こんにちは。eiicon松尾(写真左)です。オープンイノベーションを意識したインキュベーション施設・コワーキングスペースへの突撃取材シリーズ、早いもので第7回目となりました!!

今回、私がお邪魔したのは、 JR、新幹線、京急線など多くの路線があり、交通やビジネスの拠点となっている品川駅から歩くこと約6分――京急電鉄さんが2019年7月に立ち上げた「AND ON SHINAGAWA(アンドオン品川)」です! (上の写真は、「AND ON SHINAGAWA」の「O」ポーズ!!このポーズ、撮影時に勝手に作っちゃいました。怒られないかな……)

”モビリティ変革と MaaS領域に特化して、デジタル・テクノロジーを活用した次世代の交通インフラの構築とサービス創出”を目的とした同施設。再開発が進み、ますます注目を集める品川で、モビリティ変革やMaaSに特化……期待が膨らみますね!

そこで、「AND ON SHINAGAWA」の企画担当者であり、京急電鉄のオープンイノベーションプログラム「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」の運営も牽引している新規事業企画室・橋本雄太さんに、「AND ON SHINAGAWA」からイノベーションを創出する想いや、施設の特徴について語っていただきました!

▲京浜急行電鉄株式会社 新規事業企画室 主査 橋本雄太さん

大手新聞社、外資系コンサルティングファームを経て2017年4月、京浜急行電鉄に入社。スタートアップとのオープンイノベーションによる新規事業創出を目指し、「京急アクセラレータープログラム」を立ち上げ、プログラムの設計・運営、採択企業との事業連携を推進。同社におけるオープンイノベーション戦略の企画・実行をリードする。


品川のポテンシャルを活かした「持続性のある街づくり」の拠点にしたい

eiicon・松尾 : いつも笑顔が素敵な橋本さん!今日はよろしくお願いします!

京急・橋本さん : ありがとうございます(笑)。って、いきなりテンション高いですね、松尾さん……。

eiicon・松尾 : クールな内装で、ついついテンション上がっちゃいました(笑)。橋本さんと言えば、京急さんが手がける”オープンイノベーションの牽引役”というイメージが強いのですが、「AND ON SHINAGAWA」の企画・立ち上げについても担当したとお伺いしました。――まずは、「AND ON SHINAGAWA」設立の背景について教えてください。

京急・橋本さん : 立ち上げのきっかけは、スタートアップと一緒に同じ空間で活動することの重要性を知ったことですね。2017年から「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」(以下、京急アクセラ)を開始して、第一期では小さなビルに一室借りて、そこを拠点に活動していて、それがすごく社内外から好評だったんですよ。

eiicon・松尾 : オフィス内の会議室とかではない、社外の「場」を拠点としたことがよかったんですか?

京急・橋本さん : そうです。日常的にフラットに使用することができて、“社内の会議室全然取れない問題”も起こらない(笑)。オープンイノベーションの打ち手を増やしていく中で、もっと踏み込んだことをやろう!という話になったんです。そこで京急アクセラでも一緒にやっているサムライインキュベートと、スタートアップのオフィスプロデュースなどを手掛けるヒトカラメディアに声掛けをして、一緒にこのプロジェクトを立ち上げました。

eiicon・松尾 : 品川にこういった拠点をつくることにした理由はなんでしょう?

京急・橋本さん : 品川は非常に高いポテンシャルを持っていて、再開発によって次世代のスマートシティーが生まれると言われているんです。2020年には高輪ゲートウェイ駅もできますし、高輪口(西口)は大規模な再開発予定もあります。でも、今の品川ってスタートアップがほとんどいないんですよ(笑)。

eiicon・松尾 : 確かに、品川って大企業が集まっているイメージですよね!

