オープンイノベーション界隈に身を置き、数多の事例を見てきている業界人たちの知恵をオープンにしてしまおうという企画「オープンイノベーターズバトン」。Plug and Play Japan 矢澤麻里子氏からバトンを繋いだのは、株式会社ADKマーケティング・ソリューションズで「SCHEMA(スキーマ)」をリードする寺西藍子氏です。

寺西氏は、2007年に広告業界大手・ADKへ新卒入社。ラグジュアリーブランドをはじめとしたグローバル企業のマーケティングやブランディングを10年にわたり担当。その後、ロボティクスやAIプロジェクトに参画し、2017年からは、自社の新規事業開発を担う部署へ。翌年2018年11月には、法人企業を対象とした新規事業開発支援プロジェクト「SCHEMA」を立ち上げました。

「SCHEMA」では、企業を対象にADKオリジナルワークショップメソッド「ADK Power Idea Camp」を組み込んだ新規事業開発支援を展開。また、「Plug and Play Japan」「デジタルハリウッド大学大学院」「DMM.make AKIBA」「広尾学園中学校・高等学校」、他との連携を積極的に進め、イノベーション創出に貢献されています。

――第4回目となる「オープンイノベーターズバトン」では、コミュニケーションのプロである寺西氏から、オープンイノベーションを成功に導く秘訣やオープンイノベーションの”これから”を紐解きます。

株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ SCHEMA プロジェクト マネジャー 寺西藍子氏

2007年ADK入社。外資系クライアントの国内での広告展開、および日本クライアントの海外広告展開を担当。仏ラグジュアリーブランド8年、AI&ロボティックスプロジェクトにも携わり、2017年より新規事業開発に従事。シリコンバレーのアクセラレーターの同社担当として、スタートアップのグロースや、大企業との連携による事業開発をグローバル視点で展開する活動を担当。2018年11月よりプロジェクトSCHEMAとして拡大。 亜細亜大学経営学部などで講師としても活躍。


オープンイノベーションとの出会い

私は、とにかく新しいものが好きで、未来をテーマに仕事がしたいと考えていました。そんな中で、ロボティクスと人工知能(AI)をテーマとしたグローバル・プロジェクトに参加する機会もあって、おもしろいなと感じていたんです。プロジェクト終了後も、「未来に貢献できることがやりたい」との想いはずっとあって、それを会社に伝えたところ、「じゃあ、やったら?」という話になったんです(笑) そこで、会社の新規事業開発を担当することになりました。

ただ、当初は今と違って、自社の新規事業を立ち上げるために、外部の提携先を見つけることが目的でした。たとえば、ADTECH系のスタートアップを見つけてマッチングし、自社の事業に取り組むといった内容です。アクセラレーター/VCであるPlug and Play Japanさんと出会ったのもこの頃ですね。

事業を進める中で、パートナー企業やスタートアップの新規事業担当者から、相談されることが多かったのです。相談内容は、「オープンイノベーションを進めるにあたり、なにから始めるべきか分からない」や「オープンイノベーションを始めたはいいけれど、うまく事業部を巻き込めない」といったものでした。一方、スタートアップは、「アイデアや技術はあるけれど、マーケティングという発想がなく、もったいない」と個人的に思ったことも多かったですね。

それらの悩みに対しては、ADKの持っているナレッジで解決できると感じました。私たちは、広告という形で「コミュニケーション」をずっとビジネスにしてきたので。そこで一部路線変更をして、社外の新規事業開発を支援する「SCHEMA」を立ち上げたんです。

▲「SCHEMA」では、「世界を変える力を、加速させる。」をキーワードに、企業の新規事業創出とブランディングを支援。コンサルティングやワークショップメソッドの展開、社外パートナー紹介のほか、スタートアップのマーケティング支援なども行っている。


事業部を巻き込むには、「いかに自分事として捉えてもらうかが鍵」

先ほど、新規事業担当者から「うまく事業部を巻き込めない」という相談をよく受けると話しました。それはとあるメーカーの事例なのですが、関わる事業部のマインドを変えていくためにはプロジェクトの立ち上げから巻き込むことが鍵だと思います。「SCHEMA」では、企業に対して新規事業創出を目的としたワークショップメソッドを展開しています。ワークショップでは、まずプロジェクトの目標設定を行い、その後アセットの棚卸しへと進めていく流れです。

