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KDDI | 注目のEC新戦略とは?KDDIグループのキーマンたちが語る

「通信とライフデザインの融合」を掲げ、通信を中心に生活を楽しくするサービスや顧客体験価値の提供を目指すKDDI。様々なテーマでイノベーションを共に考えるイベント“KDDI Innovation Makers”を、2018年9月より全4回のシリーズで開催中だ。

第1回は「データドリブン」、第2回は「5G」をテーマに、グループ内で各領域のキーパーソンが登壇し、プレゼンテーションやディスカッションを行ってきた。3回目となる今回は、「コマース領域」に着目。様々な領域で通信事業との融合を進めているKDDIは、通信とECとの融合を、どのような戦略で推進していくのだろうか?これまでの取り組みや今後の戦略、そして今後のEC業界の動きに関して、以下3名の登壇によるパネルディスカッションが行われた。本記事ではその内容について詳細にレポートしていく。


▲株式会社ルクサ 代表取締役会長 村田聡氏

2003年、GMOインターネット株式会社に入社。インターネット黎明期からWebマーケティングの領域に携わり、その後もWebの領域において キャリアを重ね、2008年12月株式会社セレクトスクエアに参画し、マーケティング・事業開発担当の執行役員に就任。その後、「LUXA(ルクサ)」に小売りの可能性を感じ、2011年2月株式会社ルクサに参画、CEOに就任。多数の競合がひしめく中で、LUXAを確立されたサービスへと導く。2012年11月に代表取締役に就任。

▲KDDIコマースフォワード株式会社 代表取締役社長 八津川博史氏

1973年 大阪府生まれ。京都大学 総合人間学部卒。中堅企業向けのコンサルティングを行う会社へ新卒入社後、2000年に株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。営業本部長、社長室長、事業戦略部長を経て2005年に ソリューション事業部長に就任。大手企業のEC事業強化に携わったのち、 2014年、DeNAとKDDI株式会社の共同出資会社である株式会社モバオクの代表取締役社長に就任。2015年10月よりDeNAのEC事業本部ショッピングモール事業部長を兼任。2016年12月、DeNAショッピングが譲渡されKDDIコマースフォワード株式会社設立。

▲KDDI株式会社 ライフデザイン事業本部 金融・コマース本部 コマースビジネス部 革新担当部長 笈沼清紀氏

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2003年新卒で日本総合研究所に入社。その後は、SMBC日興証券を経て、米国にてMBAを取得し、2013年に楽天入社。グループ会社・ケンコーコムの執行役員、リテール事業本部長兼楽天24事業部長を歴任。2015年よりジンズ(JINS)にて、執行役員、経営企画室長として、主に事業戦略・計画策定、国内外事業開発、デジタル戦略立案、Eコマースを担当。新規事業として、コンタクトレンズECやフィリピンにおけるフランチャイズ事業を立ち上げる。2018年4月にKDDI入社。革新担当として、グループ内 Eコマースの戦略立案・実行、新サービス開発に従事。


本イベントの会場となったのは、渋谷の「TECHPLAY SHIBUYA」。会場は、大企業やベンチャー企業でEC事業や新規事業に携わる参加者で満席となった。

まずはKDDI株式会社 人財開発部の仙石真依子氏がオープニングの挨拶を行った。次に、KDDIグループにてEC事業を担う3名が登壇。

一人目は、2015年にKDDIグループにジョインした、株式会社ルクサ代表取締役会長 村田聡氏だ。同社は、プレミアム・タイムセールサイト「LUXA(ルクサ)」を運営している。次に登壇したのは、2016年に設立されたKDDIコマースフォワード株式会社 代表取締役社長 八津川博史氏。同社は、DeNAショッピングとKDDIのauショッピングモールが統合し生まれた総合ショッピングモール「Wowma!」を運営している。そして、パネルディスカッションのモデレーターをつとめたのは、KDDIグループ内のEC戦略に携わる笈沼清紀氏だ。