京急・橋本さん : グローバルなビジネス拠点として持続的な街づくりをしていくには、スタートアップは欠かせない存在です。品川にこういった場所をつくることで、イノベーションを創出し、さらには社会実装を加速させていくことができればいいなと考えたんです。品川を起点に京急の沿線が広がっているということもあり、今後も京急として品川の街づくりの一端を担っていくという側面も踏まえ、ここを拠点とさせてもらいました。

▲到着早々、松尾のテンションがいきなり上がった「AND ON SHINAGAWA」の内装。あえて壁は設けずに、コミュニティ作りがしやすい仕様に。さらに、仕事に集中しやすい“黒”のスペースと人と交流しやすい“白”のスペースを切り分けるという、斬新な空間デザインが特徴となっている。


宿場町だった品川の「行灯」からヒントを得た「AND ON」

eiicon・松尾 : 「AND ON SHINAGAWA」ってかっこいい名前ですよね!この名前には由来とかあるんですか?「AND ON」だから、「行灯」とか(笑)。

京急・橋本さん : 松尾さん、正解です。そうなんです、「行灯」です(笑)。

eiicon・松尾 : えっ!?当たりましたね!またテンション上がりました!!

京急・橋本さん : 品川って東海道の起点なんですよ。江戸時代は東海道の宿場町だったんですよね。行灯が垂れ下がった宿場に旅人が集まって、新しい出会いが生まれてきたんです。照明がちょっとふわっとした感じなんですけど、それは行灯のイメージなんですよ。

eiicon・松尾 : 本当だ!これ行灯のイメージだったんですね(笑)。

▲松尾の読みが思わず的中した“行灯”をイメージした照明。

京急・橋本さん : 「あんどん」を分解すると、それぞれ「AND(コラボレーション/共創)」、「ON(重ねる)」、「On and On(続く)」という意味があるので、ANDとONで社会に繋げて実装していく、それをひたすら続けていくという意味合いも込めています。ネーミングで避けたかったのは、「京急○○ラボ」みたいなもの。京急と組むスタートアップが必ずしも入るわけじゃなく、同じビジョンを共有する仲間が集まる場所にしたいという思いがあったので、あえて京急の名前は外しています。


MaaSというテーマ領域に特化した施設にかけた思い

eiicon・松尾 : 「AND ON SHINAGAWA」はMaaS領域に特化した施設ということですが、なぜテーマ領域に特化したのか、またMaaSを選んだ理由はなんだったのでしょうか?

京急・橋本さん : そもそもMaaSって、自動運転のような技術面がフォーカスされたり、あるいは乗り換えが便利になるくらいのものと考えられている方が多いんですけど、実はすごく間口が広いテーマなんですよね。みなさんも駅から電車やバスを利用して目的地へ移動されると思うんですけど、MaaSはそういった毎日の暮らしに直接関わるものなんです。――モビリティが変わることで、日常生活、例えば買い物や働き方が変わる。新しいライフスタイルが生まれます。モビリティのインフラ自体も変革が必要なんですけど、より大切なのはユーザー側が感じる課題をちゃんと解決していくことなんですよね。

eiicon・松尾 : 私たちが感じている課題の解決ですか。例えば「雨の日に駅から歩くの嫌だな。電車だと遠回りだけど、バスにすると本数少ないな~」とかそういうものですか??

京急・橋本さん : まさにそんな感じです!ユーザーさんが本当に必要としているサービスをどんどん生みだしていくことがMaaSの本質だと思っているので。プラットフォームやインフラはあくまでも手段であって、手段を使うことで生じる課題を解決していきたいんですね。

eiicon・松尾 : MaaSの本質である“ユーザーの課題解決”をスタートアップと一緒にやっていこうというわけですね!

京急・橋本さん : さすがですね(笑)!スタートアップと1番やりたいのはその部分なんです。ユーザー側に立って必要なサービスを生み出していくには、京急だけで考えるより、いろんな検証や失敗をしながらスタートアップと一緒にやる方がいい。AND ONでは、コア技術の研究開発ではなく、新しいユーザー向けのコンテンツやサービスを打ち出していきたい。これがテーマ領域にこだわった理由です。


「1:1」から「1:n」、そして「n:n」のエコシステムへ。

eiicon・松尾 : 実際の「AND ON SHINAGAWA」の活動もMaaSに軸を置いている感じなんですか?

京急・橋本さん : 大きな活動のコンセプトとしては、「イノベーションを暮らしに繋げて未来の当たり前をつくる」というものです。これまではアクセラレータープログラムなどを通じて、京急グループのアセットを使ってスタートアップの製品・サービスを社会実装していく、ということをやってきたんですけど、「ライフスタイルを変える」という大きな目標があるので、「1:1」の関係だとなかなかやりきるのが難しいと感じているんですよね。

eiicon・松尾 : となると、巻き込んでいく企業さんを増やしていくことになりますよね?

