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【TAP Key Person's Interviews】♯08 共創で「顧客満足」を追求する、ホテル業の未来像 | 株式会社東急ホテルズ

2015年から東急電鉄が実施している事業共創プログラム「東急アクセラレートプログラム(TAP)」。幅広い16の領域で求められている技術・アイデアはどのようなものか?そしてオープンイノベーションを通してそれぞれの領域では何を実現したいのか?――それらを可視化するため、eiiconではTAPに参加する東急グループ各社にインタビューするシリーズ企画『TAP Key Person's Interviews』をスタートさせた。

今回登場するのは、TAPの【ホテル・ホステル】領域を担う、株式会社東急ホテルズだ。1960年に開業した国際級ホテル「銀座東急ホテル」を皮切りにホテル事業をスタートさせた同社は、全国へネットワークを拡大。東急ホテル・エクセルホテル東急・東急REIホテルの3つのブランドを中心に、国内44ホテル、1万2千室を越える業界大手のホテルチェーンへと成長した。そして、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に創業60周年という節目を迎える。

一方、同社は2018年に誕生した渋谷の新たなシンボル、渋谷ストリーム内に「渋谷ストリームエクセルホテル東急」を開業させたほか、横浜のみなとみらいに建設されるコーエーテクモゲームス新本社ビル内や、大阪御堂筋にある寺院の山門上にホテル出店を計画するなど、特徴的なホテルづくりを目指している。

チャレンジングな試みを積極的に進める同社が、TAPを通じてどのような世界観を実現したいのか?――執行役員の武井氏にお話を伺った。

■株式会社東急ホテルズ 執行役員 事業企画部長 武井隆氏

1988年に東急ホテルチェーンに新卒入社。横浜東急ホテルのベルボーイを1年半経験。その後、営業部門や管理部門を経て、事業企画部に異動。新規ホテルの出店や商品企画をはじめとする店舗開発、既存ホテルの戦略的リノベーションなどを担当する。


ホテルの”顔”となる、他にはない特徴を求めて。

――まず初めに、東急ホテルズさんがTAPに取り組む背景をお聞かせください。

武井氏 : 現在ホテル業界は、外国人観光客の増加や2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、出店競争が激化しています。そのような市場感の中、生き残りをかけ、東急ホテルズがお客様から選ばれるブランドへと成長していかなければなりません。そのために私たちは新しいコトやモノを、業界に先駆けて始めることに重きを置いています。TAPに参加することで、私たちの度肝を抜くような、新しい視点を手に入れようとしています。

――2018年には「川崎キングスカイフロント 東急REIホテル」や「渋谷ストリームエクセルホテル東急」など積極的に新規出店を行っていますが、独自の発想が必要だということですか?

武井氏 : そうですね。現在ホテル業界における新規出店計画は宿泊機能を主体とするホテルが大勢を占めている状況です。いわゆるラグジュアリーではない川崎と渋谷ストリームは彼らと販売価格帯やターゲットも重なりますので、一歩先を考え、お客様から“選ばれるホテル”になるためには独自性が必要です。2020年以降のマーケットも見据え、これまでのホテルのビジネスモデルに捉われないイノベーティブな考えで新たなホテルを発想していきたいのです。――インバウンド向けであれば、グローバル視点で世界から指名されるためのアイデアをTAPで一緒に考えていきたい。さらに、ホテルの“顔”となるべき特徴・個性まで、突き詰めて検討したいと考えています。

▲ライフサイエンス企業・研究機関が集結する国際戦略拠点「キングスカイフロント」に、羽田空港を臨む立地で昨年開業した「川崎キングスカイフロント 東急REIホテル」。“The WAREHOUSE”をコンセプトとするライフスタイルホテルだ。

――その他の視点でどのようなアイデアを求めていますか?

武井氏 : ホテル業界は人員と人材の確保が非常に難しいという課題があります。そのため、AIなど最新のテクノロジーを有効活用した生産性向上や省人化は避けて通れません。しかもその取り組みは、お客様を犠牲にはせず、遊び心を持ったアイデアで、顧客満足度を高めながら実現する必要があります。渋谷ストリームエクセルホテル東急で導入している、デリバリーロボット「Relay(リレイ)」(下画像)はその一つではないでしょうか。

――課題を解決しながら、独自の発想で顧客満足にまで繋げるわけですね。

武井氏 : 今年の11月には、「大阪エクセルホテル東急」が誕生しますが、ここは非常に特徴的です。大阪御堂筋にある難波別院という寺院の山門の上をホテルにし、日本初の寺院山門と一体になった宿泊施設となります。単なる複合施設でなく、お寺という日本の文化とホテルがお互いにコラボレーションを意識してモデルを企画・開発することで、ホテルの枠を超えた全く新しい価値が提供できると期待しています。

また、2020年にみなとみらいに竣工するコーエーテクモゲームスの新本社ビルの中には、東急REIホテルが出店します。さらに、同じビル内にはZeppホールネットワークが運営するライブハウス型ホールが併設される予定です。ホテルやレストランという概念に捉われず、ホテルとゲームコンテンツや音楽を融合させた業態スペースとして展開していけば、今までにない新しいエンタテイメントモデルを開発できるかもしれません。これらはほんの数例ではありますが、異業種とオープンイノベーションを実現するためのアイデアもTAPでご提案いただきたいです。


課題を解決しながら、顧客満足を高める。

――先ほど、生産性向上や省人化というワードも出てきましたが、この領域においても新しいアイデア・テクノロジーが必要だとお考えですか?