 

KDDIにおけるコマース事業について

自己紹介の後、笈沼氏からKDDIコマース事業の紹介が行われた。2018年4月に社長に就任した髙橋誠氏により、「通信事業の同心円状にライフデザイン事業を成長させていく」という事業ビジョンが打ち出されたが、KDDIはこれまで、au経済圏を拡大するための非通信領域におけるM&Aや資本提携を進めてきた。ライフデザイン事業が進出している市場のポテンシャルは、約450兆円規模であり非常に大きく幅広い市場を対象に、拡大を続けている。

KDDIグループのコマース事業は、大きく2つに分類される。1つは、モール事業。「Wowma!」はここにあたる。そして2つ目は、直販事業。「LUXA」はここにあたる。2018年も、様々な事業提携を進めている。動画メディア事業を展開するエブリーとの、ライブコマース提供に向けた資本提携。「Wowma!」とも今後さらに連携を強化していくいくという。また、inagoraにも出資し、越境ECにも乗り出した。

さらに11月には、楽天と決済、物流、通信分野で“事業協争”推進に合意した。コマース領域では、2019年4月よりフルフィルメントサービスを「Wowma!」の出店者向けに提供開始予定で検討。また、決済領域に関しても、楽天ペイと共に加盟店開拓を進めていく予定だという。

データアナリティクスにも本腰を入れている。2017年にはアクセンチュアとの合弁会社としてARISE analyticsを設立。また、このイベントの日には、データ分析事業を展開するALBELTとの資本業務提携を発表した。社内でもデータサイエンティストの育成に注力するなど、データ活用による価値創造に取り組んでいるという。


【パネルディスカッション①】 さまざまなサービスの融合。これまでの道のりは?

次に、登壇者3名によるパネルディスカッションが行われた。1つ目のパネルディスカッションテーマは、「さまざまなサービスの融合。これまでの道のりは?」


◆KDDIの根幹に流れるベンチャー精神

笈沼氏は、まず2人に「KDDIグループにジョイン後に、感じたギャップや通信会社ならではの魅力」を問いかけた。

八津川氏は「大企業であるからこその統制、そしてフィロソフィの浸透など、“作法”の違いは大きく感じた」という。しかしながら、「居心地の良さ」も感じるという。それは、KDDIの根幹に流れるベンチャー精神だ。「ヒストリーを紐解くと、KDDIは“通信ベンチャーの雄”といえる。その中で新規事業を手掛けてきたのが、現在の社長である髙橋氏。だからこそ、共感できるし学びもある。化学反応の土壌づくりが、この2年でできていると感じる」と、話した。

村田氏は、「ベンチャーから見て最も大きな違いは、お金の単位」だと話す。5兆円を超える売上をあげ、フリーキャッシュフローは数千億円規模、営業利益は1兆円を超えるKDDI。「圧倒的に規模感が違う中で、我々は“1ピース”。その1ピースとして、どのような立ち位置を築いていくのか。通信業界はMVNOが台頭する中、“ID”(会員基盤)をどうおさえていくかが重要。その点で、コマースはフォーカスされている事業だが、規模感のギャップをどう埋めていくのか、苦労している」と語った。

また、「規模の違いによる失敗談」として、八津川氏は2017年11月の「三太郎の日」について語った。この時、Wowma!が特典の対象となり、5万枚のクーポンを発行。「もちろん、膨大なトラフィックに備えていたが、予測を上回る状況で、障害を起こしてしまった。忘れもしない失敗」だと八津川氏は話す。「KDDIの会員基盤の巨大さと、本気でそこに対してサービス提供することへの難しさと怖さを実感した」と、当時を振り返った。


◆auユーザーの特徴とは?

