポイントは「社内リソースはそのまま整理するだけでは『新規事業系』には使えない」ということです。


使えるリソースにする抽象化

一例を挙げてみましょう。

例えば、「紙コップの製造」をこれまでの事業としてやってきた会社があるとします。

「顧客の要望に正確に応えて紙コップを安価に作ることができる技術」というのがその強みです。そのサイズやデザインの多様性/紙の種類/表面のエンボス加工などが強みの技術のリソースとして考えられますが、その全てが「紙コップの」という形容詞がついている限りは「紙コップ製造」という既存事業から脱却して新規事業に踏み出すことはできません。

そこで必要となってくるのが「リソースの抽象化能力・想像力」です。

「紙コップの」という枕詞を外して、例えば「曲面の(紙のような)多少柔らかい材質の上にエンボス加工つきのデザインを施すことができる技術」という表現にすると、「それって、最近出てきた環境にやさしい再生紙を活用した布を用いた『服』に使えるかも」という「衣料業界」への進出の発想につながっていきます。

他の例としては、例えばプリンター機器の会社で、自社が持っている「インジェット」の技術をリソースとして表現するときに「きれいな印刷ができる技術」のような表現をしている限りは「印刷業界」から抜け出すことはできませんが、「小さな液滴を所望の位置に正確におく技術」という風に「抽象化」すると、「それって、DNAチップに活かせるのではないか」というような新規事業の発想につながっていきます。


抽象化能力を鍛える

「抽象化」のコツは、「具体的な業界や対象物を外し」て「~できる」と表現することです。

技術だけではなく、販売力などのリソースも抽象化しましょう。「紙コップを売る販売力」ではなくて「軽くてかさばるものを効率よく安全に運んでお客様に迅速に届ける」と抽象化すれば、さまざまな事業に使える強みのリソースに変化します。

「自分達がやっている(やってきた)技術を抽象化してみよう」という議論を普段からやっておくことが大事です。しかし残念ながらその技術の担当者はそういう思考パターンを持ち合わせることは稀で、かつ忙しいので当事者自身に期待してもなかなかできません。そこで新規事業推進の部門の人たちが、練習もかねて「散在する技術・強み」の抽象化を試みるのがオススメです。その際に「当事者」の方々もワークショップなどの形で議論に参加してもらうと、発想も深くなり、かつ、当事者の方にもそういう「思考パターン」を身に着けてもらうチャンスにもなります。


整理せずに聞いちゃおう

ただ、こうやって社員が徐々にその能力を身に着けていくのを待っている暇はあまりありません(絶対やっておいたほうがいいのですが)。そこで、実際には、すでにそういう「抽象化能力」を持ち、かつ「社内でやっている様々なテーマを広く知っている」人に「こういう新規事業をやりたいのだけれど、使える社内リソースって何かあるか」と相談するのが手っ取り早いし道を拓くための最善の方法です。そうして、その技術などをやっている人を紹介してもらうのです。第14回の「紹介ハブ」にも似ています)

相談を持ちかけるためにも自身の「抽象化能力」を高めておくことも必要です。そうしないと、今見えている「すぐそのまま使えるリソース」にしか相談相手の方も思考がいかず狭い範囲の紹介になってしまうので。

社内全てのことを網羅している人はいなくても、そういう人たちは必ずいますのでウロウロして何人か探し出しましょう。


人工冬眠のように

「いやいや、そんな古風なアナログチックなことをしなくても、今は色々な『社内リソースを整理・活用するためのシステムやソフト』が売られているじゃないか」と思われるかもしれません。昔に比べると、この領域はすごく進化していて、人事関係の人的リソースマップの作成や検索ができるものなどが沢山出てきていますが、まだ上述の「抽象化能力(想像力・創造力)」を十分に持ったものまでは至っていません。もうしばらくは「人」に頼る方がいいのです。

ただ、できれば少なくともこれからの社内情報はオープンデータの形式でなるべく保存しておきましょう。(できるだけ4段階、5段階形式で)

そうすれば、「今の医療技術では治療できないこの病気も未来の技術であれば治せるかもしれない」と考えて「人工冬眠」することに似ていて、未来の抽象化能力を持ったAIがなんとかしてくれるかもしれません。



■漫画・コラム/瀬川 秀樹

32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。