近年ではバズワードとして取り上げられることも少なくない「オープンイノベーション」。多くの企業が取り組み始め、挑戦をしているものの、大きな成功事例はまだまだ少ないのが現状だ。そうした中、オープンイノベーションブームに警鐘を鳴らし、耳目を集めたのがBUSINESS INSIDER JAPANに掲載された「大企業はオープンイノベーションごっこから脱出せよ」 という記事だ。

幅広い分野のニュースを配信するビジネスニュースサイトであるBUSINESS INSIDER JAPANには、オープンイノベーションに関する記事も年々増えつつある。――そこで、BUSINESS INSIDER JAPANの統括編集長である浜田敬子氏を招き、オープンイノベーションプラットフォーム「eiicon」の代表・中村亜由子とのトークセッションを実施。浜田氏はメディアの視点から、オープンイノベーションをどのように見ているのか?ーー昨日公開した<前編>に続き、イノベーションを起こすために持つべきマインドについて語られた<後編>をお届けする。

■BUSINESS INSIDER JAPAN統括編集長 浜田敬子氏

1989年に朝日新聞社入社、99年よりAERA編集部。2004年に『AERA』副編集長、編集長代理を経て、AERA初の女性編集長に就任。編集長として外部メディアとのコラボレーション企画や、外部プロデューサーによる「特別編集長号」など新機軸に挑戦。2016年5月より朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーとして、「働く×子育てのこれからを考える」プロジェクト「WORKO!」や「働き方を考える」シンポジウムなどをプロデュース。2017年3月末で朝日新聞社退社し、2017年4月より世界17カ国に展開するオンライン経済メディア『Business Insider Japan』の日本版統括編集長に就任。


脱・歯車。大企業で働く人材に越境経験をさせる重要さ

eiicon・中村 : BUSINESS INSIDER JAPANはミレニアル世代をターゲットにしたメディアです。大企業内にいる20代〜30代と、スタートアップにいる20代〜30代では、全然違う印象を受けますか?

BIJ・浜田氏 : 全然違いますね。どちらが良い/悪いではなくて、違うんですよ。「足腰の強さ」みたいなものが大企業育ちの人の方が持っていると感じますが、スタートアップの人は、成長は速い。でも肝心の基本的なビジネスお作法が抜けていたりもします。

一方で大企業はコツコツ基礎から叩き込んで、下積みをして、30歳で1人前という世界ですよね。基礎力はあるけど、その力を発揮する場がないんですよ。発揮できるのが30代半ばくらいになっているのは非常にもったいない。その力を、一度外に出して、どれくらいできるのか試してみるとか、思い切り力を使ってみる経験をした方がいいと思います。

eiicon・中村 : 本当にそうですよね、歯車のタスクを習って、歯車として腐ってしまう前にちゃんと外に出ないと。

BIJ・浜田氏 : 大企業は人材育成に大きな課題感を持っているんですよ、ずっと歯車みたいな人しかいないから。だから可愛い子には旅をさせたほうがいいんです。

外に出るだけでなく、企業の中でも早くに責任あるポジションにつかせたほうがいいと思います。私自身、AERAの副編集長の時と編集長の時で考え方が全然違います。編集長はやはり数字や結果を求められるポジションですから。

毎日数十の意思決定を求められて、その瞬間に決断をしていくみたいなことって、歯車の時は無いですよね。だけどそれをいかに20代の頃からやっていくかというのはすごく大事だと思っています。話を最初に戻すと、何故大企業のオープンイノベーションがうまくいかなかったかというと、歯車の人がオープンイノベーションの担当になっていたからだと思うんです。

eiicon・中村 : 常にジャッジですもんね。実は、パーソルキャリア内で新規事業のeiiconを立ち上げる時、最初は私も歯車脳だったんです。例えばeiiconのプラットフォーム開発に関しても「どこがいいですか」って社内で相談に乗ってもらい「3社くらい見積もり取りなよ」と言われ、その通りに見積もりを取って、また「どうですか?」と聞いたら、「なんでこの3社にしたの?」と言われ……、余計にタスクが増えるみたいなのを繰り返してしまっていたんです。