次に笈沼氏が投げかけたのは、「オープンな市場の中でのECのお客様と、auユーザーからECに流入するお客様、両者の性質の違いはあるか?」という問いだ。

八津川氏は、「市場が成熟している中でEC慣れしている人も多く、リピートを獲得するのも難しい。しかし、auのお客様は良い接客をしていけば、ちゃんとロイヤルユーザーになってくださる方が多い。そういった性質のお客様にリーチできるのは、KDDIならでは」だと答えた。

村田氏は「真逆ですね」という。「auのお客様はマス、すなわち強い目的意識があるわけではないと言えます。圧倒的な送客ができるが、その分薄まる。そこに対してどのようにリテンションを高めていくかが課題」だという。「リテンションのための工夫は?」という笈沼氏に、村田氏は「サービスクオリティが問われる。LUXAの場合、顧客の属性別にアプローチの方法を変えている。そこでロイヤリティを高めていくことがポイント」だと答えた。

笈沼氏は「僕自身も事業開発をしていて思うのは、際立ったサービスというより、全国に向けた地域差のないサービスを求められる。安定的に稼げる事業を求められる」と、顧客基盤が広いがゆえの今までとの違いを語ると、村田氏も「ベンチャー単体であれば、特定ユーザーに向けたエッジの効いたサービスを好きに作ることができる。しかし、キャリアが持つ3,500万人の顧客基盤に均等にサービスを提供するとなると、リスク排除の要素が大きくなるため、どうしても丸くなってしまう」と語った。


【パネルディスカッション②】 キャリア×ECで進める取り組みとは?

2つ目のパネルディスカッションテーマは、「キャリア×ECで進める取り組みとは?」

通信事業は、今後さらに競争が厳しくなる。その中で、KDDIグループとしてどう差別化していくか?」と、笈沼氏は問いかけた。

村田氏は、「シンプルに、キャリアの持つIDと、どのサービスをつなげていくか、に尽きる」と回答。「同じブランドに多くのサービスを紐づけていけばいくほど、お客様にプラスの面が増えていく。キャリアに限らず、今後数年はIDの囲い込みが加速するだろう。キャリアは、そういった意味で端末という強みがある」と語った。

また村田氏は、「ECは商品の差別化が難しい。同一商品同一価格であれば、結局購入が楽な方か、安い方に流れていく。だからこそ、ID囲い込みは強みになる」と強調した。

「大手ECは物流機能強化へ向かっているが、それよりはIDに紐づけるサービスの強化が差別化ポイントということか」という笈沼氏の問いに対し、村田氏は「amazonほどとはいかずとも、配送クオリティは均一化していくはず」という。


◆コマース事業の差別化戦略とは?

続いて笈沼氏は、「コマース事業としての差別化戦略」を聞いた。村田氏は、「LUXAに関して言うと、商品選定と価格、この2つ」という。商品点数は増やさない方針だ。「amazonと同じやり方では戦えない。だから、あえて商品点数を少なくしている。そして、プライシングで勝つ」と話した。

八津川氏は、「ECプラットフォームとしては、『データ』が肝になる」という。若い世代は、メルマガを読まない。SNSのタッチポイントを作ることも難しい。一方で、パケットに対するロイヤリティは非常に高い。そこでWowma!では、auの若年顧客層向けに実施したキャンペーンが、「会員登録または購入でデータ容量プレゼント」という施策だったという。「通信事業者が持つリソースを、いかにサービスやプロダクトに落とし込み、お客様のメリットに繋げるか。これをやり切って、意義のある事業にしていきたい」と語った。


◆「決済」や「動画」に注目

データというキーワードが出たことから、笈沼氏は「ECとデータとの関わりの中で注目している領域は?」と問う。村田氏は、「ECとのつながりでいくと、決済」だと答えた。続けて「ECだけでは儲からない。amazonも、ECでは利益が出ておらず、AWSや広告で儲けている。違うセグメントを作るという点で、広告ビジネスは今後の主流になっていくだろう」と、ECの今後について語った。さらに村田氏は、「決済や広告など、お客様の情報を収集したことによる次の出口はどこになるのかを、考えていかねばならない」と話した。