京急・橋本さん : そうですね。「n:n」というか、スタートアップだけでなく、同じ方向性を持つ大手企業や行政、大学なんかも巻き込んで、一緒に新しい価値を作っていく場を作りたいと考えています。今まではアクセラレータプログラムという限られた時間でやってきたんですけど、これをもっと広げていきたい。それも「京急:スタートアップ」という感じではなくて、もっと多様なプレーヤーを巻き込んで広げていきたいんです。

eiicon・松尾 : 今までのアクセラレータープログラムでは、「京急:スタートアップ」という「1:1」の関係が「1:n」になっていく感覚でしたよね。それが京急さん側もAND ONパートナーの大手企業さんなどと関係性が広がっていくことによって「n:n」になっていくと。

京急・橋本さん : そうですね。ライフスタイルを変えていくという話になると、京急だけでリソースを提供しきれないので。交通に強みはあるけど、街づくりならゼネコンさんやディベロッパーさんを巻き込んだ方がいいし、移動にしても、鉄道だけじゃなく空もある。そこを繋げていくことで、スタートアップ側にもいい影響が出るのではないかと。

eiicon・松尾 : AND ONパートナーには、JALさんや富士通さんなどの大企業さんも参画されていますよね。

京急・橋本さん : 同じビジョンを共有できるという部分を大事にしながら、足りない部分を補完しあえるプレイヤーをパートナーとして増やしていこうと考えています。

▲品川エリアを説明してくれる橋本さん。「AND ON SHINAGAWA」の窓からは、建設中の高輪ゲートウェイ駅を眺めることができる。発展していく品川エリアと共にスケールできる場になるだろう。


「n:n」のエコシステム作りをしていくための「繋ぐ」活動

eiicon・松尾 : 「n:n」のエコシステムを作っていく仕掛けや活動なんかもあるんですか?

京急・橋本さん : まずはスタートアップをはじめとしたプレーヤーを集積させないといけないので、メインは会員制のオフィス提供になります。3人~10人のスタートアップが常駐できるオフィススペースと、関係者など幅広い方々が行き交うシェアオフィスの2つの機能を持たせています。シード期のスタートアップや、地方や成長期のスタートアップの拠点として、また大手企業の新規事業担当者やVCさんなどにも入居いただいて活性化していく。また、AND ONにはイベントスペースの機能もあるので、日常的にテーマ領域に関心があるスタートアップや大手企業の担当者を呼んで、どんどん交流させていこうと考えています。

eiicon・松尾 : 具体的にどんな活動を考えていますか?

京急・橋本さん : 志を持った人たちが集まる熱いスペースにしていきたいなと思っているので、共同運営しているサムライインキュベートやヒトカラメディア、AND ONパートナーと連携しながら、取り組んでいきたいと思っています。例えば、同じテーマ領域のスタートアップが、AND ONパートナーと組んでPoCの計画を練り上げ、さらにはサムライさんからの出資まで検討できるようなオープンイノベーションプログラムとか。

日常的に会員同士のマッチングもやりますし、モビリティ関連のスタートアップピッチもどんどんやっていきます。あとは、お酒を飲んで仲良くなるみたいなこともコミュニティには大事なので、入居者同士でビール飲んでおかしを食べながら話をする、みたいなのも日常的にやっていこうかな、と。

eiicon・松尾 : ソレ、いいですね〜、私も参加させてください(笑)。スタートアップを集めるのは、どんな形でやっていくんですか?

京急・橋本さん : サムライインキュベートさんと一緒に起業家発掘系のプログラムもやっていこうとしています。MaaS領域やモビリティ領域をやっていきたいと思っているプレイヤーさんを掘り起していきたいですね。「AND ON SHINAGAWA」の空間デザインを担当したヒトカラメディアさんも日常的にスタートアップのオフィス仲介をやっているので、京急、サムライインキュベート、ヒトカラメディア、それぞれのチャネルでスタートアップを発掘していきます。

eiicon・松尾 : なるほど!どういったサービスを展開しているスタートアップがいるんでしょう?