途中でふと、「私が決めていいのになんで相談していたんだろう」と気づき、歯車脳になっていたんだなと思いました。


原体験が圧倒的なパワーになる

BIJ・浜田氏 : 中村さんが新規事業であるeiiconを立ち上げたことは、「今の日本にオープンイノベーションが必要だ」と感じた原体験があるからですよね。私は課題感の深刻さがその事業の必然性に繋がると固く信じています。なので、「これ今流行っているからやりましょう」では絶対ダメ。しかも内なる課題感じゃないとダメなんですよ。

eiicon・中村 : 原体験って圧倒的なパワーになります。

BIJ・浜田氏 : そうなんですよ。だから辛いんですよね。中村さんも体験されているから分かると思いますが、新規事業を立ち上げたり、新しいことを始めるって、本当に本当に辛い。何故それができるかというと、「どうしてもやらなければならない」という使命感があるからなんです。「儲かるから」くらいの感じだと、心が折れることの方が多いと思います。

eiicon・中村 : はい。ただ「儲かるから」という意識では続かないですよね。

BIJ・浜田氏 : そうですよね。使命感がないと、イノベーションは起きない。―― 一方でオープンイノベーションとか言うからすごく大きなことに感じるんですけど、皆もっと気軽に考えた方がいいよって言いたくて。

AERAを作っていたときの話をすると、出版はどんどん売り上げが下がって、まさに斜陽産業でした。そうすると、皆元気が無くなるんです。編集長として、まず皆が元気になるために新しいことをやらないといけない。新しいことをやっていけば、その中の1個か2個が、もしかしたら次に繋がるかもしれない。

当時の私の発想としてはミニオープンイノベーションだと思っていたんですよ。AERAという大好きな雑誌を少しでも長く作っていきたいっていうのと、雑誌のカルチャーを世の中に発信していきたいっていうのがあったから、外部とのコラボレーションを積極的に仕掛けました。


大げさに考えず、まずは動いてみることが大切

BIJ・浜田氏 : 今回のトークセッションを読まれた皆さんは「課題を見つけなきゃ」と感じられたかと思います。それで「課題見つけ」に走るんです(笑)。で、今度は課題見つけが空回りをしてしまう。課題を見つけるには、小さいトライアンドエラーを繰り返すしかないと思っていて、この人が面白かったから組んで何かやってみよう、みたいなことをやっていくうちに、「ここに課題があって、もしかしたらうちの技術をここに使えるかも」と言ったことが見つかるんですね。

水面下でもがき続けてないと、課題には辿り着けないと思うんです。なので、大げさに考え過ぎずに、日々ちょっと外の人と会うとか、新しい風やアイデアを取り込んでやっていく。そういうのが大事なんだと思います。

eiicon・中村 : それを自分自身がジャッジしていいんだよ、ということですね。

BIJ・浜田氏 : ある程度自由に試せる環境も必要ですよね。それで失敗しても、結果が何も出ないことは絶対ないから、周りの人も長い目で見てあげる。そこで「何かひとつジャッジをした」ということ自体が、その人にとっては成長に繋がるわけですから。

eiicon・中村 : ひとつジャッジをしてスイッチが入れば変わっていきますもんね。

BIJ・浜田氏 : そうですよ。皆大げさに考え過ぎます。「これやってみよう」「楽しそう」からでいいんです。 

私も大きな事業に繋がったということはないけれど、新しい広告先が開拓できたり、それほど大きくないけど、コンスタントに収入が入ってくる先を組み合わせているうちに、新しい雑誌の可能性のようなものを見つけていました。何より新しいことやらないと、皆が楽しく働けないと思うんですよね。人間は「新しいことをやりたい」という遺伝子を持っていると思うので。

eiicon・中村 : あとはずっと継続して、考えて、いろんなジャッジを繰り返して大きくしていくことですね。

BIJ・浜田氏 : そうですね。それをリーダーだけでなく、皆でやっていってほしいと思います。


取材後記

取材中に最も耳にした「課題」というワード。社会課題、企業内の課題、自分が感じる課題。その課題解決がイノベーションへの一歩であるという実感が深まるトークセッションとなった。ミレニアル世代の価値観の違いや人材の歯車といった話には、まさにこれから企業が向き合わなければならない課題が隠れているのではないだろうか。

(構成:眞田幸剛、取材・文:阿部仁美、撮影:古林洋平)