武井氏 : そうですね。ホテルへのチェックインといった部分でも自動化が進んでいますので、そこを遊び心を持った面白い形で演出できないかと考えています。今まではホテル側の労働コスト圧縮というお客様に対する後ろめたさを感じがちな施策でしたが、今では新幹線の切符購入など、自動化が当たり前になっているように、お客様は何より待たされるストレスを嫌い、スピードを優先する傾向に変わっていますので、ここはまずマインドを切り替える必要があります。特にミレニアルといわれる世代を筆頭にライフスタイルや動態が明らかに変わっていますので、そこにあわせるだけでなく先を行く対応でなければならないと思っています。

ただし、これらの省人化・自動化は、お客様の満足につながる快適性を追求しながら実現しなければなりません。デリバリーロボット「Relay」もその一例で、お客様から依頼があったモノを単に届けるのではなく、ロボットが部屋まで運ぶという、遊び心を持った取り組みでお客様も楽しみ、SNSでも盛り上がりをみせました。この「Relay」のように、顧客満足にまで繋げられるアイデア・テクノロジーは大歓迎です。

――インバウンド向けに、これから実現させたいことはありますか。

武井氏 : 海外の方が知りたいと思っている情報と、日本から発信されている情報に差があると感じています。外国人観光客が求めている情報をしっかりと発地で取得できれば、旅もスムーズかつ充実したものになります。お客様が出発前に有効な情報取得ができるといったサービス側面からも、これをどのようなチャネルや手段、あるいは新しいテクノロジーで発信するのが効果的であるか検証し、新しいことにチャレンジしていきたいと考えています。

――外国人観光客のインサイトをもっと考えていくということですね。

武井氏 : はい。事業企画部門では、客室をはじめとしたホテルの空間やサービスを検討する中で、それが我々にとっての「いいね」を押し付けていないかを確認、海外の人にとって本当に魅力的なのか検討するようにしています。最近ではホテルの空間設計を行う際に、海外の設計会社を候補に入れて話を聞きながら、彼らが感じる魅力を発見できるような取り組みも始めております。


全国にある東急グループのホテルが実験の場に。

――ホテル内において、「この部分をもっと変えていけば、魅力的な空間ができるのではないか」と考えている部分はありますか。

武井氏 : 客室はもちろん大切ですが、重要だと考えているのがエントランスやロビーといったパブリックスペースです。お客様が最初にホテルを体験する場所になるので、まさにホテルの”顔”となります。みなさまもエントランスに入れば、そのホテルの格がほぼ分かってしまいますよね。そして、エレベーターホール、その次が客室です。この3つの空間を総合的に捉え、魅力的な空間づくりを目指しています。

――空間という観点からお話がありましたが、東急ホテルズさんが持つアセット・リソースとして、ホテルが持つ空間やスペースを実証実験などで提供することは可能でしょうか。

武井氏 : もちろん可能です。スタートアップとの共創では、新しい空間の使い方に期待しています。自由な発想で、ロビーやエントランス、客室、その他のスペースで「こんな使い方をしたら、もっと魅力的になる」といった意見が欲しいですね。

また、東急ホテルズの会員である東急コンフォートメンバーが約70万人いますので、今まで蓄積してきたデータを活用することも検討できます。

――最後に、TAPへの応募を検討しているスタートアップへメッセージをお願いします。

武井氏 : 私たちは新規出店による競争の激化や労働人口の減少など多くの課題を抱えるホテル業界を勝ち抜くために、これまでのホテルの枠を超えたモデルの開発やサービス向上を目指しています。その中で、単純に省人化や労働時間の短縮を実現するだけでなく、そこで生まれた時間で新たなサービスを検討するといった、ES・CSの両方を達成できる複合的なアイデアがあると大変うれしいです。

また、「ホテルでこのアイデアは無理だろう」といった先入観にとらわれず、大胆なご提案も大歓迎です。面白いと思えれば、そこからさまざまな発想が生まれると信じています。東急グループには新しいことや変わったことにチャレンジする文化も根付いていますので、斬新なアイデアをお待ちしています。


取材後記

2018年の訪日外国人は3,119万人と前年比+8.7%というデータ(※)もあり、2020年に向けてインバウンドビジネスは最盛期を迎えようとしている。時代の流れにおいて、ホテル業界の出店ラッシュはこれからも続くだろう。そして、どのホテルも快適で、ある一定のクオリティを担保しているのは間違いない。この品質は、各ホテルの努力の賜物であることは確かだが、裏を返すと、均質的で没個性的なホテルを増産してしまうリスクをはらんでいる。今後ますます「このホテルに泊まりたい」という、お客様からの支持を得るには“顔”となるべき特徴が必要不可欠となっていく。――それに寄与するようなアイデアを、TAPを通じて東急ホテルズと共にカタチにし、世の中に大きなインパクトを残してほしい。

JNTO(日本政府観光局)2019年1月16日発表データより

(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:古林洋平)