新規事業やイノベーションの成否を分けるポイントや、新規事業担当者の成長・学習のメカニズムなどを、膨大なデータをもとに紐解き、「人と組織」という観点にフォーカスした書籍”「事業を創る人」の大研究”(クロスメディアパブリッシング)。――同書を、立教大学経営学部 教授の中原淳氏とともに共同執筆したのが、人材系シンクタンク・パーソル総合研究所出身で現・立教大学経営学部 助教・田中聡氏です。

以前、eiicon labでは田中氏にインタビューを行い、研究テーマに基づいたお話を伺いました。このインタビュー(前編後編)が大きな反響を得たことをきっかけに田中氏による「事業を創る人」に着目した連載企画をスタートします。第一回目は、“「事業を創る」の現状”について解説してもらいました。


【★本連載における「新規事業」の定義について】

本連載では、事業を創る活動(新規事業創造)を「既存事業を通じて蓄積された資産、市場、能力を活用しつつ、既存事業とは一線を画した新規ビジネスを創出する活動」と定義します。つまり、事業を創るとは、単に新しいものを生み出すことではなく、既存事業で得た資産・市場・能力を活用して、経済成果を生み出す活動です。


加速化する新規事業への取り組み

連載企画の第1回目は、「事業を創る人」にフォーカスする前段の話として、日本企業における新規事業の現状について見ていきたいと思います。さっそくですが、以下の図①を見ると、2013年時点では日本企業335社における新規事業の売上シェアは全体の6%程度に過ぎませんでした。それが2016年では日本企業236社を対象にした調査によれば約14%になっており、3年で2倍以上伸びています。

内訳を見ると、自社・市場にとって新しいものを生み出したと言える革新的な領域での売上比率が2016年で約25%と、3年前の11%から大幅に増加しています。つまり、この3年ほどで新規事業に対する日本企業の取り組みは積極化していることがわかります。


<図①>新規事業に対する取り組み

※「事業を創る人」の大研究 P47より


新規事業への取り組みが積極化した理由

日本企業が新規事業を積極的に取り組むようになった背景には、消費スタイルの変化とそれに伴う製品ライフサイクルの短命化があります。下の図②は、経済産業省が2016年に実施した製品ライフサイクルの変化に関する調査データです。製品ライフサイクルが10年前と比較してどのように変化しているかという問いに対し、全ての業種で「長くなっている」割合よりも「短くなっている」割合のほうが多いことがわかります。業種別に見ると、「電気機械」は34.7%、「化学工業」は30.2%が「短くなっている」となっており、特に製品ライフサイクルの短縮化が進んでいる業界であることが見てとれます。


<図②>製品ライフサイクルの短命化

※「事業を創る人」の大研究 P49より


さらに、製品ライフサイクルが短くなっている企業に短縮率を尋ねた結果が以下の図③です。「電気機械」では約4割の企業が「50%以上」、約3 割の企業が「30%以上~50%未満」と回答しており、他の業種と比較して製品ライフサイクルの短縮化の進行スピードが著しく早いことが明らかです。


<図③>製品ライフサイクルの短縮率

※「事業を創る人」の大研究 P49より


ひとつの製品モデルがヒットすれば皆がそれを買うようなこれまでの時代では、その製品モデルの色違いや類似製品を出すことで、企業は継続的に利益を得ることができました。しかし、消費の個人化や多様化により、製品ライフサイクルも大幅に短縮化しました。

その結果、既存の主力製品・サービスに頼ることなく、どんどん新しいものをつくっていかなければ、企業が利益を得ることは難しくなっています。かつてのような長期的に安定した戦略がそのまま経営にも長期的な安定をもたらしていた時代とは異なり、「生き残りを賭けた生存戦略」として「新規事業」が必要とされているのです。


新しい商品・サービスを生み出すことが重要な経営課題に

実際に多くの経営者が、自社の経営課題として「新規事業の開発」を重視しています。そのことを示すデータが図④となります。図④は、企業経営者を対象に自社の経営課題を調査した結果を経年で示したグラフです。