八津川氏は、エブリーとの資本提携を背景に、「動画」の可能性について語った。「動画コマースは、恐らくECの面で利益を出すのは難しいのかもしれない。ただし、様々な商品を紹介する手法として動画を活用することは、通信事業としては嬉しいこと」だと話す。また、「コマース領域で価値ある情報は、どこの誰が買ったかより、その手前の情報。つまり、どこの誰がどういうものに興味を持っているのか。この情報を収集するには、動画が非常に有用。エブリーとの協業は楽な道ではないかもしれないが、価値創出のために挑んでいきたい」と決意を話した。


【質疑応答】

続いて、参加者からの質疑応答が行われた。

競合優位性」の質問に対して、笈沼氏は「キャリア3社の戦略は似通っている。その中でKDDIの強みは、1つ企業の中に通信事業やライフデザイン事業があること。大所帯であるがゆえに、スピード感は他社より遅いかもしれない。しかし、オールKDDIとして何かを実行する時の一体感、組織力の強さは他にはない。また、安定的に利益を生むために事業を磨き上げるという意識も高い」と回答した。

八津川氏も、通信サービスの同質化については笈沼氏と同意見だ。しかしながら、「KDDIはグループ会社や提携先のベンチャー企業の活かし方が上手い」と、カルチャー面での違いについて強調した。

村田氏は、「投資領域の広さ」を挙げた。「通信とライフデザインの融合」を掲げている通り、人生のステージなど根深いところへの投資が特徴的だという。「国内市場では、他社とは見ている領域が異なるため面白い。特に若年層、子ども向けのセグメントを取りに行っている」と語った。


◆ECにおいて、良い接客の行うための努力

 「ECにおいて良い接客とは?」という質問に対して、村田氏は「良い接客は2つしかない。1つは、お客様が目的の商品にどれだけコンパクトにたどり着けるか。もう1つは、購入する時の手間がかからないかどうか」だと回答した。「目的の商品にすぐに到達できる導線があれば、その時に購入に至らずとも、高頻度でアクセスしてもらえる。しかし、無駄が多いとお客様は離れてしまう。極端な話、ファーストショットで必要な商品を見ることができれば、リピート率が高くなる」と話した。

八津川氏は、「人が嬉しいと思うポイントは、ネットもリアルも根っこは同じ」だと話す。「お客様がどんどん多忙になる中で、タッチポイントは隙間時間になっているはず。3分や5分という短い時間、かつ手のひらサイズの限られたスペースで、どんな体験価値を提供できるか、どこにそのお店ならではのエッセンスをどれだけ込めて表現していくかがポイント。プラットフォームビジネスとしては、そのお店ならではの強みを、限られた時間・スペースで表現できるような機能・サービスを提供していかねばならない」と語った。

笈沼氏は、「楽天でケンコーコム事業を運営していた時、自社サイトと楽天での支店を比較したところ、自社サイトの方が1,000円ほど客単価が高く、お客様の離脱も低かった。その理由として考えたのは、1つはUIの作りの違い。村田さんが言うように、商品への到達のしやすさが違いとなったのだと思う。また、コールセンターの丁寧な対応が、特にオフライン寄りのリピートユーザーを増やしていました。八津川さんの言う通り、『良い接客』は、リアルでもECでも根幹は同じなのだと思います」と述べた。

質疑応答の後は、登壇者も交えた懇親会を開催した。今後のEC業界の動きや、キャリアとECとの連携について、議論が続けられた。


取材後記

このイベント開催から2日後の12月13日、ニュースが飛び込んできた。KDDIコマースフォワードとルクサが、2019年4月に合併するというのだ。それぞれのサービスを統合することで、KDDIグループとしてモノとコト消費の新しい体験価値を提供するEC事業者として、経営のスピードアップを目指すという。3,500万人の顧客基盤に対して、今後どのような仕掛けをしていくのだろうか。今後の戦略がさらに楽しみである。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)