京急・橋本さん : 例えば観光バスのシェアリングサービスをやっているワンダートランスポートテクノロジーズさんですね。移動の苦痛をなくす、というビジョンが非常にAND ONのコンセプトと合っています。バスを使った移動する住居「BUSHOUSE」という取り組みをされているDADAさんというスタートアップもいますよ!


「AND ON SHINAGAWA」から、未来の街づくりのイノベーションを

eiicon・松尾 : 品川の街にすでに実装化されているプロダクトなどはあるんですか?

京急・橋本さん : 「AND ON SHINAGAWA」が入居しているビルにも置いてありますが、アイカサさんの傘のシェアリングは実装されていますよ!品川駅周辺で10数か所、傘が借りられる場所を設けていて、突然の雨でも濡れずに目的地まで行くことができます。実際僕もここで打ち合わせをした後に本社オフィスに歩いて戻ろうとしたら夕立が降ってきて、ここで傘を借りて本社で返却、ということをやりましたね。

eiicon・松尾 : 今年の梅雨は雨が多かったし、すごくいいタイミングですね(笑)!

京急・橋本さん : そうなんですよ(笑)。商業施設や駅、オフィスビルのエントランスに設置していますが、結構利用されています。

雨の日の人の行動データ――人の動きが変わることでどんなニーズがあるのか、僕たちがそのデータを得て活用することで、新しいサービスが生まれるかもしれない。雨の日は商業施設の売り上げが落ちたりするので、ユーザーの行動変容も狙えます。「傘を貸して利益を得る」だけではなく、雨の日の移動を起点に新たなサービスができないか、というチャレンジなんです。

eiicon・松尾 : 面白い!確かに移動のデータから新たなイノベーションが生まれそうです。

▲雨の日の体験を変えるアイカサさんのシェアリング傘。

京急・橋本さん : あとは京急アクセラの採択企業であるニアミーさんとの「オンデマンド型シャトルバス」もありますね。AIで経路をルーティングして、最適なルートを9人の相乗りシャトルで走らせる。品川を拠点に、都心や羽田空港にも快適に運んでいくという実証実験を進めていきます。これはど真ん中のMaaS領域ですね。

eiicon・松尾 : それは便利ですね!タクシーって混むと捕まらないし、料金も高いです…。運転手さんやシャトルは京急さんのリソースで?

京急・橋本さん : そうですね。タクシー業界も過渡期なので、新しいテクノロジーを使って今までにないモビリティを目指していこうということで。品川エリアの活性化という意味では、「KEIKYU OPEN INNOVATION DAY 2019」というイベントも8/26〜27で開催します。1日目は「AND ON SHINAGAWA」でスタートアップを数社集めてキックオフイベントを企画、テーマ領域のスタートアップイベントの第1回目ですね。27日は大手企業や京急でパネルディスカッションをやったり、サムライインキュベートさんがイスラエルにも投資をしていて、結構モビリティ領域の最先端の事例があるので、その辺りの知見の講演してもらいます。

eiicon・松尾 : それでは最後に、「AND ON SHINAGAWA」の今後のビジョンについて聞かせてください。

京急・橋本さん : 未来の”当たり前”を生み出すことのできる、新しいイノベーション・エコシステムを形成していきたいと思っています。また、沿線の特色を生かして、地域の特徴にあった取り組みを進めたいです。例えば当社が本社を移転する横浜・みなとみらいは、品川とは違ったイノベーション・エコシステムが生まれ得ると思いますし、実際に行政とも議論を重ねています。“イノベーションを暮らしに繋げる”というコンセプトはどこに行っても変わらないし、どんな場所でもでもやるべきことだと思っているので、このコンセプトを沿線全体に広げていく活動をしていきたいですね。


eiicon・松尾の取材後記!

実際に街に実装されたアイカサさんの傘のシェアリングサービスも実体験することもでき、とてもウキウキする取材となりました。「AND ON SHINAGAWA」を拠点に、大企業とスタートアップのオープンイノベーションによって品川の街がどう変わっていくのか楽しみです!橋本さんこだわりの空間作りがされたイノベーション拠点。もしご興味持たれた方はコチラ(→ http://and-on.keikyu.co.jp/)をチェックしてみてください!

(編集・文:眞田幸剛、取材・文:阿部仁美、撮影:加藤武俊)