2016年の上位4項目は「収益性向上」「人材の強化」「売り上げ・シェア拡大」「新製品・新サービス・新事業の開発」となっています。2007年からの推移を見てみると、「収益性向上」「人材の強化」は下降気味であるのに対し、「新製品・新サービス・新事業の開発」は右肩上がりであることがわかります。

さらに、2007年では「売り上げ・シェア拡大」は「新製品・新サービス・新事業の開発」に20%近くの差をつけていましたが、2016年の時点では、ほぼ同程度の課題として重視されています。このことから、「いかに、次の事業基盤となるような新しい商品・サービスを生み出していくか」が近年の重要な経営課題となってきていることが分かります。


 <図④>経営課題の経年変化

※「事業を創る人」の大研究 P 51より


新規事業の成功確率は“千三つ”?

これまで見てきたように、競争が激化する今日の経営環境の中で企業が生き残っていくためには新規事業が欠かせません。その一方で、新規事業の成功確率は「千三つ(0.3%)」、ほぼ成功する確率がないというイメージが定着しています。

実際のところはどうなのでしょうか。こうした新規事業にまつわる一連の疑問を明らかにするために、過去に新規事業の立ち上げ経験を持つ500名を対象に、これまで手がけた新規事業の業績を調査したところ、予算達成に成功していた新規事業は全体の半数近くであることがわかりました(図⑤)。このデータから、「千三つ」という定説に反して、約半数の新規事業が一定の結果を出していることがうかがえます。


<図⑤>新規事業の業績

新規事業の半数近くが予算達成している。

※「事業を創る人」の大研究 P 51より


しかし、この結果とは対照的に、新規事業に対する経営層の満足度は決して高いものではありません。図⑥をご覧ください。これは、経済産業省が企業経営層330名に対して自社の新規事業に対する満足度を調査した結果です。これによると、自社の新規事業に対して「満足している」の割合は全体の2割程度に過ぎません。言い換えれば、「満足していない」経営層は全体のおよそ8割にも上ります。


<図⑥>自社の新規事業に対する経営層の満足度

約8割が満足していない。

※「事業を創る人」の大研究 P 52より


新規事業に対する取り組みは、売上全体に占める割合(図①)や予算達成率のデータ(図⑤)で見てみるとそれなりに進展しているように思えますが、この調査結果(図⑥)から、まだ経営層が満足する水準には程遠い状況であることが読みとれます。

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第1回目の連載では、さまざまなデータをもとに”「事業を創る」の現状”を紐解いてきました。各企業は新規事業に積極的に取り組み、約半数は予算達成に成功しているものの、なぜ経営層は満足していないのでしょうか。――そこで次回は、”問題は「人材」にあり、と決めつける前に”をお届けします。



<田中聡氏プロフィール>

▲立教大学 経営学部 助教 田中聡氏

1983年、山口県生まれ。大学卒業後、株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)に入社。事業部門を経て、2010年に株式会社インテリジェンスHITO総合研究所(現・株式会社パーソル総合研究所)設立に参画。同社主任研究員を経て、2018年より現職。東京大学大学院 学際情報学府 博士課程。専門は、人的資源開発論・経営学習論。主な研究テーマは、新規事業担当者の人材マネジメント、次世代経営人材の育成とキャリア、ミドル・シニアの人材マネジメントなど



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「千三つ」と呼ばれるほど、新規事業を当てるのは難しいと言われています。

これまで、新規事業は成功を収めた企業や経営者による「戦略論」によって語られてきました。

しかし、戦略が良くてもコケるのが現実。では一体、何が真の問題なのか…?


本書では、その答えを探るべく、暗中模索の新規事業を統計データと質的データを用いて解剖し、新規事業をめぐる現場と組織を科学的に分析しました。

その結果見えてきたのは、新規事業部に配属された人々の孤独な茨の道。


「新規事業を成功させるのは斬新なアイデアではなく巻き込み力」

「新規事業の敵は『社内』にあり」

「出島モデル、ゼロイチ信奉の罠」


など、定説を覆すような、”人”をとりまく現実が明らかとなりました。

本書は、新規事業の担当者、現場マネジャー、経営幹部を成功に導く最先端の「見取り図」です。