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【インタビュー/株式会社フーモア 芝辻氏・白壁氏】「初回の提案は、盛大に空振りする。真の課題は、そこから引き出せる」

複雑な商品・サービス、専門性が高い分野など、「分かりにくさ、伝わりにくさ」に課題を感じている企業は意外に多いのではないだろうか。そうしたコミュニケーションの課題に「漫画」という手法で切り込んでいるスタートアップがある。東工大・アクセンチュア出身で、漫画家という異色の経歴を持つ芝辻幹也氏が立ち上げた株式会社フーモアだ。

同社は「クリエイティブで世界中に感動を」という理念のもと、6000名の漫画家・クリエイターのネットワークを擁し、クラウドソーシングのような形でゲーム向けイラストやオリジナル漫画、女性向け漫画アプリなど多岐にわたるコンテンツの制作を行っている。その強みを活かし、最近は企業向けのプロモーション漫画の制作事業を展開し、金融機関やメーカーなど数々の大手企業との協業を実現している。

サービススタート当初からeiiconを利用しており、既に大企業とのオープンイノベーションをスタートしている同社。先日掲載したインタビューに続き、今回は「大企業との協業における秘訣」を中心に、代表の芝辻幹也氏と、外部協業のマネージャーである白壁和彦氏にお話を伺った。

▲株式会社フーモア 代表取締役/CEO 兼 漫画家 芝辻幹也氏

▲株式会社フーモア 社長室/室長 漫画 事業部/マネージャー 白壁和彦氏


「分かりやすく伝えたい」という課題と相性が良い。

――前回のインタビューでお伺いしたようなコニカミノルタジャパン社以外でも、大企業との協業で実績を上げていらっしゃいますね。

芝辻:漫画は、コミュニケーションのハードルを下げるために有効な手段。そのため金融機関など大企業が抱える「分かりにくいことを、分かりやすく伝えたい」という課題と相性が良いんです。金融機関とエンタメって一見最も遠い業界なので、提案を行うと「え、漫画?」と驚かれることが多いのですが、実際に若年層をターゲットとした商材の広告や、社内コミュニケーションの活性化に活用していただいていますね。

——何か具体的な事例を教えていただけますか?

芝辻:例えば、あいおいニッセイ同和損保様は、営業社員の教育に課題を抱えていらっしゃいました。損保業界は、世の中の動きに合わせて次々と新しい商品が生まれていきます。当然社員はキャッチアップしていかねばなりませんから、その都度膨大な説明資料を作って配布していらっしゃいました。しかし、文字ベースで分量が多いと、なかなか読まれないという課題があったのです。そこで、漫画を利用したマニュアル冊子の制作を提案しました。実際に成果も出ており、今では様々な部署からご依頼をいただいています。

白壁:現在進行形のものだと、今年選定いただいたセブン銀行様のアクセラレータプログラムですね。セブン銀行様は全国2万3000台超のATMなど膨大なリソースをお持ちです。その接点を私たちが得意なエンタメ要素で面白くできないかと考え提案を行いました。ヒアリングをすると、女性若年層の顧客を増やしたいというニーズがあることが分かりました。

若手女性からメインバンクとして選ばれるには魅力的なコンテンツが不可欠です。そこで、ATMを利用するとイケメンキャラクターが画面に出てきて案内をするというサービスを提案。毎回同じ機械音声で味気ないATMの接点をエンタメ化することで、ユーザーの獲得と定着を狙っています。「イケメンコンテンツに課金している気分で、口座にお金が貯まっていく」、こんな提案は当社にしかできません(笑)。サービスの開発は現在進めており、来春公開予定です。


一打席目は盛大に空振りする。

――確かに、「銀行×エンタメ」といった切り口は他にはできませんね。しかし、大企業に対する提案はなかなか突破しにくいイメージがあります。採用される秘訣はあるのでしょうか?

白壁:だいたい公募で出す時の内容は、「スタートアップと新しい事業を創出したい」など綺麗な文章でまとめている企業が多いですよね。その内容を真に受けず、その企業が抱える課題を探るんです。まずは企業のIRなどをしっかり読み込んで事業の状況を把握し、どこに課題を感じているのか仮説を立てます。場合によっては、事前に50ページくらいの分厚い提案書を用意してから打ち合わせに臨みます。

そして提案を行うわけですが、ほぼ的外れなことが多いですね。一打席目は盛大に空振りする。(笑)

――空振りしてもいいんですか?

白壁:本気で空振りすることが大事なんですよ。初回から「御社の課題は?」と伺っても、出てくるのは表面的な課題ばかりです。それでは結局、本当に刺さる提案はできませんよね。しかし自分なりに仮説を立てた上で空振ると、「いやいや、そうじゃないんだよ。実はこうなんだよ」と、笑いながら本当の課題をポロッと話してくださいます。

初打席からホームランを狙わず、まずは十分な準備をした上で全力の空振りをする。そこで本当の課題を把握し、二打席目でしっかり決める。これが当社のパターンですね。

――まずは的外れであっても渾身の提案を行うことで、相手の心を開くことができるのですね。最後に、フーモア様の今後の展望について教えてください。

芝辻:これまでお話ししたように、漫画はエンターテインメント領域だけではなく、コミュニケーション領域での活用が可能です。こうしたエンターテインメント性を取り込んだコミュニケーションを「エンタメケーション」として、トレンドにしていきたいと考えています。今後も、「分かりにくさ、伝わりにくさ」に課題を持つ企業に「エンタメケーション」を用いたソリューションを提供していきたいですね。

▲社内エントランスには、企業理念をユニークに表現したポスターが掲出されている。


取材後記

今後、さらに加速化・複雑化するビジネス領域において、分かりやすく情報を発信すること、発信された情報を即座にインプットすることが欠かせなくなってくる。そんな世の中において、フーモア社が提唱する「エンタメケーション」は非常に有用だ。これから耳にする機会が多くなる言葉だろう。

そして、ひと昔前までは縁遠かった「BtoB×漫画」「金融ビジネス×漫画」など、意外な掛け合わせが実現できる。それがオープンイノベーションの醍醐味だ。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)