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【インタビュー】WILBY×ビックカメラ。大企業とスタートアップによる、“ポジティブなM&A”とは?

家電量販大手のビックカメラは2017年10月31日、Webメディアを運営するスタートアップ企業WILBYを完全子会社化したと発表した。

WILBYは2013年設立。家電・スポーツ・ファッションの分野を中心に、話題の商品に関する情報をわかりやすく紹介する Web マガジン「SAKIDORI」を運営している。記事にAmazonや楽天市場へのリンクを貼り、商品の販売ページへ読者を誘導することで、広告収入を得るビジネスモデル。高品質な記事内容により、急成長を遂げている。

大企業とスタートアップによる連携の形は様々あるが、今回WILBYがM&Aという選択をした理由は?そして、パートナーを見つける上で、重視したポイントとは?代表の安田氏に伺った。

▲株式会社 WILBY 代表取締役社長 安田 直矢氏


事業成長のスピードと大企業とのシナジーを重視し、M&Aを決意

――安田さんは、総合人材サービス業のインテリジェンス(現パーソルキャリア)に新卒で入社後、ネット系ベンチャーを経て起業されたと聞いています。いつ頃から起業を考えていらっしゃったのですか。

学生時代から、将来は起業することを視野に入れていました。インテリジェンスではキャリアコンサルタントと営業を4年。それからACCESSPORTというネット系ベンチャーに転職し、新規事業の立ち上げを行いました。その後、いよいよ起業しようと事業計画を練っていたのですが、出資者との条件が合わず一旦ストップすることに。

次は何をしようかと悩んでいた時に、知り合いの社長から「SponsorPay(現Fyber)」というドイツのモバイルアドテク企業が日本進出するため、人を探している」と紹介を受け、日本法人の立ち上げを任されることになったのです。そこで日本法人の仕事をしながら、副業でWILBYを立ち上げました。

――「SAKIDORI」のビジネスモデルは、どのようにして始まったのですか。

WILBYを立ち上げた2013年当時は、モノづくり系ベンチャーが続々と立ち上がっている時期でした。彼らが口々に「モノを作ることはできても、販売やプロモーションが大変」と言うのを聞いて、何かサポートできるプラットフォームを作りたいと思ったことがきっかけです。そこで共同創業者の千田と相談し、まずは「メディア×EC」という世界観でSAKIDORIをスタートさせました。

SAKIDORIの記事で紹介した商品を、そのままSAKIDORI内で購入してもらうことを期待していたのですが、まだメディアパワーも何もない時期で、売上は伸びず…。これではいけないと一旦ECを閉じ、メディア一本でやっていくことを決めたのです。ただ、「トラフィックが集まったら、またECも始めたいね」という話は千田としていて、SEO対策に力を入れていました。

――「SAKIDORI」が軌道に乗る中、このタイミングで大手企業グループ傘下に入ることを決めた理由を教えてください。

成長スピードを重視したからです。SAKIDORIにトラフィックが集まるようになったことで、再びECを始めようと考えたのですが、当社はECのノウハウを持っていないんですよね。そのノウハウを蓄えるためには大きく2つ選択肢があります。

ひとつは、ゼロから自社で在庫を抱えてやっていくという選択肢。もうひとつは、既にECサイトを持っている企業と一緒にやるという選択肢です。SAKIDORIは一番伸びている時期でしたから、このタイミングで早急に次の成長フェーズに行きたいという気持ちがありました。前者ではかなり時間がかかります。そこで、後者を選択したのです。


アドバイザリーの力を借り、効率的かつ対等に交渉を進める

――EC事業を展開している企業はたくさんありますが、どのようにしてビックカメラと合意に至ったのでしょうか。

上場企業で、M&Aを積極的に行っていること。そして今後ネットビジネスに注力していく企業を中心に複数社の候補を絞り込んでいきました。

――交渉のなかで、重要視していたことはありますか?

