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【知財のプロ・深澤氏の視点(3)】知的財産権の価値は使う人によって変わる!?

弁理士・技術士、そしてイノベーションパートナーとして、10年以上にわたり300社以上を「知的財産」の観点から支援してきた明立特許事務所 所長弁理士 深澤潔氏。コラムの第3回目は、”知的財産権の価値”について寄稿してもらった。

*関連記事:【弁理士・深澤氏に聞く】「知的財産」を活かしながら「共創」を生み出すためのノウハウとは?


1. JASRACが楽曲の使用料を徴収する理由

一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)は、著作権、特に楽曲の著作権を著作者から信託されこれを管理しています。そして、JASRACが管理する楽曲を教育的又は私的な用途等以外に使用する人から、著作権の使用料を徴収しています(以下、「人」には個人だけでなく法人も含みます)。

 少し前になりますが、JASRACが、音楽教室での楽曲使用に対しても著作権料を徴収する方針を公表しました。そのため、音楽教室での楽曲使用が教育目的なのか営利目的なのか、ということも含めてJASRAC方針の是非を巡っての話題がニュースになりました。

楽曲を生み出すのはアーティストの方々なので、通常は著作権も彼らに所属します。アーティストにとって、自分が生み出したり演奏したりした楽曲が広まることはいいことですが、演奏料等が彼らの収入減である以上、勝手に演奏されたり編曲されたりするのは困ります。でも、著作権者自らがこれらの管理まで行うことは大変です。著作権の管理の必要性は感じてもそこまで手が回らない、ということから、楽曲に関する著作権のほとんどがJASRAC等の管理団体に信託されています。

JASRACでは、アーティストに代わって楽曲を使用したい人からの申請を受け付け、使用料の徴収を行います。

このように、楽曲等の著作権は、JASRACのような管理団体によって財産管理が行われます。特許権等の他の知的財産権も「財産権」なので、活用に際して財産管理が重要になります。


2. 特許権だけあっても事業はできない

特許発明を生み出すにはそれなりの技術や知見が必要になります。また、特許権を使うにも技術や知見が必要になります。特許権を自らの事業のために使う場合も多く、著作権とは異なり特許権を生み出す人と利用・管理する人とは同一の場合が多いです。

一方、知的財産権を生み出した人以外の人にもその知的財産の使用を許諾する場合があります。いわゆるライセンスです。

ライセンスは知的財産権の活用の一つの方法で、知的財産を生み出した人や管理・活用する人以外の人も実施料を支払うことにより法律で保護された知的財産を利用することができるしくみです。

知的財産を生み出した人が自身にその知的財産を活用する社内資源がなければ事業に生かすことはできず、宝の持ち腐れとなってしまいます。でも、ライセンス先がその特許発明を実施することができる技術や販路等を持っていれば、その知的財産を活用することができます。知的財産権の価値を高めるためには、それなりの資源が必要になります。


3. 知的財産権は活用する人によって価値が変わる

一般的に財産といわれるものは、所有する人によって価値が変わるということはありません。

例えば、財産の代表であるお金や宝飾類等の動産や不動産は、持つ人によって価値が決まるのではなく、国や時代、価値観や場所などによって決まります。

つまり、価値が客観的に決まってしまうため、安心して取引することが可能になり、市場で流通させることが可能になります。

知的財産権も「財産」とある以上、価値を持ちます。

でも、知的財産権の場合、誰が管理するか、活用するか、によって価値が変わってきます。

例えば、ある特許権があった場合、特許発明を実施できる技術力がない人が所有していてもそのままでは特許権を生かすことができません。このような場合にはその人が所有し続ける限り価値はあまり高くはなりません。

また、特許発明を実施するだけの技術力があっても、事業規模が小さい場合、生み出す価値はやはり高くはなりません。

以前、米国アップル社と韓国サムスン電子社との間でタブレット端末等を巡る特許紛争が勃発した後、複数の大手IT企業間で大規模な特許権の売買が行われたことがニュースになりました。このとき、特許権の値段を左右した大きな要素が事業性でした。

知的財産権は事業に生かすことで価値を生み出すことができます。すなわち、どこまでその価値を高めることができるのか、活用する人によって異なります。そのため、知的財産権の価値を高めてもらおうとする場合には、目利き力も必要になります。

なお、知的財産権と同じように所有する人によって価値が変わるものとして、例えば、顧客名簿や技術情報などがあります。これらは不正競争防止法という法律によって保護されます。これらも所有する人によって価値が変わってしまいます。


4. 知的財産権の価値評価

では、知的財産権はどうやって価値評価するのでしょうか。

財産を税金の立場から評価する場合、国税庁の「財産評価基本通達」にそれぞれの財産の特性に応じた基準が示されており、知的財産権についてもこの中に規定があります。

でも、この規定だけで知的財産権の価値評価はできません。

知的財産権の価値評価には大きく2つの方法があります。一つは定性評価、もう一つは定量評価です。例えば、他の知的財産権と比較した強さや影響力などは定性評価になります。一方、知的財産権の売買の場面などで金額に換算するような場合は定量評価になります。

会計上登場する「のれん代」の評価には知的財産権の金銭的価値も含まれています。定量評価に際しては、コストアプローチやマーケットアプローチ等の会計手法が採られます。


5. 他社の知財権を購入・利用するときの注意点

オープンイノベーションでは、知的財産権の売買や、ライセンスイン・ライセンスアウトが必要になる場面もあります。売買価格・ライセンス料を決めるためには、定量評価が必要になります。

一方、せっかく購入した特許権がすぐに無効になってしまったり、その特許権だけでは実は大した参入障壁を構築できなかったりすれば、投資が無駄になってしまいます。このあたりは定性評価を行ってその妥当性を判断します。

知的財産権の価値はビジネスモデルで決まります。自分や相手のビジネスモデルを比較して価値を評価した上でその権利を安く導入し、高い価値を生み出せるような運用上手を目指しましょう。


【コラム執筆】 明立特許事務所 所長弁理士 深澤潔氏 http://www.meiritsu-patent.com/

<深澤氏プロフィール>

京都大学工学部卒業後、石川島播磨重工業(現:IHI)入社し、小型ロケットや宇宙ステーションなど、宇宙環境を利用する機器の研究・技術開発・設計に携わり、技術士を取得。その後、国内最大手国際特許事務所へと転職し、弁理士資格を取得。独立し、明立特許事務所を立ち上げる。