ワークショップを行う中で気をつけていることが、目標を決めるプロセスからできる限り事業部の方々に参加していただき、ディスカッションにも入ってもらうこと。そうしないと、事業部に新規事業の話を持っていっても、「忙しいのに、そんなことやりたくない」と、見向きもしてもらえません。

そもそも最初から、事業部の人たちにワクワクしていただけたら、「オープンイノベーションがやりたい」というマインドを醸成できます。日本人は、他人のものと自分のものを分けて考えがち。ですから、“いかに自分事と捉えてもらうか”が大事です。


人の信頼を得るには、「相手に興味を示し、相手の興味分野を研究・発信すること」

新規事業に着手したり、オープンイノベーションを推進する際には、社内外の人たちの協力は不可欠です。私が他の人を巻き込みたいときに使う方法は、まず“相手に興味を示すこと”。そして、“相手が興味を持っている分野を勉強して発信すること”です。

たとえば、以前にADK社内のクリエイティブの人たちの信頼を獲得したいと思ったときに、カンヌライオンズという国際的な広告賞について、歴代の受賞作を調べてポイントを整理し、共有したことがありました。当時セールスだった私が、クリエイティブのプロたちに広告賞のレポートを共有するわけなので、もちろん”KY”だとは分かっています。でも、私は「あえてのKY」をよくやりますね(笑)

他にも、社内向けに最新ニュースを取り上げたメルマガの配信を、継続して行いました。その後、有志チームにしてもらったのですが・・・自主的に情報を発信し続けることで、少しずつ自分のことを理解してもらうことができ、信頼が獲得できます。結果として、協力してもらえるようになるんです。


新しい事業のアイデア創出には、「圧倒的な情報収集が必要」

また私は、地方の中小企業にも注目しており、オープンイノベーションを推進させるべく講演活動なども行っています。地方の中小企業と接していて感じることは、「アイデアを生み出す力が鍛えられていない」ということです。すばらしい技術は数多くあるのですが、それがどうよくて、誰と組み合わせたらうまくマッチングするかを考えたり、プランニングしていくことには慣れていないという印象ですね。

プランニングに関しては、ADKのような広告代理店が得意とする分野ですが、私たちが何をやっているかというと、実は圧倒的な情報収集なんですね。世界中のさまざまな事例から、日々情報を集めています。収集したうえで、このアイデアをこの事例に転用したら、うまく料理できるんじゃないか、ということを考え続けているんです。

私たちは魔法使いではないので、ポンとアイデアを生み出せるわけではありません。アイデアを生み出すためには、やはり前提として大量の情報収集が重要だと思います。

 

寺西氏が考える、オープンイノベーションの“これから”

現在、日本のオープンイノベーションは、大企業×スタートアップという組み合わせで考えられがちです。でも、私は中小企業をいかに支援していくかも重要だと思っているんです。たとえば、中小企業同士のマッチングを活性化させていくような取り組みがあればいいと思います。これからのオープンイノベーションを考える際、中小企業同士の横のつながりをつくっていくことも、大事なのではないでしょうか。

日本では、97%が中小企業です。中小企業に対する支援を行えば、日本はもっとあったかくなるはずです。そういう意味では、オープンイノベーションの可能性をもっと広げていくべきだと思います。

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寺西さんのお話の中から、オープンイノベーションの成功のエッセンスとして導き出されるのは主に以下のポイントです。

●「自分事として捉えてもらう」……関係者をプロジェクトの初期段階から参加してもらい、共に目標設定も手がけてもらう。ワクワクしてもらいながら、マインドを醸成しつつ、新規事業/オープンイノベーションを”自分事”として捉えてもらう。

●「相手に興味を示す」……新規事業/オープンイノベーションを推進するためには、社内外の人たちの協力は不可欠。そうした人たちを巻き込む方法は、まず相手に興味を示すこと。そして、相手が興味を持っている分野を勉強して発信することで、信頼を獲得していく。

●「中小企業の支援に注目」……国内企業の97%は中小企業であり、優れた技術を有した中小企業も数多い。オープンイノベーションを“大企業×スタートアップ”という枠組みで考えるだけではなく、そこに中小企業も巻き込んでいくことが重要となる。

次回は株式会社マクニカで新規事業創出を担う、幸村潮菜さんが登場!寺西さんからの「オープンイノベーターズバトン」を繋ぎます。 

(構成:眞田幸剛、取材・文:林綾、撮影:古林洋平)