交渉を進める上で大切にしていたのは、大きく3つ。1つは、独立性の維持です。事業の運営権はもちろん、働く場所や環境、社員の雇用も保てるように交渉を進めました。2つ目は、新会社の立ち上げができることです。当社はSAKIDORIの他にWeddingdayという事業を展開していましたが、今回はSAKIDORIだけを切り離して事業売却を行いました。今後もWeddingdayの運営はもちろん新規事業を立ち上げていきたいと考えていましたから、そこは絶対に譲れない条件でした。企業によっては条件が合わないところもありましたが、ビックカメラは基本的にこちらの要望を尊重してくれ、スムーズに交渉が進みました。

――最後の3つ目は?

はい。3つ目は、事業シナジーです。ビックカメラは今後Webサイトの品質向上をはかりたいという方針がありました。そこで当社の商品紹介のノウハウを取り入れることで、さらに発展していけるということで、合意に至りました。

――パートナー探しや交渉は、自社ですべて行ったのでしょうか?

M&Aアドバイザリーに依頼をしました。そのグループには起業する際に大変お世話になっており、恩返しをしたいと思っていたのです。結果的に、自力で探すより遥かに効率的に買い手を探していくことができました。

――具体的に、どのような点でアドバイザリーを入れたメリットを感じましたか。

候補探しはもちろん、候補を見つけてから交渉を行う際のスピードが格段に違いますね。自力でやっていたら、かなりの段階を踏まなければ上場企業のトップには会えませんが、アドバイザリーを挟めば初回からトップと交渉ができますから。

次に、資料作成などのサポートですね。上場企業とM&Aの交渉を進める時には、膨大な資料を提出する必要があります。財務諸表などはもちろん、就業規則など、多くて百種類以上の書類作成が必要なんですよ。それに、どの資料が特に重要なのかも自分たちだけでは分かりません。

――なるほど。

そこでアドバイザリーの方に「この資料は大変ですが、作り込んでいた方がいい」「これはそれほど重要ではない」といったアドバイスをいただけたことは大変助かりました。マンパワーのない中、事業を成長させながら進めていかねばならないので、アドバイザリーの力がなくては、到底乗り越えられなかったと思います。


互いの知見やノウハウを取り入れ、新しい施策を行っていく

――今後の事業展開については、具体的に決まっていますか。

具体的なことは今話し合っている最中です。当社としては、例えばクラウドファンディングで成功したプロダクトをSAKIDORIで取り上げると同時にビックカメラの店頭でも販売するなど、モノづくり企業を応援できるようなO2O施策を行っていけたらと考えています。

また、個人的には新しい事業の立ち上げが好きなので、今後も既存事業に固執せず色々な事業を手掛けていきたいですね。

――今回のM&Aによって、社内ではどのような反響がありましたか。

非常にポジティブです。ビックカメラには、バイヤーさんや店頭スタッフさんなどの深い知識やノウハウなど、膨大な商品情報があります。そうした知見を私たちが取り入れることで、SAKIDORIの記事クオリティをさらに向上させられるのではないかと、メンバーのモチベーションが上がっています。

――最後に、オープンイノベーションに興味がある起業家に、大企業と連携を進めていく上でのアドバイスをお願いします。

M&Aに対してネガティブなイメージを持っている方も多いかもしれませんが、私自身は成長のスピードを加速するために、ポジティブなことだと捉えています。ただ、ポジティブなM&Aにしていくためには、譲れないポイントを予め整理することが大切です。それが元で合意に至らない場合もありますが、曖昧な合意や、わだかまりを残した合意では、買収後にうまくいかなくなるでしょう。ですから、譲れないポイントは絶対に崩さずに交渉を進めていってください。今後、ポジティブなM&Aが日本でどんどん広がっていけばいいなと思います。

 

取材後記

「買い手探しをしている間に辛かったのは、身動きが取れなかったことだ」と、安田氏は言う。買い手によって事業の方向性も変わっていくため、交渉中は事業の新しい施策を打つことも、採用もできなかったそうだ。また、事業成長のミッションを背負いながら、交渉のための資料作りや買い手候補との面談に時間を取られることも大変だったという。スタートアップは時間にもマンパワーにもノウハウにも限界があるため、大企業と交渉を進める上ではアドバイザリーを頼ることも一つの方法だろう。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:佐々木智雅)